機械神族㉚
ボシュゥゥゥ・・・
雪から放たれた青白いビームが消えるとガーディアンの姿は無かった。
『ロストですってぇえええええええええええええ!量産型まで全滅・・・、あの連中がここまで化け物だったなんて・・・』
サリーがコクピットの中でガタガタ震えている。
(こ、こんな・・・、私がここまで追い込まれるなんて・・・、いくら量産型でも5体があっという間に落とさるなんて想像もしてなかったわ。しかも、まだ部下や弟子レベルの相手よ・・・、あのラリっている女神が本気になったらどうなるの?本当にあいつらの戦力はどうなっているのよ!化け物に間違いない・・・、もう地上の迎撃部隊はこのラスト・ガーディアンのみよ。あいつらが一斉に攻撃してきたらひとたまりもないのは確実だわ。もしかして、このエデンが滅ぼされてしまうの?)
ガタガタ震えている手をギュッと握った。
(落ち着きなさい私・・・、私はマスターが心血を注いで生み出してくれたハイブリット・ヒューマンよ。私は負けない、このエデンを名前通り楽園にするのが私の使命なのよ。マスター、ユリー、私に勇気を!)
冷華と雪が地面に降りると、夏子と千秋が出迎えてくれた。
千秋がニコッと微笑んだ。
普段から無表情な表情しか見ていない2人は、千秋の笑顔にドキッとしている。
「冷華に雪、よくやった。自分の力を慢心する事無く冷静に判断出来たな。」
「「あ、ありがとうございます!」」
「まぁ、課題もまだまだあるが、今後の訓練で向上させれば問題無いだろう。それにしても、この甲冑みたいな装備はもの凄いな。フェンリル族が自力で空を飛んだのはお前達が初めてだろうし、武器も色々と斬新で面白い。さすがデウス様が開発した武器だけあるな。潜在ポテンシャルは未知数だと思うし、これからの成長が楽しみだよ。」
千秋に褒められて2人も満更ではなさそうだ。
夏子が冷華の肩に手を乗せる。
「冷華、最後のビームを切る技は見事だったぞ。まさか、私の技を1回見ただけで真似されるとは思わなかったよ。お前がどれだけ成長するのか鍛える方としては楽しみで仕方ないな。美冬がお前を気に懸けている意味が分かったよ。」
ニコニコ笑いながら冷華を見ているが、冷華の方は冷や汗ダラダラになっていた。
「更に修行が地獄になるの・・・?」
誰もにも聞こえないくらいの小さな声で呟いていた。
「みなさん、お疲れ様でした。」
フローリアの声が聞こえてくる。
全員がハッとした表情で声の聞こえた方を向いていた。
「フローリア!元に戻ったの?」
美冬が嬉しそうにフローリアに近づいていくが、フローリアは気まずそうな表情をしていた。
「美冬さん、私に何かありました?まぁ、確かに少し楽く妄想はしていましたけどね。あんな雑魚はみなさんで倒してしまうと分かっていましたから、手を出さなかっただけですよ。」
「本当にぃ~~~~~」
ジト目で美冬がフローリアを見ている。
「本当ですよ、美冬さん。信じて下さいよぉ~~~」
何故か冷や汗ダラダラのフローリアだった。
「分かった分かった、そういう事にしておくわ。でもねぇ~、誤魔化すのは本当に下手ね、ソータの事になると、突然ポンコツ駄女神になるわね。普段の威厳は何処に行ったのやら・・・」
美冬が生温かい目でフローリアを見ていた。
「まぁまぁ、細かい事は気にしないでおきましょうね。」
少しおどおどしていたフローリアだったが、急に首をグルンと回しラスト・ガーディアンへ視線を移した。
「さて、これで私達との力の差は分かったでしょう?大人しく旦那様を返してくれませんかね?それとも、無駄な努力をしてみます?それならば、このキレイな都市が跡形もなく更地になっても知りませんけどね。」
とても女神とは思えない程に悪い笑みでガーディアンを見ていた。
『ふざけないで!私はこのエデンの管理者であり、守護者でもあるのよ!どんな相手でも絶対に引かないわ!マスターと一緒に作り上げたこの都市は私達の思い出、例え私が破壊されようとも全てを賭けて守る!』
ニヤッとフローリアが笑った。
「この心意気は素晴らしいですよ。だけど、私達の旦那様を横取りする理由にはなりません。さっきも言いましたが、あなたの方から進んで旦那様を返してもらうようになる程に、徹底的に恐怖を与えましょう。」
『ふざけるなぁああああああああああああああ!私を舐めるなぁああああああああああああ!』
サリーがグリップを思いっ切り動かした。
『ラスト・ガーディアン!こんな呪縛なんか振り払えぇえええええ!お前の力はそんなものじゃないわ!本気の力を見せるのよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
パリィイイイイイイイイン!
ラスト・ガーディアンの影に刺さっていた短剣が全て砕けた。
千秋が感心した表情で呟く。
「ふっ、なかなか根性があるわね。少し見直したわ。」
『どうよ!呪縛は破ったわ!今度は私のターンよ!吹き飛びなさぁああああああああっい!』
ビームライフルをフローリアに向けビームを撃った。
「ツインブラスタァアアアアアアアアアア!」
フローリアの背後から2本のビームが発射され、ビームライフルのビームに炸裂した。
ドォオオオオオオオオン!
両方のビームが拮抗した状態で大爆発を起こした。
スタッ!
「フローリア様!この戦いは私が引き受けます!」
ファルコンを装着したエリーがフローリアの前に降り立った。
「エリーさん!」
雪が叫ぶが、エリーは雪を見てニコッと微笑む。
「雪さん、心配しないで下さい。私も今や蒼太様の妻の1人です。旦那様を連れ去られて怒っているのは同じですよ。それに、雪さんとの戦いで負けはしましたが、私も成長する事が出来ました。その成長した力を試したい・・・、その気持ちも分かりますよね?」
「うん!分かったわ。エリーさん・・・」
雪とエリーが見つめ合う。
「思いっきり!やっちゃいなさぁあああああああああああっい!」
雪が叫ぶとエリーが嬉しそうに頷いた。
「友情って良いですねぇ~~~」
春菜が呟くとみんながうんうんと頷いていた。
『あらぁ~、どっかで見たと思ったら、あなたはΩ-000じゃないの?ユリーの試作ボディのあなたが生意気な事を言うのね。あなたのボディを発展させて出来たのがユリーだし、それを更に改良して完璧に仕上げたのが私よ。単に感情を持っただけのあなたが、どう足掻いても私に勝てる確率は0%よ。自殺行為にしか見えないわ。』
しかしエリーは全く物怖じしていない。
「そうですね。さっきまでは・・・」
突然、エリーの全身からどす黒いオーラが湧き上がった。
『こ、これは!こんな現象なんて見た事も無いわ!あなた!一体、何があったのよ!』
「さっきまでの私は単に感情を持った只の機械神族の1人でした。雪さんと模擬戦で負けて悔しさという感情も新たに理解しました。だけど、私の真の力に目覚めさせてくれたのは、サリーさん、あなたですよ。」
『どういう事?』
「この私のコアチップのAIにデウス母様に感情のプログラムを入れてもらいました。この感情はフローリア様を参考にしていると聞いています。それででしょうね、私は蒼太様がとても好き・・・、これが愛する心でしょう。そして、蒼太様が他の女性とイチャイチャしているのを見ているとムカムカする気持ち・・・、これが嫉妬なんでしょう。ここまではサリーさん、あなたと同じです。あなたの体とこの体の性能の差はどう頑張っても覆ることはないでしょう。」
「ですが・・・」
エリーの視線が鋭くなっていく。
「デウス母様はコアチップ以外に、この体に『あるもの』を搭載してくれました。それは『ソウル・ドライブ』・・・、疑似的な魂魄ですよ。」
『な、何ですって!魂の創造・・・、そんな事が本当に・・・』
「えぇ、本当です。でも、その事に気付いたのはさっきですよ。それまでは私もこんなものが搭載されているなんて知りませんでしたからね。その事に気付いたのは、サリーさん、あなたが蒼太様を転送して連れ去った時でした。大好きな旦那様を目の前で連れ去られた・・・、何も出来ずに見る事しか出来なかった私・・・、力の無い私は自分を許せなかった。もっと力が欲しい・・・、旦那様を守れる力を・・・」
エリーの装備が銀色から金色に徐々に変わっていく。
「私は力を求めた。『旦那様だけでなく、みんなをも守れる力』を・・・、すると、今までと違う力が私の中から溢れてきたのです。ソウル・ドライブ解放のアナウンスが聞こえてね。魂の力は意志の力、私の守りたい意志が強くなれば強くなる程にソウル・ドライブが応えてくれるのよ。その力の表れが、このファルコンの色よ。私の力が増す程に金色になっていくの。」
「でもねぇ~~~」
突然、エリーの口調が変わった。目のハイライトがどんどんと無くなっていく。
「守りたい気持ち以外に、別の感情も出てきたのよねぇ~」
『Ω-000・・・、どうなっているの?』
「あなたは旦那様をさらった、デウス母様と一緒に・・・、私の大、大、大、大、大~~~~~~~~~~~~~~~~~~~好きな人達を・・・、ずっと我慢してたけど、もう我慢出来ない・・・」
金色に輝いていたファルコンがどんどんと黒くなっていく。
それに伴って、エリーから先ほどと比べものにならないくらいのどす黒いオーラが全身から噴き出してきた。
「あなたが憎い・・・、単にスクラップにするだけでは物足りないわぁ~、あなたも感情を持っているからねぇ~、最高の恐怖を与えてから破壊してあげる。この私から大事なものを奪った事を後悔させてあげるわよぉ~」
「あっ!これはマズイわね。」
フローリアが呟いた。
「いい加減に止めないと、あの子が闇落ちしてしまうわ。デウス様も難儀なものを積み込んでくれたものね。あの子は感情に目覚めたばかりで、心はまだ未熟だから簡単に闇に飲み込まれてしまうわ。」
動き出そうとしたが、いつの間にか春菜がフローリアの隣に立って腕を掴んだ。
「フローリア様、少し待っていて下さい。」
「春菜さん、どうして止めるのですか?あのままだと完全に闇に飲まれてしまうのよ。早く助けないと!」
しかし、春菜は首を横に振った。
「私には見えます。新しい力があの邪悪な力を振り払ってくれるところを。だからもう少し待ちましょう。彼女が新しい力に目覚める為に・・・」
そう言って、心配そうにエリーを見ている雪を見つめていた。
「これが私の本当の力なのね。あぁ~、とても清々しい気分だわ。サリーさん、覚悟は良いかなぁ~~~」
エリーの装備が完全に真っ黒に染まっている。しかも、背中の鷹の翼が大きく変化している。
巨大なコウモリのような翼に変化し、装甲のいたるところが開き、どす黒い禍々しいオーラが噴きだしていた。
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