街の教会③
朝になって目が覚めた。
起きようとして体を起こそうとしたが動かない・・・
金縛りか?まさか異世界でこんな現象が起きるなんて・・・
後ろからフローリアの寝息が聞こえる。
フローリアにガッチリとホールドされていた。
俺の最強のはずのステータスだが、フローリアにかかれば子ども扱いみたいでビクともしない。
完全にフローリアの抱き枕にされていた。
フローリアが目を覚まし、やっと抱き枕状態から解放されたが、「う~~~ん・・・、やっぱり本物の旦那様を抱き枕にすると睡眠の質が違いますねぇ~。今日1日の元気が違いますよ。」
寝ぼけて抱き付いたのでなく、分かっててやってたのか。
フローリアのニコニコした笑顔を見ていると・・・(まぁ、フローリアなら許しても・・・)
いかん!いかん!あんまり甘やかすとまた暴走する可能性が出てくる。そこは適切に対応しないとマズイ。
「旦那様!旦那様!」
フローリアが目を閉じて唇を突き出してくる。
しばらく黙って見ていたが、フローリアが「何でおはようのキスをしてくれないんですか?拗ねちゃいます・・・」とちょっと拗ねた感じで言ってきた。
ホント自重無しになってきたなぁ・・・、でも可愛いぞ・・・
「今回だけだぞ。」
そう言ってフローリアにキスをした。
朝からちょっと疲れた気がしたが、朝食を作り、昨日と同じく教会の食堂でみんなと一緒に朝食を食べる。
またバーゲンセール並の争奪戦が始まったが、何とか無事に朝食を終わらせる事が出来た。
うちの子達よ、少しは遠慮というものを知ってくれ。孤児院の子供達が少し引いていたぞ。本当に今までどんな食生活をしていたんだろう・・・
礼拝は午後から始まった。
俺達は参加していたが、フローリアは俺達の家に待機していた。
お祈りが一段落した時に【フローリア頼む。】【はい、旦那様。】
突然、祭壇の上の方に小さな光の球が発生し、徐々に大きくなってきた。
かなりの大きさになってから徐々に人の形をとっていき、女神モードのフローリアが現れた。そして、宙に浮いたまま信者達に対して微笑んだ。
礼拝堂の中に大きなどよめきが広がる。
信者の1人が「おおっ!この神々しいお姿はまさに女神様・・・」と言うと、次々に「女神様が降臨された・・・」との声があちこちから聞こえる。
「信者のみなさん、あなた方の祈りで私はここに顕現出来ました。感謝します。」
「こうやって顕現出来ましたが、しかし、不幸な事もありました。その事で私は心を痛めています。」
誰一人声を発せず、じっとフローリアの言葉を聞いている。
フローリアが子供達を見ながら「この子たちはあの災害で故郷も家族も失い、そして、未来も失いそうになっています。この子たちの未来を守るため、みなさんのお力をお借りしたいのです。」
アンナが「昨日、お兄ちゃんと一緒にいたおねえちゃん?」と、マリアが「あの方は蒼太様の妻と仰った方、まさか・・・」とつぶやいた。
「この子たちには私からの加護、そしてみなさんには祝福を授けます。」
そう言った瞬間に全員の体が金色に光った。
「おお!目が見える!」「動かなかった右腕が動くように・・・」「腰の痛みが消えた・・・」「体から力が漲ってくる・・・」「今まで何を悩んでいたのだろう・・・」「奇跡が起きた・・・」「本物の女神様だ・・・」
礼拝堂全体が驚きの声で満ちていた。女神の奇跡が本当に起き、その場の全員がそのことを理解していた。
全員がフローリアに向い手を組み、一心不乱に祈りを捧げた。
「私からのみなさんへの祝福はここまでです。そしてこの子たちに与えた加護は、隠された才能を引き出す事が出来るようにする加護です。しかし、才能を引き出すには努力が必要です。」
「それでみなさんにお願いです。この子たちが努力出来るようにみなさんで見守ってほしいのです。時には優しく、時には厳しく、そして輝ける未来をこの子たちに与えていただきたいのです。」
「みなさんが幸せに笑いあえる事を願っています。」
そして徐々にフローリアの姿が消えていった。
その後、子供達は信者だけでなく街の人々から優しくも厳しく見守ってもらい懸命に努力して、全員が歴史に名を残す偉人となった。
財政難で困窮していた教会も、女神が降臨した教会として莫大な寄付が集まったが、決して贅沢をせず、恵まれない人々に手を差し伸べる事を信条として活動し、シスター達は女神教の聖母として人々の尊敬を集めた。
「フローリア、ありがとう。」
「これで良かったのですかね?」
「まぁ。俺も正解だったかは分からない・・・、けど、誰かが引き取るとなると全員はさすがに無理だろうし、地域全体として見守る方法が一番子供達にとっても良いんじゃないかと思う。特別扱いは増長の元だし、努力する心を常に忘れないのが大切だと思うしな。」
「やっぱり一番に思うのは、この世界はフローリアの創造した世界だ。この世界はお前の性格のように優しい人ばかりの世界だと思うぞ。絶対に良い方向になってくれると願っているよ。」
「だ、だ、旦那様ぁぁぁ~~~~~!」
フローリアが感極まって抱き付き、俺は優しく抱きしめた。
次の日・・・
教会のシスター、子供達全員が俺の家の前にいた。
「あれっ!みんな揃ってどうしたの?」
「神よ、今までの散々なご無礼をしまして、何卒ご容赦を・・・」
マリアさんがもの凄く恐縮している。
「旦那様、何があったのですか?」
そう言いながらフローリアがドアからひょっこりと顔を出してきた。
「女神様も!やはりここは神々の住まう神聖な場所だったのですね。」
全員が俺達に祈りを捧げてきた。正直、こんな行動をされるのは好きでない。
「フローリア頼む。」「はい、旦那様!」
「女神であるフローリアが命じる。今後私たちの事を特別に扱わず、普通の一般人として接する事を。異議は認めません。」
「そ、それでは、あまりにも失礼では?」
「女神からの命令ですよ。私たちはそう望んでいますので。」
フローリアは全ての人が安堵してしまうように優しく微笑んだ。
「そういう事!俺達は別に偉い人間にもなりたくないし、お隣りさんだからやっぱり仲良くお付き合いしたしね。シスター、フローリアがここに居るのも内緒だからな。」
「は、はい、分かりました。」
「それと、アレク。お前はやっぱり俺の事をおっさんと呼んでくれるのが一番しっくりするな。遠慮したらお前だけこの家の飯あげないぞ。」
「それは勘弁してくれ~!おっさ~ん!」「はははははは!」
「アンナ、俺の事はお兄さんだぞ。」「はい、お兄ちゃん!」
アレクが嫉妬の目で俺をガン見してきた。やっぱりアレクはこうじゃないとね。
「アンナちゃん、私の事はお姉さんお呼んでね。」「はい!女神様!でなくてお姉ちゃん!」
「ふふふ・・・」