機械神族⑰
その頃、蒼太達は・・・
ここは?
確か・・・
足下が光って、その光に飲み込まれてしまったのか?
(どうやら転移させられたみたいだな。)
周りをキョロキョロと見渡してみると分かったが、とんでもない広さのホールのような場所だ。さっきまでのホールと比べても桁違いに広い。壁全体が薄っすらと輝いているのか、光源が見当たらないのにこの空間全体が明るいからとても助かる。
「しっかし、広いだけでなくこのオブジェは何なんだ?いくつも床から生えている感じだ。」
床から数10mの高さがあろうビルみたいなものがあちこちと立っている。窓は無いが、代わりに色んな色に点滅しているパネルがあちこちとはめ込まれている感じだ。
「上は空かと思ったけどとてつもなく高い天井かな?まるでアニメで見た地下都市みたいだなぁ・・・」
「おっと!デウスはどこに行ったのだ?転移させられた時にはぐれてしまったみたいだし・・・、一緒なフロアに飛ばされていればラッキーなんだけどな。」
【蒼太・・・】
(デウスか!大丈夫か?)
デウスからの念話が聞こえてくる。どうやら大丈夫みたいだ。問題はどこにいるかだが・・・
【あぁ、何とかな・・・、こうして念話が出来るという事は同じフロアにいるみたいだな。まぁ、奴等の目的は蒼太お前だし、必然的にこのフロアになるには間違いないか。】
「見つけました。DUS-003の思念の送信先を追ったらビンゴでしたね。」
(誰だ!)
いきなり上から声が聞こえた。
顔を上げるとオブジェの上に人影が見える。かなり高い場所に立っているのでよく見えないが、声からすると女性の感じだ。
フワッ!
「飛び降りただと!数十mの高さから飛び降りるなんて人間ではないな。やはり機械神族の仲間か?」
重力を感じさせないようにして、スタッと華麗に着地し俺を見つめた。
(エリー?)
あのサリーと同じで外観はエリーとそっくりな女性が立っている。銀髪のサリーに対して彼女は艶やかな真っ黒な髪だった。服装は濃い紺色のスーツを着ており、いかにも『私は出来る秘書ですよ!』って雰囲気を出していた。
深々とお辞儀をしてくる。
「初めまして、新しいマスター。私は識別番号β-009、個体名『ユリー』と申します。ここにあるゼウスの管理をさせていただいております。まぁ、このフロア全体がゼウスなんですけどね。ここで生活するマスターにはこれから色々と教えて差し上げますね。もちろん、私自身も含めてですよ。ベッドでマスターを満足させる自信はありますよ。ふふふ・・・」
とても蠱惑的な視線で俺を見て、ペロッと舌舐めずりをしてきた。
(ヤバイ・・・、あの目はアイツらと同じだ。ここにも肉食獣がいたかぁあああ!)
背中に冷や汗が流れる。
しかし、普通にニコッと微笑んでくれた。今のあの表情は何だったのだ?
「α-001め・・・、ちゃんとマスターをコントロール・ルームまで転送する手筈だっただろうが・・・、おかげでマスターとイチャイチャするタイミングを逃したじゃないの。あのポンコツメイドめぇぇぇ・・・、まぁ、マスターを味わうのは後の楽しみにしましょうね。体が疼くわ・・・」
何かブツブツ言っているけど・・・
とても身の危険を感じるのは気のせいか?
再びお辞儀をしてきた。
「さぁ、マスター、私がコントロール・ルームまで案内しますね。ここからそう遠くありませんから、そんなに迷惑にならないと思います。」
そう話すと、チラッと視線が横を向いた。
その視線の先には一際高い塔のような建物が立っている。
(あの1番高い建物がコントロール・ルームのある建物か?しかし、あのセントラル・タワーといい、こいつらは高い建物が好きだな。何とかと煙は高いところが好きというものか?)
「ところでデウスって言う女性を知らないか?俺と一緒に転送させられたと思うが。」
「さぁ、デウスという名前の個体はいないはずですが・・・、もしや、DUS-003の事ですかね?今はコントロール・ルームにいますね。だけど、アレは廃棄処分の予定ですよ。長い年月の間に余計なものを溜め込んでしまいましたから、リセットだけではダメだと判断しましたからね。」
「何だと・・・」
聞き捨てならない言葉が聞こえた。そんな言葉を聞いて我慢が出来る訳が無い、思わず殺気が溢れ出てしまった。
ゾワッ!
「ひっ!」
ユリーが俺にビビッて小さく悲鳴を上げてしまったけど、俺にとってはデウスの方がもっと大切だ。ふざけるな!廃棄処分だと!
「俺の大切な妻を廃棄処分と言ったな?お前の態度は俺への明確な敵対行動だ。デウスの居場所もお前の態度で分かったから遠慮はしない・・・、デウスを返してもらうぞ。」
右手を高々と掲げた。
「クローディア!」
しかしクローディアが現れない。ユリーは俺とコントロール・ルームがあるだろう建物へ行く通路の間に立ちはだかる。
(くっ!クローディアと念話すらも出来ない!神器の空間でも繋げられないくらいに、完全に隔離された場所なのか?)
「まぁ、構わないな。剣が使えなくても素手でもどうにかなるだろう。デウスさえ助ける事が出来れば、ここから出る方法も分かるだろうしな。女性に暴力を振るう趣味は無いが、邪魔をするなら悪いけど強行突破させてもらう。」
だが、ユリーがニヤッと笑った。
「マスター、怒らないで下さい。我々はマスターと敵対する気はないのです。我々の願いは只一つ、『マスターと永遠にこの地で暮らしていく』事ですからね。この願いの障害になりそうな因子は排除するだけです。分かって下さい。」
「ふざけるな!そんな理由だけでデウスを処分する理由にはならん!」
「これはマスターがこのエデンで永遠に住まわれるには大切な事です。マスターにはこのエデン以外の知識はもう必要ありません。しかしDUS-003は外部の情報を多く持ち過ぎました。このままではマスターに悪影響を与えるとの判断です。」
ユリーが右手を上げると、俺の上空に映像が浮かんだ。
「デウス!」
コントロール・ルームの中の部屋だろうか?デウスが十字架に貼り付けにされたような姿勢で空中に浮いている。ぐったりとした感じで目を閉じ、全身のあちこちにコードを接続されている姿が映った。
「私としてはこのような手段は取りたくありませんでしたが・・・、マスターはDUS-003の事を相当に気に入っているみたいですね。マスターの不敬を買いたくありませんので、彼女の廃棄処分は取り消しましょう。だけど、彼女は我々の手にある事をお忘れなく。マスターの態度次第で彼女がどうなるか分かりませんけどね。ふふふ・・・」
「くそっ!人質か・・・」
ユリーの周りの床があちこちと光った、光の中から何人もの人影が現れる。
「これは!街に入る時にゲートを守っていたロボットでは?それに何体も・・・」
俺の周りをロボットが囲む。そしてユリーがロボット達の前に立った。
「このガーディアンは1体でも一騎当千の戦闘力を誇っていますから、例えマスターの力でもこれだけの数には勝つのは無理だと思いますよ。それに彼女の無事を考えたらマスターには拒否権は無いと思いますね。大人しく私達の言う事さえ聞けば良いのです。」
ススッと俺の隣に立ち腕をかなり大きな胸の谷間に挟んできた。
(こら!アピールしてくるな!)
「さぁ、私がエスコートしてあげますね。ふふふ・・・、こうして腕を組んで歩くと恋人みたいに見えたりして?そのまま私を抱いてくれても構いませんよ。」
とても嬉しそうに俺の顔を覗き込んできた。
(勘弁してくれ・・・)
ユリーに密着されながら案内されると、予想通り一番高い塔の前まで連れられてきた。
(この中にデウスが・・・、必ず助ける!)
しかし、目の前まで来たのは良いけど、どこにも入口が無い。どうやって中に入るのだ?
俺と腕を組んでいたユリーが離れ、塔の壁の前に立った。
「マスター、この『バベルの塔』は入口がありません。ゼウスに認められた者しか入る事が出来ないのですよ。マスターは既に認められていますから、この壁に手を当てれば自動的に内部に転送されますよ。心配しないで下さい、決してマスターには危害を加えない事をお約束します。」
「そうか・・・、お前の言葉を信じるしかないな。」
仕方がない、デウスを助ける為には相手の懐に飛び込まなければならないのだろう。
「一体、何が出てくるのかな?」
壁に手を当てると一瞬にして目の前の光景が変わった。
「ここは?えらく殺風景な部屋だな。」
窓も何も無い、コンクリートだけに覆われているような部屋だ。広さは学校の教室くらいの感じかな?天井には蛍光灯のような光源があるが、椅子すらも無い。
「どう見ても独房だよな。しかも扉も無いなんて・・・、やはり騙されたのか?もしかして、この部屋で永遠に過ごすという訳ではないのだろうな?」
そう考えたら背筋がゾッとしてきた。
(まだフローリアの監禁部屋の方がマシだぞ・・・)
すると、部屋の中央部の床が光った。
その光の中から人影が現れる。
「デウス!」
光が収まるとデウスがボ~とした状態で立っている。ふらっとよろけて倒れそうになったので慌てて抱き止めた。
「デウス、大丈夫だったか?」
コクンとデウスが頷き涙を流し始めた。
「蒼太・・・、会いたかった・・・、そして済まない・・・、我々の都合にお前を巻き込んでしまって・・・」
(?)
抱きしめていたデウスを思いっ切り壁に投げつけた。
「きゃっ!」
しかし、デウスが華麗にクルクルと回転し、壁面にスタッと立った。まるで重力が壁面にあるように違和感無く床と並行に立っている。
そのままスタスタと歩いて床の上に立ちニヤッと笑った。
「よく分かりましたね、マスター。」
「あぁ、確かにそっくりだったから最初はデウス本人だと思ったよ。だけどな、抱きしめた瞬間に分かった。そっくりだけど何から何までデウスと違っていたってな。違和感を感じた瞬間にスキャンさせてもらった。俺の鑑定魔法を舐めるなよ。」
「マスター、ダメですよ、乙女の体を許可なく隅々まで調べるなんて・・・、エッチですね。まぁ、マスターがお望みなら私はいつでもマスターに抱かれますよ。マスターに喜んでもらう事が私の1番の使命ですからね。」
デウスの全身がグニャリと歪んでブヨブヨのスライムみたいな状態になった。グニグニと動くとまた人の姿をとり始めた。
その姿は・・・
「ユリーか!」
「そうですよ。私はこのバベルの塔の管理者でもあり守護者の1体です。DUS-003はお約束通り無事ですよ。だけど、DUS-003は元々はゼウスの端末です。もちろんマスターと一緒に過ごす事になるとは思いますが、端末は端末らしく我々に逆らえないように再調整はしますけどね。」
「そして、マスターはこの部屋に住む事にしてもらいます。急な事でしたので今は何もありませんがすぐに準備しますよ。そして、私、サリー、DUS-003と3人一緒に永遠にここで暮らしましょうね。マスターは何もしなくても構いません、私達が最上級の愛情を込めてお世話しますからね。それが私達の悲願ですぅうううううううう!」
(狂ってる・・・)
「さぁ!私達を受け入れて下さい!俗世の柵も苦痛も無い世界へ!快感と快楽の世界へ!」
「ふざけるなぁあああああああああああああああああ!」
「マスター!なぜ拒絶するのですか!」
「当たり前だぁあああ!何が快楽と快感の世界だ!そんな18禁だらけの世界の何が楽しい!寝言は寝てから言え!それに幸せは人それぞれ違う、楽に手に入る幸せなんか無い!それは逃げているのと同等だ!確かに大変な事も多いが、その中でみんなが幸せそうにしている、それが俺にとっての幸せだ。お前たちの言う幸せは望んでいない。」
ユリーが「はぁぁぁ~」とため気をする。
「どうしてもマスターとは分かり合えないのですね。やはり実力行使に出るしかないでしょう。マスター、意地を張っているとDUS-003がどうなってもいいのですか?」
「ここまで俺を引き込んだのは失敗だったな。それに俺を舐め過ぎているよ。アカシック・レコードに干渉して『俺とデウスは必ず巡り会う』運命を書き込んだ。もうデウスの場所は特定出来たさ。すぐ近くににいるとは・・・」
「ですがマスター、ここからどうやって出るのですか?転移は封じ込めていますし、この壁は神となったマスターでさえも破壊は不可能のはずです。ハッタリで我々の譲歩を引き出そうとしても無駄です!」
勝ち誇った表情でユリーが俺を見つめている。
「どうかな?」
無造作に俺は壁の前に立った。
押さえつけていた闘気を解放すると、全身からバチバチと闘気が放電を始めた。
「マスター、無理ですよ。DUS-003からハッキングしたデーターでマスターの能力は分かっています。どんなに頑張ってもダメなものはダメですからね!」
「黙って見てろ!」
ユリーが俺の怒鳴り声で固まってしまったけど無視だ。拳を握り右手をスッと後ろに下げた。
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!美冬直伝のぉおおおおおおお!マグナムッ!ブレイクゥウウウウウウウウウウウ!」
右拳を思いっ切り壁に叩きつけた。
ドオオオォォォォォォォンンン!
「これが無駄だって?」
チラッと視線を横に動かすと、ユリーがガタガタ震えながら腰を抜かしていた。
「デ、データーにここまでの力は無かったはず・・・、それ以前に高分子ナノポリマー・カーボン積層構造の防御壁を素手で砕くなんて・・・、あり得ない・・・」
「データー?」
「そ、そうよ!DUS-003のデーターをハッキングしてマスター達の戦力は分析済よ!あの雌豚共も今頃はサリーにボロボロにされているはずだわ。」
「そうか・・・」
デウスめ、やったな・・・
(おっと!デウスを助けないとな。)
キレイさっぱりと壁が吹き飛んでいる。
ふむふむ・・・、壁の厚さは約1mくらいかな?何てこった!俺達がここまで弱く見られているなんて・・・
穴を潜り抜けると目の前に更に大きなホールへと出てきた。
「ここまで来るとデウスの反応がすぐ近くに感じられるな。どこだ?」
「蒼太・・・」
「デウス!」
声が上から聞こえたので上を見上げたらデウスを見つけた。
しかし、デウスは空中に浮かぶ巨大な十字架に貼り付けにされていた。その十字架から何十本ものコードが出て、デウスの体のあちこちに接続されている。
「待ってろ!今、助ける!」
飛翔魔法を唱えると、背中から大きな金色の翼が現れる。
飛び上ろうとグッと足に力を入れた瞬間に、大きな声がホールに響いた。今度は男の声だ。
『よく来た、我が息子よ!』
(はぁあああああああああああ!何を言っている?)
次の瞬間、空中に巨大な映像が浮かび男の上半身が映った。
その男の姿を見て、俺は愕然とした。
「親父ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!何でだぁあああああああああああ!」
評価、ブックマークありがとうございます。
励みになります。m(__)m