機械神族⑲
「友里絵、俺はお前の分まで生きる・・・」
「さて、まずは現状確認だな・・・」
蒼一郎が立ち上がり周りを見渡す。
「計器類は点灯しているから電源は大丈夫のようだ。もし転移していたなら何処に転移させられたのかも確認しないとな。それにしても不思議だ、いくらこの建物は自家発電のシステムを持ってはいるけど、電源が無事だとは思わなかった・・・」
部屋を出て通路の窓から外を見て愕然としていた。
「な、何だこれは・・・」
窓の外の景色は蒼一郎の予想を超えていた。
「このラボの施設どころか敷地までが転移していたなんて・・・、これだけの広範囲の転移はあり得ない。道理で地下の電源システムも問題が無かったのか・・・」
「しかも、敷地の外は鬱蒼と茂った森だと・・・、一体、何処に飛ばされしまった・・・」
すぐに部屋に戻りキーボードを叩き始めた。
「電源が生きているならシステムは?頼む!稼働してくれ!」
ピ!
『システムOK』
「良かった、システムは無事だ!まずはここの座標を確認しないと、それに俺以外の生存者の捜索だ!」
「そんな・・・、どこにも該当無しだと・・・、衛星システムも稼働しないどころか、衛星自体が無いなんて信じられない。それなら現在位置も確認出来ないのは分かるが、もしかして全く新しい場所に転移してしまったのか?しかも、生存者は俺以外に確認出来ないと・・・」
「神よ・・・、どこまで俺に試練を与えるのだ・・・」
1年後
この世界はどうやら異世界で間違いない。生態系が既存のデーターと全く該当しなかった。
恐竜みたいな生き物がいたり、人型の生物までいたが知性というものは感じられなかった。
まさか、オークやゴブリンなどといった空想の生物が存在していたなんて・・・
大気の組成は地球とほぼ同じで、生命維持装置の必要も無く普通に生活出来るのは幸いだった。
この施設には非常用として大量の保存用食糧の備蓄もあり、俺しかいないので食事も困る事は無かった。しかし、いつも同じ味のものばかりだとさすがに飽きてくるのだが、生きる為には仕方がない。
そして、この設備の動力も核融合反応炉のおかげで、ほぼ永久に稼働が可能なので電源に困らないから助かった。普通に外部電源で稼働していたら、一切の文明の利器が使用出来ず、完全サバイバル生活になり俺も数ヵ月で死んでいただろう。
『マスター!』
「お!ユリーか。どうだ、新しい体は?」
ガシャン、ガシャンと足音を立て俺のところにやってくる。コンテナにタイヤを取り付けた作業ロボットのような姿ではなくなった。この施設の防衛武器である対テロ迎撃用の戦闘ロボットのボディを流用して、人型のロボットの姿にしたのだ。
見た目はちょっと愛嬌のある丸っこい感じのボディに手を加えた。
『はい、動きは全く問題ありません。それにマスターから私のAIをアップデートしてもらったおかげで、メインコンピューターにもアクセス出来るようになりましたから、色々と情報を蓄積出来るようになりました。』
「しかし、この1年でお前のAIも凄く進化したな。言動がかなり人間っぽくなってきたよ。このまま成長すれば、人間と同じように考え行動が出来るようになるかもな。」
『ありがとうございます。マスターの希望に叶うよう頑張ります。』
10年後
この世界にたどり着いてから10年・・・、あっという間に過ぎた感じだ。
時々、森の方から未知の生物が敷地の中に入り込んでくるが、迎撃用の戦闘ロボットのおかげで今のところは危ない状況まで陥る事はなかった。しかし、上空にとんでもない大きさのドラゴンのような生物が飛んでいるのを見かけるが、あんなものに襲われる事が無いように祈ろう・・・
そして、倒した生物の体内から時折宝石のような物が見つかる。10年かけて解析を行った結果、この宝石は大気中に含まれる未知の物質と同等だった。
この宝石に一定の周期の電流を流すと、莫大なエネルギーを放ったり、氷や雷など色んな現象を起こす事を発見した。まるで魔法のような現象だった。この宝石は分子レベルまで細かくしても各々が独立して現象を起こす事が出来た。
この現象を利用できれば、夢の技術『ナノマシン』が出来るのでは?
更に研究を重ねた。
20年後
とうとうナノマシンを作り上げる事が出来た。大気中の謎の物質を私は魔素と命名し、ナノマシンと魔素を結合させ魔法のような現象を発生させる事も可能となった。
このナノマシンの有効性はそれだけではなかった。
魔素を取り込みエネルギーになるだけでなく、別の物質にも変換が可能な事だ。この技術を使えば自己修復、自己増殖も可能となる。
おとぎ話にあった錬金術も可能になるに間違いない。
この建物もこの世界に来てから20年が経過し、かなり老朽化が目立ってきた。メンテナンスなんてしてなかったから当たり前か・・・、しかし、この技術を使えば、周りの木々を使い建物に必要な材料に変換も可能だ。
しかし、制御の技術がまだまだ出来ていない。ナノマシンの暴走を抑える方法を見つけなくてはならない。
私とユリーだけでは生きていくのに必死で、これ以上の研究まで手が回らない。
そろそろ、新しいサポートが必要になってきた。
そして・・・
私もいつまで生きられるか・・・
人間としての寿命の事を考えると、あと3、40年しか生きる事が出来ないだろう。
友里絵・・・、私は君の分まで生きると決めたが限界がある、私が永遠に生き続けるには・・・
やはり、あの方法しか無いのだろう・・・
残りの人生をかけてでもやり遂げるつもりだ。
ユリーをたった1人で残しておく訳にはいかない・・・
30年後
「ユリー、調子はどうだ?」
「あ!マスター!とても快適です。これが人間の体なんですね。今までの体と違ってとても動きやすいですし、何よりも、マスターとこうして一緒にいられるなんて、とても嬉しいです。」
「喜んでくれて何よりだよ。ナノマシン技術を駆使して、見た目どころか構造も人間そっくりに作ったからな。感覚も人間と同じように再現したから、もう人間と同じで構わないだろう。それに、ユリー、君のAIのおかげでナノマシンの制御も完璧だよ。メンテナンスフリーの体に、魔素があれば半永久的に活動も可能だ。まさに不老不死と同じ存在だよ。」
「嬉しいです!」
ユリーがギュッと蒼一郎に抱きついた。
「ふふふ、君のAIは本当に凄いな。思考が人間と全く同じだよ。しかも感情まで理解しているなんてな。」
嬉しそうな表情をしていたユリーだったが、急に不安そうな表情になった。
「でも、マスター・・・、本当にこの体で良かったのですか?かつてのマスターの恋人であった友里絵様と全く同じで・・・、あの時の辛い思いをまた甦らせてしまうのでは?」
「確かに友里絵を失った事は今でも引き摺っている。一生この悲しみは消えないだろう・・・」
そしてジッとユリーを見つめた。
「だけど、友里絵の忘れ形見でもある君がいる。そして、なぜか君のAIの思考は友里絵と同じなんだよ。君と話していると友里絵の魂が機械に乗り移っているのでは?と思った事もあった。だから、ユリー、その体を友里絵そっくりに作ったんだ。」
蒼一郎がガシッとユリーを抱きしめた。ユリーもそっと蒼一郎を抱きしめる。
「友里絵・・・、こうしていると君が生き返ったみたいだ。あの時と全く変わらない君がここにいる・・・」
「マスター・・・」
ユリーが潤んだ瞳で蒼一郎をジッと見つめた。
「いくら友里絵にソックリでもユリーはユリーだ。そして、私も本当の気持ちに気付いたよ。」
「愛してる・・・、ユリー・・・、私には君が必要だ。君がいなかったら、私はあの時すぐに死んでいただろう。君が私を救ってくれた。もう君無しでは生きていけない・・・」
「マスター、私も大好きです。ずっと一緒にいたいです。」
2人が見つめ合い唇が重なった。
お互いの顔が離れ見つめ合っているとユリーが微笑んだ。
「これが好きという感情なんですね。なぜだか分かりませんが胸の辺りが温かい感じがします。私は機械なのに不思議ですね。」
「ユリー、心を持った君はもう人間と同じだよ。私はそう思っているからな。」
「マスター・・・」
「ユリー・・・」
再びギュッと抱き合った。
部屋の入り口に1人の人影が立った。
「あぁあああ!マスタァアアアアアア!ずるいです!」
ユリーとそっくりな女性が腰に手を当てプンプンと怒っている。
見た目はユリーと全く同じだが、髪の色がユリーが黒色に対して銀色だった。
「すまない、サリー。君も無事に起動出来たみたいだな。それにしても優秀すぎるAIだよ。焼き餅まで再現しているなんてな。」
サリーは私のサポートとして10年前から開発してきた。ユリーのAIを複製し、一緒に生活を共にしAIの成長を促した。、今では完全に人間と同じ感情を再現している。同じAIとは思えないくらいにユリーとサリーは個性がハッキリと分かれていた。
こうしてナノマシンを利用してのボディ作りはサリーの協力無しでは出来なかっただろう。本当に優秀な子だよ。
ズンズンと私の方へと歩いてきてからガバッと抱きついた。
「私だってマスターの事が大好きなんです!除け者にしないで下さい!」
「サリー、悪かった。もちろん、私はサリーの事も大好きだぞ。これからもずっと3人で仲良く暮らしていこうな。」
「「はい!」」
嬉しそうに2人が頷いていた。
ナノマシンの制御も問題無く出来るようになった。いよいよ例の計画を実行に移す事が出来そうだ。
異世界に漂着してから60年後
「マスター、大丈夫ですか?」
ユリーが心配そうに私の顔を覗いている。
「あぁ・・・、大丈夫だ。だけど、さすがに歳には勝てないよ。」
私はベッドで伏せている時間が多くなってきた。
90歳近くまで生きてればそうなるだろう。この歳まで生きてこれたのはユリーとサリーのおかげだ。感謝してもしきれない・・・
「それではマスター・・・」
ユリーが私を抱きかかえた。
ヨボヨボの老人を20歳くらいの女性がお姫様抱っこをしているなんて、傍から見れば恥ずかしい光景だけど、私とユリーしかいないので構わない。
それに、ユリーは普段から私をストレッチャーや車椅子で運ぶことも嫌がっていたしな。
『マスターは私が運びます!』と言って頑として譲らなかった。
私を抱きかかえたまま窓の方に歩いて行く。
壁一面がガラスになっていて、目の前の光景が見えた。
「この研究施設もここまで立派になるなんてな・・・」
私がいる部屋は地上数百mの高さがあるビルの最上階だ。眼下にはビル群が建ち並びちょっとした都市のようになっている。
都市となったこの場所は当時は深い森の中だったが、今では広大な砂漠が広がっていた。
周りの木々は全てこの都市の構造物に元素変換した。砂漠になってしまったから森からの恵みは無くなり、食料や水の事の心配があるだろうが、人間は私1人しかいないので必要な物は都市内でのプラントで簡単に製造可能だ。砂漠と化した事もあり森の多くの危険な生物も排除出来たので、結果的には安全な都市になったと思う。
時々、砂漠に住み始めた生物や空からの巨大な翼竜なども襲ってくる事があったけど、強化された戦闘用ガーディアンにより問題なく迎撃していた。ガーディアンの手に余るような強力な個体も惑星制圧用の決戦兵器である巨大ガーディアンにより撃退した。
これらのガーディアンはメインコンピューターにデータがあったので、ユリーが頑張って作ってくれた。
それ以上にユリーとサリーの戦闘力も凄まじいものがあった。ナノマシンのボディが自己進化を繰り返し、見た目は可憐な美女の姿は当時から変わりはないのだが、数十mもあろうモンスターをもワンパンで倒す程に強くなった。
正直、この都市の最大戦力になるとは想像もしなかった。
本人達曰く、『マスターを守る為ですから当然ですよ。』と涼しい顔で言っていたが・・・
都市の拡張やメンテナンスはサリーに任せている。
本当によく頑張ってくれた。
おかげで私とユリーは研究に打ち込むことが出来た。
「さて、そろそろ例の計画を実行に移すか・・・」
私がユリーに話しかけると、少し淋しそうに頷いた。
「マスターのこの肉体が無くなってしまうのですね。もうマスターに抱かれなくなってしまうのですね・・・」
「ユリー、それは君も分かっているだろう?もうこの体では君を抱く事も出来ない。医療用のナノマシンで無事に健康で生きてこれたが、君達のようにずっと若いままにいる事は不可能だった。老いだけはさすがに克服は出来なかったよ。DNAをナノマシンで無理に書き変えると全く違う生物になってしまうし、私も化け物にはなりたくない。自然の摂理には敵わなかった・・・」
「だから、私はこの肉体を捨て永遠に生きる事を決めたのだよ。君達とずっと一緒に生きる為にな。」
「マスター・・・」
ユリーの瞳から涙が止めどなく溢れてくる。
「泣くな、ユリー・・・、この計画は30年以上前から進めていたから君も分かっているだろう?私専用のAIを製作し30年を費やし、私の知識、性格、記憶を全てコピーさせたのだ。それも普通のコンピューターではない特別なコンピュータにな。そのおかげで地下に巨大な施設が出来るとは予想しなかったが・・・」
「さぁ、行こう・・・、新しい私の誕生に・・・」
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