逢魔の塔④
その頃、夏子達は
ウッディが魔法を連発する。夏子は全てを紙一重で躱し続けていた。
「ふはははぁ!剣が主体のお前では魔法の前では単なる的だな。」
「そうか?そう思うか・・・。ならば、少しは剣でも貴様と戦えるところを見せないとな。」
「黙れ!」そう叫びながらウッディが魔法を放つ。
「貴様の攻撃はワンパターンだ。もう読めた。」
夏子が魔法を躱しながら接近して、ウッディを真っ二つにする。しかし、瞬時に元に戻る。
「無駄だ!」
「ならば、もう少し細かく刻んでみるか?」
夏子が目に見えない程の速い斬撃を繰り出し、ウッディを細切れにする。しかし、またもやすぐに復活する。
「無駄!無駄!無駄ぁぁぁ!」
「大人しく私にいたぶられ、心地良い悲鳴を聞かせろ!」
「それは、お断りだ。」
「貴様は私が魔法を使えないと思っているようだが・・・、確かに私は魔法はそう得意でないし、剣に生きてきたのもある。ただ、私の剣が切るだけのものと思うな!」
夏子が刀身に人差し指を当て何か呟いた。その瞬間、刀身から炎が立ち上る。
「私が使える魔法にはこんな使い方もあるんでな。」
「何だ!何をしてる!」ウッディが叫ぶ。
「ただ切るだけでは貴様を倒す事は出来ないみたいだからな。だが、これではどうかな?」
夏子が燃える剣を構え、ウッディに迫り右腕を切り落とす。切り落とされた腕は瞬時に燃え上がり消滅した。切られた部分の切り口には炎が纏わり付いている。
「ぐあぁぁぁぁーーーー!」
「何故だ!何故再生しない!」
「当たり前だろ。その炎が常に貴様の腕を燃やしているからな。再生する速度と燃える速度が同じだけだ。」
「さてと・・・、これで貴様の倒し方は分かった。覚悟する事だ。残念ながら、貴様のようなヤツは私の下僕に相応しくない。」
「こ、こ、この雑魚天使がぁぁぁぁぁぁーーーーー!」
「さらばだ!」
夏子がウッディを細切れにする。その瞬間に全ての肉片が燃え上がり消滅した。
「貴様の敗因は、己の再生力に頼り過ぎて、自らの力を高める事をしなかった事だ。いくら神だろうが、上には上がいるのさ。」
美冬もウッディの1人と対峙していた。
「喰らえ!」ウッディの掌から美冬に向かって火の玉が飛び出る。
火の玉が迫ってくるのも構わず、美冬はウッディに迫る。目の前まで飛んできた火の玉を拳で弾き、そのまま顔面を吹き飛ばした。
「ぐあぁ!」瞬時に元に戻る。
「バカな!魔法を素手で弾くだと!そんな事はありえん!」
「ならば切り刻むまでだ!この野郎がぁぁぁ!」
「私は女の子だよ。」
ウッディが剣を構え美冬に斬りかかる。しかし、美冬は全て躱し、その斬撃に対して全てカウンターを決めていた。
「うぎゃぁぁぁぁぁーーーーー!」
「な、何故当たらない・・・、いくら貴様が強いといっても、たかが獣人ごときがここまでの強さとはありえん・・・」
「はっ!」
「そ、その白い髪に白い肌・・・、その姿は・・・、も、もしや・・・、魔獣を統べる神々の1柱の神獣フェ・・・、ぐほっ!」
ウッディが言いかけた瞬間に、神速の速さで美冬が懐まで入り込む。そして肘を腹に叩き込んでいた。
そのまま肘を支点にして裏拳をウッディの顔面に叩き込む。
「ぐぎゃっ!」
「それ以上は言わない・・・」
「ま、まさか・・・、最強神族10柱の1柱が私の目の前にいるだと・・・、ありえん・・・」
「五月蠅い・・・」美冬が蹴りを入れ吹き飛ばす。
「不死身が自慢みたいだし、そう簡単に死なないみたいだから、私の気の済むまでサンドバッグにしてあげる。最近、食べ過ぎみたいだし、ちょっと体型が気になる。ダイエットに付き合ってね。」
右足を前に出し、左足を後ろに下げ足を広げ、右腕を前に突き出して構える。そして突き出した右手の掌を上にし、指をクイッと曲げる。いわゆる、拳法の相手を挑発するポーズだ。
美冬がウッディを見ながらニヤリと笑う。
「だ、だ、黙れぇぇぇぇぇーーーーー!こ、こんな子供が最強だと!ありえーーーーーん!」
「いくよ、死なないでね。」
お互い相手に向かって飛び出したが、美冬のストレートの方が先にウッディの腹に刺さる。思わず体がくの字になってしまったところに、斜め下からの美冬のパンチが顎を捕らえ顔が上がってしまう。顔が少し下がったところで今度は反対側の斜め下からのパンチが襲う。倒れようにも交互に襲う左右からの斜め下からのパンチの連続で倒れる事も出来ない。
「ぐべべべべべ~~~~~~」
堪らず、膝を折って強引にラッシュから逃げようとしても、下からのアッパーが腹に炸裂し体が起こされてしまう。また最初と同じようなくの字の体勢に戻され、再び怒濤のラッシュが叩き込まれる。ウッディはいつ終わるか分からない永遠のループに叩き落とされた。
「だ、だ、だ、だずげでぇぇぇぇ・・・・・」
「やめないよ。」
千秋はウッディを何度も切り刻んでいた。
「ちっ!キリがないな。」
どんなに切り刻んでも瞬時に復活してしまう。
「無駄だ!お前の切るだけの技能では私には何の意味も無い。」
「しかし、お前の美貌は私の好みだな。フローリアを娶った暁にはお前を妾にしてやろう。」
「残念だったな。私は既に人妻だ。不倫する気は更々無い。」
「それに、私は彼と生涯を共にすると誓いを立てている。貴様のようなキモデブなど視界に入れるだけでも汚らわしい。」
「強がりを!」
「確かに1体1での勝負では私は貴様に勝つことは出来ん。しかし、私たちはチームだ。それを忘れてもらっては困るな。」
「ほざけ!」
「私がただ貴様と戦っていたと思うか?自分の弱点など既に分かっている。私が貴様と戦っていたのは、ただの時間稼ぎだ。美冬が飽きるまでのな。」
「美冬!もう良いか?」
「OK!」
美冬がそう返事すると、ボロ雑巾のようになったウッディを千秋の方に蹴り飛ばす。そして、千秋の方も相手の足を切り落として動きを止めた。
そのまま2人のウッディはお互いに抱き合うような格好でぶつかり、その隙を突いて千秋が鎖を放つと一瞬にして2人が縛り上られてしまった。そして春菜に向かって叫ぶ。
「春菜!トドメだ!」
「はい!プロミネンス・サークル!」
ウッディ達の周りに青白い炎が立ち上がり囲む。
「これで逃げ道は無くなったな。終わりだ!」
「とどめです!プロミネンス・トルネード!」
炎の囲いの中で更に大きな青白い炎が湧き上がった。
「「ぎゃぁぁぁぁぁーーーーー!」」
ウッディ達の断末魔の声が響く。炎が消え去った後には何も残らなかった。
「最上位の炎なら、さすがに彼らも再生する暇もありませんでしたね。」
「しっかし、本当に切っても切ってもキリがないな・・・、このままじゃこっちの体力が無くなって、ヤツの思うツボだ・・・」
「くくく、貴様の様な事を無駄な努力と言うのだよ。」
ヤツは今まで余裕の姿で構えていたが、突然狼狽えた。
「バ、バカな!4人もの私が簡単に滅ぼされただと・・・」
春菜達のところで何かあったな・・・
【あなた!】【蒼太さん!】
【春菜!千秋!無事だったか!】
【はい!こちらは問題なく片付きました。これから応援に行きますね。】
【分かった!助かる。】
「向こう側はお前の思う通りにいかなかったみたいだな。さて、こちらの方も頑張らせてもらうぞ。」
「ぐぬぬぅぅ・・・」
突然、蔦の壁に爆発が起こり、煙が晴れると大きな穴が開いていた。そして、その穴から彼女達が現れた。
「神に劣る天使の分際で、よくも・・・」
「残念だったな。俺はいつも彼女達の尻に敷かれているんだ。俺より強いに決まってるだろ。再生能力だけの力で俺たち全員を相手に勝てるかな?」
「あなた・・・、人前でそんな・・・、尻に敷くなんて恥ずかしい事言わないで下さい・・・」
「蒼太さん・・・、今夜はベッドでじっくりお仕置きだな。朝まで寝させないぞ・・・」
千秋・・・、お前の方がもっと恥ずかしい事言っているぞ・・・、夏子と美冬が真っ赤になってるよ。
「ち、千秋さん!今の発言は蒼太さんと2人きりの時に言って下さい。さすがに今の話は・・・」
春菜も真っ赤になっている。
千秋も自分が言った台詞を思い出したのか、突然、顔が真っ赤になり両手で顔を覆い蹲ってしまった。
「う~、念話で言うつもりだったのに・・・、つい口から・・・、恥ずかしい・・・」
千秋・・・、俺もこの状況で思うのも変だが、照れている姿がもの凄く可愛いぞ!
「千秋、春菜、お前達は口に出さずとも、心で蒼太殿と会話が出来ると言っていたよな。まさか・・・、普段から私の知らない間にこんなイチャイチャな会話をしてるのか?」
春菜と千秋が真っ赤になって俯いている。ウッディが固まってるぞ。
「蒼太殿!」夏子がガシッ!と俺の両手を掴む。そして、今まで見た事もないくらい真っ赤になっている。
「わ、わ、わ・・・、わ、私を貰ってくれ!」
「「「「「はぁぁぁ!!!」」」」」
全員が固まってしまった。ウッディは石化しているし・・・
「な、夏子・・・、今はそんな状況じゃないだろ?落ち着け。」
夏子に変なスイッチが入ったみたいだ・・・、裏モードよりも質が悪いかも?
「いや!私にとっては、あのキモイ奴と戦う事より重要だ!あの2人がイチャイチャしているのに、私だけがこのままズルズル行き遅れになるのは嫌なんだ!返事はどうだ!」
「ま、ま、まぁ、夏子・・・、落ち着いてくれ。この話は家に戻ってからな。出来る限り善処するから・・・」
「ほ、本当にちゃんと考えてくれるのだな!」
「善処します・・・」
「分かった・・・」
ふぅ・・・、夏子が落ち着いてくれた。しかし、夏子がこんな時にこんな事を言ってくるとは・・・余程、結婚に焦っているのか・・・
気を取り直して、ウッディとの戦いに集中しなくてはいけないな。
ウッディの方を見ると石化が解けたみたいだ。鬼のような形相で俺を睨みつけている。
「まぁ、その・・・、す、すまん・・・」
「ゆ、ゆ、許さん!絶対に許さん!!!こ、こ、このリア充野郎がぁぁぁ~~~!爆発しろぉぉぉぉぉ~~~~~~~!!!」
あ、キレた。まさかヤツの地雷を踏むとは思わなかった。しかし、これはある意味チャンスだ。ヤツが冷静さを失っている今なら・・・
「凍牙!頼むぞ!」そう叫ぶと俺の手に凍牙が顕現し、ヤツに向かって走り出す。
「無蒼流奥義!無塵斬!」
刹那の斬撃が一瞬でヤツを塵にする。そして間髪入れずに魔法を発動させる。
「フレア・ストーム!」
「ぎゃぁぁぁ~~~!い、嫌だぁぁぁ!こんな情けない終わり方はぁぁぁ~~~~!」
炎の渦にヤツが飲み込まれ消滅した。
「ふう・・・、終わった・・・」
静寂がこの場を包む。不思議なくらい静かだ。そして、俺は気が付いた。
「おかしい・・・、クリスタルが現れない・・・」
「あなた・・・」「蒼太さん・・・」春菜と千秋が不安そうな表情で俺を見つめる。
「まさか・・・、これも本体ではないのか・・・」
突然、塔が大きく揺れ始めた。先程の時よりも遥かに揺れている。そして、床から何本もの蔓が現れた。
「ふはははははぁぁぁぁぁ!見事だ!よくぞ、この私を倒した。」
ヤツの声だ。それも一方向からでない。至る所から声が聞こえる。
「どういう事だ!確かに倒した筈だぞ!」
「驚いているようだな。くくく、これが真の私だ!そして、己の無力さを思い知れ!」
蔓の表面にヤツの顔が浮かび上がる。それも、全ての蔓にだ。
この蔓は・・・、思い出した!塔に入る前に外壁を覆っていた蔓に間違い無い。
「お前・・・、もしかして・・・。お前の正体は塔全体を覆っている蔓か?」
「ほぅ、よくぞ気が付いたな。それが私の真の姿だ。本体は塔の真下の地下にある。」
「お前達には手の打ちようがないだろう。真の絶望を味わうが良い!ふはははははぁぁぁぁぁ!」
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