機械神族㉑
「ここは?」
目の前が明るくなって周りを見渡してみると・・・
「何だぁ~?我が家のリビングが目の前にあるなんて・・・、色々とおかしいぞ。」
(どういう事だ?)
「驚いたか?」
「そ、その声はご先祖様!どこに?」
「ここだよ。」
ご先祖様がソファーに座り寛いでいた。
(あれ!いつの間にソファーに座っているんだ?)
そして俺を見てニヤッと笑った。
「ここはお前の魂の世界だよ。外部の時間とは切り離されているから、元に戻っても全く時間は進んでいないから安心してくれ。それにしてもここはとても快適だな。お前の記憶を元に我々が作り出してみた。」
「はぁ・・・、え!我々って?」
「蒼太様、初めまして、ですかね?」
(え!何でアヤの声が聞こえる?)
慌てて声のする方を振り向くとアヤがニッコリと微笑んで立っていた。
「アヤ・・・、何でここにいるんだ?」
「違いますよ。よく見て下さい。」
いや、この可愛い笑顔はアヤに間違いないぞ。訳が分からん・・・
ん!よく見ると・・・
「あっ!犬耳が無い!それに尻尾も無い!髪の毛が黒色だから最初は分からなかった。」
「ようやく分かったようですね。私はアヤノ、アヤの前世ですよ。魂はアヤに生まれ変わっていますので、今の私は単なる残留思念のようなものですよ。ワタル様と同じように力を持った意思みたいなものですかね。」
「は、はぁ、そうですか・・・」
「そういう事だ。深く考えたら負けだぞ。」
ご先祖様が立ち上がりアヤノの隣に立った。アヤノが嬉しそうにご先祖様の腕に抱きついている。
「意思だけとなった我々は、本来はそう遠くないうちに消えてしまうはずだったのにな・・・、どういう訳かしっかりと固定化してしまい消える事が無くなったようだ。お前の魂の中に我々のような同居人がいるが気にしないでくれ。」
(いやぁ~、気にするよ、普通は・・・)
「それにしてもお前は本当に面白いな。私も生前は周りからは化け物だとよく言われていたが、お前はそれ以上の存在のようだ。あのデウスが興味を持つのも分かる。まさか、研究対象から恋の対象に変わるとは思わなかったけどな。世の中何が起こるか分からないから楽しい。それにデウスは私の大切な友人だ、必ず幸せにしてくれよ。」
「分かりました。必ず幸せにしますね。」
「それにしても、あのデウスがなぁ~、当時は幼女の姿をしていたが、今では恋する乙女になって大人の体になるとはな。まぁ、当時の体は今のフレイヤが使っているが、それにしても凄い技術力だよ。」
(はい?義母さんの体は昔のデウスが使っていた?そう言えば、義母さんは肉体を結界にしていて、今の体は義体だって言っていたよな。デウスがロリババ?う~ん・・・、あまりにも似合わないから想像出来ないよ。)
「もちろん、アヤも大切にしてね。早くあなたとアヤの子供も見たいわ。頑張ってね。」
アヤノが嬉しそうに俺に微笑んでくれる。
「ははは・・・、頑張ります・・・」
(勘弁してくれぇぇぇ・・・)
ニコニコしていたご先祖様が真面目な表情になり俺を見ている。
「さて、本題に移ろう。こうしてお前の魂の中に住む事になったのだが、ちょっと考えられない事が起こってしまってな・・・」
「どうしたのですか?」
「実はな・・・」
ゴクリとご先祖様が喉を鳴らす。
(何が起きているのだ?)
「兄さん!そんなに思わせぶりに言わなくてもいいだろう。」
俺の後ろから別の男の声が聞こえる。何で?
後ろを振り向くと・・・
「うっそぉおおおおおおお!」
そ、その顔は見覚えがある・・・
そして、その男の人の隣に立っている女性も・・・
「お義父さんにお義母さん!」
思わず直立不動の姿勢になってしまった。
凍牙と美冬の両親が俺の前に立っている。
「ど、どうして?」
義母さんが『うふふ・・・』と言いながら微笑んでいるが、かなり明るそうな性格っぽいな。
「里で凍牙と美冬に会えて満足したから成仏出来たと思っていたのよ。それに美冬の子供にも会えたし、孫の顔を見る事が出来て幸せだったわ。その後でね、孫の成長が気掛かりになってしまったのよ。輪廻の輪に戻るともう孫の顔が見れないと思ったら、突然、ヒビキさんと一緒にあなたの魂の中に吸い込まれてしまったのよ。」
「はいぃいいい!」
「これでずっと孫の顔を見れるわ。それに凍牙もパパになったし、孫が増えてもう幸せでいっぱいよ・・・」
義母さんがうっとりした表情で上の空のようになっていた。
(かなりの天然さんかも?)
義父さんが肘でツンツンとを義母さんを突いている。
「おいおい冬菜、自分の世界から戻ってこい。美冬の旦那が引いているぞ。」
「はっ!すみません、蒼太さん。でも孫は可愛いですよね。孫の顔を見たら『絶対に離れたくない!』って思っちゃって・・・」
それから美冬の義母さんから体感的に2時間くらい延々と色んな話を聞かされた・・・
凍牙や美冬の小さい頃の話とか旦那であるヒビキさんの惚気話とか、おしゃべりが大好きな義母さんだよ。
「すみません、蒼太さん、長々と下らない話で・・・、おほほ・・・」
「い、いえ、大丈夫です・・・」
(疲れたぁぁぁ~)
「蒼太よ、同居人はヒビキ達だけではないぞ。」
「え!」
(マジかい・・・、まだいるなんて・・・、俺の魂って、どうなっているんだ?)
「初めましてかな?」
少し青みがかかった肌のとんでもないイケメンの男が現れた。隣には褐色肌の銀髪の美女が佇んでいる。
「あのぉ~、どちら様で?」
イケメン男がフッと笑う。イケメンは何をしてもイケメンだよな。ホント羨ましいよ。
「私はルシフェル、かつて邪神王や魔王と呼ばれていたけどな。」
「何ぃいいい!」
俺の全身に緊張が走り、思わず身構えてしまった。
しかし、イケメン男は笑っている。
「そう身構えるな。私はもう戦う意思は無い。私の魂は女神に滅ぼされてしまったからな。ここにいる私はワタルと同じ思念だけの存在だよ。過去の存在である我々が未来に干渉する気は無いさ。」
そして隣の美女を抱き寄せた。
「それに、かつての妻であったリリスの魂をこの世界に連れて来てくれた。」
美女がイケメン男を見つめ微笑んでいる。
「妻を連れてきてくれたのは私を滅ぼした女神だよ。妻は私がワタルに滅ぼされた悲しみでずっと成仏出来なくてな、それを見つけてくれた。ここまでしてくれた相手に恩を仇で返す訳にいかない。だから、私もお前に協力するよ。」
「は、はいぃいいいいいいいいいいいいいい!」
(フ、フローリア!何をやっている?もしかして、凍牙達の両親が俺の魂の中に吸い寄せられたのも、あいつの仕業か?あり得る・・・、それでか!俺に虚無の力が残っていた訳が!)
美女がペコリと頭を下げてきた。
「リリスよ、よろしくね。さすがワタルが規格外の存在と言っているだけあるわね。魂の大きさが桁違いだから、こうやって私達があなたの中で存在出来るのでしょうね。この世界は過去の柵は全く無いし、私も夫と幸せに暮らしていけるわ。あなたの女神様に感謝ね。」
「は、はぁぁぁ・・・」
(まぁ、平和なら問題無いか・・・、ん!耳が尖っているぞ。)
俺の視線に気付いたのか、リリスが自分の耳を触っていた。
「そう、分かった?私はエルフよ。でもね、この肌を見れば分かると思うけど、私はダークエルフ・・・、エルフからも魔族からも疎まれる存在・・・」
ダークエルフ・・・
エルフ族は義父さんやフローリアの神殿でたまに見かけた事があったが、ダークエルフなんて始めて見たぞ。確か魔族とエルフ族のハーフだったよな?能力は両種族の良いところ取りで文句なく優秀なはずだ。だが、教えてもらった事だけど、どちらの種族からも受け入れてくれないんだよな。それをこのルシフェルが娶った訳だ。いくらお互いに好きでも相当の覚悟がないと無理だろうな。
リリスがクスクスと笑っている。
「ルシフェルはね、私を好きになってくれた物好きだけど、とても愛してくれたわ。私の居場所を作ろうと頑張り過ぎて邪神王と言われるまでになってしまったけど・・・、それで力に飲み込まれて破壊の神としてワタル達と戦った訳ね。」
ふとルシフェルを見ると済まなさそうにしている。
「リリスよ・・・、あまり言うなよ・・・、こうしてお互いの立場が無くなって腹を割って話す事も出来たしな。お互いに好きな者同士の居場所を作る為に頑張っていたのだ。我々の戦いが終わってからは種族間のいがみ合いもかなり減ったから、我々の戦いも決して無駄ではなかった事になるのだろうな。」
「正気に戻れた私も平和の為に力を使いたい。だから蒼太、お前に私の力を託す。お前なら私のように力に溺れる事もないだろう。」
「は、はい、ありがとうございます。」
(何てこった!邪神王の力まで俺が使えるなんて・・・、本当に俺の魂はどうなっているのだ?夏子のもっとややこしいモノみたいな感じかも?)
「どうした?汗ビッショリだぞ。」
ご先祖様が嬉しそうな表情で俺に話しかけた。
「まぁ、1つの肉体に2つの魂が混在する例は確かにあるが、1つの魂に複数の魂が存在する例は今まで無かったな。普通はキャパオーバーで魂が弾けるものだよ。だけど、お前の魂はキャパがあり過ぎなんだよ。普通の魂は表層と深層との2階層に分かれているが、お前の魂は何十層もの階層に分かれていてな、我々がいるのはこの1層と2層だ。お前の世界で言えばお前の魂はさしずめマンションみたいなものだよ。私の頃にはそんなものだとは気付かなかったけど、今から考えれば恐ろしい存在だったのだな。」
(ご先祖様達が楽しい住人という訳か?)
「そう言えば、地球の神が俺を地球に転生させる時に、魂の力が強力過ぎて苦労したと聞いた事がありますね。その時は聞き流していましたけど、これも関係しているかもしませんね。」
「多分な・・・、まぁ、深い事はこれ以上考えても答えは出ないだろう。今はデウスを助ける事に集中するのだな。デウスが格好良く助けてもらえるのを待っているぞ。アイツの力なら1人でも簡単に収められるのだろうが、アイツのヒロインになりたい女心を分かってあげてくれ。」
「ははは・・・、分かりました。」
ご先祖様が離れてすぐにルシフェルとリリスが俺の前にやって来る。
とても真剣な表情で怖い。
(何の用だ?俺が悪い事でもしたのか?)
そのまま2人がガシッと俺の手を握ってきた。
「蒼太よ、お前を男と見込んで頼みがある。リリスと相談して決めた事だ。」
リリスもルシフェルの言葉で頷いていた。
「我らが可愛い娘!ルナをよろしく頼む!」
・・・
「はいぃいいいいいいいいいいいいいいいっ!」
「蒼太さん、お願いよ!ルナはフレイヤに封じられているけど、封印が解けたらもう周りには誰も知っている人がいないのよ。たった1人で現代の神界に取り残されてしまうの・・・、母親としてもそんなルナを見るのは耐えられないわ。だからお願い!ルナの支えになってあげて!」
「心配するな。フレイヤの封印は時間停止の封印だ。目覚めても歳は取っていないぞ。自慢じゃないがリリスと同じでとんでもない美人なのは保証するよ。それに、たった1人でフレイヤ達を追い詰めたのだ、実力も申し分ないからな。」
「い、いやぁぁぁ・・・、いきなりそんな事言われましても・・・」
ポンと俺の肩に誰かが手を置いた。
恐る恐る振り返ると・・・
とっても良い笑顔のご先祖様がいた。
「蒼太よ、この事は既にアカシック・レコードに載っていたから諦めろ。それに予知の得意な女神にも予言としてアカシック・レコードから啓示はしてある。ソノカの生まれ変わりであるフローリアが上手く纏めてくれるだろう。」
(本当~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~に勘弁して欲しい・・・、これ以上の嫁さんは欲しくないという俺の願いは叶わないか!)
「ま、前向きに検討します・・・、ルナさんが俺の事を気に入ってくれればの話ですが・・・」
「心配するな。その点は私が保証しよう。アカシック・レコードは裏切らないからな。」
(つ、詰んだ・・・)
「さぁ、そろそろ時間だな。これからのお前の活躍はここで見させてもらうよ。神界に真の平和をもたらしてくれる事を祈ろう。」
周りの景色が段々と暗くなっていく。
ご先祖様を始めみんなが手を振って俺を見送ってくれていた。
(フローリアに転生させられてからは信じられない出来事が多すぎるぞ。アカシック・レコードよ!俺を虐めてそんなに楽しいのか?)
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