逢魔の塔⑥
う~眠い・・・
結局、一睡もさせてもらえなかった。
しかし、フローリア達の体力はどうなっている。3人とも元気だし、しかも、肌が昨日よりもツヤツヤだ。
フローリアはゴンザ達の事もあって、会うと不味いとの事で朝食前に神殿に帰っていった。
眠い・・・、アカでの移動中に少し眠らせてもらおう・・・
夕方には街に着いて、一旦、ゴンザ達と分かれる。
ケルベロスの死体は俺の異次元収納に入っているので、明日、ゴンザ達と一緒にギルドに行くことにした。
3日ぶりの我が家だ。やっぱり自分の家が一番落ち着くな。
玄関の扉を開けるとララが出迎えてくれた。
余程寂しかったのか春菜の姿を見かけると、思いっきり抱き付いていった。
春菜はララのメイドの教育係で、4人の中で特に仲が良い。仲良くしている2人を見ると、本当の姉妹みたいに見える。
夜、3人でベッドの中に入ってから
「春菜は本当にララと仲が良いな。本当に姉妹みたいに見えるよ。」
「そう言ってもらえると嬉しいです。私は孤児でしたから、親代わりのフローリア様以外の親しい人は彼女達3人しかいませんので、余計に家族というのに憧れているのかもしれませんね。」
「春菜・・・、知らなかったとはいえ、すまん・・・」
「気にしないで下さい。今はあなたがいますし、私はこんなに幸せなんですから。」
「次の目標は、あなたとの子供ですからね。」
「それは私も同じだよ。蒼太さん。」
「幸せを諦めていた私が、今はこんなにも幸せを感じている。全ては蒼太さんのおかげだ。」
「私も今度は母親としての幸せを噛みしめたいな。私が経験できなかった親の愛情を与えてあげたい・・・」
2人が嬉しそうな顔で抱き付いてきた。俺も幸せだ。
みんなの幸せを守る為にも、俺はもっと強くならないとな。
翌日、俺はゴンザと一緒にギルドに来た。ケルベロスの死体を引き渡す為だ。依頼の肝の引き渡しだけでも良かったが、死体がかなりキレイな状態だったとの事で、1匹丸ごと買い取りしてもらう事にしてある。
ケルベロスの死体を異次元収納から取り出す。
「「「「「おおっ~~~!」」」」」
解体場に声が響き渡る。
一緒に立ち会ったギルドマスターも少し興奮している。
「本来、この依頼は1ヵ月くらいの時間がかかるはずだが、君達はわずか4日で帰ってきた。どうしてこんなに早いかは、もう聞かないでおこう。君と常識の話をすると、私の頭がおかしくなりそうだ・・・」
「それにしても、このケルベロスは見事だよ。大きさも今までの中では最大に間違いない。これなら、あちこちのギルドで失敗していたのも頷ける。本当に良くやった。」
「大きさも凄いが、損傷も最低限で抑えてあるから、依頼分以外の販売も期待出来るよ。本当に感謝する。」
「ゴンザ、良かったな。これで堂々とウエンディと一緒になれるな。」
「旦那・・・、本当にありがとうございます。絶対にこのご恩は忘れません!」
「俺が好きでやったんだ。気にすんな。」
「それと、あの後のゴタゴタの口止めも含めてな。」
1週間後、俺と夏子、美冬は、例のケーキ屋にいた。
この2人にケーキ屋のケーキを食べさせる約束をしたからだ。
「いやぁ・・・、あの看板の注意書き、あれは絶対に春菜だな。ピンクの髪でツインテール、そしてメイド服姿、全部春菜の特徴と一緒だ。蒼太殿、入る前に食べるのは1人10個までとしつこい程言ってきたのは、まさか春菜と関係してるのか?」
夏子がケラケラ笑っている。あの告白があってからも、今までの態度は一切変わっていない。あの時は感情が暴走して思ってもいないことを口走っただけだったのかな?今は普通に接しているし、あまり刺激しない方が良いだろう。
「それ以上は聞くな。春菜が可哀想になる・・・」
「分かった・・・」夏子がニヤニヤしてる。
「それでは、私と美冬は向こうのテーブルに行って食べてくる。10個の注意は必ず守るからな。美冬にも良く言っておく。あの看板のようになりたくない。」
「絶対に春菜に言うなよ・・・」
「では。」
夏子と美冬が俺のテーブルから離れて、別のテーブルに行った。
そして、目の前には別の2人がいる。
ゴンザとウエンディだ。
「正式に夫婦になったな。おめでとう。心から祝福するよ。」
「「ありがとうございます。」」
「でも、旦那・・・、本当に良かったんですか?ケルベロスの手柄を全部俺達にして・・・」
「構わないさ。俺は別に名誉は求めていないし、お金に関しても全く困ってないからな。」
「お前は、これからウエンディをずっと幸せにしなければならないんだ。本当に大変だぞ。」
「だ、旦那・・・」
俺はテーブルの上にポーチサイズの巾着袋と小さな箱を置いた。
「この袋はゴンザ、お前へのお祝いだ。」
「これは何です?」
「俺が作った魔法の収納袋だよ。巾着袋に俺の収納魔法を付与してある。あと、強化魔法も付与しておいたから滅多な事では破れないし、剣でも切れないぞ。」
「収納したいモノを触って念じれば袋の中に収納される。出したい時は逆の手順だな。容量はギルドの建物10棟分くらいあるしそう入りきらない事もないだろうな。これで旅の荷物が随分楽になるのは間違いないないだろうしな。時間停止機能も付けておいたから、これで旅に出てもいつでもウエンディの手作り料理が出来たてで食べれるぞ。」
「そ、そんな国宝級のものを俺なんかに・・・」
「俺が作ったんだから、誰に持たすのも俺の勝手だろ?ちなみに、お前達2人しか使えないようにしてあるから、他人に悪用される心配も無いからな。」
ちなみに、ララとシスター達にも作ってあげた。とっても喜んでくれたよ。
「蒼太さんって、本当に何者なんですか?ギルドでも何かなら何まで規格外ですし・・・」
「あの打算の塊のマリーさんも執着してますから、余程の人なんですね。」
「俺は本当にただの人間だよ。普通の人とはちょっと変わっているけどな。」
「う~ん、まぁ、ウエンディなら言っても良いかもな。ゴンザ、ウエンディだけなら話しても大丈夫だぞ。春菜にすり潰されないように言っておくから。」
「旦那、良かったです。ウエンディには秘密を持ちたくなかったもので・・・」
「ゴンザレスさん、何があったのですか?」
「ウエンディ・・・、絶対に内緒だからな・・・、旦那の奥様である春菜様は、実は女神様なんだ。俺達はケルベロスを倒した後に邪神に襲われてな、それを春菜様達に助けられたんだ・・、あの時の神々しい春菜様のお姿は、正に女神様だった・・・」
え!何で春菜が女神?あの時は俺はその場にいなかったからなぁ・・・、まぁ、本当の事を話しても余計に混乱するだろうし、このまま春菜=女神説にしてしまおう。
「そんな事があったのですか・・・、それなら秘密にしたいのもわかります。」
「分かりました。この事は絶対に他人には話しません。ゴンザレスさんとの2人だけの秘密にします。」
ウエンディなら信用出来るだろう。
「それと、コレな。開けてみろ。」
ゴンザは小さな箱を開けて、ウエンディと目を合わせた。
中には2つの指輪が入っている。
「旦那、コレは?」
「お前達2人へのプレゼントだよ。」
「これは、俺の故郷の風習で『結婚指輪』というものさ。夫婦の絆が深められ、愛が続くように祈りを込める意味だよ。ずっと、一緒にいる事を俺も祈っているぜ。俺や春菜、千秋も同じ指輪を左手の薬指に着けているだろ。」
そう言って、2人に俺の左手を見せた。
この1週間の間に頑張って作ってみた。デザインは俺達と同じでなく、S字ラインのオシャレな感じにした。もちろん、フローリアみたいな2度と外せない呪いは付けてないからな。
「それとな、この指輪はお互いの指に嵌めるんだぞ。自分で自分の指でないからな。あと、サイズは自動でベストになるよう魔法も付与しておいたよ。」
2人は頷きながら指輪を取り出し、お互いに左手の薬指に嵌めた。自動でサイズが変わりピッタリ収まる。
「す、すごく感動します・・・」ウエンディが涙を流しながら感動していた。
「何から何まで・・・、何とお礼を言えば良いのか・・・」
「2人は俺からの縁で始まったみたいだしな。悪いが、最後までお節介させてもらったよ。」
「2人共、末永く幸せにな。」
「「はい!」」
そして、俺達はゴンザ達と別れ店を出た。夏子も美冬も満足してくれたのかニコニコしていた。
「ホント、世の中何が起きるか分からないなぁ・・・、まさか、あのゴンザが正反対の美人と結婚するなんてな。今でも信じられん。」
「でも、あの2人は幸せそうだったなぁ・・・、私もいつか・・・」
夏子が遠い目で呟いた。
「蒼太殿、ちょっとお願いがあるのだが・・・」
「何だ?」
「帰るまでの間、腕を組みながら歩いていきたい。良いか?」
「そんな事くらい構わないよ。」
返事をすると、夏子が腕を組んできた。それを見た美冬が「私も・・・」と言って、反対側の腕を組んできた。
「美冬、珍しな。お前がくっついてくるなんて。」
「えへへ・・・」
「何か、あれから雰囲気変わったな。最初、お前に会った時は『俺、嫌われてるのか?』と思ったくらいだったしな。俺としては嬉しい方向に変わってくれたよ。」
あの凍牙の件から、美冬は俺に対して明るく接してくれるようになった。俺の中に凍牙がいる事が嬉しいのだろう。水上蒼太の前世と美冬が関係しているのは間違いないな。そして、かなり親しい仲だった事も・・・
美冬に関しては、これ以上詮索するのは止めておこう。美冬が話したくなった時まで待とう。
チラッと夏子を見ると寂しそうな表情だったが、俺と目が合うと笑顔になり微笑んでくれた。
俺は少し不安になりながも、両腕を2人に抱きつかれながら帰宅した。
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