ダンジョンでの戦い③
「シナリオ通りに動くとは、やはりゴミ虫。全ては私の掌の上で踊らされる運命だ。神に楯突く愚か者め。」そう言いながら、張り付けにされた春菜と一緒に岩山の上から浮遊魔法を使い、降りてきて俺の前に立った。
「き、貴様!」
「五月蠅い・・・」
全く動けない俺の腕に氷の槍が刺さった。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「黙れ、ゴミ虫が。」
更に何本もの槍が刺さる。あまりの痛みで声が出ない。
「蒼太様ぁぁぁ!!!」春菜が叫ぶ。
「くくく、どうだ?這いつくばった虫の気分は?もちろん、すぐには殺さん。急所を外しながら槍を打ち込んでやるし、一体何本まで耐えられるかな?死ぬ前に気が狂うかもな?」
「いくら私の力が上でも女神の加護は侮れん。この鎖は加護を封じる。今のお前は普通の人間だ。どう足掻いても絶望の未来しかないよ。分不相応のゴミ虫を断罪する神罰だ。」
く、くそっ!体が動かん!
「それでは神罰の始まりだ。」
1本づつ俺の体に槍が刺さる。そのまま気を失った方が楽になれるのに、気を失いそうになると新たに槍が刺さり、激痛が俺を襲う。
「蒼太様ぁぁぁぁぁ!止めてぇぇぇぇぇ!」春菜が絶叫している。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「思ったよりもしぶといな。まだまだ楽ませてくれよ。」
「デスブリンガー様!どうかお止め下さい!私が何でも言うことを聞きますから、蒼太様を助けて下さい!」
「お願いしますから・・・、お願いです・・・」泣きながら春菜がデスブリンガーに懇願している。
「ふ~ん・・・」
「そうだな、よく見ればお前もフローリアに匹敵する程の美しさだな。フローリアの次の第2夫人になるなら考えでもないか・・・」
「それでは・・・、蒼太様は・・・」
「バカか!それでこのゴミ虫が助かる訳がないだろう。なぶり殺しにされるのを見てるが良い。まぁ、妻に迎えるのは悪くないな。お前からゴミ虫の記憶を無くし、私だけを愛するように心を変えてやろう。」
「や、止めろ・・・」
デスブリンガーが春菜の頭の上に手を広げると、黒いもやの様なものが春菜の頭の周りにまとわりつく。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~!な、何か私の心の中にぃぃぃ~~~!」
「やだ!やだ!やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~!」
「ふふふ・・・」
「あぁぁぁぁぁぁ!」「いやぁぁぁぁぁぁ!」
「意外としぶといな。さすがフローリアの愛弟子。頑張ってレジストしてるが何処まで耐えられるやら?ふふふ・・・」
「蒼太様ぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~!」
「無駄だ。」
バキンッ!
「何だ?ゴミ虫の方から音がしたが・・」
デスブリンガーが蒼太の方を見ると、蒼太に巻き付いていた鎖が全て弾け飛んでいた。そして、体中に槍を刺されながらの姿でゆっくりと立ち上がり、鬼のような形相でデスブリンガーを見つめていた。
「し、信じられん!な、何があった!」「そ、蒼太様・・・」
蒼太の体から信じられないようなプレッシャーが発せられる。
「ふんっ!」
蒼太が全身に力を入れると、全ての槍が抜け吹き飛んだ。そして、全身から信じられないくらいの量の青いオーラが立ち上り、全身の傷が一瞬のうちに回復する。
「貴様ぁぁぁ!よくもうちの子を泣かしたなぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「な、何故だ!この鎖は女神の力をも封印するものだぞ!何でただの人間がそこまで・・・」
「だからぁぁぁ!うちの子を泣かしたなって言ってんだろ!もう完全に怒ったぜ・・・」
「貴様のようなゲスはもう絶対!に許さん!」
デスブリンガーがいくつもの魔法を放つが、蒼太が纏う青いオーラに当たると全て消滅してしまった。
「い、一体何が・・・、ま、待て!・・・、このオーラの波動は覚えがある・・・」
「ま、まさか!それこそあり得ん!このオーラはあの神界大戦の英雄の1人ブルー・・・」
「確かあのお方は無くなったはず・・・し、信じられん!!!」
「凍牙!」蒼太がそう叫ぶと、右手に刀が現れ、鞘から抜く。
「無蒼流秘奥義、終の型・・・」
「乱れ!」横なぐりの吹雪のような無数の突きがデスブリンガーを襲う。
「雪!」一筋の横の斬撃が走る。
「月!」三日月の弧の様な美しい袈裟切りが走る。
「花!」下から放射線状に上る無数の切り上げがデスブリンガーに止めを差す。
「ば、バカなぁぁぁぁぁ!」
そう言い残してデスブリンガーは塵となり、足下に青いクリスタルだけが残った。
クリスタルを手に取ると輝き、俺の中に吸収されていった。
「春菜?」
春菜は近くにぐったりと横たわっていた。慌てて近寄り抱き起す。
「春菜!、春菜・・・」
春菜がゆっくり目を覚まし、その目から涙が溢れ出てきた。
「そ、蒼太様・・・、ご無事で・・・」そう言って、春菜が蒼太に抱き付く。
「あぁ、大丈夫だ。春菜、怖い思いをさせて悪かった・・・」
春菜はしばらく蒼太に抱き付いていたが、落ち着いたのか静かに離れた。そして蒼太を見つめ、再び抱き付きキスをした。
お互いの唇が離れ、見つめ合い長い沈黙が続いたが、春菜が口を開く。
「蒼太様・・・、好きです・・・」
「うっ!」長い沈黙が続く。
「春菜・・・、お前の気持ちは分かった・・・」
「しかし・・・、お前の気持ちには応えられない・・・。俺にはフローリアがいる・・・。フローリアを差し置いてお前と一緒になるなんて出来ない・・・」
「そしてな・・・、お前の事は確かに好きだが、俺の子供か孫みたいな感じの好きなんだ・・・。お前を女として見ての感情は・・・、すまん・・・」
「そうですね・・・、さっきも私の事を『うちの子』と言ってましたし・・・」
「蒼太様、私をあなたの子供としての扱いでも構わないので、一緒に居させて下さい。よろしくお願いします。」
ニコニコ笑いながら春菜がそう言ってきた。
「そのぉ~、ホントにすまん・・・」
「大丈夫ですよ。」
「じゃ、みんなのところに戻ろう!」「はい!」
扉の前に来たが開かない。
「弱ったなぁ・・・、どうしよう・・・」
どうやって開けるか蒼太が悩んでいたが、右手に握られた刀が淡く発光した。
「凍牙、何とかしてくれるのか?それじゃ・・・」
刀を構え扉に対して切り込んだところ、扉はあっさり両断された。
「スゲー切れ味だな。凍牙、これからもよろしく。」
前の部屋に戻ると美冬が寝そべっていた。
「美冬!」「う~、お腹イッパイ。もう食べられない・・・」
「間際らしいなぁ~、心配したぞ。」
「大丈夫。さの時も言ったが問題ない。ソータ、その手に持っているのは?」
美冬が手に持っている刀を見た時、一瞬、耳と尻尾がピクンと反応した。
「あぁ、凍牙か。これは俺の大事な相棒だという事だけしか分からない。全く知らないはずなのに、良く知っている気がするんだ。何故か名前まで知っている。」
「今は顕現しているが、こうやって消す事も出来るんだな。」そう言うと凍牙が淡く光り、蒼太の右腕の中に消えていった。
「ふ~ん・・・」美冬の反応が何か変だ。
その瞬間、前方の扉が爆発し、夏子と千秋が現れた。
「いやぁ~、敵はそこそこだったけど、扉を壊すのが一番大変だったよ。」みんなの安全を確認して安心したのか、夏子が嬉しそうに言った。
「それにしても・・・、2人ともボロボロだな。特に蒼太殿。」
「まぁ、死にかけたけど何とかなった。春菜のおかげだよ。」
「いえ、私は大した事してませんよ。デスブリンガーを圧倒した最後の剣技は見事でしたね。」
「ちょっと待て!デスブリンガーだと!」夏子が驚愕した顔になった。
「本当に勝てたのか・・・、蒼太殿は何処まで規格外なんだ・・・」
「本当にすごかったです。」春菜がニコニコした顔で言う。
夏子、千秋、美冬がお互いの顔を見合わせ、春菜を見る。「「「春菜・・・」」」
「いえいえ、何もありませんよ。」
「そうか・・・」千秋が少し不安そうに言った。
「まあまあ、こうやって無事にみんな合流出来たからさ。みんな、帰ろう!」
「「「「は~い!」」」」
俺はみんなと無事に合流出来た事で少し浮かれていいた。それで春菜のつぶやきが俺の耳に入る事が無かった。
さよなら・・・
蒼太様・・・