逢魔の塔③
「初めまして。私の名前はウッディ。」
「そして、愛しのフローリアの周りをうろつく害虫を駆除しに来ました。」
立っていた男はそう言った。フローリア争奪戦の神の1人に間違い無い。
男をよく見ると小太りの中年の男の感じだ。
「美冬、嫌な臭いはアイツか?」
「そう、そしてケルベロスより強い。」
「嫌な予感だけは何故か当たるんだよな・・・、ヤツの狙いは俺だし、先に俺が戦ってヤツの気を引く。お前達はその間にゴンザ達を出来るだけヤツから遠くに引き離して、それから俺に加勢してくれ。」
4人が頷く。
走りだしヤツに近づくと塔が揺れ、俺の後ろに大量の蔦が床から生え壁が出来た。完全に春菜達と分断された。
「何!」
【春菜!千秋!大丈夫か!】
【こちらは大丈夫です。いきなり蔦の壁が・・・】
「く、く、く、ケルベロスとの戦いは見事だったよ。私が負ける事はまず有り得んが、貴様達の連携はかなりの脅威だ。万が一の事もあるし、悪いが分けさせてもらった。」
「俺1人だと負けないと言いたいのか?」
「そうだ。精々頑張って楽しませてくれよ。」
言った瞬間ヤツからファイヤーボールが放たれたが、それを避けて一気に接近し首を切り落とした。
ヤツはそのまま棒立ちになっており、その足元に自分の頭が転がる。
「何だ・・・、弱すぎるぞ・・・」
「待て!血が一切流れていない・・・」
「く、く、く・・・」
「何だ!」
首が笑っている。ヤツは転がった頭を拾い、首に近づけた。お互いの切り口から触手のような物が湧き出し、絡み合ってそのまま首が元通りに繋がった。
「いやいや、思った以上の剣筋で驚いた。いきなり首を切り落とされるとは思わなかったよ。しかし、私の不死身と超再生の前では誰も勝てん。いつまで無駄な努力が続くかな?」
「黙れ!」
ヤツの両手、両足を一瞬にして切り落とす。いや!切り離した瞬間に元にくっ付いてしまう。
「どこまで抗える事が出来るかな?彼女達も寂しいだろうから、一緒に相手をしてあげないとな。」
「きゃぁぁぁ!」蔦の向こう側で春菜の悲鳴が聞こえた。
【春菜!大丈夫か!】
【こちらは大丈夫です!あなたも気を付けて下さい!】
【こちらは任せろ!あのキモデブを叩きのめしてくれ!】
【分かった!春菜!千秋!無事でいてくれよ!】【はい!】【分かった!】
「く、く、く、私の分体を送り込んだだけだ。分体といっても、この私と全く同じ力を持っているがな。」
「ここで彼女達の悲鳴を聞かせてもらうよ。」
「良い趣味してるな・・・、さて、とことんまで抵抗させてもらうぜ・・・」
一方、春菜側
「な、何だ!」
床から太い蔦が4本生えてきた。蔦が割れ中からウッディが現れる。
「うっ!キモデブが4人も!」千秋が露骨に嫌そうな顔をしている。
「我々は分体だが、能力は本体と全く同じだ。せいぜい楽しませてくれ。」
「そうですか・・・、では、私達が1対1でお相手しましょう。あまり舐めないで下さいね。」
「ふん!無駄な足掻きを。」
春菜がウッディと相対する。
「たかが天使の分際で神に勝てると思っているのか?おめでたい頭だな。」
「そうでしょうか?では、私も少し本気で相手させていただきますね。フローリア様の親衛隊であるロイヤル・ガード第一席の力をお見せしましょう。」
いつもニコニコしている春菜の表情が真剣になる。普段見る事の無い春菜の表情だが、今の表情はフローリアに匹敵する程の美貌を湛えていた。
「それでは参ります。」
春菜がそう呟くと体が光り始め、背中に大きな桜色の翼が出現し広がり、右手には豪華な装飾を施された杖が握られていた。
「め、女神様・・・」避難しているゴンザ軍団の誰かが呟いた。
「そんなこけおどしで。フレイム・ラ・・・」「ぐわぁ!」
ウッディの魔法を放とうと差し出した右手がいきなり吹き飛ぶ。そしてすぐに再生した。
「な、何だと!小癪な!」
更に魔法を放とうとするが、魔法が発動する前にまたもや右手が吹き飛ばされた。
「ぐっ!何が起こった!こうなれば!」
怒りの形相のウッディが1歩足を踏み出すと、その足元に魔法陣が浮かび爆発し、右足が吹き飛ぶ。
「がっ!き、貴様!」
「単なるトラップ魔法ですよ。先程仕掛けておきました。」
「いつの間に・・・、さっきの攻撃といい、貴様!何をした!」
「別に何もしてませんよ。魔法戦は頭脳戦みたいなものじゃないですか。相手の仕草、呼吸、視線、思考、その他様々なものを読み、常に先手を打つようするでしょう。上位神の方々の魔法戦はそんなの常識じゃないです?」
「そんな芸当、上位神でも出来るのはごくわずかだぞ。それを・・・、ただの天使のお前が何故だ!」
「先程も言ったじゃないですか。舐めないで下さいと。」
「こ、この天使ごときがぁぁぁ!」
瞬時に手足を再生させたウッディが剣を握り春菜に切りかかる。しかし、春菜の杖も瞬時に剣に変わってウッディの剣を受け止めた。
「私は魔法だけしか出来ない訳ではありませんよ。多少の剣術も嗜んでいます。」
数歩下がりウッディに切りかかり、首、両手、両足を切り飛ばす。しかし、それもウッディは瞬時に繋げ元に戻った。
「ば、ばかな・・・、この私が子ども扱いだと・・・」
「それも多少だと!マスタークラスの剣閃ではないか・・・」
「そうですか・・・、さて、次は何をします?」
「舐めるなぁぁぁぁぁ!」
ウッディの体から膨大な魔力が溢れだし、巨大な火の玉を春菜に向けて放った。
「遊びはここまでです。私のオリジナル魔法を見せてあげましょう・・・」そう呟くと春菜の周りにいくつもの光の球が出現した。
火の玉が春菜に近づいてくるが、春菜は全く動かず巨大な火の玉が直撃し煙が舞う。
「ど、どうだ!この私に勝てる筈がないんだ!」
しかし、ウッディがすぐに驚愕の表情に変わった。「無傷だと!」
春菜の前にガラスのような四角形の防御魔法がいつの間にか展開されていた。その四角の防御壁の4つの角に先程の光の球が輝いている。
「シールド・ビット・・・、そして、アタック・ビット・・・」
そう呟くと、残っていた光の球から数々の魔法がウッディに放たれ、爆発に飲み込まれた。
「ぐぎゃぁぁぁぁ~~~~!」
「これが私のオリジナル魔法。このビットが近距離、遠距離、攻撃、防御全てに瞬時に対応します。この私に死角はありません。第一席の肩書は伊達ではありませんので。」
ウッディは既にボロボロになっていた。
「て、天使がこれだけの力を持っているだと・・・、あ、ありえない・・・」
「しかし!無限の再生力を持つ私には勝てん!力の差を思い知らせてやる!」
そしてすぐに再生する。
しかし、春菜は妖艶な笑みを浮かべ、ウッディに静かに告げた。
「あなたの力の差を見せつけてあげたい気持ちは分かりました。しかし、残念ですが、既にチェックです。」
「な、何!」
ウッディの周りに5個の光の玉が舞う。その光の玉がウッディの四方、上空で止まった。そしてウッディは四角錐の結界の中に閉じ込められた。
「クリスタル・シールド・・・、本来は自分の身を守る結界ですが・・・」
「あなたの再生力がいくら無限だとしても、塵も残さず消し去ってしまうとどうですかね?この結界内で魔法を放つと、全てのエネルギーが襲いかかりますし、そして逃げ場もないですよ。」
ウッディが青ざめる。
「や、止めろ!止めてくれぇぇぇ~~~!」
「終わりです。チェックメイト!」
「フレア・ストーム3重起動!」
春菜が魔法を起動させると、結界内で暴力的な熱の奔流が始まる。
「ぎゃぁぁぁーーー!わ、私が、この私が天使ごときにぃぃぃーーー!」
結界が消えると、そこには塵一つ残っていなかった。
「あなたは神と名乗りましたが、私の敵にすらなりませんでしたね。」
翼が消え、春菜は元の姿に戻った。そして、ゴンザ達に向き直りニコニコ微笑む。
「みなさん・・・、この事は内緒でお願いしますね。」
「はい!はい!はい!・・・」
ゴンザ達は壊れたオモチャの様に勢いよく首を上下に振り続けている。
「もし、喋ったら・・・」
全員が息を呑む。
春菜が爽やかな表情でゆっくり話す。
「あなた達のアレをすり潰しますよ。」
全員が真っ青になり黙ってしまった。
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