盗賊の討伐③
「う、う・・・、ぐす・・・・」よし、千秋もだいぶ落ち着いたな。
しばらくしてから「・・・、はっ!私は・・・、一体・・・」
千秋が我に返ったが、まだ少し呆けていたのでもう少し抱きしめていた。
「千秋、大丈夫か?立てそうか?」「ああ・・・」
男嫌いの千秋に俺がずっと抱きしめているのもマズイだろうと思っていたが、憑き物が取れたように落ち着いたように見えたので、手を離した。
千秋はよろけながら座り込んでしまう。まだ意識が少しハッキリしていないみたいだが大丈夫だろう。
「あなた!!!」後ろから春菜の声が聞こえた。気になって俺のところに来たのだろう。
【春菜!悪い!少し静かにしてくれ。】念話で春菜に伝える。
【でも・・・、そのひどい怪我は一体・・・?】
確かに散々な状態だ。肩に剣が刺さっているし、肩も背中も血だらけの状態だしな・・・
【色々さ。でも、今は千秋を何とかしないと・・・】【あなた・・・】
「千秋・・・」
「わ、私は何てことを・・・、貴様を殺そうとしてたのか・・・?」
「ぐっ!」肩から剣を引き抜き、「ヒール」俺の全身の傷が回復する。それから地面に落ちていた千秋の剣を拾い、俺に刺さっていた剣と一緒に千秋に渡す。
「だから、夢だと言っただろ・・・。俺はこの通り何ともないんだからな。」
「嘘を付くな・・・、今まで血だらけだったぞ・・・」
「さぁ・・・、春菜、後を頼む。」「はい・・・。」
春菜と千秋を残し、俺は夏子達のところに向かった。
夏子の前に盗賊達は全員束縛されていた。さすが夏子と美冬のコンビだ。
人質は5人いて、全員盗賊に何もされていなく、もう少し遅かったら奴等のオモチャにされていたのだろう。
ただ、何人かの娘が奴等の毒牙にかかり命を落としていた・・・
春菜が千秋と一緒に戻ってきた。
【春菜、どうだった?】
【かなり落ち込んでいましたけど、今はもう大丈夫です。もう一頑張りして休ませてあげましょう。】
【分かった。春菜、ありがとうな。】
「さてと、取りあえずみんな外に出るか。」
そう言って、俺達は盗賊達や人質を連れて外に出る。外に出てから転移魔法を駆使して、外で縛り上げた奴等もまとめて一ヶ所に集めた。
そして、俺は奴等のアレを全員切り落としていった。奴等はもう男として生きていけないだろうな。
あれだけゲスな事をしてきたんだ。殺された娘達の無念も晴らしたかったが、奴等の処分はこの世界の人間に任せたいと思う。ただ、落とし前だけは俺もつけさせてもらった。
運ぶのも面倒なので、ギルドの前へ奴等に手紙を付けて魔法で転送しておいた。ギルドマスターなら手紙を読めばすぐに分かるだろう。
助け出した彼女達と一緒に家に向かい、避難させていた少女達と合流し、一度家の中で休ませた。
彼女達の反応といえば・・・、まぁ、教会のシスター達と概ね同じだった。
「神が降臨された・・・」と言って、全員が俺の前で土下座されてもなぁ・・・
みんな(千秋を除く)は俺を見ながらニヤニヤしてるし・・・
あれから千秋は殆ど喋る事もなく、ずっと俯き加減だった。さすがにショックだったよな・・・。家に戻ってからはずっと部屋に閉じ篭ってしまった。食事も一緒にしない。春菜が部屋に食事を運んでいた。
家を拠点にして彼女達を順次住んでいた村に送った。ドラゴンを使って移動する訳にもいかないから、送り終えるには5日もかかった。しかし、一つ問題が起こった。1人の少女が残ってしまったのだ。彼女は親も親類も殺され天涯孤独の身になっており、彼女を引き取る人がいない事だった。
「う~ん、どうしよう・・・?やはり教会に頼むしかないか・・・」「春菜、どう思う?」
「そうですねぇ・・・、やはり教会に預けるしかないかもしれませんね。彼女の村は盗賊の襲撃で相当の被害もでていますし、もう少し経って落ち着けば彼女を引き取れるとは思うのですが、今の状態だと厳しいでしょうね。当面は教会に預けて、落ち着いたのを見計らって村に戻す手もありますね。」
「そういう方法もあるな。しかし、彼女の気持ちもあるし、今後どうしたいか聞いてから決めるか・・・」
俺と春菜は彼女のところに行き提案してみる。
「俺達は今の話のように考えているが、ララはどうしたい?」
彼女の名前は『ララ』、15歳の女の子だ。
「わ、私は・・・」ララの目に涙が溜まる。
「私は・・・、皆様方と一緒にいたいです・・・・、あんな事があってから1人だと怖いです・・・、皆様から離れて1人で生きていくと思うと恐ろしくて・・・、お願いですから、何でもしますから、皆様と一緒にいさせて下さい!お願いします・・・、お願いします・・・」
「そうか・・・」そう呟いて、俺は春菜を見る。春菜は黙って頷いいてくれた。
「分かった、ララ。」「はい!」ララの顔がこれまでにないくらい明るくなった。
「そうだな・・・、それじゃララは住み込みの家政婦として働いてもらおう。15歳で家政婦と言うのも変だしなぁ・・・、そうだな、住み込みのメイドとして春菜と一緒に働いてもらおうか?」
「春菜もそれで良いか?」
「問題ないですよ。よろしくね、ララ。」
「はい!、よろしくお願いします!春菜奥様!」
「お、奥様って・・・、恥ずかしいですね・・・」
「後は千秋の問題か・・・」「はい・・・」
あれから2日経ったが、千秋はまだ部屋から出てこない。食事を運ぶ春菜から様子を聞いて体調的には問題ない感じだが、こればかりは男の俺だと何も出来ないし、やはり、フローリアに頼むしかないか・・・
変化は次の日の昼過ぎに起きた。
リビングで俺が1人でいる時に千秋が現れた。
「貴様・・・、少し話がある・・・」「分かった・・・」
そうして、俺と千秋は千秋達のレストルームで2人だけでいた。
「貴様は天使がどう誕生するか知っているか?」「いや、知らない。」
「天使の誕生には2種類ある。一つは神界の天使族から人間のように男女の番から生まれる。二つ目は神界以外の他世界で神や女神の手により人間から天使に生まれ変わる。私は後者の方だ。」
「私が人間だった頃の父はクズな男でな・・・、気に入らない事があればすぐに暴力に訴える人間だった。私も小さい頃から事ある度に殴られ蹴られ、親の愛情と言うものは全く与えられなかった。それでも私は愛情を求め父に縋ったがダメだった。殴る蹴るの暴力に耐える日々が続き、私が10歳の時に父が死んだ。他の男の女に手を出して、その男に殺されたからだ。」
「それから私は身寄りがないから孤児院に入れられたが、そこも地獄だった。院長がまたクズな男で、自分の私腹を肥やす為だけに私達孤児を奴隷のように扱い、重労働をさせて休めば鞭打ちの毎日が続いた。16歳の時に隙を見つけて逃げ出した。」
「しばらく浮浪孤児を続けていたが、ある日4人の男に襲われた。もちろん、私を集団で犯す為だ。奴等のあの顔は今でも忘れない。クズの象徴のような下卑た笑い顔だった。奴等に犯される寸前で押さえつけていた男の手を噛み逃げ出したが、激昂した奴らに追い付かれた瞬間に後ろから滅多刺しにされて死んだ。犯される前に死ねただけでも良かった。」
千秋の目から涙が流れている。壮絶な過去だった・・・・。これだけ男に酷い目に遭わされれば男が信用できない理由も分かる。しかも、集団レイプされそうになって殺されているのだから、あれだけの殺意があっても当然だろうな。あの時、4人の盗賊に囲まれてパニックを起こしたのは、あの時のトラウマが蘇ったのか・・・
「確かに死んだはずだった。しかし、目が覚めた。大量の血の海の中にいて背中が火を噴いたように熱かった。目が覚めたといっても意識も目もぼんやりしている。しかも、あの4人が私の目の前で首を落とされ死んでいた。ぼんやりとした意識だったがそれだけはすぐに分かった。」
「そして、私の目の前に金色の翼が生えた女性が現れた。視界がぼやけているのも拘らず、その女性だけはハッキリと見えた。その時私は直感した。女神様が現れたと・・・」
多分、フローリアだな。
「まだ息がありましたか・・・、そして申し訳ありません。私のミスで大量の不幸の因子を取り込んでしまい、このような人生を送らせてしまいました。本当に申し訳ありません・・・」
「本来、神や女神は世界に干渉する事はしませんが、今回はあなたのお詫びもありますので、もう一度人生をやり直しする権利を与えに来ました。」
「あなたに2つの選択を与えます。1つは全ての記憶を忘れ生まれ変わり、人として幸せな人生をやり直す事です。もちろん、幸せな人生は私が保障します。もう1つの選択は、天使として生まれ変わり私と共に生き続ける事です。天使として不幸な人々の手助けをしてもらいます。」
「私は迷わなかった。生ある限りこの方に付き従うと・・・、そして、私は天使になった。しかし、その時のクズ達に対する恨みが強かったのか、天使としては珍しい黒色の翼になってしまったが・・・」
「それからフローリア様は優しく接してくれた。私はフローリア様の優しさに報いようと頑張った。そして、今の春菜達と一緒に親衛隊まで上り詰めたんだ。」
千秋が黙ってしまった。しばらく沈黙した後、静かに話し始めた。
「そして、あの日、私は貴様の護衛としてみんなと一緒に行動する事になった。いくらフローリア様が認めた男だといっても、私は信用出来なかった。気を抜けばあのクズ共と同じようになるのだと・・・」
「しかし・・・、貴様は違っていた・・・。いつも明るく接してくれてるし、我々の食事の世話までしてくれる。教会の件にしても、誰かを幸せにしようといつも努力をしている。そんな男は私の周りにいなかった・・・」
「そして春菜だ。男に全く興味が無い女だったが、あっという間に貴様に惹かれ、そして妻にまでなった。あんな幸せそうな春菜は今まで見た事も無かった。あの春菜を見ていると私も幸せになりたいと・・・、どんなに思ったか・・・」
「でも、やはり私には男はダメだった。貴様に近づこうとしていても、心が体が拒絶してダメだった・・・。やはり、私には春菜のような幸せは無理だと思っていた時に、例の盗賊騒ぎが起こった。あいつらを見ていると昔の事がどんどんと鮮明に蘇ってきて・・・、そして自分でも訳が分からくなってしまって・・・」
「でも・・・、少しだけ覚えている。貴様を本気で殺そうとした事を・・・」
千秋が突然、俺に抱きついた。
「貴様を殺してしまうと、フローリア様も春菜もどれだけ悲しむか・・・」
「そして・・・」
「私もどれだけ悲しくなるかも気付いた・・・」
「なぁ・・・・、私は幸せになってもいいのかな?こんな私だけど幸せになれるのかな・・・?」
千秋が泣いている。それも今までに見た事がない弱々しい泣き顔だ。
「なれるさ・・・」
「本当・・・?」
「本当だ。俺が千秋を幸せにしてやるよ。約束する。」
「えへへ・・・、嬉しい・・・、お願いだけど、もうしばらくこうしていたい。」
「あぁ、気の済むまでこうしていればいいさ。」
「うん・・・、幸せ・・・・」
俺と千秋は2階から降りリビングに戻ると、みんなが揃っていた。
「「「千秋!」」」夏子が駆け寄ってくる。
「大丈夫か?心配したぞ・・・」夏子が心配そうに千秋に話しかける。
「あぁ、大丈夫だ。心配をかけて済まなかった。サボった分、しっかり働くよ。」
そして千秋が俺を見つめながらニコッと微笑んだ。
「ち、千秋・・・、ま、まさか・・・」夏子が動揺している。
「はい、はい!夏子さん。もう夕食の時間に近いから、早く準備してご飯にしましょうね。」
春菜!ナイス・フォロー!
「あなた、今日は良い事があったみたいですから、今夜はご馳走にしましょうね。」
「分かった。今夜は気合を入れて作るよ。」「楽しみにしてますよ。」
そうして俺は気合を入れて大量に夕食を作り、全てみんなの胃袋に吸い込まれていった。あまりの食欲にララが引いていたぞ。
千秋も元に戻ったみたいで、みんなと仲良く談笑していたから、もう問題ないだろう。
そして寝る時間になったが・・・
どうしてこうなった・・・
部屋にはいつもの春菜でなく千秋がいた。すごくモジモジしている。
春菜はというと・・・
「あなた、私は今夜、夏子さん達と一緒に寝ますね。それではよろしく~~~」
そう言って、夏子達とさっさと部屋に行ってしまった。夏子が少し落ち込んでいた気が・・・
=== 春菜達 ===
「なぁ、春菜・・・、本当に良いのか?お前の気持ちが心配だ・・・」
「大丈夫ですよ。千秋さんがやっと幸せになれそうですし、蒼太さんは私も千秋さんも平等に愛してくれますからね。」
「私も、あの時のフローリア様の気持ちが分かる気がします。自分だけ蒼太さんを独占するのは出来ないです。確かに蒼太さんを独占したい気持ちもありますが、自分だけが幸せになって、残された人の幸せを考えられない人は蒼太さんと一緒にいる資格が無いと思いますよ。ですから、フローリア様も私達全員の結婚指輪を作ったのではないかと思いますね。」
「そ、そうか・・・、私にもチャンスはあるんだ。」
「後は夏子さん達次第ですけどね。」「うっ!それが一番難しい・・・、タイミングが・・・」
「私はソータとはずっと昔から約束してる。フローリア様と知り合う前から・・・、だから私は慌てる必要はない。」
「美冬さん?」
「美冬・・・、何だって?」
「今は秘密・・・」
「千秋・・・、本当に良いのか?」
「あぁ、決めた。私は貴様の妻になる。春菜みたいに幸せになりたい・・・」
「分かった・・・」
「ありがとう・・・、いつまでも貴様呼びだと失礼だよな・・・、こ、これからは・・・、そ、そ、蒼太さんと呼んでも良いか?」
千秋の顔が真っ赤になっている。今にも火が出そうなくらいだ。
「千秋の好きな呼び方で構わないよ。千秋、改めて・・・」
「みんなで一緒に幸せになろう。」
「はい・・・、蒼太さん・・・」
千秋が俺の胸に飛び込んでくる。そして極上の笑顔で微笑んだ。
「蒼太さん、約束ですよ。必ず幸せにして下さいね。」
そして、千秋とキスをした。千秋の気が済むまでずっと唇を重ねた。
長いキスが終り、千秋を抱き上げベッドまで運び、そして・・・、俺と千秋は結ばれた。
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