ダンジョンでの戦い②
「くっくっく・・・、ようこそ、私の舞台へ。」
何処にいる?周りを見渡すと一番大きな岩の上に人影があった。
「貴様がこの黒幕か!」
そう言った途端に人影から俺の方に火の玉が放たれ慌てて避けたが近くに着弾し、爆風で俺たちは吹き飛ばされた。
「ぐわぁぁぁ!」「きゃぁぁぁ!」
「ゴミ虫の分際で私に無礼な口を叩くとはな・・・」「よかろう、何も知らずに死ぬのも可哀想だからな・・・。」
「私の名前は『デスブリンガー』、女神フローリアの正式な夫になる神だ。それをゴミ虫の貴様が彼女の夫になるだと?貴様をボロ雑巾の死体にして彼女の前に捧げれば、私こそが彼女に一番相応しい事を分かってもらえるだろう。」
『デスブリンガー・・・』そう言った春菜の顔が真っ青になった。
「ヤツの事を知っているのか?」
「はい、彼の強さは最強と呼ばれる方々達までいきませんが、それに準ずる強さを誇ると言われています。それが本当でしたら、いくら女神の加護を持たれている蒼太様でも太刀打ち出来ないかと・・・、そして、我々4人が力を合わせても全く歯が立たないお方です・・・」
「いきなり物語のラスボスが現れたみたいなものか・・・」
「ここに誘われたみたいだが、どうやって逃げるか・・・」
「ふふふ・・・、逃げようと思っても無駄だよ。逃げる前に確実に貴様を殺せるからな。まぁ、簡単には殺さないから、精々足掻いてゴミ虫の意地でも見せて私を楽しませてくれ。」
改めてヤツを見た。黒のローブを纏い灰色の髪をした男だ。顔はイケメンの部類に入ると思うが、ニヤニヤ笑う口元がかなり下品だ。完全に俺たちを見下している。
「デスブリンガー!何故こんなダンジョンを作った!」
「ゴミ虫が私に口を聞くなど生意気な・・・、まぁ、今の私は機嫌が良い。死ぬ前に教えてやろう。」
「全てはお前をこの地で無残に殺す為だ!」
「そんな理由だけで関係ない村を滅ぼしたのか・・・、お前は神じゃないのか!」
「そうだ、私は神だよ。ゴミ虫など自然に嫌ほど湧いてくるものだ。虫を気にする必要なんてあるか?そうだろう?まぁ、虫どもがあまりにも弱すぎたから、お前たちがしり込みして来なくなると困るのでな、不本意ながら最後まで楽に来れるようにしたのさ。ここまで何も無かっただろ?最後くらい少し余興は入れたが・・・」
「最後に私と対峙した事で、ここまでが楽だったと思った分、それ以上の恐怖と絶望を味わってくれ。」
こいつは神でない!神の名を騙った正真正銘のクズだ。こんな奴にフローリアを絶対に渡せない!
「春菜!狙いは俺だけだ!巻き込まれないように出来るだけ遠くに離れてくれ!」
春菜にそう言い、走りながらヤツに魔法を放つ。
「フレア・ボール!」
「児戯だな・・・、フレア・ボール」
ヤツも同じ魔法を俺に向かって放った。しかし・・・、大きさが全く違う・・・
ヤツの魔法が俺の魔法を飲み込み、そのまま俺に向かって飛んでくる。かろうじて避けたが、爆発の衝撃でかなり吹き飛ばされてしまった。
「ミーティア・レイン」無数の光の矢が俺に向かってくる。
「くっ、フレア・トルネード!」炎の竜巻が俺の前に発生し光の矢を防ぐ。しかし、完全に防ぎ切れず、何本かが俺に刺さった。
「ぐあぁぁぁ!」
堪らず俺は地面を転げ回り、近くに岩の影に逃げ込んだ。そこには何と春菜がいた。
「春菜!どうして?ヤツの強さは尋常じゃないぞ!もっと遠くに逃げるんだ!」
「嫌です!私も一緒に戦います!僅かな力かもしれませんが、それでも戦いたいんです。」
「春菜・・・」
「分かった・・・、一緒に戦おう。」
そして、岩の影から飛び出そうとしたが、体が動かない・・・
その上、手がガクガクと震え始めた。
どうして・・・
そう思った瞬間に俺は気づいた。
俺はバカだった・・・
フローリアに転生させられ、加護を受けてこの世界で冒険する事になった。
常識外れの仲間の力、チート過ぎる加護、前回の龍神戦での圧倒的な勝利、その為か俺はこの冒険をゲームの感覚で認識してしまっていた。何があっても大丈夫だろうと高を括っていたのだろう・・・
しかし、この世界でも現実の死がある。ゲームみたいにやり直しも出来ない。それを忘れていた・・・
そして、すぐに後ろに死が迫っている。
昔、戦時中に学徒動員で戦場に駆り出され、ジャングルで何度も死の恐怖を味わった。その時の死の恐怖がどんどんと蘇ってくる・・・
手の震えが止まらない・・・
死にたくない・・・
嫌だ・・・
ガタガタ震えている俺に春菜が抱きつき、優しくキスをしてきた。少しづつ震えが収まってくる。
しばらくキスをした後、春菜が少し離れ俺に向かってニコッと微笑む。
「少しは落ち着きました・・・?」「は、春菜・・・」
「戦いが、死が怖いのは当たり前です。しかも、今はとても強い相手ですし、正直勝てるかも分かりませんからね・・・。不安になるのは当たり前ですよ。」
しばしの沈黙の後、「春菜は強いな・・・、俺なんてビビって情けないな。」
「そんな事ありません。私だって怖いです。」そう言って、春菜は俺の手を取り胸に当てた。ものすごくドキドキしているのが分かった。
「でも、蒼太様と一緒に戦える事を思うと、恐怖は吹き飛びますよ。頑張りましょう。」
「ありがとう・・・」
「ふふふ・・・、お別れの挨拶は終わったか?ダーク・スフィア。」
声が聞こえた瞬間に目の前の岩が爆発し、俺と春菜はまたもや吹き飛ばされた。
「ぐあぁぁぁ!」「きゃぁぁぁ!」
「はぁ、はぁ・・・、完全に遊ばれてる・・・」
「ゴミ虫達でも面白い余興を行うな。それでは更なる余興を楽しむか?」
「ダーク・プリズン」
春菜が黒い半透明の玉に包まれ消えた。そして、ヤツの隣に玉が現れ消えたと思ったら、張り付けにされた状態の春菜が宙に浮いていた。
「ふふふ・・・、ここまで来れるかな?」
「舐めるな・・・、たとえ勝てなくても春菜だけは助け出す。」
「出来るかね?ふふふ・・・」
「出来るさ!」
そう言って、俺はヤツのいる岩に向かって駆け出す。
春菜!待ってろ!
走っている俺に向かって、デスブリンガーは何発も魔法を放つ。それを何とか全て回避し、ヤツまで段々と近づく。そして、ヤツの岩場の前までもう少しのところで異変が起きた。
俺の周りに大きな魔方陣が輝く。その魔方陣の中から黒い鎖が何本も飛び出してきた。
その鎖は俺の手、足、胴体に巻き付き、俺を地面にうつ伏せに縛り付けてしまった。
「なっ!」
「ふふふ、最後の仕掛けに見事に引っかかたな。」「ふはははぁぁぁぁぁ!」