逢魔の塔⑦
連続投稿です。
夕食後、リビングでみんなとまったりしてから部屋に戻る。春菜と千秋はまだララと話をしていたので俺1人で戻った。
そしてドアを開ける。
すぐに閉めた。
そして、もう一度ドアをそ~~~~と開けた。
部屋の中に夏子がいた!しかも、ドアの正面で正座している・・・
そういえば・・・、下にいたときに途中で夏子を見かけなくなったな。
「な、夏子さん・・・、これは一体何でしょうか・・・?」夏子は黙って俺を見つめている。
沈黙が怖い・・・
突然、夏子が土下座した。
「蒼太殿!私を貰って下さい!」
やっぱり・・・
「夏子・・・、取りあえず楽にしような。本当に、一体どうした?」
「私はもう嫌なんだ・・・、周りがみんなどんどん結婚している・・・、もう取り残されたくない・・・」
「だから!蒼太殿!私と結婚して欲しい。1人はもう・・・、嫌だ・・・」
「蒼太殿!この通り頼む!この私を何とか貰ってくれ!」
「夏子、ちょっと待て。落ち着け!」「まず、顔を上げてくれないか?」
「うん・・・」夏子が顔を上げた。涙でぐしゃぐしゃだ。
「本当にどうしたんだ?あの時から変だぞ。お前みたいな美人ならいくらでも相手は見つかるはずだ。そこまで焦らなくてもいいだろ?」
「みんな私の事を気持ち悪いとか怖いと言って離れてしまう・・・」
「え!」
「蒼太殿も分かっているが、今の私ともう1人の私がいる。私の中には2つの魂が存在している。普段はこの通りだが、感情が高ぶるともう1人の好戦的な支配欲の強い私が出てきてしまう・・・」
「魂は2つあるのに体は1つだ。私が出ているときはもう1人の私は眠っている状態だ。逆だと私が眠っているようなもので、気が付くと周りの景色や状態が一変している事もよくあった。だが、全て憶えていない訳でない。時々夢のような感じで少しだが憶えている事もある。」
二重人格と思っていたが、2つの魂を1つの体で共有していたのか。これはさすがに分からなかった。
「こんな存在は神界でも珍しい。周りは私をどう扱って良いのか分からない人ばかりだった。」
夏子みたいな存在はマンガとかではよくある話だ。初めて夏子の変身ぶりを見ても慌てなかったのは、そのような予備知識があったからだろうな。孫達に感謝だ。
しかし、今の夏子を落ち着かせるにはどうするか・・・
「昔から、みんなと一緒にいても、ちょっとした事でもう1人の私が出てくる。その度に大騒ぎになる事も珍しくなかった。仲が良かったのにその時を境に腫れものの様に扱われてしまう・・・、なるべく私を刺激しないようにと態度も余所余所しい・・・、常に孤独だった・・・もう1人の私の行動で下僕が出来ても、所詮は下僕だ。私と心を通わす存在ではない。」
「そんな孤独な私にも、心から通わす事が出来る人がいた。フローリア様とあの3人だ。私がどんな姿でも変わらず付き合ってくれる。」
夏子が俺を見つめる。
「そして、蒼太殿も私を普通に扱ってくれた。もう1人の私も全く恐れていない。それが嬉しかった・・・」
「しかし、みんな蒼太殿と一緒になってしまった・・・、美冬も蒼太殿に好意を持っているのは明らかだし、いつかは蒼太殿と結ばれると思う・・・」
「そうなると、私はまた孤独になってしまう・・・、そんなのは、もう・・・、嫌だ!」
「私の場所が無くなってしまう・・・」
「でも、蒼太殿と一緒にいると、私も素直になれるし、みんなも一緒にいる。そして・・・、私も、もう1人の私も孤独から解放されたい・・・」
「だから、蒼太殿と一緒になりたい・・・、そして、みんなの輪に私も一緒に入りたいんだ。」
「ダメかな・・・?」
「夏子・・・、俺からも謝らなくてはならない事がある。」
「蒼太殿・・・」
「俺は最初は夏子が単純に結婚というものに焦っていただけだと思っていた。春菜、千秋と続いてしまったし・・・、そして、ゴンザ達もな。それで焦っていると思ってしまった。」
「そして、もう1人の夏子の事だ。二重人格だと思い込んでしまってな、刺激さえしなければ問題無いと思っていた。今の夏子の事を考えたら、お前1人だけの事でなく、もう1人のお前も一緒に幸せにならないと意味がないだろうな。」
「お前が真剣に考えて行動すれば受け入れても良いと思っていたが、俺の方が真剣に考えてなかった。本当に申し訳ない。お前の事を軽く考えてしまった事は、謝っても許されないかもしれない・・・」
「受け入れるって・・・、本当に、そう思っていたんですか・・・」
「あぁ、本当だ。」
「許すも許さないも、私達の考えは一緒です。これからもよろしくお願いします。」
「夏子・・・、本当に俺でいいのか?」
「はい・・・」夏子の目から涙が溢れる。
そして、俺の方から夏子にキスをした。
「夏子、ちょっと待ってくれ。」掌を夏子の額にかざし、魔力を放つ。すると、夏子の髪が青から赤に変わった。
「もう1人の夏子。じっくり話すのは初めてだな。」
「そうだな・・・、こんな方法で呼び出すとは驚きだ。でも私は夏子ではないぞ。私の本当の名前は『渚』だ。この髪の時は『渚』と呼んでくれ。」
「分かった。夏子だけでなく、渚も平等にしないとな。」
渚にキスをする。
「こんな私に優しく接してくれたのは、蒼太、お前が初めてだ。このキスだけでも私は満足してる。夏子を幸せにしてくれ。初めては夏子に譲る。でも、時々でも良いから、この私を呼び出し愛してくれ。」
「分かった。」そう返事すると、渚の髪が青色に戻り、夏子になった。
「夏子、大丈夫だったか?無理に渚を呼び出してしまったからな。」
「大丈夫さ。本当に2人を愛してくれるんだ。こんなに嬉しい事はない。」
夏子が俺に抱きつこうと立ち上がろうとしたら、「あっ!」ヨロヨロと倒れてしまった。
「う~~~、足が痺れたぁ~・・・」
「夏子らしいな。」「もう!」
【旦那様】【どうした?フローリア。】
【例の結婚指輪を夏子さんに着けてあげて下さい。】【分かった。】
指輪を取り出し、夏子にはめてあげる。
【夏子さん。】【フローリア様!これが念話ですか?】
【そうですよ。そして渚さん。】【えっ!夏子が起きているのに私の意識がはっきりしている。何で?】
【この指輪の力です。この指輪の機能で2つの意識の並列制御が可能になったのです。これで、お互いに会話も出来ますし、同時に同じ感覚も共有出来ます。任意に体の主導権も変える事が可能です。ちなみに、半分半分に体を共有する事も可能ですよ。】
【旦那様も聞こえていますね。】【聞こえてるぞ。】
呪いのアイテムと思っていたが、とんでもないチートアイテムだったとは・・・
さすがフローリア。良い事も悪い事も極端だな。
【夏子さん、渚さん、これまでのように周りを気にする事はありません。これからは2人で相談して行動を決める事が出来るのですから。そして、感覚も共有が出来るという事の意味は分かりますね。】
夏子が真っ赤になった。
【これであなた達の初めても2人一緒ですよ。今夜は私はお邪魔しませんので、旦那様と2人で楽しんで下さいね。ふふふ・・・】
【【フローリア様・・・】】
夏子が目を閉じ集中している。すると、夏子が髪が右が青色、左が赤色の姿になった。
「「本当だ。2人同時に存在している。」」
しばらくすると、元の青い髪の夏子に戻った。
「蒼太殿・・・、こんな奇跡が起きるなんて・・・」
【私も驚きだ。フローリア様には感謝しきれない・・・】
【あなた】【蒼太さん】【春菜、千秋・・・】
【フローリア様から事情を聞きました。私と千秋さんは美冬さんと一緒の部屋で寝ますので、今夜は夏子さんと渚さんを頼みましたよ。もちろん、明日は私ですけどね!】
春菜がちょっと怖い・・・
【私もだ!】
千秋も何故か気合いが入っている・・・
明日の俺はどうなるんだろう・・・、考えるのが怖い・・・
「足の痺れはどうだ?」「う~ん、もう少し・・・」
「きゃ!」
俺は夏子を抱きかかえた。
「これがお姫様抱っこ・・・」【夢のようだ・・・】
そしてもう1度キスをした。「【幸せです・・・】」
抱えたままベッドまで運び、俺達3人は1つになった。
翌朝
目が覚めたら夏子に抱き枕状態にされていた。いや、髪が赤いから渚だな。
あの女王様状態の渚しか見ていないから、こんな状態は新鮮だ。
しばらく寝顔を見つめていたら目を覚まし、目が合った。見つめられていた事に気付いたのか、渚の顔が赤くなる。
「見つめられると恥ずかしいな・・・」
「渚が抱きついているし、顔が目の前だから仕方ないだろ?」そう言って、渚にキスをした。
「な、何!いきなり不意打ちとは・・・、で、でも・・・、悪くない・・・」
「いつも、お前達にやられているんだ。たまには俺からやり返しても良いだろ?」
「そうだな。」渚が微笑んだ。
「いつもは夏子が興奮した状態になると私が出てくる。私ももちろん興奮状態だ。そうなると必然的に騒ぎを起こすのが当たり前だった。」
「でも、今は違う。こんなに落ち着いていられる自分がいる。そして、人を愛する事も出来る。本当に孤独から解放されたんだな・・・、夢みたいだ・・・」
「改めて、おはよう、渚。」
「おはよう、旦那様」
「旦那様?」
「そう、これからはそう呼ばせてもらうぞ。夏子と相談して決めた。」
「夏子と仲が良さそうでよかった。」
「当たり前だ。同じ体なんだから仲が良くて当然だ。それにしても、今まで意識の切り替わりのごく僅かな時間しか会話が出来なかったのに、今で何も気にせずいつでも話が出来る。こんな嬉しい事はないぞ。」
「あの瞬間から、本当に世界が変わった・・・」【私もだ。】
【夏子か、本当に良かったな。】
【ありがとう。旦那様。】
ふと、気が付いた・・・
背中が生温かい・・・
前も同じ事があったよな?
恐る恐る振り返ると・・・
春菜と千秋と美冬がいた!
ベッドの中で並んでいるし・・・
「お前達、いつの間に・・・、確かドアには鍵をかけていただずだが・・・」
「ふん、あんな鍵、この私にかかれば無いも同然だ。」
「千秋さんが鍵を開けてくれて入ると、お二人が仲良く眠っていたので、つい潜り込んでしまいました。」
「イチャイチャだね。」
「一体、何をしに来たんだ?」
「もちろん、茶化しに来たんだが、夏子があまりに幸せそうな顔だったので、さすがにな・・・」
【おい!何て事をしてくれようとしたんだ!】
【夏子か、今、目の前にいるのは・・・】【あぁ、渚だよ。】
「渚さんですか。こうやって普通に話すのは初めてですね。春菜です。よろしくお願いしますね。」
「千秋だ。よろしく頼む。」
「夏子から良く聞いている。こんな私達を受け入れてくれてありがとう。心から感謝する。」
「美冬だよ。これでずっとみんな一緒だね。」
「あぁ・・・、こんなに嬉しい事はない・・・」
しばらくすると、髪が青色になった、夏子に戻ったのだろう。そして涙が流れていた。
「春菜、千秋、美冬、渚がすごく喜んでいたぞ。今までにあんなに嬉しそうな感情の渚はなかった。私からも心から感謝する。ありがとう。」
そして、夏子は春菜達に飛びつき、思いっきり抱きしめ大声で泣いた。
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