機械神族⑱
親父・・・
俺の記憶に間違いがなければ、あの姿は40歳くらいの頃の姿だぞ!
だが、何で機械神族と関わりがあるのだ?
俺の親父は大正時代の生まれで、78歳の時に俺達家族の前で大往生している。機械神族どころか神界とも関わりが無かったはずだ。普通の農家で農業一筋に打ち込んできたし、「ちょっと神界まで出かけてくる。」と言った事も聞いた記憶もない。
それなのになぜ?
考えれば考える程に謎が深まっていく・・・
俺が開けた穴からユリーが出てきた。
「マ、マスター!マスターも目覚めたのですね。死してから全ての記憶と人格をゼウスに移植を行い、我らの未来の指針を決めてから眠りに入って・・・」
ユリーの目から涙が溢れている。
「ど、どれだけ我々がマスターの目覚めを待ち望んだ事か・・・」
(親父がここで死んだだと?しかも、ここのゼウスという機械に記憶と人格を移しただと?この出来事は遙か昔に起こっている事には間違いない。時間軸も事象も全く食い違っている。訳が分からない・・・)
再び男の声が響いた。
『息子よ、いや、正確には並行世界の私の息子だな。DNA情報から私の息子と判断出来たよ。まぁ、いきなりそんな話をされても混乱するのも分かる、順を追って説明しよう。』
(並行世界?)
「パラレル・ワールドか?お前はその無限にあると言われる並行世界の1つの世界の俺の親父という訳か?」
『ほほぉ~、それだけの事で私の存在を分かってしまうとはな。さすが、世界が違っても私の息子だよ。私の世界では息子は出来なかった。いや、結婚すら出来なかったが、私も息子を持つとお前みたいな息子がいたのだろうな。』
「いや、別に俺はそこまで出来は良くないさ。単にその手の知識が豊富なだけだよ。」
『我々の地球は科学が頂点を極めていた。既に人類は太陽系を飛び出し、他の恒星系の居住可能な星々の開拓を行っていた。そして他星系の知的生命体とのコンタクトも果たし、銀河系の覇者として銀河統一国の中心となっていたのだよ。』
「凄いな・・・、俺達の地球では俺が生まれた頃は昭和になったばかりだぞ。しかも、海外に行く事すら大変な時代だったのに、そちらの方は宇宙を舞台にしていたなんてな。おかげで納得したよ。デウスが作った数々の武器が近未来の兵器に似ている訳が・・・」
『ふふふ・・・、面白いな。文化レベルが全く違っているのにも関わらず、同一の私が存在しているとは、さすが無限と言われるパラレルワールドの世界だ。こうして私とお前が巡り会ったのは奇蹟の中の奇蹟だろう。』
まぁ、そういう事にしないと作者が困るからな。誰も気付いていないみたいだから黙っていた方が良いだろう・・・
『銀河を手に収めた我々は新たな新天地を求めたのだよ。さすがに他の銀河に渡るには無謀過ぎた。我々の技術ではそこまでの超超距離の移動は不可能だったからな。そして新たにプロジェクトを立ち上げた。』
親父がビシッと腕を上げた。俺の親父と同じでパフォーマンスが好きだよな~、やはり同一人物に間違いないや。ははは・・・
『それは異世界への進出だ!』
『我々には既に空間転移の技術を持っていた。遠く離れた場所の空間を捻じ曲げ接続し移動を可能にしている。要はこの技術の応用で、我々の次元と別の次元とを繋げば良いと考えた訳だ!』
『しかし、この作業はとても難航した。なぜなら、普通の空間転移ならお互いの座標が分かっているから繋げる事は可能であるのに対し、異世界はどこにあるのかも分からない。目安が無いから繋げようが無いという事だ。様々な方法で異世界という存在を探したが見つける事が出来なかった。』
おぉぉぉい、話が長いぞ・・・、今回は説明回で終わりそうな予感がしてきたよ。
『そして、とうとう事故が起きてしまった。』
両手で顔を覆いうなだれるような仕草をしている。
(俳優の素質もあるのでは?)
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「はい、蒼一郎さん。」
机の上で突っ伏している男の前にコーヒーの入ったマグカップが置かれる。
「あぁ、ありがとう、友里絵。」
「どういたしまして。」
ユリーそっくりの女性が蒼一郎に微笑む。
そしてジッと見つめた。
「蒼一郎さん、あまり根を詰め過ぎてもダメですよ。あなたに何かあったら私が悲しみますからね。」
2人がチュッとキスをする。
「だけど、このプロジェクトは絶対に成功させないといけない。プロジェクトのおかげで結婚が先延ばしになってしまっているから、友里絵には本当に悪いと思っている。」
「大丈夫ですよ。私はいつまでも待っていますからね。」
ニコッと微笑んだ。
「不思議なものですね。私と蒼一郎さんはこのプロジェクトで初めて会ったのに、いつの間にかこんな関係になってしまうなんてね。まさかお互いに一目惚れとは思いもしませんでしたよ。恋愛小説みたいな事もあるのですね。」
「あぁ、その点に関しては俺もビックリだよ。だけどな、友里絵・・・、俺はお前を必ず幸せにする。」
蒼一郎が机の引き出しを開け、中から小さな箱を取り出した。友里絵の手を取り掌に乗せた。
「1週間遅れだけど、友里絵、誕生日おめでとう。」
友里絵がとても嬉しそうに微笑んでいる。
「覚えていてくれていたのですね。嬉しい・・・、開けても?」
蒼一郎が頷くと友里絵が箱を開けた。
ビックリした表情で蒼一郎を見つめている。
「そ、蒼一郎さん・・・、これって?」
「この1週間ずっと忙しくてお互いに会えなかったし、なかなか渡せなくて済まない。まぁ、結婚はまだまだだけど、ずっと婚約っていうのも悪いと思ってな・・・、せめて結婚した気分に出来ないかと思って、プレゼントは指輪にしてみたよ。気に入らなかったかな?」
友里絵がプルプルと震えていたが、ポロッと涙を流した。
「そんなの嬉しいに決まっているじゃないですか。最高のプレゼントです・・・」
そして左手を蒼一郎に差し出した。
「蒼一郎さん・・・、あなたに着けて欲しいです。」
「分かったよ。」
蒼一郎が箱から指輪を取り出し友里絵の薬指に指輪を着けた。
友里絵がうっとりした表情で自分の指輪を見つめている。
ギュッと蒼一郎に抱き着いた。
「最高に幸せです。蒼一郎さん、大好き・・・」
蒼一郎も友里絵を抱きしめる。
「俺もだよ・・・、友里絵、愛している・・・」
2人が見つめ合い、唇が重なった。
「ダメだ!どうしても異世界という存在を感知出来ない!4次元の座標をもってしても分からないとは・・・」
目の前にある大量の計器類の前でうなだれるように蒼一郎が立っていた。
1人の男が近づく。
「主任、そんなに焦っても結果は出ませんよ。だけど絶対に見つけましょう!僕も異世界がある事は信じていますから。」
「そうだな・・・、俺も焦り過ぎていたよ。だけど目に見えない存在というものはこんなに厄介だとは思わなかった。空間転移まで開発した我々人類がこんな事で躓くなんて・・・」
「くそっ!」
ドン!
蒼一郎が計器を拳で思いっ切り叩きつけた。
ピッ!
グォ~~~~~ン
ゴゴゴゴゴゴォォォ
「な、何だ!この振動は!地震が起きたのか!」
部屋の中に警報が鳴り響いた。警報が止むとアナウンスが流れる。
『未確認の波動を感知しました。危険です!ワームホールが発生!この辺りの座標が飲み込まれます!警告!警告!所員は至急ここから避難して下さい!』
「蒼一郎さん!」
友里絵が慌てて部屋に入ってきた。
「友里絵!アナウンスが聞こえなかったのか!ここは危険だ!早く逃げろ!」
しかし、友里絵はヒシッと蒼一郎に抱き着いた。
「いいえ!私は蒼一郎さんと一緒にいます!死ぬ時は一緒ですよ。」
「友里絵・・・」
「うっ!これは!全てのものがブレて見えるなんて!普通の空間転移の現象とは違う!もしや?」
この部屋の中の全てのものが2重にも3重にもブレ始める。
ゴゴゴゴゴゴォオオオオオオオ!
あまりの激しい揺れに2人は立てなくなり床に転がってしまった。
「友里絵ぇええええええええええええええ!」
「蒼一郎さぁああああああああああああん!」
次の瞬間、部屋全体が光に飲み込まれてしまった。
「うぅぅぅ・・・、どうなったのだ?」
蒼一郎がよろよろと立ちあがったが、目の前の光景に愕然とした。
「後藤・・・、この部屋から出て行ったはずなのに・・・」
先ほど蒼一郎と話をしていた男の姿があった。
しかし、その男は下半身が壁の中にあり、壁と同化しているのは見て分かる状態だった。
男は壁と同じ色になっていて、驚愕の表情のままに固まっている。
恐る恐る男に触れると・・・
触れた部分から砂のように崩れ消え去ってしまい、ただの壁しか残っていなかった。
「転移座標を間違えた時に起こる事故と同じだ・・・、かつて、間違えて壁の中に転移してしまい壁と同化してしまった現象が・・・、今はそんな事が無いように厳重に転移座標をチェックしてから転移しているはずなのに・・・」
「まさか・・・、さっきの現象は転移なのか?この部屋ごと転移してしまったのか?」
「はっ!友里絵は!」
キョロキョロと周りを見渡してみたが、誰も見当たらない。
「友里絵ぇええええええええええええええええええええええええええええええ!」
ガックリと座り込んでしまった。
「どこに行ってしまったんだよ・・・、友里絵・・・」
何気なく蒼一郎が床を見ていると突然固まってしまった。
「そ、そんな・・・、嘘だろ・・・」
視線の先には、床から人間の手首が生えている異常な光景があった。
四つんばいのまま慌ててその手首の場所に向かった。
「ゆ、友里絵・・・」
薬指には指輪が光っている。
震える手でその手を握ろうとしたが、サラサラと崩れ消え去ってしまった。
床には真新しい指輪だけしか残っていなかった。
「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
壁に蒼一郎がもたれかかっていた。しかし、顔には生気が無く生ける屍のような状態だった。
「もう、生きる気力も無い・・・、友里絵、俺もすぐお前のところに行くよ・・・、もう少し待っていてくれ・・・」
ピピピ・・・
ワゴンのような物に車輪が付いた機械が蒼一郎の前に来た。
「蒼一郎様ノ生体反応ヲ確認。生命維持ガレッドゾーン二入ッテイマスノデ、至急、救命措置ヲ取リマス。」
「ユリーか・・・、放っておいてくれ・・・、俺は死にたいんだ・・・」
「ダメデス。私ハマスターデアル友里絵様ヨリ蒼一郎様ノ健康管理ヲ任サレテイマス。私ノAIハソノ命令以外ハ受付ケマセン。栄養剤ヲ注射シマス。」
「好きにしろ・・・」
ワゴンの蓋が開き、中から何本ものマニピュレーターが出てきて蒼一郎の腕に注射をした。
「友里絵・・・、死んでも俺の世話を焼いてくれるなんてな・・・」
蒼一郎が腕を伸ばしユリーを撫でた。
「お前は開発者である友里絵の名前からユリーと名付けたんだよな。世話焼きのところなんか友里絵そっくりだよ・・・」
「友里絵・・・、もう少し足掻いてみるよ。お前の残したユリーの前でいつまでも無様な姿でいられないからな。」
ギュッと指輪を握り締め立ち上がった。
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