街の教会②
「はっ!私は何を!」
シスターが正気に戻ったみたいだ。
「いけないですね。昼間から眠ってしまうなんて・・・神様が降臨する夢を見るなんて疲れているのですかね?」
シスターが目の前の家を見て、また硬直してしまった。
「シスター、現実を認めて下さい。ただ、俺は神様でも何でもない普通の冒険者ですからね。」
「そんな訳ありません!」そう言って、シスターが俺に向かって土下座してしまった。
キリがない・・・
「まあまあ、シスター。今は子供達に美味しい食事を出すのが最優先ですから、この件に関しては考えないようにしましょう。」
「えぇぇ、あなた様がそう仰るのなら・・・」
何とかシスターをなだめて家に入り食事の準備を行う。
家に入った時もシスターは気を失いそうになったが・・・「コレが神の住まう場所ですか・・・」
シスターに聞いたが、女神教で食べれない食材が無いか確認したが問題無しだったので、子供も多いから肉料理がメインかな?
子供といえばアレが良いかな?圧力鍋を使って時短で作るぞ!
シスターに手伝ってもらい、2人で次々と料理を作っていく。シスターの料理スキルが高いのだろう、最初は地球のキッチンの使い方に慣れていなかったが、あっという間に使い方をマスターしてしまったので、一緒に作業する俺も助かった。
美冬は料理はあまり出来ないので直接作るのには参加していないが、アシスタントしては優秀だった。食材を取ってもらったり、出来上がった料理を次々と異次元収納に放り込んでもらった。
料理が出来たので、教会の食堂の大きなテーブルに取り出し並べた。
から揚げ、ハンバーグ、焼肉、焼き魚、サラダ各種、パスタ各種諸々・・・
数々の料理が並べられて、子供達の目が点になっていた。ついでにシスター達もな。
人数が多いのでバイキング形式での食事にした。
アレクが「おっさん・・・、これは夢・・・僕たちやっぱり死んじゃっての?」
おっさんって・・・
俺は見た目はまだ20歳だぞ!
「アレクだっけ?残念だけど夢でなく現実だ。アンナと一緒にお腹いっぱい食べれるんだ。どれも好きなだけ腹いっぱい食べて良いんだぞ。」
そして、俺は大きな寸胴鍋を収納から取り出し、「これが今日、とっておきのメニューだ!」みんなの前に置いた。
アンナが鍋を覗き込んで、「おっちゃん、これ黄色くてドロドロしてる。でも、とっても良い匂いがする。」すごくキラキラな目を俺に向けた。
「ご飯も沢山炊いたし、みんな食べようか。」
「「「「「「「「「は~~~い!」」」」」」」」」
「アンナ、じゃぁ1番目によそってあげるな。」そう言って、白米を盛った皿の上に黄色いドロドロしたものをかけた。
そう、これはカレーだ。もちろん、子供用に甘口仕立てだ。カレーと言えば嫌いな子供がいないくらいの人気食だからな。異世界の子供達も喜んで食べてくれると思う。
アンナが不思議そうな顔をしながら食べ始めた。
この世界の人にすればカレーなんて初めてだろうし、一口目を食べるのには勇気がいるだろう・・・
一口目を口に入れたが、しばらく黙っていてポロポロと涙を流し泣きだしてしまった。
「ちょっと辛かったか?それとも口に合わなかったか?」
「違う・・・」
「あの日、たくさんの人が死んだ・・・友達もたくさん・・・」
「やっとこの街に来たけど寂しかった・・・知らない人からお前はいらない子だと言われた・・・」
「私、生きていて良いの?かとも思った・・・」
「でも・・・」
「こんな美味しいものがあるなんて・・・」
「う、う、うわぁぁぁ~~~ん!」
泣きだしたアンナを優しく抱きしめ、「アンナ・・・大丈夫だよ。みんなは幸せになれる権利があるからな。悲しい事は忘れろとは言えないけど、今日くらいは思いっきり楽しみな。泣きながら食べると、折角のご飯も美味しくなくなるぞ。」
「う、うん・・・ありがと、おじちゃん・・・」
「アンナ、おじちゃんではなくて、お兄ちゃんと呼んで欲しいな。」
「うん、お兄ちゃん!ありがとう!」
アンナの後ろでアレクがすごい嫉妬の目で見ていたのは気にしないでおこう・・・だって、おっさん呼びは嫌だしな。決してアンナの兄になろうと言った意味ではないぞ!そこ重要!
みんなで食べ始めた。
しかし、すごい勢いだなぁ・・・子供達だけでなくうちの4人もシスター達も争奪戦に参加している。まるでバーゲンセールのオバちゃん達みたいだ。
巻き込まれたくないので少し離れたところから見ていると、
「ふふふ、みなさん楽しそうですね。」
フローリアが俺の横に立っていた。
さすがに女神の状態だとマズイので、ちゃんと翼を隠して人間の状態になっていた。
「フローリア、いつの間に・・・」
「びっくりさせるつもりは無かったのですが、みなさんが余りにも楽しそうだったので、黙って見ていましたのよ。さっきの話にあったダンジョンの事も気になりましたし・・・」
「まぁ、その話は今晩、家で話すか。子供達の今後の件でお前に協力してもらいたい事もあるしな。」
「分かりました。」
シスター・マリアが俺のところに近づいて
「蒼太様!この度は本当~~~~~~にありがとうございました!何てお礼を言ったらいいのか・・・」
「気にすんな。俺が好きでやっているだけだしな。それに、みんなの幸せな顔を見ているのが大好きなだけだよ。それにもうお隣さんだから、困った時はお互い様だよ。」
マリアがフローリアに気付き「この方は?」
「妻です!旦那様の妻です!!!」
ドヤ顔のフローリアがいた。
全ての料理を食べ尽くして、みんな満足な顔をしていた。食べ過ぎで唸っている者もいるが・・・
美冬!お前だ!
さて、子供達の今後の事もあるしシスターに確認しよう。
「シスター、ちょっと確認だけど、今後の目処はどうだ?」
「すみません・・・、正直どうにもならない状況です・・・教会本部からの補助金と街の人からの善意の寄付で今までは何とかしていましたが、やはりこれだけの孤児を抱えるとなると・・・」
「そうか・・・」
「また確認だけど、この教会では礼拝の集会というのは行っている?」
「はい。それは1週間に1回集会を行い、みなさんで女神様に祈りを捧げています。それが何か?」
「俺達もその集会に参加したいんだ。いいかな?」
「喜んで!明日に集会がありますので、是非とも参加して下さい!」
「ありがとう。それと今から礼拝堂を少し見せてもらっても良い?」
「大丈夫です!それでは早速行きましょう!」
シスターに連れられ礼拝堂に来た。
「シスター、明日の集会だけどちょっと俺からお願いがあって、子供達も参加させてもらいたいんだ。最前列のあの場所に集めて参加させてもらえないか?」
「畏まりました。子供達にも参加するよう良く言っておきます。何をされるつもりで?」
「明日のお楽しみさ。」
「さてと、みんなも腹が膨れて眠そうにしてたから、今日はもうお開きにして明日な。」
「神の御心のままに・・・」
「だから、俺は普通の人だって!」
その夜、俺の家でフローリアと明日の打ち合わせを行った。
「旦那様、この方法は思い付きませんでした。さすがですね。」
「あぁ、成功するかは半々だけど、子供達の将来に道を示してあげたいしな。3人の子供を育てたのは伊達でないかな。フローリア、明日は頼む。」
「お任せ下さい。ところで・・・、例のダンジョンの件ですが・・・」
「お前が変だと思っているなら普通ではないという事だろ?」
「そうです。私が設定したモンスターは確かに人を襲うようにしている個体もありますが、スタンピードを起こし、ましてや虐殺までするようなモンスターはいません。私以外の意志が介入していると思われます。」
「そうか・・・、やはりフローリア争奪戦の押しかけ婿の関係者か・・・」
「はい、間違い無いと思います。」
「無関係な人を巻き込むなんて神の風上にもおけんな・・・。何とかしたいが、ダンジョンの情報が全く無いし・・・。冒険者ギルドで情報を集めるとするか。」
「しかし、今は明日のイベントの成功に向けて頑張ろう。」
「さてと、寝るか。」
「旦那様・・・、今日は一緒に寝てくれないのですか?」
「添い寝だけならな。」
フローリアの顔がパァ~と明るくなった。
「は、はい!それではすぐに寝ましょう!」
暴走するかと心配していたが、フローリアは大人しく俺に寄り添って眠ってくれた。