盗賊の討伐①
色々と騒がしい道中だったがギルドに着いた。夕方前になるとは思ってもみなかったが・・・
アポも取ってないから大丈夫だろう。ダメだったらちゃんとアポを取ってから後日再訪だ。
ギルドの扉を開ける。
「「「「「お、おぉぉぉ~~~~~~」」」」」
驚きの声が響き、男達の視線が俺の方に集中する。いや、俺の隣の春菜の方だ。
男の1人が俺の方に駆け寄り、「兄貴!この隣の人は誰です?とんでもない美人ですけど・・・」目がハートマークなって話しかけてくる。
ちなみにこの男はというと、先日ギルドで一悶着あった時に夏子にいたぶられ下僕と化した男の1人だ。俺の事を『兄貴』と呼ぶようになってしまったが・・・
夏子の痛みの快楽よりも春菜の美貌が勝って正気に戻ったのかも?
「いや、あの時に4人いた1人だぞ。下手に手を出せば夏子が飛んで来てご褒美されるかもな?」
「そ、それはそれでウエルカムです!」
やっぱり正気でなかった・・・
男達の差すような視線の中を受付の方へ歩いていく、マリーの姿も見えたが他の冒険者の受付をしていたので、他の受付のところへ行こうとした。
マリーがその冒険者の顔面を蹴りながら吹っ飛ばして、俺の方を見ながら人差し指を立ててクイックイッと曲げて、俺に来いとジェスチャーをしている。
何か怒っているようだけど、行かないとマズイよなぁ・・・
仕方がない、行くか。「マリー久しぶりだな。何か機嫌が悪いけど、どうした?」
「蒼太さん!先日あなたの自宅にお邪魔した時に、とてつもない美人を妻として娶ってましたよね。それなのに、今はまた別の人を連れてきているんですよ。私を差し置いて!ギルド人気No.1のこの私をですよ!」
「いや、マリーには何の興味も無いしな。」
マリーが膝から崩れ落ち四つん這いになってブツブツ言い始めた。
「私はギルドのNo.1・・・。そう人気No.1の受付嬢・・・、玉の輿・・・、玉の輿に乗ってセレブな妻になるのが夢・・・、セレブな妻・・・、セレブな妻になって優雅な生活を・・・」
お~い、ショックで本音がだだ漏れになってるぞ・・・
「それとな、この娘はこの前に来た4人の1人の春菜だぞ。ちょっとイメチェンしているから分からないかもな。」
マリーが復活した。
「そ、そうですか・・・、そうなれば私も2番目の妻にな・・・」
言いかけた瞬間に春菜が割り込む。
「マリーさん、先日のギルドカードの件は大変お世話になりました。今は蒼太さんの2番目の妻として頑張っています。」
マリーが灰になった。
奥からギルドマスターが出てきた。
「何かいつもと違う騒ぎがすると思ったら、やっぱり君か。ダンジョンの件だね。私の部屋で話しをしよう。」
俺達はギルドマスターに連れられ執務室へ行った。
「うちのマリーが騒々しくていつもすまないね。根は悪い娘ではないんだが、昔色々あってお金に対する執着心が尋常でないんだよ。どうも君をお金持ちだと思ってアプローチをかけているみたいでな。私からよく言い聞かせておくよ。」
「いえ、そんなに気を遣わなくていいですよ。彼女とのやり取りも意外と面白いですからね。」
「そう言ってもらえると助かるよ。」
「それと、君からいただいた大量のドラゴンの素材だが、我がギルドの運営に大いに役に立っているよ。さすがに一気に放出してしまうと市場がパニックになってしまうから、少しずつ小出しにしているがね。しかも、ギルドだけでなく加工や販売でこの街の産業の活性化にも繋がっているし、君に感謝してもしきれない。」
そう言ってギルドマスターは俺に頭を下げた。
「ダンジョン話の前にちょっと確認したいんだが?」「何でしょう?」
「君たちがダンジョンに向かった日だったが、この街に大量のドラゴンの襲撃があってね、もうそれは大変だったよ。住民を避難させないといけないし、冒険者を緊急招集して対抗するようにしたんだよ。ドラゴンが相手だったから、我々は正直全滅しかないとも考えていたんだけどね。それが、いきなり踵を返して飛び去っていってくれたから、何事も無くて良かったのだが・・・」
「ドラゴンの素材といい襲来といい、君の行動とタイミングが良過ぎるので、君とドラゴンに何かあるかと私は思うのだが、どうだ?」
やっぱり感づいていたか・・・、まさか夏子がドラゴンを下僕にしているとは言えないし・・・
「たまたまじゃないですかね。素材となったドラゴン達の生き残りがたまたまこの街の近くに逃げてきて、俺達の姿を見て恐れて逃げていったのでは?ここに俺達がいると分かればもう2度と来ないと思いますよ。」
ギルドマスターは少し考えて、「まぁ、そういう事にしておこう。ドラゴンが来ないと確定出来れば問題ない事だしな。」
ギルドマスター感謝します。
「そうそう、ダンジョンの件だったな。」
「はい、ダンジョンですがダンジョンマスターを倒しましたので、強力なモンスターが召喚される事が無くなったので安心です。」
さすがにデスブリンガーの件は言えないな。しかも、奴を倒してしばらくしたらあの空間が無くなり、夏子達が戦った部屋と同じになっていた。やはり神の力を使って、あの部屋だけ特別な世界を作っていたのだろうな。
「そうか・・・、それはご苦労だった、報酬は弾むよ。」
「ダンジョンマスターがいなくなったとはいえダンジョンは残っているし、このダンジョンに付近のモンスターや魔獣が住み着き繁殖するだろう。定期的な討伐が必要だな。討伐で素材が手に入るから、ギルドとしても冒険者にしても良い話だろう。あの付近のモンスターならそんなに強力な奴はいないから、以前よりも格段に良くなったな。感謝するよ。」
「いえ、冒険者として当然の事ですよ。」
「君は謙虚だな。とてもこの若さで落ち着いて色々と話が出来るのは不思議だよ。」
見た目は20歳ですけど、中身は90過ぎです。
「ダンジョンで疲れたとは思うが、もう一つお願いがあるのだが良いかな?」「何でしょう?」
そう言ってギルドマスターは地図を広げた。地図の一カ所に赤く〇印が書いてある。
「ここの場所なんだが、元々は鉱山があった。随分前に閉鎖したのだが、そこに盗賊が住み着いてな。ここを拠点として街道や近隣の村を襲っているんだ。我々ギルドも討伐に赴いたが、恐ろしく強い奴がいて被害がこれ以上出ないように抑えるのが精一杯な状態だ。ドラゴンですら倒せる君たちなら何とかなるかもしれない。お願い出来るか。」
「困っている人達がいるなら放っておけませんよ。分かりました。なぁ、春菜。」「はい。」
「それではコレが依頼書と盗賊の情報だ。これ以上有望な冒険者を失いたくない。何とか頼む。」
フロアに戻ると灰になっていたマリーが復活していた。
その夜、俺達はリビングに集まり盗賊討伐の話をする。
「善良な人間を襲うとはけしからん。徹底的にお仕置きしてやろう。」
「クズな男どもは根絶やしにしないとな。」
「皆殺し」
「ジェノサイドは勘弁してくれ。生け捕りにした人数分報酬が増えるからな。それに、俺は極力人を殺したくない。例えそれがどんなクズでも・・・。確かに俺は人間の枠から外れ始めているのだろうが、心は人間のままでいたいんだ。人を殺す事に慣れてマヒしてくると、あのデスブリンガーのようになってしまうのだろうな。俺はあんな奴みたいになりたくない。神だろうが人間だろうがみんな笑いあって暮らせる世界にしたい。だから、みんな力を貸してくれ。」
「「「分かった。」」」
「春菜も頼むな。」「はい!」
「それじゃ、明日は準備をして、明後日に出発だ。今日はゆっくり休もう。」
翌々日、出発する日の朝
隣の教会からシスター達が見送りに来ていた。
「さてと出発するか。荷物は異次元収納に入れたし、後はこの家だな。アジトまではここから馬車でも10日以上かかるから、いくらドラゴンに乗っても野営は必須だし、どうしてもこの家が無いと不便だよな。」
「確かに異次元収納に入れて簡単に移動は出来ても、毎回持ち運ぶのもなぁ・・・。フローリアに頼んでもっと簡単なモノを冒険用に用意してもらった方が良いか?」
【了解しました、旦那様】うぉ!またいきなりフローリアの声が。
【ビックリしたぁ・・・、フローリア、それじゃ頼んだぞ。】【任せて下さい。】
家を異次元収納に収納する。
シスター・マリアが唖然とした顔になり、「こう何度も神の御業を見せられしまうと、いくら普通に付き合うように言われましても・・・」祈りを捧げようとしている。
「シスター、それはナシでお願いしてるでしょ。俺達が留守の間頼むよ。」
「分かりました。それでは皆様お気を付けて。」
シスター達が深々と頭を下げて俺達を見送ってくれた。
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