機械神族⑭
雪が空中に浮いて俺を見つめている。
「少しは蒼太さんにダメージを与えられると思っていたけど・・・、なら!一点突破の攻撃でなくオールレンジで行きます!クローディアさんの神器1本だけでは対応出来ないくらいに全方位から!」
(とうとうビット攻撃をするつもりか?厄介だな・・・)
「フェザー!ビット!」
空中の雪の周りに大量の羽が舞っている。見た目はとても幻想的だが、実際は凶悪な兵器なんだよな。初見ではまず先制攻撃を喰らってしまうだろう。
だけど、俺は既に見ているからな。
俺に向けて羽が飛んでくる前に・・・
「サイクロン!」
雪の全身が巨大な竜巻に飲み込まれた。
冷華が叫んでいる。
「蒼太さん!容赦無いよ!一回見ただけで対処してくるし、雪にも少しは見所を作ってあげないと、雪のファンから刺されるよ!」
(冷華よ、そう言うな。生身であの羽攻撃を喰らったら、さすがの俺でもヤバイぞ。痛い思いはしたくないからな。)
だけど雪の方からは何も声が聞こえない。あまりにも雪が静かだ。
竜巻が消え去った後に、雪がいた場所には白い繭みたいなのものが浮いていた。
(何だ?まさか!)
繭か卵みたいなものがいきなり破裂すると、大量の白い羽が舞っている。
「ふぅ、危ないところでした・・・」
フェザービットを周りに展開して魔法を防いだのか?あり得るな。アルテミスの魔力の矢を反射するくらいのモノだ、魔法を防ぐのも簡単だろう。
春菜のシールド・ビットの上位版みたいなものだろうな。どれだけの防御力か試してみるか?
「ファイアー・ボール!乱れ打ち!」
俺の頭上からいくつもの火の玉が雪目がけて飛んでいく。
しかし、雪の周りに舞っている羽が火の玉の前に集まり全てを弾いていた。
(広範囲魔法だと雪の全身を覆うようになるし、直線的な魔法だと盾の状態で展開するなんてな。攻防一体の装備は厄介だ・・・)
「蒼太さん、次は私のターンですよ。」
そう言った瞬間に大量の羽が俺に迫ってくる。
「マズイ!シールド・ビット!」
俺の周囲に三角形の透明な縦がいくつも展開し、迫ってきた羽を全て受け止め連鎖的に大爆発を起こした。
ドガガガガガガァアッ!
「何いぃいいいいいいいいいっ!」
思わず叫んでしまう。
爆発の煙の中から何本も矢が飛んできた。
羽の爆発でシールドの耐久力が落ちてしまったので、矢は軽々とシールドを突き破って迫って来る。
キィイイイイイイイイン!
辛うじて神器で矢を弾いた。
チラッと雪を見てみるとすごく残念そうな表情だ。
「これでも蒼太さんには届かないのですか・・・、絶対に当たると思っていたのに・・・」
(いや~、今のはヤバかった。まさかシールドの耐久力を落とす為にビットを捨て石にするとは思わなかったよ。常に先手を打ってくる攻撃はさすがに厳しい。まぁ、そうなるようにしているんだけどな。)
エリーが唖然とした表情で雪を見ていた。
「雪さん・・・、私と戦った時は全然本気ではなかったの?あんなに連続で波状攻撃を仕掛けられたら、私だったら対処出来ずに手を出す前にやられていた。」
デウスがエリーの隣に立ち肩をポンと叩いた。慌ててデウスの顔を見ている。
「母様!」
「エリーよ、そう悲観するな。お前と戦った時のあいつも全力だったのには間違いないぞ。」
「そうなんですか?」
「そうだ、お前は知らないかもしれないが、フェンリル族の種族特性が関係しているんだがな。フェンリル族は種族として限界突破のスキルを持っている。戦えば戦うほど強くなっていく種族だ。際限なく強くなっていくが、その代表が凍牙や美冬だな。あの2人の強さはフェンリル族の枠を超えている。元々の才能もあったと思うが、あのヒビキに鍛えられたのだ、その強さは計り知れないな。そして、雪も伸びしろは美冬並にあると私は思っている。蒼太もそれを分かっているから、雪が考えながら効果的に攻撃が出来るように、今は防御に徹しているだけだけどな。」
フローリアも嬉しそうにエリーに近づいた。
「デウス様も気付いていたのですね。」
「この私が分からないはずがないだろう、誰だと思っている。それにしてもフローリアよ、お前は本当に面白い人材を集めてくるのが得意だな。いや、得意ではないか・・・、蒼太とお前の元に自然と人が集まってくるのだな。かつての初代創造神となったワタルも同じだった。あいつも蒼太も同じようにいつの間にか誰しも力を貸すようになっていた。私もその1人だったしな、今は好きの感情がとても強くなってしまったのはちょっと不思議だ・・・、私も長く存在していると心変わりをしたのかもしれん・・・」
フッとデウスが微笑んでいた。
「話が逸れてしまったが元に戻そう。凍牙と美冬以外のフェンリル族の中では冷華と雪が飛び抜けて優秀なのは分かっていた。だけど冷華は族長である雹真の娘、戦いからはもっとも縁遠い存在だった。あいつのスキルで私と縁が出来きたが、あの性格だ、技術云々よりも愚直に真っ直ぐ突き進む信念は私も面白いと思った訳だ。色々と武器を与え使いこなすのを見ているのは面白かったぞ。それにな、その武器を使いこなす為の体の動きも把握していたからな。武器は持っているだけではそんなに役に立たない、その性能をフルに使いこなせる技術をあいつは身に着けていった。まぁ、フローリア達のような化け物軍団に会って、自分がまだまだ未熟だと悟ったみたいだけどな。自分の弱さを素直に認める事も強者の資質だよ。常に謙虚な心で向上心を持つ、これが強くなる必要条件だと私は思っている。」
フローリアが頬を膨らませているが、本気で怒っている感じではない。
「デウス様、化け物軍団って何でしょうか?」
「その言葉通りだぞ。何か間違えているか?」
デウスがそう言うとエリーがヒクヒクと引きつって笑っている。お互いの立場があるのでエリーは肯定も否定も出来ない。
「フローリアよ、お前達がその気になれば、この神界を恐怖政治で治める事も可能だろうな。誰もお前達には逆らえん、そこまでの力を持っているにも関わらず奢らないお前達が真の強者だろうな。自然と優秀な人材が集まる訳だ・・・」
「また脱線してしまったな。さて、雪の方だが、あいつはフェンリル族の中でも非常に珍しい存在だ。希少な魔力持ちでもあるが、弓を得意としているフェンリル族なんて聞いた事もない。フェンリル族といえば接近戦の代表格だからな、狩りで弓矢を使う事はあっても戦闘ではまるで役に立たない程に弓は苦手なのだよ。フローリアはそれを一目で見抜いてアルテミスを与えたのには、私でも驚く事だったぞ。さすがは歴代最高の女神と言われているだけある、人を見る目も規格外だよ。」
「ふふふ・・・、デウス様、褒めても何も出ませんよ。」
フローリアが嬉しそうに微笑んでいる。
「だから、旦那様は今は雪さんに自由に攻撃させているのよ。でもね、ただ攻撃させている訳ではないわ。しっかりと考えさせて効率的に攻撃させているのよ。そうすることによって経験が身に付くの。普通に練習するよりも劇的に技術が向上するわね。だからよ、エリーさんと戦った時よりも更に強くなったのでしょうね。」
「そうですか・・・」
エリーががっくりとしていたが、グッと拳を握りしめて決意したような表情になった。
「でも、私も負けません!雪さんが強くなるなら私も強くなれるはずです!一緒に頑張ろうと約束しましたからね。」
「エリーよ、その意気だ。私もお前に協力するからな。凍牙の嫁軍団よりも蒼太の嫁軍団の方が優秀だと見せつけないといけないしな。」
「母様・・・、それは違う気がします・・・」
エリーがボソッと呟いていた。
「はぁあああああああああああ!」
キィイイイイイイイイッン!
雪の剣が俺の剣に受け止められた。
しかし、雪の才能は凄まじいぞ。遠近両方の攻撃を見事にこなしている。ビットで攪乱して、その隙を狙って矢が飛んでくるし、その矢すらも目くらましにしていきなり目の前に現れて切りかかってくるからなぁ~、千秋さんや、とんでもない化け物を育てたものだよ・・・
雪が離れ再び空中に浮いて俺を見ている。
「雪、そろそろ様子見は終わりにするぞ。」
雪がコクンと頷いた。
俺の背中に大きな白い翼が現れ空中に浮かんだ。
「蒼太さん、今のって飛翔魔法ですよね?何で翼が生えるのですか?」
「ふふふ、よく気が付いたな。最近は翼が生えているイメージのイラストが多いからな。俺もそうしてみたよ。飛翔魔法を使う時に自動的に幻術で翼のエフェクトを出すようにしてみた。我ながらカッコイイかな?」
しかし、雪の表情が微妙だ。
「蒼太さん、女神や天使のような女性なら見た目も幻想的で良いと思いますけど、男の人でのイメージはねぇ・・・、正直言って無い方が蒼太さんには似合っている気がします。」
「うっ!」
今までの戦闘で1番のダメージを喰らってしまった。クリティカルヒットだぞ。
確かにフローリアや春菜達みたいな美人や美少女なら翼は非常に華になるのは間違いない!実際によく似合っているからな。だけど、俺みたいな平凡な容姿だと逆に違和感があり過ぎときたか・・・
(カッコイイと思ったけど・・・、ショックだよ・・・)
「そ、蒼太さん!そんなに落ち込まないで下さい!さっきみたいなブルー様の姿なら翼もとても似合うと思いますよ。」
(やっぱり顔かぁあああ!雪よ・・・、フォローしたと思っているだろうが、更に俺の心を抉ってくれたよ。心のダメージが・・・)
しかし、無情にも雪は表情を引き締め俺を見ていた。
「蒼太さん、ショックを受けているみたいですけど手心はは加えませんよ・・・、今の状態なら攻撃が通じるでしょうし、隙は見逃しません!」
「アロー・レイン!」
雪から放たれた矢が何十本にも分裂し俺に迫って来る。
「フェザー・ビット!リフレクトモード!」
全ての矢が羽に反射して色んな角度から襲いかかってきた。
(勝負を仕掛けてきたか?)
「蒼太さん!空中に浮いたのは選択ミスでしたね。今までの地上と違って360°全方位から攻める事ができます!下からも狙い放題ですよ!この勝負もらいましたぁあああああああああ!」
高らかに勝利宣言されてしまった。
「ならば!シールド・ビット!迎撃モード!」
俺の周囲に三角形の透明なシールドが10数個出現し、一斉に全方位に回転しながら高速で展開して次々と矢を切り裂いていった。
俺に1本の矢も届く事は無かった。
驚愕した表情で俺を見ている。
「まさか・・・、防御シールドをブーメランのように飛ばして攻撃を行うなんて・・・」
「驚いたか?これはマリーに教えてもらったんだよ。マリーは防御特化型の天使だけど、性格が性格だからなぁ~、黙って防御だけするのも嫌で攻撃手段も欲しいと言って、防御シールドで何か出来ないかと考えてこんな手を考えてくれたのさ。防御シールドの間違った使い方だけど、お前のフェザー・ビットに近い事も可能なんだよ。」
そしてクローディアをグッと構えた。
「そろそろ終わりにしよう。」
「まだまだです!せめて一矢くらいは!」
アルテミスを構えて矢を放ってきた。反射を繰り返しながら迫って来る。
「クローディア!神器解放!」
【了解!】
神器が輝き5本の剣に分離する。1本の剣は俺が握っているが、残りの4本は宙に浮いて俺の周りを回っている。
回っている剣の1本がスッと動いて迫ってきた矢を切り飛ばした。
(クローディア!4本の剣の制御を頼む!雪も最後の土壇場で最高の大技を出すだろうしな。)
【任せて!雪!誰と戦っているか思い知らせてあげるわ!】
(おいおい、お手柔らかに頼むぞ。あくまでも模擬戦だからな。)
雪もアルテミスを上に掲げた。
「蒼太さん!私が今使える1番の大技でいかせてもらいます!神器解放!」
背後に数十人の雪が出現し、全員が一斉に矢を放った。
「ミラージュ・アロー!そして、いっけぇええええええええええええ!アロー・レイン!」
数百本の光の矢が雪から放たれた。いや、千本は超えているかもしれない。
「凄いな・・・、まるで巨大な矢の壁だぞ。雪も本気の本気で挑んできたな。タグに『主人公最強』と出ているから、タグ詐欺と言われないように気を引き締めるか。」
グッと剣を握り締める。
「こんなもので俺は止められん!重力魔法、リミッター解除!いくぜぇえええええ!」
俺も一気に飛び出し、矢の雨の中に突っ込んだ。
光の矢が乱反射を繰り返し、全方位から迫り俺を打ち落とそうとしている。矢の雨の中を高速でジグザクに飛行しギリギリで矢を躱す。だけど全ての矢を躱すのは不可能だ。だから・・・
「ダンシング・ブレード!」
俺の周囲を回っている4本の剣が、意志を持ったように目にも止まらぬ速さで動いて次々と矢を打ち落としていく。
冷華が信じられない顔で2人の戦いを見ている。
「な、何なの、あの2人は・・・、あれだけの攻撃をする雪も化け物だけど、その攻撃を躱す蒼太さんはもっと化け物よ!あんな高機動で動ける飛翔魔法なんてあり得ないわ・・・、あまりの速さにいくつもの分身が見えるなんて・・・、しかも、あれだけの矢の動きを全部把握しているみたいに的確に躱すか打ち落とすなんて考えらないわ!蒼太さんって○ュー○イプなの?」
「よし!弾幕を抜けた!」
矢の雨を抜けた先には信じられない表情をした雪が浮いていた。
「う、嘘・・・、あの中を無傷で切り抜けるなんて・・・」
今、俺が握っている剣は分離した剣で、長さは普通の剣と同じくらいだ。この剣なら無蒼流を使える。
スッと剣を目の高さに構えて突きの姿勢を取る。
「無蒼流秘奥義、終の型・・・、乱れ雪月花ぁああああああああああ!」
防御の羽を全て打ち落とし、そのまま無数の突きを雪に浴びせた。
「きゃぁあああああああああああああ!」
雪の悲鳴が響き渡った。
ピタッ!
剣の切っ先が雪の目の前で止まっている。
「これでチェックメイトだな。」
俺はにこやかに微笑んだ。
「は、はい・・・」
雪が力無くうなだれて、ゆっくりと地面に降り立った。そのままペタンと座り込んでしまった。
俺もそのまま雪の前に降り立つ。
「ははは・・・、少しは強くなったと思ったのですが・・・、蒼太さんには全く敵わなかったです。」
雪の目には少し涙が滲んでいた。
(悔しいのだろうな。)
「雪、そんな顔をするなよ。よく見てみな。」
そう言って俺の左腕を見せた。
「こ、これは!」
雪が驚いた顔で俺の腕を見ている。肘から手首までザックリと裂けていた。
「1本だけ躱し損ねたよ。お前の気迫の一撃は俺に届いたって事さ。よく頑張ったな。」
「あ、ありがとうございます・・・」
嬉しそうに雪が微笑んだが、すぐに不思議そうな表情になった。
「蒼太さん、その傷って普通の傷ですよね?ヴァーチャル・フィールドだとそんな傷は出来ないはずですよ。」
「あぁ、これか?実はな俺だけヴァーチャル・フィールドの効果から外しておいたのさ。怪我をしない死なないって甘えを無くすようにして、真剣に戦うようにしていたのさ。最初に言ってしまうとお前は遠慮してしまうだろうし、内緒にして全力を出して欲しかったからな。」
「蒼太さんには敵いませんね。ホント、凍牙さんと一緒でバトルジャンキーなんですね。」
「いやいや、そんな訳ではないからな。まぁ、俺の周りは最強メンバーが揃っているから、俺も置いていかれないように必死なんだよ。主にあいつらから逃げる為にな。」
そう言ってフローリアをチラッと見た。
雪も俺の視線の先を分かったのか苦笑いしていたけど・・・
俺の腕の傷から流れていた血がポタッと地面に落ちた。
その瞬間、地面全体が輝いたが、すぐに光が収まる。
「何だ?」
『DNA情報を確認。マスターと認識しました。』
『お帰りなさい、マスター。ずっとこの日を待っていました。』
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