逢魔の塔②
翌朝、朝食を食べた後、俺達は徒歩で塔に向かった。
もちろん、ゴンザ軍団にも朝食をご馳走した。やっぱり朝ご飯は1日の活動に必要だからな。
「空から見てもすごいと思ったけど、近くで見るとかなり高い塔だな。塔の外壁にも蔓があちこち巻き付いているし、年期も感じるな。」
塔は外観からでも大きい。高さは100mは軽く越えている感じがする。この世界の技術でよくこんな高い塔を作ったものだ。多分、フローリアだろうけど・・・
「塔に入る前に、ステータスオープン。」俺のステータス表示を開く。春菜達以外には見えないけどな。
「魔法のサーチ項目の設定を・・・、モンスター識別ON、罠感知ON、宝箱感知ON、よしOK。」
フローリアの加護の魔法は本当にすごい。サーチの魔法は特に便利だ。マップ表示に敵などのマーカーも表示出来るので、相手の先制攻撃はまず受けない。そして、今回みたいな探索でも探知項目を追加も出来る。本当にカーナビみたいだ。
「よし!塔に入るぞ!みんな気を付けて行こう。」「「「「はい!」」」」
塔に入る。中はちょっとした迷路みたいな感じだ。ただ、通路が広いし構造も複雑でないので迷うことは無さそうだな。
しばらく進むと通路の角の奥にモンスターの反応が出た。コボルトと表示が出て5匹いる。
「あの角を曲がったらモンスターがいるぞ。警戒しながら進んで、こっちから先制攻撃だな。春菜は角を曲がってモンスターが見えたらすぐ魔法を放ってくれ。あくまでも牽制の魔法だから無理に倒す必要はないぞ。」「はい。」
「俺と千秋で突っ込むから、討ち漏らしは夏子と美冬で頼む。」「「「了解!」」」
ゆっくり移動し、角の手前まで来た。
「行くぞ!」
角を曲がったら前方にコボルドの集団が見える。春菜がファイヤー・ボールの呪文を唱えると火の玉が飛び、1匹のコボルドに命中し火だるまになり絶命した。
いきなりの先制攻撃で相手は浮き足だっており、俺と千秋がその中に突っ込む。あっという間に俺と千秋が2匹づつを切り伏せ戦闘が終了した。
「コボルドくらいだと準備運動にもならんな。」千秋が不満気味に話す。
「次は私達の番だ。少しは手応えのあるヤツがいいな。」出番の無かった夏子は次は自分の出番だとアピールしていた。
「夏子、美冬、次は頼むな。」「「任せて。」」
通路を進む。だいぶ歩いたがモンスターの反応は無かったが、通路の突き当たりの大広間の前で大量のモンスター反応があった。50匹は越えている。全部コボルトだ。
「みんな、大量のコボルトが先にいる。50匹は下らないぞ。どうする?」
夏子と美冬が俺の前に出てきて、夏子が嬉しそうな顔で、「やっと出番が来たな。ここは私と美冬に任せてもらおう。蒼太殿はゆっくり見ているがいい。美冬、どっちが多く倒すか競争だ。」
「分かった。負けない・・・」
「行くぞ!」「うん・・・」
そう言って2人は大広間の方へ飛び出していった。
夏子の言った通り2人は嵐のようにコボルトを倒している。コボルトが夏子に斬りかかるが、紙一重で避けてカウンターで相手の首を切り落とす。その返す剣で隣のコボルトを袈裟切りにし、そのまま飛び出し後ろのコボルトを輪切りにする。この一連の動作は一呼吸の間にあっという間に行われている。夏子の動きはまるで踊っているようだ。剣を一振りすれば数匹のコボルトが切られている。
一方の美冬もすさまじい。美冬は一般で言う格闘家のスタイルで戦っている。相手の懐に一瞬で入り込み腹に拳を叩き込む。叩き込んだ部分が何と吹き飛んでいる。まさに一撃必殺の攻撃だ。複数のコボルトに囲まれ同時に斬りかかられても、華麗な足捌きで躱し手刀で首を切り落としたり、突きで頭部を粉砕したりしている。美冬は一切動きの停滞が無く、まるで舞踊のように踊っていて、あまりの華麗な動きに俺も見とれてしまった。昔、カンフー映画を見たことはあったが、あの動きと似ているが動きの本質が全く違う。それだけ美冬の動きは美し過ぎた。
コボルトも残り2匹となり、1匹は夏子が頭から真っ二つに、残り1匹は美冬がかかと落としで頭部を陥没させて戦闘が終わった。2人とも汗一つかいていない。
俺の後ろでゴンザ軍団の1人がボソッと「お、俺たち必要ないんじゃない?」とつぶやき、全員が青い顔で呆然としていた。
「私は31匹、美冬は?」
「34匹。私の勝ち・・・」
「くそっ!負けた!次は必ず勝つからな!」
いやぁ・・・、やっぱりこの2人も強すぎるわ。
「あなた、あの奥に階段がありますね。多分、2階に上がる階段だと思いますよ。」
「そうだろうな。2階に行くとするか。」
2階に上がってからというもの、夏子が先ほどの戦闘で美冬に負けて火が点いてしまったのか、夏子が率先して敵を倒しまくっていた。あんまり興奮して『裏モード』になるなよ。
5階に上がると敵モンスターの編成がウルフが中心となっていた。
目の前に10数匹のウルフが俺達に向かって威嚇している。
すると、俺の前に美冬が立った。ウルフ達に向かって腕を組み仁王立ちしている。
「お前達、この私に牙を剥く意味分かってる?」
美冬がウルフ達を睨みながら話すと、ウルフ達が途端に大人しくなって美冬に平伏してしまった。
謎の多い美冬だが、本当に一体何者だろう?
「分かれば宜しい。ここはしばらくすると無くなる。お前達、ここを出て森で暮らす方が良い。行って。」
美冬がそう言うと、ウルフ達は去っていった。
「美冬、どういう事だ?無くなるとは?」
「無くなるというのは勘。ここの塔に入ってからとても嫌な臭いがする。多分、ケルベロスよりも厄介なヤツだと思う。そんなヤツと戦う事になれば・・・、はっきり分からないから、これ以上は私も分からないし、みんな混乱するし・・・、出会わない事に越したことは無い。」
「そうか・・・、まぁ、はっきりしないなら、これ以上不安を煽ってもな・・・、美冬、一応気を付けるようにしような。」
「うん!」
ケルベロス以上の何かか・・・、注意しないとな。
美冬がウルフ達を説得してくれたからか、それ以降、ウルフの遭遇はなかった。それでも、ワイルドモンキーやデスベアーなどの遭遇はあったが、今までよりもモンスターとの遭遇率は格段に減ったので、塔を進むのはかなり楽になった。
この塔のボスはケルベロスだからか、やたら魔獣モンスターが多い。おかげで毛皮の素材が取り放題だ。ここまででかなり素材もたまった。もちろん、異次元収納に保管してあるので荷物になって困る事もない。
10階に進むとマップにトラップの反応が出てきた。今まで無かったので安心していたが、やはりあったか・・・
「千秋、ここから10m先にトラップ反応。確認頼む。」「分かった。」
千秋が罠のところに近づく。
「踏むと横から槍が飛び出す罠だな。一度作動させれば当分は元に戻らないから、作動させてから出てきた槍を叩き切っておく。」「頼む。さすが千秋、頼りになるな。一緒になって良かったよ。」
途端に千秋の顔が真っ赤になった。「バカ!恥ずかしいから、大声でみんなの前で言わないでよ!」
「す、すまん・・・」
一緒なパーティーで良かったという意味で言ったつもりなんだけど・・・、そんな意味で言った訳でないのに・・・
「俺達、完全に空気だよな・・・」ゴンザ軍団の1人が呟いた。
「なぁ、モブ・・・、旦那のパーティーに突っ込むのは止めよう・・・、真面目に考えると俺達の精神が崩壊するぞ。」
「そうですね・・・、兄貴達はホント規格外過ぎますよ。高難易度の依頼をピクニック気分ですからねぇ・・・」
25階まで辿り着いた。もうそろそろ最上階に着いてもいい頃じゃないか?さすがに、ちょっと疲れた。
この階のモンスターを粗方片付けたので昼食タイムだ。
「旦那、すご過ぎますよ。普通なら安全な場所を探しながら、中で寝泊まりして何日もかけて攻略するもんなんですよ。ルートは最短だし、モンスターはほぼ瞬殺だし、俺らの出番が全く無いですよ。」
「まぁ、お前達の安全を最優先しているから、多少は我慢してくれ。」
「こんな俺達にそう言ってもらえると嬉しいです。」
「もうしばらくしたら出発だし、それまでゆっくり休んでな。」
ゴンザと会話してから春菜達のところに戻る。
「これだけ上ったし、そろそろ最上階も近いかな?」
「そうですね、あと10階も登らないうちに着くと思いますよ。」
「そうか、そういえば気になったけど、モンスターやトラップはあるけど、宝箱は1つも見つからないよな。なんでだろう・・・」
「それは当たり前だろう。」夏子が答える。
「こんなところに宝箱がポツンと置いてある訳がないだろうが。そんなモノがあれば間違いなく罠だし、中にお宝が入っている事なんて有り得ないぞ。」
「そ、そうか・・・」
「宝を発見出来る場所とすれば、城跡や神殿跡の隠された宝物庫や墳墓の玄室などを調査する時くらいだな。そもそも宝なんて普通は厳重に管理されているものだし、只の通路や部屋にそんな貴重な物がポンポン置いてある訳がないだろ。そんなものマンガやゲームの世界だけだぞ。」
夏子がまともな事を言っている。何故かすごく悔しい気がする。
「そう言われればそうだよな。」
「まぁ、このように攻略されている場所だと難しいが、誰も足を踏み入れていないところなら期待出来る事もある。まだ発見されていない古代の滅びた文明の跡地を見つけたとか、可能性が全く無いとも言えないから、気長に頑張ろうな。」
夏子に慰められた。とても悔しい気がした。
「気を取り直して・・・、ぼちぼち再開しようか。」
春菜の予想した通り、8階分上った広間にヤツがいた。ケルベロスだ。
俺の世界のイメージ通りの姿で、首が3つある超大型の犬だ。体長は5mを超えている。
奴の足元には大量の骨が散らばっているし、所々に鎧などの破片も転がっている。奴に挑戦して返り討ちに遭った冒険者の末路なんだろう。
「デカイな・・・」
「旦那・・・」
「先陣は俺達が行く。ゴンザ、トドメは任せるぞ。」
「春菜、夏子、千秋、美冬、行くぞ!」「「「「OK!」」」」
俺達はケルベロスに向かって走り出した。奴の左の頭の口が開き、中が赤く光り始める。
「ヤバイ!炎を吐くぞ!」
「あなた!任せて!」春菜が手をかざすと氷の槍が数本現れ、奴に口に向かって飛ぶ。口に入った槍はそのままの勢いで奴の頭蓋骨を貫通し、左の頭は動かなくなった。
「よくやった!春菜!残りは2つ!」
左側の首をやられ動きが一瞬止まったケルベロスに夏子と俺は一気に接近する。首を狙わず、奴の足を狙う。俺が前右足、夏子が前左足を切り飛ばす。動きが止まったところで美冬が飛び上がり、背中にドロップキックをぶっ放す。苦悶の咆哮をあげている隙に千秋が接近し、右側の首を切り落とした。
これだけの相手だ。速攻で勝負を仕掛けたが、上手くいって良かった。みんなの技量が高いからこそ出来る事だろう。
俺と夏子は奴の最後の首に上から剣を突き刺し地面に縫い付ける。
「ゴンザ!今だ!トドメを刺せ!」
「旦那!」「おおおぉぉぉぉぉ!」ゴンザが最後の首を切り落とし、ケルベロスの動きが完全に止まった。
「ゴンザ、よくやったな。」
「旦那・・・、ありがとうございます。」
「でも、本当は旦那達だけでもトドメは刺せたんじゃないですか?」
「お前がこの依頼を受けたんだ。最後はお前が締めないでどうする。これで依頼は完了だな。」
ケルベロスの死体を異次元収納に収納する。
「さてと、みんな、帰るとする・・・、か・・・」
突然、広間の奥から強力なプレッシャーを感じた。
そこには1人の男が立っていた。
「初めまして。私の名前はウッディ。」
「そして、愛しのフローリアの周りをうろつく害虫を駆除しに来ました。」
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