機械神族㉕
デウスがお姫様抱っこのまま嬉しそうにずっと俺に抱き着いているが・・・
「デウス・・・、そろそろ離れないか?」
しかし、デウスが首をブンブンと横に振って離れるのを拒否している。
「嫌だ!もうしばらくお前の温もりを感じていたのだ。地上に戻ればフローリアがいるからな、すぐに引き剥がされてしまうのは確実だし、今は私の我儘を聞いて欲しい。」
上目づかいでウルウルした瞳でジッと見てくるし・・・
そんな顔で見られたら何も言えないよ。
「分かったよ。」
ぱぁ~と笑顔になり再びギュッと抱きつきいてくる。
「ふふふ、嬉しいぞ。今まで恋をしてなかった人生は本当に損をしていたな。恋をすると世界が違って見えると文献に出ていたが、まさにそうだよ。これからのお前との結婚生活を想像すると楽しみでたまらないな。」
「ははは・・・」
苦笑いしか出てこない。
(この調子だと、今まで以上に騒がしい毎日になりそうだよ・・・)
突然、目の前に巨大なモニターが出現した。
『息子よ・・・』
モニターに親父の姿が現れる。
「親父・・・」
ふと親父が笑った。
『私の事をまだ親父と呼んでくれるのか・・・、私は違う次元の存在であり、お前の本当の父親ではないのだぞ。』
俺もふと笑ってしまった。
「関係ないさ。その姿に仕草は俺の記憶にある親父と全く同じだよ。黙々と仕事一筋で大往生したのも同じさ。正直、俺はあなたを尊敬している。」
『なぜだ?』
「そうだろう、たった1人でこれだけの事を成し遂げたんだ。不幸な出来事にも負けず都市を作り、『機械神族』という種族まで作り出したのだからな。俺にはとても真似出来ないよ。」
そう言ってデウスを見るとニコッと俺に微笑んでくれた。
「それに、デウスを作ってくれて俺の妻になってくれた。親父が頑張ってくれたから、こうして出会い一緒になる事が出来たんだよ。それにデウスはこの神界の重鎮の1人にもなっている。デウスがいなければ神界の発展はかなり遅れていただろうな。全ては親父のおかげさ。」
「体は渡す事は出来ないけど、俺とデウスで協力してこれからの未来を作る協力はするよ。」
『感謝する。』
親父が深々と頭を下げた。そして嬉しそうに俺を見つめている。
『私は結婚も出来ず子供を残す事が出来なかった。しかし、今の私の気持ち・・・、これが父親の気持ちなのかもしれない・・・、私の事を父親と呼んでくれる存在がいる・・・』
『こんなに嬉しい事はない・・・』
「マスター・・・」
ユリーがいつの間にか立ち上がっていてモニターを見ている。
『ユリー・・・、今までありがとう。あの時、お前が私を励ましてくれなかったら、すぐに友里絵の後を追って死んでいただろう。お前のおかげで今の私がいる。孤独だった私をずっと支えてくれた。』
ユリーが片膝を付いて頭を下げている。
「いえ、私はマスターのサポートとして当然の事をしているだけです。それが私の存在意義ですから・・・」
「ユリーよ、そろそろ自分の気持ちに正直になった方がいいぞ。親子揃って結構な草食系だから、ちゃんと捕まえておかないとサリーに取られるぞ。」
デウスがニヤニヤしながらユリーを見ている。
『DUS-003よ・・・、いや、もうお前は私よりも上位の存在になってしまったな。これからはデウスと呼んだ方が良いかもな。』
親父が苦笑している。
『別に私は草食系ではないぞ。友里絵の事を忘れないようにユリーは友里絵そっくりに作ったのだ。そしてずっと一緒に暮らしてきた。最初は友里絵に対する気持ちだったが、いつしかユリー、お前の事自体が友里絵以上に好きになっていたのだよ。』
「マ、マスター・・・」
ユリーがポロポロと涙を流していた。
『だけど当時の私は単なる人間だった。そしてお前は私の持てる限りの技術の粋を集めて作った最高の体だ。魔素がある限り無限に稼働するし歳をとる事も無い。お前の気持ちも分かっていたし、迫られてお前を抱く度にどれだけ夫婦になろうと言いたかった事か・・・、だけど、人間の私と一緒にいられるのも数十年しかない。私の肉体が滅べばお前は1人になってしまう。淋しくならないようにサリーを作り住人をも創造したが、当時成功したのはサリーだけだった。そして、私の人間としての生命活動も限界を迎えていたのだ。いつかはユリーと同じような体になりずっと一緒になれるようにと思い、こうしてゼウスに私の知識と人格を移したのだよ。』
『全てはユリー、愛するお前の為に・・・』
ユリーが涙を流しながら蹲っている。
「蒼太よ、ちょっと降ろしてくれないか?」
デウスがそう言ってきたので床に下り、デウスを降ろした。
ゆっくりとデウスがユリーのところへと歩いて行き、前に立った。
「ユリーよ・・・」
ユリーがハッとした表情でデウスを見ている。
「DU・・・、いえ、デウス様・・・」
ニコッとデウスが微笑んだ。
「私と同じだな。生物でなく機械でありながら感情と恋というものを理解した。私もお前の気持ちはよく分かる。」
そして地面に膝を突きユリーの前にしゃがんだ。
「お互いに恋を知った者同士だ。私はいくらでもお前に協力するぞ。私の手にかかれば体なんてすぐに出来よう。だから安心しろ、最高の旦那を作ってあげるからな。」
「ほ、本当に?」
ニヤッとデウスが笑った。
「フッ、私を誰だと思っている。機械【神】デウスだぞ。私は出来ない約束はしない。」
「あ、あ、ありがとうございます・・・」
ユリーがデウスに抱き着き号泣していた。
「ふぅ~、これで一件落着だな。」
(何か忘れている気が・・・)
『息子よ・・・、いや、これからは蒼太と呼ばせてもらおう。いつまでも子供扱いは失礼だからな。』
「別に俺の事はどう呼んでも構わないさ。俺は『親父』って呼ばせてもらうけどな。」
『ふふふ、こうして親父と呼ばれるのは何度言われても嬉しいな。』
ニカッと親父が笑った。俺の記憶にある親父と同じ笑顔だ。
『これからもよろしく頼んだぞ。』
ふぅ、一時はどうなるかと思ったけど、こうしてお互い無事に済んで良かったよ。
さてと、そろそろ地上に戻るとするか。
「あっ!」
「どうした?蒼太よ、急に間抜けな声を出して・・・」
デウスが不思議そうに俺を見ている。
それにしてもなぁ・・・
ユリーはデウスの胸に顔を埋めて幸せそうにしているよ。こうして見るとデウスが母親みたいだぞ。
とても違和感ありありの光景だった。
「フローリア達の事を忘れていた・・・、やり過ぎていないかとても心配だよ・・・」
「確かに・・・」
デウスも俺と同じ事を想像したのか神妙な表情になっている。
「私も地上が焦土と化していないかとても心配だ・・・、フローリア1人でも地上の都市レベルなら塵も残さず消し去れるからな。」
お互いに真面目な顔で見つめ合っていると・・・
ビー!ビー!ビー!
警報が鳴り響き照明が真っ赤に変わり点滅している。
(何が起きた!)
ブゥン!
俺達の前に新たなモニターが現れた。
『マスター!ユリー!た、助けてぇえええええええええええええええええ!』
ユリーそっくりな顔の銀髪の美女サリーが錯乱状態で叫んでいた。
「サリー!どうしたの?あなたがそんなに慌てて・・・」
『あ、あいつらは本物の化け物よぉおおおおおおおおおお!絶対に勝てない!このエデンが滅ぼされるわぁああああああああああああああああ!』
チラッとデウスを見ると、デウスも俺の方を見ていた。
お互いに目が合うと盛大なため息が出てしまった。
(やっぱりかぁ・・・)
『そ、そんなに凄まじい状態なのか!』
親父が冷や汗をかきながらサリーを見ている。
モニター同士が向かい合って会話しているのも、何か変な光景だけど・・・
『ち、地上のガーディアン部隊は全滅!200体ものガーディアンがあっという間によ!しかも、量産型ラスト・ガーディアンも全滅!たった10人程の女神や天使達だけでよ!信じられない!』
『ドォオオオオオン!』
モニター越しに爆発音が聞こえる。
『きゃぁああああああああああ!』
「サリー!」
ユリーがサリーに叫んでいる。
『ラスト・ガーディアンの損傷率が50%を超えたぁあああ!自己修復が追いつかない!こ、こんな事って!』
ブン・・・
モニターが真っ暗になってしまった。
「マ、マスター!」
ユリーが俺にしがみついてきた。
「お、お願いします!サリーを!サリーを助けて下さい!私に出来る事なら何でもします!だから!お願いします!お願いします・・・」
俺にしがみつきながらブルブル震え泣いている。
姉妹のように一緒にいたサリーの事が余程心配なんだろうな。
(まぁ、あいつらの事だから恐怖を与えるだけで、滅ぼすような事はしないと思うが・・・)
ポンと頭の上に手を乗せて軽く撫でてあげる。
「マスター・・・」
とても心配そうな表情だが、俺はニコッと微笑んであげた。
「心配するな。サリーの事は大丈夫だろう。多分・・・」
「それにな、女性が『何でもします』と言ったらダメだぞ。俺が下衆な男だったらどうする?変な事をされても知らないぞ。」
今度はユリーがニコッと微笑んだ。どうやら落ち着いたみたいだな。
「ふふふ、マスターは優しいですね。変な事って言えばアレですよね?マスターになら私は抱かれても問題ありませんよ。むしろウエルカム!です!」
ガシッ!
「痛い!痛いです!」
デウスがいつの間にかユリーの背後に立っていて、頭を鷲掴みにしてギリギリと締め上げていた。
「この雌豚めがぁあああ!私の蒼太に色目を使うな!蒼太に抱かれて良いのは私だけだ!」
ポイ!
「キャン!」
デウスが無造作にユリーを放り投げると、可愛い悲鳴を上げて転がってしまった。
ユリーも意外と余裕があるかもしれん・・・
「このゴタゴタが終わったらすぐにでも体を作るとしよう。いつまでも蒼太に付きまとわれても堪らん・・・」
「それじゃ親父、上に戻るからな。」
モニターの親父に話しかけると少し渋い顔をしていた。
『蒼太よ、少し時間をくれないか?この地下都市は防御にかなりの数の結界を施している。結界を消さないと地上まで転送出来ないから、結界を消すのに少し時間がかかってしまうのだよ。』
「そうか・・・、なら、結界をぶち破って地上に戻るから、結界の修復を頼む。」
右手の掌を頭上に掲げると、空中に真っ黒な玉が出来上がった。
直径は3m程か。
「虚無よ頼む。一気にセントラル・タワーまでぶち抜くぞ。」
俺の手から離れた黒い球が高速で天井に飛んでいく。そのまま天井に吸い込まれてしまった。
天井に吸い込まれたように見えたが、その部分を見るとずっと上までトンネルが出来ている。
『何という出鱈目な力だ・・・』
「これが虚無の力さ。フローリアのところまでの障害物は『全て無かった事』になっている。それじゃ、また後でな。」
デウスが俺に抱きついてきた。
「こら!私を忘れるな。罰として私をお姫様抱っこでフローリア達のところに運ぶんだぞ。」
「分かったよ。」
デウスを抱きかかえると両腕を俺の首に回してくる。
ギュッと抱きついてきた。
「私の準備はOKだ、いつでも行っていいぞ。」
そして頬に軽くキスをしてくれた。
力とやる気が3割増しになった気がする。
一気に飛び上がり地上までの長いトンネルに突入した。
地上、セントラル・タワー
時間はラスト・ガーディアンが出現した時に遡る。
サリーの後ろに巨大なロボットが出現していた。大きさは軽く30mを超えるだろう。
「このラスト・ガーディアンはこのエデンの技術の粋を集めて創造した防御ロボットよ!いくら女神や天使でも生身では勝てないわ!」
サリーの背中から銀色の翼が生え、ふわりと宙に浮いた。
ロボットの胸の部分まで上昇すると胸部の装甲が開き、サリーが内部に収納された。
サリーのいる場所はコクピットのようなものだ。シートに座りシート横にあるグリップを握るとパネルの計器類が次々と点灯していく。
「ラスト・ガーディアン、戦闘モード!」
目の前のモニターにフローリア達の姿が映った。
「私の力を思い知りなさぁあああああああああっい!」
しかし、フローリアはニヤッと笑った。
いつもの優雅な笑い方でなく、とても邪悪な笑顔で微笑んでいる。
「ふふふ、単に私達に手を出すなら多少のお仕置きで済ます予定でしたが、旦那様に手を出してくれましたからね。」
どす黒いオーラがフローリアから湧き上った。
「あなたは決して手を出していけないものに手を出した・・・、私の大、大、大~~~好きな旦那様を連れ去った・・・、もう我慢出来ないわ・・・、楽に死ねると思わないで下さいね。この世の絶望というものを教えてあげますよ!」
「あはははははぁあああああああああああああああああああああああああ!」
フローリアの絶叫が響き渡っていた。
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