逢魔の塔①
出発の朝
「ララ、留守番頼んだぞ。」「お任せ下さい。」
「みんな行くか。」「「「「はい!」」」」
街の門の外でゴンザレスのパーティと合流する。相手は既に待っていて4人編成のパーティだ。
「ゴンザ、悪い。待たせたか?」
「いえいえ、気にしないで下さい。旦那を待たせたら悪いと思って、俺達が早めに来ただけですから。」
「気を遣わせて悪いな。それじゃ、行こう。」
俺達は街道を歩いていく。塔までは歩いて10日程の距離だ。本来は途中まで馬車で移動し、塔のある森の入り口から歩いて移動するんだけど、俺達の移動はアレを使うからな。
「だ、旦那・・・、方向が全く違ってるけど大丈夫なんですか?」ゴンザレスが心配そうにしている。
「心配すんな。ただ、これから起きることは他言無用だぞ。まぁ、言っても誰も信用しないと思うけどな。」俺は悪戯っぽく笑う。
しばらく歩いて平原に着く。
「夏子、頼む。」「任せろ。ドラ!アカ!」
しばらくすると、金色と深紅の2体のドラゴンが空から現れ、俺達の近くに降りた。
ゴンザレス達は・・・、あまりの驚きに顎が外れて地面に刺さっていた。
「ゴンザ~、生きてるかぁ~!」「はっ!夢か?ドラゴンに襲われる夢を見た気が・・・」
「残念ながら現実だ。」俺の後ろにゴールドドラゴンが鎮座している。
「だ、旦那・・・、これは現実ですよね・・・?」
さすがA級パーティの面々だ。ララみたいに一瞬で気絶する事も、ビビってはいるが取り乱す事もない。ゴンザ以外のメンバーもよく鍛えられているな。
「このドラゴン達は夏子が下僕としていてな、俺達には絶対に敵対する事はないよ。夏子のご褒美が三度の飯よりも好きになってしまったからな。移動もこいつらを使えば安全に早く着ける。」
「伝説のド、ドラゴンが・・・、な、夏子様の下僕・・・、そして、夏子様が仕えている旦那と・・・」
「本当に俺達は何て人に手を出してしまったんだ・・・、あの時、殺されなくて良かった・・・」
「ゴンザ、大丈夫か?少しは落ち着いたか?」「は、は、はいぃぃぃ!」
「だから言ったろ。こんな光景、誰も信じないって。」
「そうですね・・・、上には上がいると、あの時気づきましたけど、旦那がそこまで上だったとは思ってもいなかったです。」
「まぁ、そんなに緊張しなくていいぞ。俺達は冒険者仲間だからな。お互い仲良くやっていこうな。」
「「「「無理!」」」」
「ゴンザはあの赤いドラゴンに乗ってくれ。俺も一緒に乗るから大丈夫だよ。春菜達はドラに乗ってくれな。」
「普通にドラゴンに乗って空を飛ぼうものなら風圧で飛ばされてしまうから、俺が防御魔法を張るし、絶対に結界から出るなよ。」
「「「「了解!」」」」
そして、俺達はドラゴンの背に乗った。
「だ、旦那・・・、本当に現実なんだよな?俺達がドラゴンに乗っているなんて・・・」
「ゴンザ、夢だと思うならアカにかじられてみな?一発で目が覚めるぞ。」
「い、いや!遠慮しとく・・・、目が覚める場所はあの世になっちまう・・・」
「準備OK。アカ!頼むぞ!」「グルル~、グオォォォ~~!」
アカが飛び立った、すぐにドラも続いて飛び立つ。
夏子は下僕のドラゴンに全て名前を付けている。俺の乗ってるレッドドラゴンは『アカ』、春菜達が乗っているゴールドドラゴンは『ドラ』と呼んでいる。
夏子が下僕としたドラゴン達は人目に付くと大変マズイので、山奥の更に奥で生活させている。夏子は転移の魔法が使えないので俺と一緒に行き、時折ドラゴン達にご褒美を与えている。ドラゴンが夏子に鞭を打たれてもだえている姿が何ともシュールだが・・・、龍神が持ち込んだドラゴンは大気中の魔力を餌としており、食事の必要が無い。おかげで餌の心配もなく楽だ。
どんな理屈か分からないが、夏子の下僕となった者は不思議な繋がりを持ち、夏子が呼べば瞬時に参上する奇妙なスキルを持つのだ。それで夏子が呼ぶとドラゴン達が現われる。
マップの魔法で塔の位置と距離を確認する。このスピードなら昼休憩を入れても、夕方ころには塔の近くに着けるな。最初はガチガチに緊張していたゴンザ軍団も、安全が確認できたのかかなりリラックスしていた。
「本当にドラゴンに乗れるなんて・・・、自慢したいけど、確かに誰も信じてくれないな・・・」
お昼近くになったので草原を見つけ、そこにドラゴン達を着陸させお昼ご飯タイムにした。
「さてと・・・、何を作るか・・・、移動途中だから、あんまり手間がかかるものもなぁ・・・」
美冬がボソッと「ケーキ・・・、春菜と千秋ばっかズルイ・・・」
「美冬、今度な・・・、さすがに今すぐ作れん。」「むぅ・・・」
そもそもお昼ご飯にケーキはないだろうに・・・
確かに夏子と美冬にあのケーキ屋へ連れっていないしな、そりゃ、羨ましがるか・・・
今度、あの2人も連れて行こう。出禁にならないように、よく言い聞かせてからだけどな。
美冬がちょっと拗ねてる。ケーキか・・・、そういばアレがあったな。
「美冬、2人が食べたケーキとは違うけど、同じくらい上手いものを作ってやるよ。」
「本当・・・、ソータ好き・・・」美冬が軽くハグしてくれる。地球にいたときの孫の仕草と同じで感激だ。可愛いぞ。
異次元収納からフローリアが持ってきたバーベキューセットを取り出し設置する。異次元冷蔵庫と俺の異次元収納とはリンクしているので、小麦粉、卵、砂糖など色々と取り出す。
コンロに火を点けてフライパンを温め、小麦粉で生地を作り流し込む。生地をどんどんと焼き皿に盛り付け、ホイップクリーム、フルーツなどをトッピングして、シロップをかけたら完成だ。
残った生地を水で薄め、今度は薄く焼く。焼いた生地にホイップクリームとフルーツを乗せ巻いていく。
本当は生クリームを泡立ててホイップ状にしたかったが、さすがに時間が無いので出来合いのホイップクリームで我慢してもらおう。
「出来たぞ。パンケーキ風ホットケーキにクレープだ。」
春菜達の目が輝いている。美冬に至っては涎が滝のように溢れてるぞ。
「「「「いただきま~す!」」」」
「「「「美味しい~~~!」」」」
どうやら満足してもらったようだ。一瞬にして彼女達の腹の中に消えていった。
「美冬、満足したか?」「うん、満足。」美冬の機嫌が良くなっていた。
1人当たり5人前だと足りなかったみたいで、みんなその後、ララの作ってくれたおにぎりを食べて満腹になったみたいだ。
視線を横にやると・・・
ゴンザ軍団がジッと俺たちの方を見ていた。やっぱりだよな・・・
ゴンザレスが泣きながら「旦那~、アレは一体何なんです?ドラゴンといい、今のといい、俺たち冒険者の常識が全く通用しないんですが・・・」
「俺たちの食事なんか不味い保存食を無理矢理食べるだけだし、休憩くらいで火起こしも出来ないから、簡単に出来たて温かいものなんて食べれませんよ。しかも、新鮮な食材なんて持ち歩くなんて荷物になるだけ大変だし、食べたければ現地で調達しかないんですよ。それも大量に・・・」
「まぁまぁ、そんなに落ち込むな。これでも食べて元気出しな。」
そう言って異次元収納からサンドイッチを取り出し、ゴンザ達に渡した。
「旦那ぁぁぁ!旨いッス!もう一生ついていきます!」
「遠慮してくれ・・・」
ゴンザが涙を流しながらサンドイッチを頬張っている。普通の冒険者ってホント大変なんだな。フローリアに感謝しないとな。
【旦那様、私の凄さが良く分かったでしょ。】
【フローリアか。あぁ、本当に助かっているよ。お前には感謝しきれないな。愛してるよ。】
【そ、そ、そんな!だ、旦那様、いきなり不意打ちです・・・。きゅぅぅ・・・】
あ、切れた。いつもグイグイ攻めてくるけど、逆になると弱いみたいだな。憶えておこう。
休憩も終わり、再びドラゴンに乗って移動する。予定通り夕方前には塔が目視出来るまでのところに来た。
川の近くに適当な場所があったのでそこに降り、野営の準備を行う。
とはいっても、ログハウスを2棟異次元収納から出すだけなので、あっという間に完了だ。
ログハウスは少し間を空けて設置し、間にバーベキューのテーブルなどを設置する。
その光景を見ていたゴンザ軍団の落ち込みはハンパなかったけど・・・
「ゴンザ、まぁ、気にすんな。俺達はちょっと人と違うだけだからな。夕食はみんなで一緒に食べるから、明日に備えて英気を養ってくれ。」
「だ、旦那・・・、神の食事楽しにしてます。」
「俺は神じゃない!そこだけは信じてくれな。」
そして、俺達とゴンザパーティの合同BBQパーティーが始まった。ゴンザは彼女がいるから大人しかったが、残りの3人はウチの美少女軍団と一緒に食事が出来るという事で大変テンションが高かった。
今夜のバーベキューは気合を入れよう。肉はもちろんドラゴンの肉だ。
春菜達もバーベキューは初めてだからテンションが高い。
「あなた、こうやってみんなで一緒に外での食事も楽しいですね。家でも時々やりたいです。」
「蒼太殿、我々4人で野営していた食事と全く違う。もう蒼太殿無しでは生きていけないぞ。」
「タレが最高!やっぱり蒼太さんの故郷のタレ?幸せぇ~~~」
「肉♪肉♪」「美冬!肉ばっか食べないで野菜も食え~!」
ゴンザ軍団もテンションがMAXだ。
「旦那!何ですかこの肉!こんな美味い肉、初めて食いましたよ!」
「これはドラゴンの肉な。美味いだろ!俺も初めて食べた時はあまりの旨さに驚いたしな。こうやってシンプルに焼いて食べるが一番旨いと思うぜ。まだまだあるから遠慮なく食べな。」
「ド、ドラゴンの肉!!!旦那!最高です!」
「それと、この冷たいエールみたいな飲み物も最高に美味しいですが・・・」
「これはな、俺の国の飲み物でビールと言うんだ。スッキリのどごし最高だろ。焼肉はピッタリの飲み物だよ。ただし、明日は頑張ってもらうから飲み過ぎ厳禁な。」
俺が異世界人というのは秘密なので、遥か遠い国から来たと周りには説明している。
「はい!でも、これを飲んじまうと、いつものエールが泥水と思えるくらい違いますわ。ホント、旦那に付いてきてもらって良かったです。」
「ゴンザ、またやろうな。今度は俺の家の庭でウエンディも一緒にな。」
「だ、旦那・・・、ありがとうございます・・・」ゴンザが涙ぐんでいた。
嵐のようなバーベキューパーティーも終わり寝る時間となった。
ゴンザ達は俺達の小屋から離れた場所で寝る準備をしている。
「ゴンザ、ちょっと話がある。お前達は俺達の小屋のすぐそばで寝た方が良いぞ。」
「何でです?」
「ウチは女ばかりだから、さすがにお前達を中に入れてやる訳にはいかんが、小屋の周りには強力な結界が張ってあるから、相当なモンスターでもない限り安全なもんでな。小屋のそばで寝れば見張りの必要も無くゆっくり休めるぞ。」
「旦那・・・、何から何まで・・・」
「たまにはこんな旅も悪くないだろ。明日は本番だから、それまでに体調も整えるのも必要だしな。お前達を死なせたくない。俺達も全力でサポートするよ。」
「旦那ぁぁぁ~~~・・・」ゴンザが涙でぐずぐずになっていた。
「お前・・・、いつから泣き虫キャラになったんだ?お前の仲間の為にもお前自身がシャッキとしないとな。明日に備えて全力で休め。」
「はい!」
ゴンザと別れ、俺達も寝ることにした。
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