機械神族㉒
目の前が急に明るくなった。
空中の十字架に張り付けにされているデウスが潤んだ瞳で俺を見ている。
(あの世界の出来事は、本当に現実世界ではほんの一瞬だったみたいだな。)
キリッとした表情でデウスを見つめると、デウスがポッと頬を赤くしていた。
(うわぁ~、メチャクチャ可愛いぞ。完全に囚われの姫の役になりきっている!いかん!可愛いからってデレデレしてはダメだ!)
「デウス!俺に任せろ!少し待っててくれな。すぐに助ける。」
「蒼太・・・」
デウスがとても嬉しそうに微笑んでいる。
(だ~か~ら!そんなに可愛く微笑むなよ!)
こういう場面になって嬉しくて堪らないのは分かるけど、見た目はクローディアと同じなのに、クローディアとは違う可愛さを感じる。
【あ~ぁ、あれは完全に恋する乙女の目ね。あのデウスがこんなになるなんて想像出来なかったわ。】
(そ、その声はリリスさん!どうして?)
【ふふふ・・・、こんな面白い事を見物しない訳にはいかないでしょう?出番が欲しいって言って、みんなで表層まで出て来て見ているわよ。遠慮しないで私達の力を使ってね。】
(マ、マジっすか?)
【そうよ、だから頑張ってね。でもねぇ~、デウスだけが幸せになるなんて不公平だからルナの事も頼むわね。絶対によ!】
(は、はぁ・・・)
気を取り直して改めてデウスを見たけど、相変わらず嬉しそうだな。
しかし、ユリーが俺の前に立ちはだかった。
デウスはこうやって障害がある事も予想しているのだろう。その障害を乗り越えて助けに来てくれるのを期待しているのだろうな。どんだけお姫様役をやりたかったのだ?
ユリーが真剣な表情で俺を見ている。
「マスター、勝手な事をしてくれては困ります。これ以上の事はさすがに私も黙ってはいませんよ。今からはバベルの塔の守護者として行動させていただきます。」
その瞬間、ユリーの姿が消えた。
俺の後ろに回り込み、手刀を俺の首筋に打ち込み意識を刈り取ろうとしてきたが咄嗟にかわす。
再びユリーの正面に立ち対峙すると、ユリーが目にも止まらぬ速さで拳を連打してきた。
「はぁああああああああ!」
(さすがは守護者と言うだけある。並のマスタークラスでは勝てないくらいに強いな。だけど、美冬に比べれば止まって見えるぞ。)
パパパパパパッ!
全ての連打を掌で受け止めて防いだが、殺気を拳に乗せていないのか軽い!軽いぞ!
だけど、ユリーが青ざめた表情で俺を見ているし・・・
「私の攻撃が全て見切られているだと!そんなバカな!ドラゴンでさえも一撃で倒す私の全力の拳が・・・」
(えっ!全力だったの?)
「こうなれば!」
ユリーの右手がグニャリとなって剣に変化し構えている。
「私のこのナノマシンボディは変化自在!他人の姿に擬態も可能ですし、こうして体の一部を武器に変化して戦う事も可能です。」
スッと剣の切っ先を俺に向けてきた。
「なるべく無傷で行動不能にしたかったのですが・・・、仕方ありません。手足の1、2本は切り落としてしまうしかないですね。でも安心してください。ここの再生医療は完璧ですからね。切り落とされても後遺症を残さずにくっ付けますから。」
「それはさすがに勘弁だよ。」
「マスターが私達の言う事を聞いてくれないからですよ。覚悟!」
目にも止まらぬ速さで斬りかかってきたが・・・
ガシッ!
「そ、そんな・・・、私の音速を超える剣を受け止めるとは・・・」
ユリーの剣を俺の人差し指と中指で挟んで止めた。これは凍牙が得意としている白羽取りなんだよな。これをやられると、相手の自尊心はかなりズタズタにされるだろう。剣の腕に自信がある者ほどショックが大きい。
「残念だったな。音速ごときでは俺に掠る事も出来ないよ。せめて光速の域でないと勝負にならないぞ。」
そのままユリーを軽く放り投げた。
「きゃっ!」
尻餅を付いて少し痛そうにしているが、ほとんどダメージは無いだろう。だけどなぁ・・・、相手が女の人だとやりにくいなぁ・・・、どうしよう?
ユリーが忌々しそうに俺を見つめている。
「うぅぅぅ・・・、ここまで力の差があるとは・・・、そんなデーターは無かった・・・」
やっぱりデウスがやらかしたのは間違いないな。
さっきから俺の力がかなり弱く見積もられている感じだよ。どうやら偽のデーターをハッキングさせたみたいだ。
そうなると・・・
上でフローリア達の相手をしている方は可哀想だよな。俺と違って女同士だから遠慮はしないだろうし、トラウマにならない事を祈っているよ。
右手の剣を元の腕に戻し両手を広げている。
「ならば!空間拡張!」
周りの景色がいきなり変わった。
今までのホールも大きい方だったけど、遙かに広くなっている。端の方は霞んで見えるし、天井は青空のようになって見えない。
(さすが空間転移の科学技術を持っているだけあって空間制御が上手い。)
「これだけ広ければゼウスに被害は出ないでしょう。私以外の守護者は大き過ぎますし、加減を知りませんからね。マスター、降参するなら今のうちですよ。あと2体いる守護者に勝てる訳がありませんからね。」
「その提案は遠慮するよ。デウスと一緒に帰らせてもらうからな。」
「そこまで強がりを!もうどうなっても知りませんよ!」
ユリーの左右の床に巨大な光のリングが現われた。
ズズズズズ・・・
各々のリングの中央から巨大な姿をしたものが床からせり上がってきた。
「で、でかい!」
それはとてつもなく巨大なロボットだった。
1体は大きな機械のワイバーンのような姿で、全身が金色に輝いている。大きさは3、40mの高さはありそうだ。無機質な感情の無い目が俺を見ている。
もう1体はさらに大きな人型ロボットだった。
全身が銀色のボディにツインアイ、デュアルブレードアンテナ、主人公が乗るメカと言っても間違いないくらいにカッコイイロボットだよ・・・
(もしかして、俺って悪役?)
そう思いたくなるくらいにセンスの良いロボットなんだよな。
ユリーが2体のロボットの間に立っている。
「マスター、もう完全に勝機はありませんよ。このテラノとタイタンの前にはどんな力も通用しません。どんなに蟻が頑張っても象に勝てないのと同じですからね。」
「私を含めてバベルの塔守護者3体が揃って戦うなんて初めての事ですよ。もうマスターの事は過少評価しません。全力でお相手させていただきます。」
ちらっと奴等の後ろにいるデウスを見てみると・・・
(お~い、『早く助けてぇ~』という感じで嬉しそうに体をクネクネさせているな!助けるのを止めて俺だけさっさと帰るか?デウスなら1人でも何とでもなるだろうしな。)
俺の心の声が聞こえたのかデウスが冷や汗をダラダラ流しながら俺を見ているよ。
(分かった、分かった・・・)
デウスにサムズアップしてあげると再びニコッと微笑んでくれる。
(ホント、あの笑顔は反則だよ・・・、あんな笑顔をされると何でも言う事を聞きたくなってしまうよな。)
俺とデウスのやり取りがユリーの癇に障ったのか表情が険しくなった。
「ここまで我々をコケにするるとは・・・、どれだけの存在を相手にしてるか後悔しなさい!テラノ!タイタン!行くわよ!」
黄金の翼竜テラノが舞い上がった。上空から俺をジッと見ていたが、突然大きな口を開けた。
(やばい!)
あの口を見た瞬間に嫌な予感がし、咄嗟に横に大きく飛びのいた。
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアッン!
今まで俺がいた場所の床が砕け大きなクレーターが出来上がっている。
「これは!指向性のソニックブーム!まともに喰らったら全身の骨が粉々になっていたぞ。本気で殺す気かぁあああ!」
しかしユリーはニヤニヤ笑っている。
「マスターはこれくらいの事では問題ないでしょう?今までのデーターから計算して、マスターの身体能力なら気絶レベルで済むと結果が出てますからね。そして、テラノの攻撃はこれだけではないですよ。」
テラノの目が光った。
ズバババババァアアアアアアアアア!
「のわぁあああああああああああ!」
何十本ものレーザーが発射されたがギリギリで全てを躱した。
「この野郎ぉおおお!お返しだぁあああああああああ!」
俺の周囲に数十本の炎の槍が出現する。
「ファイヤー・ランス!一斉射!」
炎の槍が一斉にテラノ目がけて飛んでいく。
しかし!
「な、何ぃいいいいいいい!」
炎の槍がテラノの表面に当たった瞬間に消滅し次々とかき消されていった。
「これは、魔法防御?いや、違う!」
テラノの黄金に輝く装甲が一際激しく輝くと、俺を睨み大きく口を開けた。
口の中が真っ赤に輝いている。
「いかん!」
俺の背中に大きな白い翼が生え一気に上空に飛び上った。
その瞬間、テラノの口から大量の炎が吐き出された。そのままあの場所にいたら炎に包まれていただろう。
「ふぅ、危ない、危ない・・・、まさか俺の魔法を吸収して跳ね返されるとはな・・・」
「ふふふ、マスター、よく分かりましたね。」
ユリーも背中に真っ黒な翼を生やし空中に浮いている。
「私の体はナノマシンボディですよ。翼を生やして宙に浮くのは造作も無い事です。」
そしてニヤァ~と笑う。
「どうですか、守護者の力は?マスターがどれだけ強大な力をもってしても、あの大きさで肉弾戦は無理でしょう?しかも魔法は魔法吸収装甲で使っても反射されるだけですからね。そろそろ諦めたらどうです?」
「悪いが、俺は悪足掻きが好きなんでな。だから!」
テラノ目がけて高速で飛んでいく。
「これならどうだぁああああああああああ!」
思いっ切り左手を振りかぶった。
「左のおぉおおおお!ファントムゥウウウウッ!・クラッアアアアッシャーァアアアアアアッ!」
ドォオオオオオオオオオオオオオッンンン!
「何ぃいいいいいいいいいいいいいいい!いつの間に!」
タイタンの巨大な右手の掌が俺の左ストレートを受け止めていた。
ピシ、ピシ、ピシ・・・
ゴシャァアアアアアアアアアア!
タイタンの右腕が砕けたが、構わずに左手を振りかぶり俺を殴りつけた。
咄嗟にガードしたが・・・
グシャァアアアアア!
「ぐぁああああああああああああああああ!」
ドォオオオオオオオオオオオオオッンンン!
そのまま地面へと打ち落とされてしまった。墜落の衝撃でクレーターが出来上がっている。
上空のユリーが関心した表情で俺を見ていた。
「マスターがここまで頑丈だとは・・・、増々マスターの体が欲しくなってきましたよ。」
何とか起き上がりタイタンの方を見ると・・・
「嘘だろう・・・」
吹き飛んだ右腕のパーツが集まり輝くと元の右腕に再生していた。
「反則だろう・・・、あの巨体で空に浮かぶだけでなく、尋常じゃない反応速度・・・、しかも自己再生機能なんて・・・」
ユリーが勝ち誇った表情で俺に話し始める。
「マスター、そろそろ諦めたらどうです?大人しくさえしていればDUS-003は無事に返してあげるのですからね。まぁ、ある程度はメモリーを操作させていただきますが・・・」
大きく息を吐く。
「ふぅ、確かに今のままではジリ貧だろうな。『今のままでは』な・・・」
「まだ強がりを言っているのですか!我々との戦闘力の差を実感しているのでしょう?そろそろ諦めてもらわないと本当に死にますよ!」
ギロッとユリーを睨むとユリーがブルッ震えた。
「俺も本気を出させてもらうよ。後で壊した守護者を弁償してくれと言うなよ。」
意識を体の中に集中させる。
「な、何?マスターの体から青いオーラが・・・、それに幻術の翼が本物になっていく。しかもオーラの色のようにうっすらと青みがかかって・・・」
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」
俺の体から溢れた青いオーラが天まで高く立ち上る。
デウスがニヤッと笑った。
「ふっ、蒼太よ、やっと本気になったか。あの姿こそ神界最強の男の姿・・・、天使でありながら神の肩書きを持つ男。破壊【神】ブルー・・・、完全な姿で蘇ったか・・・」
オーラの放出が止まった。
そこに立っているのは今までの俺では無い。
今の俺に転生する前の俺、天使ブルーの姿で立っていた。
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