ギルドにて
千秋とデートした翌日
「それじゃ、俺はギルドへ報告に行ってくる。みんな、留守番頼む。」
千秋が慌てて俺の方へ駆け寄ってきた。
「蒼太さん、私も一緒に行く。」
「別に良いけど、何で?」
「ふふふ・・・、ギルドにいる泥棒猫を懲らしめに行くだけさ。」ニヤッと笑うアサシンモードの千秋だった。
「千秋・・・、何か物騒だぞ・・・」「蒼太さん、心配しなくて良い。殺しはしないからな。」
「あぁ・・・」
ギルドに行くだけで、何だこの緊張感は・・・
ギルドに着いた。千秋も一緒にいる。
ギルドの扉を開ける。
「「「「「お、おぉぉぉ~~~~~~」」」」」
驚きの声が響き、男達の視線が俺の方に集中する。何かデジャブを感じたけど気のせいか・・・
やはり、視線は千秋の方に向いていた。千秋は昨日購入したブラウスとスカートの姿だ。髪型もいつもの後ろに纏めているのでなく、ストレートにしていた。いつものクール・ビューティーでなく華やかな感じだったが、男の視線を感じていつもの険しい表情に戻っている。
「蒼太さん・・・、蒼太さん以外の男はダメです・・・、やっぱり気持ち悪い・・・、見られていると思うとイライラする・・・」
「千秋・・・、これだけの男の視線だから仕方ないさ。それだけ千秋が魅力的なんだろうし、何があっても俺が守る。」
「蒼太さん・・・」千秋が俺の腕にしがみついてきた。
「旦那、見せつけてくれますねぇ~」スキンヘッドのマッチョな男が近づいてくる。
「誰だっけ?」
「旦那~、俺ですよ。旦那が初めてギルドに来た時に絡んだ事憶えてます?一瞬でのされましたけど・・・」
「あ~、あ~、あの時の。」
「そうですよ。あの後、夏子様からキツ~イご褒美をもらってから、俺は生まれ変わったんです。」
「変態にか?」
「いやいや、そうではなくて・・・、旦那と夏子様のあまりの強さに、俺は天狗になって調子に乗っていたのに気付かされたんですよ。ランクもA級に上がって、周りは俺をどんどんと持ち上げてくれる。俺より強い奴はいない、俺こそ最強だと粋がっていたんだと、今では反省してますよ。その俺のプライドを見事に旦那達が壊してくれたんですよ。」
「そうか、あの時はお前が彼女達に変な事しようとしてたしな。そりゃ、俺もちょっと怒るさ。」
「面目ない。旦那が帰った後、考えたんだ。俺は何の為に冒険者になったのかと・・・。俺は冒険が好きなんだ。決して女を口説いて侍らす事でないんだとな。確かにイイ女は欲しいけどな・・・。そう思ったら、今までの事が恥ずかしくなってな・・・」
ゴリマッチョの目がキラキラしている。
「それでな、昔に戻って仕事も選り好みしないで色々やってみたんだ。街のドブ掃除なんてみんな嫌がってやらないヤツまでやってみた。駆け出しの頃は散々やってた依頼だったけどな。そうしたら、みんな喜んでくれるじゃないか。それまでは、みんな俺の事をビビって近寄って来なかったのに、感謝されるんだよな。それが嬉しくて・・・」
ゴリマッチョのドブ掃除か・・・、見ない光景だけど面白い絵面かも?
「そしたらよ、俺にもとうとう彼女が出来たんだよ!ウエンディ!」
「は~い。」受付の裏から女性が現われた。そしてゴリマッチョの横に来る。
「初めまして。ウエンディです。」
何だ!マリーよりも美人だぞ!マリーはいつも『私はギルドNo.1』と言っているけど、この子の方がNo.1じゃないか?
「旦那、旦那のところにも劣らず美人だろ?何で俺にこんな美人が彼女になったか、今でも信じられないけどな。」
確かに、傍から見ると美女と野獣だ。
「ゴンザレスさんは最初見た時は粗暴で怖かったのですが、あれ以来、人が変わったように面倒見の良い人になって・・・、私はゴンザレスさんの担当をしていますが、優しく接してくれますし、悪い人ではないと思っていたら、いつの間にか私の方が好きになって・・・」
ウエンディが真っ赤だ。
「いやぁ~、そう言われると俺も恥ずかしいぜ。」
「それで、今度の依頼を終わらせたら一緒に住む事にしてるんだ。とうとう俺も嫁さんが出来るなんてな。思いもしなかったよ。」
ん、何か死亡フラグが・・・
「確かに、今回の依頼は厳しいみたいだけど、ウエンディとの結婚生活が待っていると思ったら何でも出来ると思うぜ。旦那も分かるだろ?」
ゴリマッチョ、それはヤバいぞ!絶対に死亡フラグが立ってる。
「1週間後に出発だから、それまで街の掃除をしながら準備してくるぜ。待ってな、ウエンディ!」
そう言って、ゴリマッチョは外に出て行った。
死亡フラグと善行パワー、どっちが勝つのだろう・・・
「いやぁ~、千秋も変わったけど、あのゴリラの変わり様もすごいもんだな。」
「蒼太さん・・・、アレと一緒にされると鳥肌が立つ。冗談でも言わないでくれ。」
「す、すまん・・・」
「じゃあ、あのお店のケーキ20個で許す。」「分かったよ」
「ありがと~!」千秋が俺の腕にしがみついた。
さてと、報告に行くか。
マリーの方を見ると・・・
マリーの機嫌がすごく悪い。
「よっ!マリー、どうした?」
「どうした?じゃないわよ。私の目の前であんたと筋肉ダルマのカップル同士がイチャイチャしてるんだから・・・、私に対するあてつけ?早く私を3番目の妻にしなさいよ。」
マリーがやさぐれていた。
千秋が前に出て、「残念だったな。3番目の妻は私になった。彼の妻になりたかったら、もっと女を磨く事だな。今の貴様では女の私から見ても全くダメだ。隣に立つ資格すらないな。何がギルドNo.1だ。さっきのウエンディの方が遥かに輝いているぞ。このままで既に妻となった私や春菜に勝てるかな?ふふふ・・・」
マリーが撃沈していた。
千秋が俺のところに来て、「害虫駆除完了。これでしばらくは悪い虫が付かないだろう。」
マリーが撃沈して灰になってしまったので、別の受付の子でギルドマスターに取り次いでもらった。
執務室
「蒼太君、ご苦労だった。流石にあれはビックリしたけどね。」
「いきなりギルドの前に拘束された集団が現れたからね。まさか、あれだけの人数を転送する魔法なんて見た事も聞いた事もないな。君は本当に規格外だよ。絶対に敵に回したくないね。」
「俺はそこまで強くないですよ。実際、俺より強い奴は何人もいますからね。」
「君より強いとは信じられんな。転送の方は正直助かったよ。アジトから領主様のいる町まで運ぶ手間と、この街から運ぶ手間を考えると全く違うからね。本当に助かった。それにしても・・・、盗賊達のアレはすごいね。全員のアレが切り落とされていたし・・・、男としてはもう生きていけんな。まぁ、あれだけの事をした奴等だ。死罪は免れないから、有っても無くても関係ないがね。」
「本当にゲスな連中でしたから、犠牲になった彼女達が少しでも浮かばれれば・・・」
「後の事は領主様に任せる事だし、我々は我々の仕事を全うしたのだから、これ以上気に止む事はないよ。」
「ありがとうございます。」
「それと、これは依頼というより私個人のお願いなんだが・・・」
「何でしょうか?」
「君はゴンザレスという男を知っているよね。その男の手伝いをしてもらいたいんだ。暴れん坊で手をつけられない男だったが、君のおかげで改心したと聞いている。しかも、うちのギルドの娘と結婚の約束までしているし、私としては大変嬉しい話なんだが・・・」
「ただね、頑張り過ぎというか・・・、彼女との結婚で気負い過ぎているみたいなんだね。他のギルドで失敗した依頼がウチに回ってきて、それを彼が『俺が必ず成功させてこのギルドの評価を上げてやるぜ、ウエンディの為にもな』と言って受けてしまったのだよ。彼らのパーティでもかなり難しい依頼なんだよね。」
やっぱり死亡フラグが立っていたか。それにしても、あのゴリマッチョ、一体どうなったんだ?脳味噌が別人にすり替わっているくらい性格が変わってるぞ。
「すみません。俺のせいで・・・」
「いやいや、彼は良い方向に変わってくれたから君には感謝しているよ。彼と彼女にはハッピーエンドを迎えさせてあげたいんだ。何とかお願い出来ないかね?」
「喜んでお受けしますよ。」
「そうだ、彼女は幸せにならなければならない。私も手助けする。」
「ありがとう。助かるよ。」
「では、依頼の説明を行う。依頼主はこの一帯を治めている領主様からだ。娘さんが奇病にかかってしまい、薬が必要となり素材を集めていたが、最後の1つの素材が集まらなくてな。その素材というのはケルベロスの肝なんだ。奴は強力なモンスターで、ウチ以外のギルドの冒険者が何人も返り討ちに遭っている。ドラゴンをも倒せる君達なら問題ないと思うが、油断は禁物だ。」
ギルドマスターは地図を広げ一点を指差した。
「ここにある『逢魔の塔』の最上階に奴はいる。途中にも強力なモンスターも多くいる。無事に達成してくれる事を願っているよ。」
「任せて下さい。」
「頼んだよ。彼には私から説明しておくし、詳しい打ち合わせは後日行ってくれ。」
ホールに戻ると、マリーはまだ灰から戻っていなかった。合掌・・・
2日後、俺はゴリマッチョと打ち合わせを行った。
「いやぁ~、実を言うと、本当はビビッてたんだ。旦那が助けてくれるならありがたい。一生旦那に付いていきますよ。」
「そんなのいらん!でもな、お前もホント変わったな。あの時初めて会った時、お前はいきなり蹴飛ばしてきたし・・・
「旦那、それはもう言わんで下さいよ。もう、あの頃の俺でないんですから。」
「そうだな。お互い頑張ろうな。お前の大事なウエンディの為にもな。」
「だ、旦那・・・」
その後、細かい打ち合わせを行い、5日後に出発する事となった。
次の日、フローリアが戻って来た。
「旦那様、頼まれていました野営用の簡易宿泊設備が出来ましたので持ってきましたよ。」
「フローリア、ありがとう。良いタイミングで助かったよ。」
「それと、この前忘れていたプレゼントだ。」
そして、フローリアの首にネックレスをかけてあげる。
2本のネックレスだとしつこい感じがしたので、飾り部分を1つに纏め、1つのネックレスにしたのだ。さすがフローリアの加護、器用さもハンパない。
「旦那様・・・、初めてのプレゼント・・・、嬉しいです。」フローリアが抱きついて来た。
そうか・・・、フローリアにとっても俺からのプレゼントは初めてだったな。喜んでもらえて、俺も嬉しい。
ん、何かフローリアの様子が変だ。俺の胸の中で深呼吸をしている。
「何をしてるのかな・・・?」
「くん、くん・・・、ただ今フローリアは旦那様成分を補給中です。しばらくお待ち下さい。くん、くん・・・」
うわぁぁぁ!すっげぇ恥ずかしい!しかし、フローリアの拘束はビクともしないぞ。もう好きにして・・・
しばらくしてフローリアが俺から離れた。とても満足した表情だ。
「はぁ~、幸せでしたわ。」相変わらずの平常運転だな。
フローリアは異次元収納から何かを2つ取り出した。とはいっても大きさはハンパない。
これは大きなキャンプ場で見かける事もある、平屋のログハウスだ。
「さて、設備の説明をしますね。基本は『愛の巣』と同じです。」あの家、いつの間にこんな名前が付いた?
「これは平屋でそんなに大きくないという事で、寝室と簡易キッチン、シャワー、トイレがあって、後は休憩する部屋と収納くらいですか。この簡易キッチンは『愛の巣』の冷蔵庫と繋がっておりますので、食事に困る事はありません。最大4人まで休めます。私たちは全員で6人いますので2つ用意しました。『愛の囀り』1号、2号とお呼びください。もちろん、防御結界もちゃんと機能していますので、並のモンスターは近寄りも出来ませんよ。」
そして、フローリアは次々とアイテムを取り出す。
ターブ、アウトドア用の大きなテーブルに椅子、ランタンにバーベキュー用のコンロとグリル等々・・・
息子たちが持っていたキャンプ用品と同じようなものばかりだぞ。確かに便利だよな。
睡眠などは安全の高いログハウスだし、食事はみんなでターブの下にテーブルと椅子を置いてバーベキューコンロで調理か。それをこの収納魔法で持ち運びの手間が0だしな。普通の冒険者が可哀想なくらいチートだ。
だからといって、わざわざ不便な事をする必要もないしな。ここは素直にフローリアに感謝しないといけない。
「フローリア、本当にありがとう。感謝しきれないくらいだ。」
「そんなに謙遜しなくて良いですよ。地球のアウトドアには私もすごく興味を持っていましたから、旦那様と私達の子供と一緒にみんなでバーベキューをする。これも私の夢の1つなんです。早く神界でみんなで一緒に暮らせるように頑張って下さいね。」
「あぁ、頑張るよ。お前たちの為にもな。」
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