領主①
今回は皆さん結構イってしまいます。
「はっ!」
剣をフローリアに向かって振り下ろす。
「遅いですね。あくびが出ます。」「何!」
そう言って、俺の剣を親指と人差し指で軽くつまんだ。軽くつまんでいるにしか見えないのに剣がビクともしない。どんな力だ。
「隙あり。というか隙あり過ぎです。」
剣をつままれて次の手を考えている俺に、フローリアの横蹴りが容赦なく脇腹を襲い、吹っ飛ばされてしまった。
「ぐっ・・・」
「剣を止められたからといって、次の行動を考えるまでの思考時間が長すぎます。」
「考える事は悪くないですが、私から目を離すし、動きは止まってしまうし、そうなると単なる木偶ですね。」
「どうする?と考えてから行動するなとは言いませんが、その隙は致命的です。瞬時に判断する事も必要ですよ。こうパッと閃いて、グッと動いてスパッと剣を振る。」
最後の方がよく分からん・・・
「まぁ、最初の頃に比べてかなり良くなってますが、まだまだですね。私に触れる事も出来ないとは・・・」
「いや、今のはお前が剣をつまんだから、触れた事になったぞ。」
フローリアがニコッと笑って、俺にデコピンを喰らわし、またもや吹っ飛ばされしまう。
「旦那様、見苦しいですよ。」
「す、すまん・・・」
俺は今、フローリアと一緒に修練の世界で訓練をしている。
初めてここで訓練をしてから、時々、フローリアの時間が空いている時に付き合ってもらっている。
しかし、戦えば戦うほどフローリアの強さを実感してしまうな。本当に強さの底が見えない。
でも、いつかはフローリアの隣に立てる程の強さを身に着けたい。
「本当にフローリアは強いな・・・、今日も何度殺されたか・・・」
「旦那様、剣を習うなら、いきなり私よりも夏子さんの方が良いのでは?」
「たしかにな。段階を考えると夏子から基礎を教えて貰った方が良いだろうな。あいつは教えるのも上手いし。でもな、俺はのんびりと上達するつもりはない。最強と呼ばれるお前と実践形式で戦って身に着ける方が上達が早いと思う。常に生きるか死ぬかだし、気合いの入り方違うよ。」
「そうですか。ならこれ以上は言いませんが、恐怖で心が折れない事を祈りますよ。」
「折れない程度に程々にな・・・」
「体の使い方に関しては成果が見えてきていますが、魔法もまだ改善の余地が沢山ありますね。」
「例えば?」
「先日、逢魔の塔でフェニックス・プロミネンスを使いましたよね。あの魔法も制御をきちんと行えば、あれだけの被害は出なかったのに・・・」
「そうなのか?」
「そうです。春菜さんから魔力制御を教えて貰ったでしょ?あれだけではまだ不十分なのです。教える時間もそんなにありませんでしたし、仕方ありませんが・・・、制御にはもっと上の段階があります。では、よく見て下さいね。」
フローリアが手を前にかざすと巨大な火の鳥が出現した。あれはフェニックス・プロミネンス・・・
しかし、俺のよりも数倍デカい!こんなものが爆発したら・・・
「フローリア!どういう事だ!」
「旦那様、よく見ていて下さいね。」
その言葉と同時に火の鳥が飛翔し、500mほど離れた場所に着弾した。普通の魔法なら相当の距離だが、この魔法はこの距離でも爆発させると無事に済まないほど強力だ。目が眩むような閃光で思わず目を閉じてしまい、死を覚悟した。
「あれ?何ともない・・・、確かに多少の風を感じはしたが、あの距離で何ともないなんて・・・」
しかし、目の前の光景は凄まじいものだった。
俺から100mも離れていない場所までクレーターが迫っており、しかも、クレーターの底が見えない。
「お分かりですか?旦那様と私の違いを。」
「あぁ、分かる。」
「これはですね、威力の方向の制御になります。ただ漠然と放ってしまうとあの塔の時のような惨事を引き起こしますが、これは威力を収束して上に向けるようにしました。これなら周りに対する被害も最小限で抑えられますね。」
「魔力は自分の中から発生するものです。それに自分の意思を込める事も可能です。ただ、あまりにも漠然とし過ぎますから、誰でも出来るという事はありませんが・・・」
「でも、この制御が出来るようになると、同じ魔力でも圧縮して更に威力を高めたり、高度な操作も可能になります。今のような爆発までも制御が出来るようになりますよ。」
「俺にも出来るか・・・」
「大丈夫ですよ。なんたって、私の旦那様ですからね。」
「そうか・・・、ありがとう。頑張るよ。」
それから、しばらく魔法制御の練習をしたが上手くいかない。フローリアが「少しづつ頑張りましょうね。」と励ましてくれた。
訓練も終わりフローリアと一緒に家に帰宅すると春菜が出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ。お疲れ様でした。」
「ありがとう、春菜。留守の間に何かあったか?」
「はい。ギルドの方から連絡がありまして、都合が良ければ明日顔を出してもらいたいとの事です。」
「そうか・・・、最近顔を出していないしなぁ・・・、俺が呼ばれるという事は、厄介事の気がするな・・・」
「まっ、拒否する理由も無いし、明日行ってくるか。」
翌日、俺と夏子でギルドに向かった。
途中、宝飾店に寄る。もちろん、夏子にプレゼントを買う為だ。
2人に買ってあげて夏子と渚に買ってあげない事は出来ないからな。
「さてと・・・、どれにしようか?夏子、希望ある?」
「私は旦那様が選んでくれたものなら何でもいいぞ!」【私もだ。】
「それが一番難しいんだよなぁ・・・、う~ん、どれにしようか?」
【もちろん、私の分も買ってくれるのでしょうね?】【フローリアか?】
【はい、この前はネックレスでしたから、出来れば別のものが・・・】
【分かったよ。お前にも似合いそうなものを考えてみる。】
【嬉しいです。今夜楽しみにしてますね。チュッ!】
「夏子達にも似合いそうなものは・・・」
色々と見て考えた結果、イヤリングにした。あまり大きいと似合わない感じだし、見た目がピアスに見えるタイプのものだ。これなら動きの邪魔にはならないだろう。
夏子と渚の髪の色に合わせて右側にブルートパーズ、左側はルビーがはめ込まれたイヤリングだ。フローリアはエメラルドにした。この色なら似合いそうだ。
「どうかな?」
「嬉しい・・・」【ありがとう・・・】
喜んでくれて何よりだ。
ギルドに到着した。
ギルドの扉を開ける。
「「「「「お、おぉぉぉ~~~~~~」」」」」
驚きの声が響き、男達の視線が俺の方に集中する。もう、パターン化してるな・・・
と、思ったら・・・
全員が俺の前に整列して挨拶をしてきた。
「蒼太様!本当にありがとうございました!」
な、何だ!いきなり言われても・・・
焦ってしまったが、奥からゴンザが恥ずかしそうに出てきた・
「旦那、すまねぇ・・・、止めとけと言ったんだが、どうしても旦那にお礼を言いたいと聞かなくてな・・・」
「アレは黙ってるけど、ケルベロスの死体と塔で手に入れた大量の素材がとんでもない金額で売れたもんで、あいつらも舞い上がってしまってな・・・、次からは普通にするから、今回だけは勘弁して欲しい・・・」
「分かったよ、今回だけだからな。毎回出迎えられても敵わんし、恥ずかしくて死にそうになるかならな。」
「面目ない・・・」
ゴンザ軍団を見回してみたが、何人か様子がちょっと変なヤツがいる。何やらブツブツ言っているのでよ~く聞いてみると・・・
「夏子様がいる。ご褒美が貰えるかな・・・」
ジリジリと数人が前に出始めてきた。
「渚、頼む。」「OK!」夏子の髪が赤色に変わり、手にはいつの間にか鞭が握られている。
「久しぶりだ、この感覚!」
「貴様らぁぁぁ~~~!この私がご褒美を与えてやるぞぉぉぉ~~~!喜べぇぇぇ~~~!」
「「「「「「夏子様ぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~!」」」」」」
ギルドの一角がカオスと化した。
「うわぁ・・・、鞭でシバかれて喜んでるよ・・・、人間、あぁなりたくないな・・・」
「ゴンザはもう大丈夫なのか?」
「旦那、俺はウエンディ一筋ですよ。あのご褒美の誘惑にはもう負けません。」
「本音は?」
「そりゃぁ、あの夏子様のご褒美ですよ!あの快楽を味わったら、もう・・・」
突然、受付の方から凄まじいプレッシャーを感じ、ゴンザが黙ってしまった。このプレッシャーはフローリア並だぞ!一体、誰なんだ・・・
視線を受付の方に向けるとウエンディがニコニコした顔で俺達を見ていた。しかし、手には何故か鞭が握られている。
「あなた・・・、私よりあの女の方が良いのですか・・・?今夜は私がたっぷりご奉仕してあげますね。あの女を忘れるくらいに・・・、じっくりと・・・、ふふふ・・・」
ウエンディはニコニコしてる。しかし、目が笑っていない。しかも、目の奥に別の光が見える・・・
そう、あの目は見覚えがある。あれは暴走直前の目だ・・・
「ウエンディ!俺が悪かった!やっぱり俺にはウエンディしかいない!今夜は楽しみにしてるぞ。」
「はい、あなた。愛してます。もう絶対!に放しません。」
何なんだ、この夫婦漫才は・・・
これも夫婦の愛の一つの形か・・・、人間って奥が深いね・・・
評価、ブックマークありがとうございます。
励みになりますm(__)m