機械神族⑮
「何が起こった?マスターとは何だ?」
いきなりの展開で状況が分からなくなっている。
周りの風景が一瞬で変わった。荒野の風景がとてつもなく大きなホールに変化していた。
「今のはマザーコアの声・・・、とうとう目覚めたのか?しかも、通常の部屋に戻っているぞ。私の手を離れてマザーコアが操作しているのか?一体どうしたのだ!」
デウスが驚愕の表情で周りを見て大声を上げる。
「マザーコアよ!蒼太がマスターとはどういう事だ!蒼太は普通の人間が神族になったばかりの者だぞ。何で遙か昔に存在したマスターとの血縁関係があるのだ?どう考えても変だぞ!」
突然俺達の前の床の一部が光った。
スーとした感じでメイド服を着た1人の女性が現れる。ニコッと微笑んでから深々とお辞儀をした。
(どういう事だ、エリーと瓜二つの姿だぞ。)
目の前にいる美少女は双子と言われても納得出来るくらいにエリーと同じだった。違いがあるとすれば、エリーは金髪なのに対して目の前の彼女は銀髪ぐらいの違いしかない。
頭を上げて俺を真っ直ぐに見つめてから口を開いた。
「説明させていただきます。本来のマスターは既に亡くなられていますが、あなた様はDNAの解析により、マスターの近親者と確認しました。よって、新しいマスターとして我々を導いてもらえる事でしょう。」
「そして、この体はかつてのマスターのお世話をさせていただきました、識別番号α-001、個体名『サリー』と申します。気の遠くなるような長い期間休眠していましたが、こうして再び活動しマスターのお世話が出来るのは感激です。」
そしてデウスの方に視線を移す。
「識別番号DUS-003、ご苦労様でした。全ての事象を計算する量子コンピューター・ゼウスの端末としてよく働いてくれました。ゼウスからの『いつかの未来に現れるマスターの血縁者をこの地に』との指示を全うし、こうしてかつてのマスターの血縁者を導いてくれたのですからね。」
デウスがわなわなと震えている。
「そ、そんな指示など知らん・・・、私の中のメモリーをどれだけ検索しても出てこない・・・」
「そうなのですか?どうやらゼウスからの指示の伝達に不具合があったようですね。だけどDUS-003、不完全ながらでも指示はちゃんと伝わっていたみたいです。彼のDNAが引き金になって執着するようになったのは、間違いなくゼウスからの指示があったからです。分かるでしょう?あなたは今まで誰にも興味が無かったのに、彼だけはとても執着していましたからね。さっき、あなたのメモリーをハッキングして見させてもらいました。彼のDNAに惹かれたのはその為ですよ。」
「嘘だ・・・、私の蒼太への気持ちが作られたものだと?」
デウスが大声で叫んだ。
「嫌だ!嫌だ!私は心から蒼太を愛している!そんなのは認めん!」
サリーがやれやれといった感じでため息をついた。
「残念ですが事実ですよ。それにしてもイレギュラーで感情を持ってしまったのは面倒ですね。そのせいですかね?ゼウスからの指示が上手く伝達しなかったのは・・・、感情は我々にとって邪魔なものです。我々はマスターの為だけの事を考えれば良いのですよ。それが我々の存在意義なのです。あの大事故で唯一生き残ったかつてのマスターが思い浮かべた世界を作る事以外は考えなくても良いのです。」
そしてデウスをジッと見つめた。
バカッ!
「ど、どういう事だ!バハムートが私の意思に関係なく解除されるとは!」
デウスの黄金の鎧が弾け飛び、サリーの横で黄金のドラゴンの状態に戻って浮いていた。
ニヤッとサリーが笑っている。
「無駄ですよ、DUS-003。あなたはゼウスの端末の1つですから、あなたより上位である私の命令には逆らえません。あなたが作り出したものは全て私の制御下に置くのも簡単に行えますからね。」
そしてデウスがよろよろと力無く倒れ、床に蹲ってしまっていた。
「面倒な体を作ったものですね。あなたのこの体は私達の中では最強の戦闘兵器なのでしょう。でも、私の前では無駄ですよ。このように機能を制限してしまえば無力ですからね。」
「うぅぅぅ・・・、蒼太・・・」
「デウス!」
慌ててデウスに駆け寄り抱き上げたが、弱々しい表情で俺を見ていた。
「蒼太・・・、済まない・・・、体に力が入らん・・・、こんな事態になるとは・・・」
「デウス、しっかりしろ!いつもの強気なお前はどこに行った!そんな情けない姿なんて見たくないぞ。」
しかし、デウスは弱々しく俺に微笑んでいる。
「蒼太よ・・・、私は多分ダメだろう・・・、予想以上にマザーコアの干渉が強い。私の力ではどうにもならない。私は感情を持った異端として廃棄されるだろう。だから・・・、せめてエリーだけでも一緒に逃げてくれ。この都市から出てしまえばマザーコアの支配も届かないはずだ。頼む・・・、私の分も含めてもっとエリーを愛してくれ・・・」
エリーの方に視線を移すと、エリーもサリーの制限を受けてしまったのかフラフラな状態で雪に支えられていた。
「ダメだ!デウス、お前も連れていく!」
デウスが俺の手をそっと握ってきた。
「蒼太よ、我儘を言うな。機械神族の戦力は私が1番詳しく知っている。いくらお前とフローリアの力が強大でも、私とエリーの足手まといを連れての脱出は不可能だ。それに冷華と雪に何かあっては凍牙に申し訳が立たん。だからお願いだ、私を見捨てて脱出してくれ。」
「デウス・・・」
しかしサリーはニヤニヤしながら俺とデウスを見ている。
「DUS-003、別れの挨拶は済ませましたか?あなたの今までに蓄えた膨大な知識は、我々の更なる発展に役立つでしょう。別に死ぬ事はありませんよ、ゼウスの一端末に戻るだけですからね。我々にとって邪魔な感情というものはメモリーを初期化すれば消せますし、再びゼウスの端末としてこの都市の発展に貢献してくれるでしょう。」
サリーの言葉を聞いていると段々と腹が立ってくる。
「黙れ!デウスを初期化するという事は、今までのデウスがいなくなると同じ事だ!そんなのは死ぬのと同じだ!俺がそんな事を認めると思っているのか?デウスは絶対にお前達に渡さない!」
「蒼太・・・」
デウスが涙を流しながら俺を見つめていた。
しばらくの間沈黙が続いたが、サリーが「はぁ~」とため息をついた。
「仕方ありませんね、手荒な真似はしたくありませんでしたが・・・」
そしてキッと表情を引き締め俺をジッと見つめた。
「マスター、少々強引な手を使ってでもこの地に引き止めさせていただきます。そして、DUS-003の知識はこの地の発展には欠かせないもの、我々が彼女に求めているのは知識だけです。しかし、この知識を利用してこの世界の支配者になる事も他種族を排斥する気も全くありません。」
うっとりした表情になる。
(コロコロと表情が変わるなぁ~)
「我々の願いはただ1つ!マスターと一緒に永遠にこの地で平和に暮らす事です。誰にも邪魔されずに・・・、マスターは元々は人間でしたが、この世界で神となり永遠と呼ばれるほどの寿命を得たはずです。この事は我々の悲願でもある永遠に一緒に暮らせるという事でしょう。前マスターでは叶えられなかった夢・・・、あぁ・・・、何てすばらしいのでしょう。」
(うおぉおおおおおおいっ!何が感情が邪魔なんだ!お前らの方がもっとヤバい感情だぞ!フローリアレベルのヤンデレなんじゃないのか?いや、それ以上かもしれん・・・、機械神族全員がそんな状態だと怖いぞ。どうやら自分達も感情を持っている事には気付いていない感じだ。こういう思い込みの強い者は、わが身の事は意外と分かっていないっていうのはよくある事だしなぁ・・・)
「さぁあああ!マスタァアアアアアアアアアアアアア!この地『エデン』にて永遠に私達と過ごしましょう!我々はマスターに全てを捧げます。」
「断る!」
「な、なぜですか?マスター!」
サリーが信じられない顔をしていた。
「マスターは我々の王、最高のおもてなしでお迎えするのですよ。このエデンにいれば俗世の柵からも解放されますし、何も苦労することは無いのですよ。ここは外部からの干渉は全て排除出来るほどの科学力、技術力を誇っています。永遠に平和な楽園、それをお約束するのになぜ断るのですか?」
「当たり前だよ。俺には大切な家族が、友人が、仲間がいる。そんな大切なものを俺が手放す訳がないだろう。」
「だ、旦那様・・・」
フローリアがうっとりした表情で俺を見ている。
しかし、サリーが不思議そうにフローリアを見ていた。
「変ですね、DUS-003のデーターでは、マスターは修羅場というものにいつも巻き込まれて死にそうな目によく遭っているとなっていますねぇ~、それに他種族との戦いの仲裁などでも大変な目に遭っていたりと・・・、こんな騒がしい日常が楽しい訳がないでしょう。もしかして・・・、マスターはMですか?大丈夫です、我々もマスターの性癖に合わせてあげますよ。」
(おいおい、俺は絶対にMではないぞ。断言する!)
「どうやら説得は無理そうなので実力行使に出ます。」
俺の周りの床が光った。
(何だ!魔力は感じない。しかし嫌な予感が・・・)
咄嗟にデウスを抱えて横に飛び上がろうとした瞬間に体に強烈な重力がかかり、一瞬だけど動きが鈍ってしまう。
「マスター!逃がしません!重力操作!」
「し、しまった!」
そのまま俺はデウスと一緒に光に飲み込まれてしまった。
「ふぅ~、これで良しっと。」
サリーが蒼太を飲み込んだ光を見て満足そうにしている。
徐々に光が弱くなり普通の床に戻ってしまった。
「魔法だとマスターに察知されてしまいますからねぇ、魔法を使用しない単純な転送機で転送をかけて正解でした。後はゼウスに任せるとしますね。」
そしてクルッとフローリア達の方に振り向く。
「さて、女神フローリア様でしたっけ?マスターは我々が手に入れました。もう夫婦ごっこは終わりですよ。」
しかしフローリアは笑顔だった。
「サリーさんでしたっけ?あまり旦那様を舐めてはいけませんわ。それにゼウスでしたっけ?どんな方かご存じありませんが、旦那様の相手をするなんて・・・、トラウマにならない事を祈りますね。まぁ、機械がトラウマになるかは疑問ですけど・・・」
次の瞬間、サリーの表情が鬼のように険しくなった。
「たかが女神風情が・・・、舐めた事を言ってくれますね。我々はマスターさえ手に入れれば後は興味がありませんから、そのまま帰ってもらおうと思っていましたが、気が変わりました。我々機械神族の力を見せつけて、2度とこの地に戻る気を起こさないように教育しましょう。ゴミはゴミらしく大人しく掃除されなさい!」
「ふふふ・・・、あなたはずっと眠っていたから、今の神界の事を分かっていないようですね。デウス様からのデーターだけで私達を把握したと思っているなんてお笑いですよ。それにデウス様の事もあなたは全く分かっていない、必ず痛い目に遭うと思いますよ。」
フローリアが優雅に両手を上に広げた。
「さぁ、私達の力を目に焼き付けてあげますね。神界の守護者としての真の力を・・・、あなた方達がどれだけ小さい存在なのかを分からせてあげましょう。」
「ロイヤル・ガード集合!久しぶりに暴れますよ!」
「「「「「了解!」」」」」
スタタタタッ!
フローリアの後ろに春菜達ロイヤル・ガード全員が佇んでいた。
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