機械神族㉛
エリーに纏わり付いているどす黒いオーラが、更に凶悪な感じのする何かに変化している。
にたぁ~と笑い、視線はラスト・ガーディアンに向いていた。
「さぁ~、蹂躙の時間よぉ~、もう謝っても許さないからねぇ~~~」
腰に装着されている剣を取り剣先を上に掲げた。
ズズズズズ・・・
どす黒いオーラが剣に纏わり付き、遙か上空までオーラが立ち上った。
纏わり付いたオーラが消え去ると・・・
神器クローディアよりも更に巨大な漆黒の剣が姿を現した。
右腕だけで軽々と振り回し、剣の感触を確かめている。
剣を両手で握り直し上段に構えた。
「暗黒剣レヴァンティンよ!全てを喰らい尽くせぇえええええええええええええええ!」
剣を振り切ると、剣の軌跡から黒い衝撃波が現われ、地面を抉りながらガーディアン目がけて飛んでいく。
まるで真っ黒な大きな顎がガーディアンに噛みつくように・・・
ドガガガァアアアアアアアアアアアアア!
『ぼ、防御よ!』
巨大なタワーシールドを構え衝撃波に備える。
ドォオオオオオオオオン!
『そ、そんな・・・、防御なんて全く役に立ってないじゃないの・・・』
ガーディアンが防御したシールドごと左腕までが消失してしまった。
大剣を肩に担ぎながら、ゆらりとエリーが歩き始める。
「あらら、ご自慢の大層なシールドも役に立たなかったみたいねぇ~、どう?こんな豆粒みたいな私に追い詰められる気分は?」
にたぁ~と笑っている。
『ひい!』
サリーはコクピットの中でガタガタ震えている。
(あのΩ-000の変貌は何?あの姿は完全な化け物よ・・・、今までの女達の比ではないわ・・・、何がアイツをあれだけの存在に変貌させたのよ!)
『うわぁあああああああ!来るなぁああああああああああ!』
ビームライフルからビームが発射されエリーに命中し爆発が起きた。
大量の砂煙でエリーの姿が見えない。
『やったの?』
沈黙が辺りに漂う。
砂塵が晴れエリーの姿が露わになる。
『いやぁあああああああああああ!』
エリーは全くの無傷の状態で佇んでおり、ガーディアンに向けてニヤリと笑い再びゆっくりと歩き始めた。
『来るな!来るな!来るなぁああああああああああああああ!』
サリーが絶叫しながらビームライフルを連射している。
「無駄よぉ~~~」
背中の巨大なコウモリのような翼がエリーを包み込むように展開すると、ビームが全て弾かれてしまっていた。
「煩いから黙らせましょう~」
両肩のキャノン砲に出鱈目なエネルギーが集まる。
「メガ・ブラスター!」
『あぁああああああああああああああああ!』
サリーが咄嗟にビームライフルを撃ち、ビームがエリーへと飛んでいく。
しかし、エリーから放たれた更に大きなビームに飲み込まれてしまう。
ボシュゥゥゥ・・・
右腕ごと消滅してしまった。
「出力が出鱈目過ぎる!Ω-000!一体どうしたのよぉおおおおおおおお!」
サリーはコクピットの中で半狂乱になってガクガクと震えている。
「損傷率が30%を超えた!このラスト・ガーディアンが負けるの?何でこんな存在がいる前で目が覚めたのよ・・・」
「はっ!Ω-000がいない!」
正面のモニターには誰も写っていない。
「どこ?どこ?どこよ!」
色々と視点を変えているが、フローリア達は映っているがエリーの姿はどこにも無かった。
「ここよぉ~」
エリーが頭頂部に立っていた。
「このまま真っ二つにしてもいいんだけど、それだとすぐに終わってしまうから面白くないからねぇ~、だからぁ~~~」
右足を思いっ切り上げ、そのまま頭を踏み潰した。
ゴシャ!
ガーディアンの頭部が弾けた。
「きゃあぁあああああああ!」
目の前のモニターが真っ暗になり、コクピット内が赤く点滅している。
「こ、このまま嬲り殺しにされるの?嫌だ!助けてぇえええええええええええええ!」
横にある赤いボタンを押した。
「緊急回線!マスター!ユリー!」
ボタン横のモニターにユリーの顔が映った。
「マスター!ユリー!た、助けてぇえええええええええええええええええ!」
『サリー!どうしたの?あなたがそんなに慌てて・・・』
「あ、あいつらは本物の化け物よぉおおおおおおおおおお!絶対に勝てない!このエデンが滅ぼされるわぁああああああああああああああああ!」
ユリーのモニターの横にもう1つのモニターが浮かび上がる、
そのモニターには蒼一郎が映っている。
『そ、そんなに凄まじい状態なのか!』
「ち、地上のガーディアン部隊は全滅!200体ものガーディアンがあっという間によ!しかも、量産型ラスト・ガーディアンも全滅!たった10人程の女神や天使達だけでよ!信じられない!」
頭部を粉砕したエリーが地面に降り立ち、再び剣を構えた。
横薙ぎに剣を振る。
ザン!
ガーディアンの両足の膝が断ち切られ、ゆっくりと横向きに倒れた。
ドォオオオオオン!
『きゃぁああああああああああ!』
エリーがニコニコした表情で横倒しになったガーディアンを見ている。
「これで静かになったわねぇ~、さぁ、最後はどうやって料理しようかしら?きゃはははぁああああああああああああああああ!」
『サリー!』
ユリーがサリーに叫んでいる。
「ラスト・ガーディアンの損傷率が50%を超えたぁあああ!自己修復が追いつかない!こ、こんな事って!」
突然、コクピット内の照明が消えた。
「どうしたの?エネルギーの伝達系がやられてしまったの?」
「怖い・・・、このまま私は破壊されてしまうの?助けてよぉぉぉぉぉ・・・」
サリーが頭を抱えながら小さく縮こまってブルブルと震えていた。
「さぁ~、最後の仕上げとしましょうねぇ~~~」
横倒しになっているガーディアンの胸の辺りにエリーが浮かんでいる。
両手を装甲に突き刺すと、ベリベリと装甲を剥がし始めた。
胸部装甲が剥がされ、コクピット内にいたサリーの姿が露わになる。
「見つけたぁ~~~」
「ひぃいいいいい!」
エリーが右腕を伸ばし、中で縮こまっていたサリーの首を掴み引き摺り出す。
そのまま空中に浮かびサリーを宙づりにしている。
「このまま首を絞めていても、私達は呼吸なんかしていないから窒息死で死なないんだよねぇ~、このまま締め上げて首を捻じ切るのも悪くないかな?どう?」
サリーが泣きながら「助けて・・・」、「許して・・・」と呟いている。
「春菜さん、さすがにこれ以上は無理よ!もう少しで引き返せないところまで来ているわ!」
フローリアが飛び出そうとした。
「待って下さい!」
雪がフローリアの前に立った。
「雪さん、どうして?」
「私が行きます。」
そう言って、エリーの方に視線を移した。
「今のエリーさんはエリーさんではありません。私には見えます。本当のエリーさんが黒い感情に押しつぶされ助けを求めている姿が!友達として私は助けに行きます!」
「雪!無理よ!あんな化け物に太刀打ち出来ないわ!」
冷華が叫ぶ。
「冷華・・・」
しかし、雪はキッと冷華を見つめた。
「確かに今のエリーさんは私よりも遙かに強大な存在よね。だからって、何もしないってのは嫌!冷華なら分かるよね?友達を助けるのに理由は要らない、何が何でも助ける。」
冷華がニコッと笑った。
「ふふ、やっぱり雪ね。頑固なところは私以上だわ。だけど約束よ。必ず無事に2人で戻ってくるのよ!約束を破ったら承知しないからね。」
そう言って、右拳を雪の前に突き出した。
「分かってる。」
雪もニコッと笑って右拳を突き出し、冷華の拳に合わせた。
2人の拳の上に美冬が手を添えた。
「「美冬!」」
いつの間にか普段の姿に戻っていた美冬もにニコッと微笑んでいる。
「雪、頑張ってね。私からアドバイスよ。フェンリル族の限界突破は肉体だけではないわ。真の覚醒は心も限界を超える事よ。覚えておいていてね。」
「美冬、ありがとう。それじゃ行くわね。」
雪が踵を返して上空に浮かんだ。
「エリーさん、待っていてね。必ず私が助けるからね。」
青白い光の粒子を残しながらエリーの方へ飛び立った。
「友情って何て素晴らしいのでしょう・・・」
春菜がポロポロと涙を流しながら3人の姿を見ていた。
「春菜さんて、こんなシーンに弱いのねぇ~、意外ですね。」
フローリアが春菜の肩にそっと手を乗せた。
「あっ!そういえば、ずっと笑いの要素が無かったですよ!シリアスな展開を続けているなんて、作者に何かあったのですかね?」
「フローリア様、いくら作者でも空気は読めると思いますよ。このタイミングで笑いを入れたら、彼女達に袋叩きにされますからね。」
「そうですね。まぁ、この話は終わりにしましょう。雪さん、頑張って下さいね。」
フローリアと春菜はエリーの元へ飛んでいく雪の背中を見つめていた。
「そろそろ終わりにしましょうかねぇ~」
エリーがサリーの首をギリギリと締め上げている。
「エリーさぁあああああああああああああん!」
「そ、その声は!」
ハッとした表情でエリーが上を向くと、雪がすぐそばまで迫っている。
「もう止めてぇえええええ!」
雪がエリーに抱きついた。
「ゆ、雪さん・・・」
エリーのハイライトが無かった目が元に戻った。サリーを掴んでいた手が緩み、サリーがエリーの手から解放され落ちていく。
「やっと私の出番ね!」
猛スピードでアイリスが滑空し、サリーが地面に激突する寸前に受け止めた。
サリーを抱いたままフローリアの方へ飛んでいく。
「機械神族は普通の回復魔法だと効果がないからねぇ~、デウス様がいない以上、こればっかりはフローリアママに任せるしかないわね。」
「エリーさん!もう終わったのよ!だから元に戻って!お願い!」
雪が抱きつきながら必死にエリーに呼びかけている。
「いえ!まだ終わっていない!2人に危害を加えた連中は滅ぼすのよ!徹底的に恐怖を与えてぇえええええ!」
再びエリーの全身からどす黒いオーラが噴き出し始めた。
「ダメよ!そんな事をしたらもう元に戻れなくなる!私の知っている優しいエリーさんに戻って!」
「五月蠅いわねぇ~、邪魔するならあんたも同じ目に遭わせてあげる。」
噴き出すオーラが更に激しくなる。
「ぐぅぅぅ・・・、絶対に離さない・・・、ブ、ブルー・デスティニーが!」
雪の装甲のいたるところにヒビが入り、少しずつ剥がれ始めてきた。
「ぐぁああああああああああ!」
雪がギリギリと歯を食いしばり、オーラの圧力に耐えている。
「早く離しなさい。それとも死にたいの?まぁ、私はアンタなんかどうなっても構わないんだけどね。」
「ぐっ!じゃぁ、何で泣いているの?私の事なんかどうでもいいはずでしょう!」
エリーの瞳から涙が止めどなく流れている。
「やっぱり・・・、今のエリーさんは本当のエリーさんじゃないのね・・・、涙を流すってのは今も心の中で自分自身と戦っているって事?」
カッと目を見開き歯を食いしばる。
「ブルー・デスティニー!もう少し頑張って!私にも力を、冷華や美冬みたいに邪悪を退ける力を!お願い!エリーさん!目を覚ましてぇえええええええええええええええええええええええ!」
雪の絶叫が響き渡った。
カァアアアアアアアア!
「これは!」
フローリアが叫んだ。
その視線の先には・・・
「えっ!私・・・」
雪が信じられない表情をしている。
髪が金色に発光し、装甲も同様に眩いばかりに輝いていた。
「雪、おめでとう・・・」
美冬が微笑んでいる。
「でもねぇ~、まさか吹雪や冷華の覚醒レベルをすっ飛ばして、いきなり真祖の力の覚醒に至ってしまうのは意外だったわ。それだけ友達を想う気持ちが強かったのね。」
「あぁあああああ!力が!力が抜けるぅうううううう!」
エリーが苦悶の表情で叫んでいた。
「復讐がぁあああ!私から大事な人を奪ったアイツに復讐がぁああああああ!何で邪魔をするのよぉおおおおおおおお!そんなに私が邪魔なのぉおおおおおおお!」
ギュッと抱きついていた雪だったが、力を抜き今度はそっとエリーを抱きしめ直した。
「いいえ、私はあなたを否定する気持ちは全くありませんよ。あなたが蒼太さんを大切に想う気持ちは良く分かりますし、私も大好きな凍牙さんに何かあったら同じようになるかもしれません。でも、今のあなたを蒼太さんが見たらどう思います?」
「はっ!そ、それは・・・」
「あなたのその感情は誰しも持っていますよ。だから私はあなたを否定しません。私の友達であるエリーさんは優しくて知的で、でもちょっとヤキモチ焼きな・・・、う~ん・・・、ちょっとではないかも?」
「その部分は余計よ・・・、でも、この光に包まれていると心が安らぐわ。今までの抑えきれない気持ちが落ち着いて・・・」
エリーの表情が優しく変わってきている。
「ありがとう、こんな私も受け入れてくれて・・・、あなたは最高の友達だわ。それじゃ、私は眠らせてもらうわね。」
エリーが目を閉じるとガクッと意識を失った。全身から噴き出ていたどす黒いオーラの放出が止まると、真っ黒だったファルコンも徐々に元の銀色に戻っていく。
雪も全身の輝きが消え普段の状態に戻っていた。
「雪・・・、さん・・・」
ゆっくりとエリーが目を開けた。
「エリーさん、お帰り・・・」
雪がニコッと微笑んだ。
「わ、私は何て事を・・・」
雪のボロボロの装甲を見てエリーが涙を流し始めた。
「全部覚えているの・・・、急に感情が抑えきれなくなって、目の前が真っ暗になったのに、私がしていた事は全部覚えているの・・・」
「いのよ。」
雪が優しくエリーの背中を叩く。
「あなたの気持ちはみんなが持っているものだからね。今回はたまたまやり過ぎただけ・・・、それに、こんな事でショックを受けていたら、蒼太さんの妻でいられないわよ。これ以上の事が普段から当たり前に起きているからね。」
「そうですよね?」
雪が後ろを振り向くと、夏子と千秋がばつの悪そうな表情で浮いていた。
「ま、まぁ、確かにな・・・」
夏子がポリポリと頬をかきながら雪達から視線を逸らしている。
「万が一と思って控えていたが、私達の出番は無かったな。雪、よくやったな。」
千秋も視線を外しながら話している。
完全に雪の話題を無視していた。
「そういう事よ。エリーさん、さぁ、みんなのところに戻りましょうね。」
雪が微笑むとエリーも微笑みながら頷いた。
ゴゴゴゴゴ・・・・・・・
「な、何よ!この振動は!何でこんなところに地震が?」
サリーをフローリアに預けて雪達の様子を見ていたアイリスが、キョロキョロと周りを見渡している。
ドォオオオオオオオオオオン!
地面が盛り上がり、巨大な黒い球が勢いよく飛び出し消滅した。
「な、な、何なのよ!あんな邪悪な波動は今までに感じた事がないわよ!」
アイリスが大量に冷や汗をかきながら叫ぶと、フローリアと春菜以外は身を構え戦闘態勢に入っている。
地面に出来た大きな穴を全員が見つめている。
「何が出てくるのよ?」
「てかっ!フローリアママと春菜ママ!何でそんなに落ち着いているの?」
春菜がいつものニコニコ顔でアイリスに微笑んでいる。
「アイリスもまだまだね。」
フローリアもニコニコしている。
「そうよ、目の前の事だけに囚われてはダメよ。もっと広く状況を把握しないとね。何が近づいてきているのかまだ分からない?」
アイリスがフローリアのアドバイスで分かったのか、とても歓喜した表情で穴を見つめている。
「分かる!段々と近づいてくるのが分かる!」
シュパァアアアアアアアアア!
穴の中から何かが高速で飛び出してきた。
「パパァアアアアアアアアアアア!」
デウスを横抱きにし、大きな青白い翼を広げた蒼太(ブルーVer)が上空に浮かんでいた。
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