機械神族⑳
「さぁ、行こう・・・、新しい私の誕生に・・・」
蒼一郎が呟くとユリーの足下が光った。2人が光に包まれ光が収まると姿が消えていた。
「これが新しい私の体になるゼウスか・・・」
ユリーに抱かれたままの蒼一郎が一際高い塔を見て呟いていた。
「しかし、ここまで大事の設備になってしまうとはな。地下に地上と同じ規模の地下都市のようなものが出来てしまうとは思いもしなかったよ。まぁ、全ての事象を計算するにはこれくらいの規模のスーパーコンピューターを用意しなければいけないのは分かっていたが・・・」
そしてユリーを見つめた。
「ユリー、ありがとう。君のおかげだよ。これで心置きなく新しく生まれ変わる事が出来る。今はコンピューターと一体化するが、いつかは私も新しい体を持って生れ変わると約束する。しかし、クローンに関しての技術は禁忌として地球には残っていなかったから、研究するには時間が足りなかった。ナノマシン技術をもってしても私のコピーは作り出せなかった。何度ボディを作っても、なぜか分からないが暴走してモンスター化してしまうとは・・・、だけどゼウスになればそんな研究に関しての時間は気にしなくても良いからな。それに、私はこの世界の事は何も知らない。ずっとここで殻の中に閉じこもっていてもダメだろう。いつかは私達のような知的生命体と遭遇する事があるかもしれない。研究者の性だな、どんなに歳を取っても好奇心が無くなることはない。」
そして再び塔を見つめた。
「ゼウスの中枢が収められているバベルの塔・・・、ここが私の新しい人生の始まりだ。肉体が無くなる悲しみは全く無い、むしろワクワクしている。」
「マスター、やはり淋しいです・・・、いくらゼウスと一体となって意識が残っても、マスターの体が無くなってしまうのは耐えられません。」
ユリーが涙を流しながら私を見ていた。そんな顔をさせたくなかった。
「すなまい・・・、だけど、私は君達と違いただの人間だよ。あと数年すれば私も寿命で生命活動を停止するのは分かっている。自分の体の事は自分が一番分かっているからな。少し前倒しになるだけの事だよ。分かってくれ。」
「はい・・・」
「最後の仕上げだ、頼む。」
転移でバベルの塔の内部に移動した。
巨大なホールの中央に祭壇のようなものが設置されており、私はこの場所に寝かされている。
「さぁ!もう1人の私『ゼウス』よ!私と一体となり完全な姿になるのだ!」
その瞬間、私の体が光に包まれた。
(何て温かいのだろう・・・、心が安らぐ・・・)
そして私の体はナノマシンにより光の粒子と変換されゼウスと一体になった。
ユリーの頭上に巨大なモニターが現れる。そのモニターには蒼一郎が映っていた。老人の姿でなく40代の壮年の姿で。
『ユリー、成功だよ。無事にゼウスと一体になれた。』
「マ、マスター!成功されたのですね!」
歓喜の涙を流しならユリーがモニターを見ていた。
『これで君達とずっと一緒にいられるな。だが、これで終わりではない、まだまだやる事があるからよろしく頼むな。』
「は、はい!マスター!」
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『息子よ、こうして私はゼウスと一体となり、お前の前に現れたのだよ。』
「親父・・・」
厳密には異世界の親父で俺の本当の親父ではないけど、便宜上、親父と呼ぶ事にする。
しかし・・・
何て事だぁあああああああああ!
全くギャグが入っていないぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
ここまでシリアスな展開になるとは想像していなかった。作者も慣れない事で大変だったのでは?かなりストレスが溜まっていたと簡単に想像出来るな。よく頑張ったよ。
『ゼウスとなった私はまずこの都市の住人を創造した。ここまで立派な都市になったからな。ユリーとサリーだけしか住人がいないのは可哀想だ。いくらサリーがメンテナンスをしてくれて劣化する事がないといっても、傍から見ればゴーストタウンと同じだからな。簡易型のボディと2人から蓄積されたAIの技術を使い住人を作った。』
「だけど、今はほとんど誰もいない都市だぞ。どうしてだ?」
これは3年前にここに来てから不思議に思っていた事だった。門番のロボットみたいなものはあちこちで見かけたけど、エリー以外の人間タイプは見た事がなかった。
『簡易型だったのがいけなかったのか、感情を制御出来なくて暴走する個体が多すぎた。ユリーやサリーみたいなのは高性能過ぎてコストが膨大になり大量に製造する訳にはいかなった事もあった。原因を調べたところ、感情が暴走すると突き止めたのだよ。だから、簡易型のAIは感情を無くして単純な事しか出来ないようになった。』
『それでは住人と呼べない・・・』
(あぁ・・・、RPGの町にいるNPCの住人みたいな感じだな。決まったルーティンの事しか出来ないって訳だ。そんなのなら、単なるロボットでも可能か。)
『それと並行して私の端末であるDUSシリーズを製造し、都市の外に放ちこの世界の情報を集める事もしたよ。』
「DUSシリーズといったら、ここにいるデウスみたいな存在か?」
『そうだ、彼女は後期型だが、おかげでこの世界の事はよく分かったよ。まさか神が住む世界だとは思わなかったよ。異世界の存在は確信していたが、ここまでスケールの大きな世界に流れ着いたとはな・・・、数多くのDUSシリーズを失ったが、彼女だけが生き残った。そして、有益な情報を私にいくつももたらしてくれた。』
『この世界にはごく稀だが、私のように別の世界から流れ着く事があると分かったのだよ。もちろん地球からの人間もいたが、どの人間も文明レベルがあまりにも低すぎた。それで私は思ったのだよ。もしかして、私は遙か未来の地球からタイムスリップして流れ着いたのでは?とな。そう考えれば辻褄が合う。』
『それから私は延々と未来をシュミレートしてみた。それだけで200年はかかってしまったが・・・。それで私は1つの結論に行きついた。こうして神界が存在したのだ、それならば私の世界もパラレルワールドが存在するはずだとな。時間軸が合えばその中の1つの世界から私か私の血縁の者が流れ着くのではないのか?絶対に0だとの結論は出なかった。とてつもない低い可能性を信じて私は待つ事にしたのだよ。』
『そうなる未来を願って、私達は眠りについた。』
「それで現れたのが俺か?」
『そうだ!息子よ、お前こそが私が待ち望んだ可能性だった!』
「そして、俺の体を手に入れ肉体を持って復活すると?」
『おぉおおおおおおおおお!さすが息子だ!よく分かったな。』
「そりゃそうだろう、これだけ長い年月を経過しているのにも関わらず、親父が復活していない。今でもこのゼウスと一体になっているからな。どう考えても我が身の復活は行き詰っていると分かるよ。同じ地球人の肉体をもってして移植は無理だったのだろう。そして、身内の肉体ならナノマシンの拒絶反応が少ないと思っているのでは?」
そして俺はグッと身構えた。
「だけどな、俺にも大切な家族がいるんだ、はいそうですと言って簡単に体を渡す訳にいかないよ。」
『ふふふ・・・、ここまで分かっているのなら話が早い。息子よ、更なる科学の発展にその身を差し出すのを光栄に思うが良い!それに神の体というのも興味をそそるよ。無限と言える寿命、これで私は永遠に生きる事が出来るのだぁあああああ!』
「お断りだね。」
ガガガガァアアア!
「何ぃいいい!」
俺の両手足首に銀色のリングのような物が装着されている。
(いつの間に・・・)
大の字に張り付けにされたようになって体が動かせない。リングがまるで空間に固定されているようにビクともしない。
『ふふふ・・・、無駄だよ。お前の力はさっき見させてもらった。分析の結果、神となりいくら人間離れしているといっても、我々の技術力で対処は可能と判断出来たからな。』
「そうかい・・・」
ユリーが俺の前に立ち抱きついてきた。首に腕を回し上気したような表情で俺を見つめている。
(か、顔が近い・・・)
「マスター、騙すような事をして申し訳ありません。ですが、マスターが真のマスターとなる為には必要な事なのです。前マスターと1つになる・・・、何てすばらしいのでしょう・・・、こうして生身の体と抱き合える、私を愛してくれる時を待っていました。もう絶対に離れません。」
そして空中で張り付けにされているデウスの方に視線を移した。
「そして、DUS-003・・・、感情を持っていないはずのAIが独自の進化を果たし、恋というものまで理解してしまった。それに、私達よりも遙かに完璧なナノマシンボディ・・・、あぁ、隅々まで調べたいわ・・・」
(おいおい、デウスと一緒な事を言うなよ。)
『さて、まずはDUS-003の蓄積されたデーターを調べるとするか。ここまで進化した個体は面白い。完璧なAI、完璧なナノマシンの秘密を!』
デウスの全身に電流が走りガクガクと震えている。
「ぐあぁああああああああああ!」
「デ、デウスゥウウウウウウウウウウウウウウ!」
『おぉおおおおおおおお!何て素晴らしい!こんな発想は無かったぞ!こんなに素晴らしいデーターだとは思わなかった!しかも未知の技術であるクローンの技術も完璧だ!DUS-003!よくやった!これで私も肉体を持てる!』
歓喜の表情だった親父が、突然驚愕の表情に変わった。
『何だ!このデーターは!【疑似霊魂】?魂までも創造する研究だと!しかも、その試作霊魂はユリー達のナノマシンボディの試作であるΩ-000に搭載した・・・、その個体名は【エリー】・・・』
『バカな・・・、異世界どころか魂までの研究まで進んでいるだと・・・、信じられん・・・』
「ふふふ・・・」
『誰だ!この状況で笑っている者は!』
「ふはははははぁあああああああああああああああ!」
デウスが高らかに笑っている。全身に電流が流れ放電しているのにも関わらずニヤッと笑った。
『あり得ん!この電磁パルスはナノマシンの動きを抑制するはずだ!指1本動かせないはずなのに・・・』
「笑ってすまない。貴様達の茶番に付き合ってあげていたのだが、あまりにもレベルが低過ぎて笑いが我慢出来なかった。これが拘束装置だと?私には何も役には立たないがな。それに、貴様が見ていたデーターだが、もうかなり前のものだし、別に見られても困らん。だが、私の研究を理解出来たのは賞賛に値するよ。その点だけは褒めてあげよう。」
そして俺を見るが、ちょっと恥ずかしそうにしている。
「蒼太、お前はどうやら状況が分かっていたようだな。すまないが、しばらく私の茶番に付き合って欲しい・・・」
「分かった。でも茶番って言うなよ。お前が憧れていたシーンだろ?囚われのお姫様を助ける王子様になってあげるさ。デウス、お姫様らしく待っていろ。」
「あぁ、主人公らしく格好良く私を助けてくれ。」
デウスがとても嬉しそうに微笑んでくれた。思わず俺も微笑んでしまった。
(デウスもこうやって見ると本当に可愛い女の子だよな。おっさんの時のイメージが全く無いぞ。)
俺に抱きついていたユリーが驚愕の表情でデウスを見ている。
「そ、そんな・・・、単なる端末でしかなかったDUSシリーズが私達を遙かに凌駕しているなんて・・・、あり得ないわ。」
「残念ながら現実だよ。デウスは何て呼ばれているか知っているか?『神界最強7神の1柱、機械【神】デウス』って呼ばれているんだぞ。お前達が逆立ちしたって勝てない存在だろうな。」
「う、嘘・・・」
ユリーがヨロヨロしながら俺から離れていった。
(さて、俺も王子様らしく颯爽とデウスを助けに行くか。)
【蒼太よ、その茶番に我々も付き合わせてもらうぞ。デウスが絡んでいるし、とても面白そうだからな。】
「そ、その声はご先祖様!」
その瞬間、俺の視界がブラックアウトして真っ暗になった。
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