世界①
夏子&渚を妻と迎えてから数日が経過した。
今、俺はリビングにいる。
「はぁ~、やっぱりのんびりダラダラは最高~!ここに来てからずっと忙しかったしな。今は定年後の年金生活の時みたいだ。」
「ただなぁ・・・、あの時は年金だけだと生活は厳しかったし、婆さんがいなくなってからは1人ぼっちだったし・・・」
「そう考えると、今の生活ってホント贅沢だよな。」
「でもさ、な~んか考えてしまうんだ。俺って、もしかしてヒモ?」
「どう思う?フローリア。」
俺の視線の先にはフローリアと春菜がいた。
フローリアは久しぶりに顔を出してくれた。神殿での仕事がかなり忙しかったとの事だった。
女神の仕事って一体何をしているのだろう・・・
夏子達は教会で子供達の相手だ。ララは買い物に出かけている。
「衣食住のうち、食、住はフローリアからの提供だしな。しかも、この家は光熱費、水道代もかからないから大した技術だよ。そして、食べ物に関してもあの冷蔵庫から無限に食材が出てくるし・・・」
「食材は地球の神が『夏子様のご褒美をもらう為にも是非!』と言って、喜んで提供してくれましたよ。渚さんにたまには地球の神にご褒美をあげるように言わないといけませんね。」
「旦那様は決してヒモではありませんよ。『主夫』という表現が一番正しいのではないでしょうか?」
「でも、ギルドではちゃんと依頼を受けてお金は稼いでいますから、そんな卑屈にならなくても良いと思いますよ。」
「そうか・・・」
「冒険の感覚が強過ぎて、仕事をしていると思っていなかったみたいだな。」
「私は自慢ではありませんが、こう見えても家事はかなりのレベルだと自負してますよ。ただ、この家に関しては私は神殿という場所に単身赴任しているようなものですし、なかなか旦那様のお世話を出来ないのが辛いところですね。」
そして、フローリアは春菜をチラッと見て、ため息をする。「彼女はねぇ・・・」
おいおい、春菜がフローリアの言葉の意味を理解してしまって落ち込んでるぞ。しかも、部屋の隅で三角座りして何かブツブツ言ってるし・・・
マズイ!床に沈み始めてるぞ。
「しばらくすれば復活しますから、そのままでも大丈夫ですよ。」「そうか・・・」
確かに・・・
春菜は今、ララにメイドの教育を行っている。教えるのは上手で、ララのメイドスキルはかなりのレベルになっている。料理も掃除も俺の手伝いをしてくれるし楽だ。
特にララに感謝しているのは洗濯だな。この家に住んでいる男は俺1人だ。自分の分の洗濯なら何も問題ないが、春菜達の普段着や下着を洗濯する者の身になってくれ。洗濯機と乾燥機があるから洗濯自体はほぼ手が掛からないが、洗濯機や乾燥機に洗い物を出し入れする時、乾いてから洗濯物を畳んで彼女達に渡すまでララが来るまで俺がやってた。彼女達は今まで神殿勤めで洗濯は誰かがやってくれていたから、そんなに気にしないみたいだが、俺はとっても気にする。何が悲しくて年頃の女の子達の下着を畳まなきゃならん。畳む度に恥ずかしいし・・・、時々怪しい下着も入っているし・・・、この点に関してはララがいてくれて心から感謝している。
話が逸れたが、ララ自身の家事スキルはかなりのものだ。ただ、春菜がララに実践といって手本を見せようとした時に、春菜の不思議なスキルのおかげで家事なのに大惨事を起こすんだよな。いつもという訳ではないから余計に怖い。いつ爆発するか分からない爆弾を抱えているようなものだ。だから、春菜にはあまり家事をさせないようにしている。
「それと、あの3人も家事は全くダメでしょ。」
「だよなぁ・・・」
「私と一緒に暮らすまで、もう少し我慢して下さいね。そうなれば、私がしっかり旦那様のお世話をしてあげます。そして、彼女達も旦那様の妻として恥ずかしくないよう、私がしっかり指導しますよ。」
フローロアの指導か・・・、地獄の特訓になるんだろうな・・・、あいつらに同情する。
フローリアが俺の隣に座り、首に腕を回してキスをしてきた。
「旦那様が無理に頑張る必要もないですよ。あの部屋でずっと私が養ってあげる事も出来ますし・・・、あぁ・・・、そう思ったら・・・」
フローリアの目からハイライトが消えかかっている!息が荒くなって、俺を抱きしめる力が段々と強くなってきた!このままではあの部屋に監禁されてしまう!
今の状態のフローリアにあの部屋に連れて行かれたら、何をされるか・・・
考えるだけでも怖い!
春菜はどうなってる・・・、ダメだ!まだ落ち込んでいる!
考えろ!考えるんだ!助かる方法を!
「そういえば・・・、フローリア。」
「何でしょう?」
「俺ってさ、転生してからいきなりこの世界に来たじゃないか。この世界はフローリアが作ったよな?これからの事も考えて教えて欲しい。そして、フローリア達神族や春菜達天使の事も教えて欲しいんだ。良いかな?」
「そうでしたね。気が付きませんでした。旦那様にとってはどれも初めてばかりの事でしたし、戸惑うのは当然ですよね。失礼しました。」
フローリアが元に戻った。助かったぞ!
「でも、旦那様・・・、体が少し火照っていますので、少しだけでも・・・、春菜さんも当分は元に戻らないでしょうし・・・、お願い・・・」
ダメだ!まだ完全に戻っていない・・・、でも、これ以上俺が色々言って逆ギレされてもマズイな。
「分かった。少しだけだぞ。」
「旦那様、ありがとうございます。」
フローリアの転移魔法で俺とフローリアは例の部屋に転移した。
突然、フローリアが抱きつき、俺の胸の中で泣きだしてしまった。
「フローリア!どうした!」
「分かっています、分かっていますが、どうしても・・・」
しばらく泣いていたが泣き止んでくれた。落ち着いたみたいだな。
「大丈夫か?一体どうしたんだ?」
「お見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでした。」
「旦那様が神格を得るまでは、こうして離ればなれの生活になると覚悟はしてましたが、感情が抑えきれない事もありまして・・・、女神の地位を捨て旦那様と一緒にどこかでひっそりと暮らしたいと、どれだけ思ったか・・・」
「恥ずかしい話ですよね。自分で決めた事なのに・・・」
「そんな事ないさ。俺も同じだから。」「旦那様・・・」
「ただ、俺には春菜達がいるから寂しくないが、フローリアは1人だから尚更なんだろな。」
「そうだ!こうしよう。」
「どうしました?」
「これから俺達が寝る時に、お前も一緒に寝に来れば良いんじゃないか?俺は神格がないから自由に神界に出入り出来ないが、お前なら簡単だろ?」
「そうすれば、寝る時はいつも俺と一緒に寝る事が出来るから寂しくないだろう。」
「目からうろこです・・・、今まで思いつきませんでした。」
「まぁ、お前は意外と堅物なところもあるから、変に真面目に考えていたんだろうな。」
「いきなり帰ってきてもビックリするから、帰る前は念話で連絡をくれないか?」
「分かりました、今夜から早速行きますね。」
「妻の帰りを待つ夫か・・・、さっき、お前が言った俺は『主夫』に似ているといった言葉だけど、ホントそうなってしまったな。」
「フローリアは長距離通勤どころか超長距離通勤だな。」
「ふふふ・・・」
「さぁ、落ち着いたみたいだから帰るか。」
「旦那様・・・、やっぱり少しでも・・・」フローリアの顔が赤い。
「それは今夜のお楽しみにしとけ。」
よし、時間が稼げた!夜までにどうやってフローリアの攻撃から逃げるか考えよう。
「多分、春菜も復活しているだろうし、早く帰ってあげないとな。夏子はともかく渚はまだちゃんと紹介してないし。」
「そうですね。それでは帰りましょう。」
リビングに戻ると春菜が復活していた。
「お帰りなさい。」
「あれ!フローリア様、良い事があったのですか?すごく嬉しそうですが?」
「あぁ、基本的に今夜からフローリアも一緒に泊まる事になった。ここで寝て神殿に通う生活になる。」
「それは良かったです。我々もフローリア様のお近くにいられて嬉しいです。」
「ありがとう。春菜さん。」
「フローリア、話題がコロコロ変わってしまったが、この世界の事を教えて欲しい。」
「分かりました。」
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