機械神族①
「どっせぇえええええええいっ!」
グシャァアア!!!
「ふぅ、これで何匹目だよ・・・」
疲労困憊のゴンザが巨大な斧を地面に置いてゼイゼイ言っている。
目の前には大人よりも大きい巨大なサソリが息絶えていた。そして後ろを擦り返る。
「親方、すみません・・・、私達のせいで・・・」
若い男女の冒険者がとても申し訳なさそうに頭を下げていた。
しかし、ゴンザの視線はもっと後ろの方を見ている。
「いや、お前達は悪くないぞ。そもそもコイツが勝手にお前達に付いて行ったのが悪い!」
「ジーク!帰ったら母さんからもみっちりと説教だぞ!いくら多少強くなったからって、9歳でダンジョンに挑むなんてアホか!ここは初心者ダンジョンだからっていっても甘くないぞ!」
ジークと呼ばれた子供がゴンザに怒られてビクビクしている。
この子はゴンザとウエンディの子供だったりする。顔や体つきは父親のゴンザの要素は全く無く、ギルドでもNo.1の座を争っているマリーと同じくらいにキレイな
母親のウエンディの面影が強い。あと5年もすればかなりのイケメンになるだろう。
ジークを見た人からは必ずといっていいほど「良かったね、お父さんに似なくて・・・」と言われているのはゴンザには内緒だけどな。
えっ!俺か?
俺はちょっと隠れてゴンザ達を見ている訳だが・・・
色々と事情があるもんで・・・
「だ、だって、僕は強くなりたいんだ・・・、お父さんだって仲間の冒険者に言っているじゃないか!「実戦に勝る経験はない、真に強くなるにはどれだけ死線を潜り抜けるかだな。」って!だから・・・」
「ばかやろうぉおおおおおお!それは基本が全部出来た冒険者の事だ!ちょっと周りより強いからって自惚れるな!」
「お前が勝手にダンジョンに潜ったと聞いて慌てて追いかけて間に合ったから良かったけど、間に合わなかったらどうなった!」
ゴンザに怒られていたジークの目に涙が溜まっている。
ゴンザがジークの前まで移動し前に立って頭をポンポンと叩いた。
「怖かったか?これが実戦だ。訓練みたいに甘っちょろい世界でないからな。それにお前に何かあったら俺やウエンディが悲しいだろ?」
「う、うん・・・、お父さん、ごめんなさい・・・」
とうとうジークが泣き出してしまった。
「次からはダンジョンに行きたければお父さんと一緒だからな。勝手に行くなよ。」
しかし、ゴンザが鋭い視線で周りを見渡していた。
「しかし、次から次と湧いてくるな・・・、それに、キラースコーピオンはこのダンジョンには存在しないAランクのモンスターだぞ。このダンジョンは強くてもCランクまでしか出ないはずだ。一体、何が起こっている?」
1匹のキラースコーピオンがゴンザに襲いかかった。
「うおぉおおおおおおおおおおお!」
ザシュッ!
ゴンザが斧の一太刀で真っ二つにする。
「ちっ!俺1人なら強引にでも逃げ切れるんだが・・・、初心者冒険者2人と子供が1人、どうやって守り切って出口まで逃げる?マズイな・・・」
しかし、ゴンザ達の周りにはキラースコーピオンがワラワラと集まっている。100匹は下らないだろう。
「いやぁ~、あのゴンザがカッコイイぞ。」
「旦那様、そろそろ助けないと拙いですよ。旦那様にとっては雑魚のモンスターとはいえ、普通の人間では対処し切れませんからね。」
「わ、悪い。それじゃ、行くか?」
「はい、私が先陣を切ります」
ゴンザ達の周りにキラースコーピオンが群がってくる。もう逃げる事は不可能なくらいにモンスターが密集してしまった。
「くっ!これまでか・・・」
ゴンザが悔しそうに呟いた。
「ゴォオオオストォオオオオオオオオッ!ハウリングゥウウウウウウウウ!」
何本もの黄金の光がキラースコーピオンの中を縦横無尽に走っていた。
あっという間に全てのキラースコーピオンがバラバラになって息絶えてしまっていた。
スタッ!
金色の翼を生やした黒髪の少女がゴンザ達の前に舞い降りた。スッと翼が消えると振り向いてにこやかに微笑んだ。金色の瞳が全ての男を魅了するかのようにミステリアスな雰囲気を出している。
とてつもない美少女だけど、少女は刃渡りが5mは超える巨大な黄金のバトルアックスを軽々と肩に担いでいる。ゴンザの握っているバトルアックスとは比べものにならないくらい大きい。
ゴンザが叫んだ。
「ア、アヤさん!」
スタタッ!
アヤと呼ばれた少女の両隣に2人の女性が降り立った。2人の女性も少女と同じくらいにこの世のものではない程に美しかった。
再びゴンザが叫ぶ。
「シズカさん!それにマドカさんも!」
アヤと呼ばれた少女がニコッと微笑んでから口を開いた。
「ゴンザさん、大丈夫ですか?」
「えぇ・・・、幸い誰も怪我はしていません。でも、このままジリ貧で全滅も覚悟していました。本当にありがとうございました。」
ゴンザがペコペコと頭を下げている。
若い男女の冒険者の男の方が顔を真っ赤にしながらアヤ達を見ていた。
「お、親方・・・、あの方達は?」
「あぁ、あの方達は旦那の奥さん達だぞ。だから惚れても無駄だからな。」
「ええっ!そ、そんな・・・、理不尽過ぎる・・・、あんな美人揃いの奥さん達なんて・・・」
男がガックリしていると女がが男の胸ぐらと掴みギロッと睨んでいる。
「あんた・・・、私って女がいるのに他の女のうつつを抜かすの?」
「ご、ごめんなさい!」
(うへぇ~、かなりの美人だけど気の強い彼女だなぁ・・・、将来は完全に尻に敷かれるな。俺と同じになるなよ。)
「だけどなぁ~、これでお前が出て行ったらヤバイんじゃないの?俺達が原因でカップルが分かれるのはご免だけどな。」
「大丈夫だよ、あなた。彼女の方が完全に尻に敷いているし、絶対に離さないと思うよ。私には分かるわ。」
「そ、そうか・・・、アイリスが言うなら間違いないか・・・」
「では、そろそろ顔を出すとするかな。」
神器の空間から俺達が出てくると、ゴンザ達がビックリしたようにしている。
いや、カップルの女の方の様子が変だぞ?
「す、素敵・・・」
ボソッと呟いているが、目つきが変だよ。しかも、視線がアイリスの方に向いている気がするのだが・・・
(まさか!)
「アイリス!ヤバイ!あの女から離れろ!」
アイリスが慌てて俺の後ろに隠れた。しかし、女がハアハア言いながら俺の方にゆっくり迫って来る。
「な、何て素敵な方・・・、私、一目惚れしました・・・、でも、男が邪魔ね・・・、どいてくれないかな?」
(やっぱり・・・)
男の方も目がハートマークでアイリスに釘付けになっているし・・・
「はぁ・・・」
アイリスが盛大なため息をしている。
「あなた、邪魔だから、このバカップルは強制的に送るね。」
「頼む・・・、まさか、アイリスを見て百合に目覚めるとは想定外だったよ。」
男女の足下に魔方陣が浮かぶと姿が消えた。
「これで良し。ギルドの前に転送したわね。それにしても、男に迫られるのはよくあるけど、女に迫られるなんてビックリだよ。冷華さんがフラワー・シスターズに迫られている時の気持ちが分かったわ。」
フラワー・シスターズと言うのは、かつてスキュラ族の里で冷華の追っかけをしていたレズ軍団だったりする。今は長老の教育のおかげでかなり大人しくなっていて、前世の時と同じように冷華達の護衛をしているんだけど、隙あらば冷華をレズの世界に誘おうとしているんだよな・・・
まぁ、冷華はその気も無いし(あっても困る)、ミツキやミヤコがシスターズに対して目を光らせているから冷華も危ない事にはなっていないけど、あまり酷いと長老のところに送り返すかもしれんな。
「旦那、面目ない・・・、まさか、あんな性癖があったなんて・・・」
ゴンザがペコペコ謝っている。
「まぁ、気にすんな。俺だってあれは見抜けんぞ。それにしても大丈夫だったか?お前達も送るか?」
「いえ!旦那、このダンジョンは何かおかしいですよ。原因がハッキリするまでは俺も同行します。」
「分かったよ。まぁ、お前なら俺の嫁軍団を見ても骨抜きにされないから安心か。」
「お父さん、私も戦いたい。良いでしょう?」
アイリスの後ろからヒョコッと紅葉が顔を出す。
「あ!紅葉ちゃん!」
ジークが大声を上げて紅葉を指を差しながら見ているが顔が真っ赤だ。
(こら!人様の可愛い娘を指差すんじゃない!)
「で、で、でも、何で紅葉ちゃんまで一緒に?こんなところにいるなんて危ないよ。僕と一緒にいない?」
真っ赤になりながらドギマギしながら話すなんて、やっぱり?
(お!アイリスからの念話だ!)
【あなたの予想通り、ジークは紅葉が好きみたいね。可愛いね。】
(やっぱりか・・・)
ゴンザファミリーは今では家族ぐるみで交流があるんだよね。マリーとウエンディは仲が良いし、凍牙の嫁さん軍団もいつの間にかウエンディと仲良くなっている。時々、我が家でゴンザファミリーも交えてBBQパーティーをするんだけど、どうもジークが紅葉を見て一目惚れしたみたいなんだよな。
アクアが嬉しそうに俺に報告してきたしな。マリンもそうだけど、あの2人はゴシップが大好きなんだよなぁ~、まだ7歳だぞ、絶対に誰かの影響を受けているな。
ふとミドリとクローディアの笑顔が浮かんだ。
(やっぱりアイツらだろうな・・・)
しっかし・・・
「ジーク、いつも言っているけど、私は弱い人なんて興味ないからね。お父さんみたいに強い人が好きなのよ。だからわたしの隣はお父さんなの。」
そう言って紅葉が俺に抱きついてくる。
(紅葉・・・、あの1年前の爆弾告白から本当に遠慮しなくなってきたよなぁ~、何で俺の周りはヤンデレやファザコンばかりなんだ?日頃の行いが悪いのか?それでバチが当たっているのか?)
ジークが「はうっ!」と言って胸を押えながら膝から崩れている。
ゴンザが可哀想な目でジークを見ていた。
「ジーク、しきりにお前が強くなりたいと言っていたのはこういう理由か・・・」
そして肩に優しく手を置いた。
「でもな、本気で好きなら絶対に諦めるなよ。父ちゃんは応援しているぞ。」
「ありがとう!父ちゃん!頑張る!」
ジークが元気になって返事をしている。
「ゴンザ、ジークがそんなに強くなりたいなら夏子達に頼んでみるか?人類最強も夢ではないぞ。」
瞬間にゴンザが真っ青になって冷や汗がダラダラと流れてきた。
「だ、旦那!そ、それだけは勘弁して下さい!ジークには真っ当な人生を歩ませたいんです!強さと引き替えに変態にはさせたくない・・・」
ガタガタと震えている。
「俺のクラウンの古参メンバーは確かに最強クラスの冒険者ばかりだけど、渚さんからムチをもらってヒイヒイと喜んでいる連中ですよ。ジークがあんなのになってしまうのは親として耐えられませんよ!」
「確かにな・・・、俺もお前の気持ちは良く分かる。」
ゴンザの言葉に俺も思わず頷いてしまった。
確かに自分の子供が変態になるのは耐えられないよな。
「まぁ、強さ以外に紅葉を振り向かせる方法を考えた方が現実的だな。頑張れよ。」
ジークがジッと俺を睨んでいる。
「紅葉の父ちゃん!俺は絶対に諦めないからな!」
(頑張れ!お前なら紅葉を託しても大丈夫な気がするしな。俺も紅葉との結婚ルートを回避出来る。)
「あなた、のんびりしていたらお客さんが来たよ。」
アイリスが緊張感の無い声で呼びかけてくれたが、ゴンザの方は慌てている。
「なっ!アレはキメラ!何でこのダンジョンでSランクのモンスターが・・・、やっぱりこのダンジョンは変になっている・・・」
6m以上はあるだろう強大なモンスターが現われた。
見た目は大きなライオンだけど、ライオンの頭以外に山羊の首も付いているし、背中にはドラゴンの翼が生えていて尻尾は蛇だ。まんまファンタジーに出てくるキメラだよな。
でも、強さはさっきのキラースコーピオンとは桁違いだ。ゴンザでも1人だと討伐は無理だと思う。
紅葉がスッと俺達の前に立った。
「お父さん、次は私が行くね。ジーク、私が好きなら私のレベルまで追いついて来なさいよ。でも、出来るかな?」
ジークに向かいそう言ってからニヤッと笑う。う~ん、その笑い方は母さんの千秋そっくりだな。
おや?そういえば紅葉はジークに関しては完全に否定していないみたいだな。もしかして、ジークも頑張れば脈ありかもな?俺からも応援するぞ。
紅葉がキメラに向かって駆け出す。
「月影・・・」
いつの間にか両手に漆黒の双剣が握られていた。
あっという間にキメラの目の前まで移動すると、紅葉の体が一瞬ブレて見えた。
「無斬・・・」
そのままキメラの前で佇んでいるが、キメラが全く動かない。
少し経ってからキメラのライオンの頭、山羊の頭、尻尾の蛇の頭が同時にゴトリと落ちてしまった。
そのまま、キメラが倒れ動かなくなってしまう。
「無慈悲に斬り殺すから付いた技の名前よ・・・」
冷たい表情のまま紅葉が動かなくなってしまったキメラを見つめていた。
「す、すげぇ~・・・」
ジークがポカ~ンと口を開けて紅葉を見ているし・・・
しかし、紅葉は本当に天才だよ。母親の神器に認められるし、単純な体術だけの戦闘なら子供達の中では間違い無くダントツだろうな。吹雪も頑張っているけど、アイツは真っ直ぐな戦いしか出来ないからフェイントに弱すぎるし・・・
でもなぁ~、俺としては子供はもっと伸び伸びと遊んで欲しいのだけど、まぁ、我が家に生れた限りは仕方ないのかもな。でも、イヤイヤしている訳でもないから良しとしよう。
「ジーク、どう?少しは身の程を知った?」
紅葉がジークに冷たい視線を投げているが、ジークは諦めた表情ではないな。
「う~、絶対に負けない・・・」
「そう、頑張ってね。」
そう言って紅葉がニコッとジークに微笑んだ。
(おっ!もしかして、本当に脈があるのかも?)
しかし、もっと嬉しそうな表情で紅葉が俺のところに戻って来た。
「お父さん、頑張ったから撫でて。」
ルンルンな表情で頭を向けてきたので、なでなでしてあげるとトロ~ンとした表情で俺を見ているし・・・
(ジークは単に紅葉に遊ばれているのかな?まぁ、頑張れ・・・)
奥の空間が歪んだと思ったら、今度は魔法のローブを纏った骸骨が2体現われた。
「今度はリッチだと!これもSランクだ・・・、初心者ダンジョンが何で最難関のダンジョンと化している?本当に異常事態だ・・・」
ゴンザ、解説ありがとう。だから、俺達が来たんだけどね。
シズカが前に出ようとした時にマドカの声が聞こえた。
「ミーティア!行くよ!」
マドカが青白い刀身のレイピアを握り前に出た瞬間に姿が消えた。
「ミラージュ・ソード!流星斬!」
声は聞こえるけどマドカの姿が見えない。しかし、リッチの周りはいくつもの青白い光の線が現れリッチをズタズタに切り裂いていく。
リッチがバラバラになって地面に転がってしまったところで、マドカがスッとリッチの残骸の前に現れた。
「う~ん、まだまだミーティアのスピードに振り回されている感じだなぁ・・・、完璧に使いこなすには私もまだまだ頑張らないとね。」
再びスッと姿が消えたと思ったら目の前に現れた。どんどんスピードアップしているんじゃないか?
そして頭を俺の前に出して来た。
「旦那様、私も頑張ったからね。」
「はいはい、」と言って頭を撫でてあげると、とてもうっとりした表情で俺を見ているし・・・
(でもなぁ~)
俺の隣を見てみると出遅れて少し拗ねているシズカがいた。
「う~、出遅れた・・・、スピードだとマドカに敵わないし、私も神器に認められたのに見せ場が無いなんて・・・」
「シズカ、そんなに拗ねるなよ。お前も頭を撫でてあげるから近くまで来ても良いぞ。」
「旦那様ぁ~、シズカ、嬉しいです!」
パァァァッと花の咲いたような笑顔になって、いそいそと俺に近づき頭を突き出してきた。
なでなでしてあげるとうっとりした表情になっているし・・・
「旦那様、シズカは幸せです・・・」
シズカも最初に会った頃は出来るお姉さんって感じだったけど、最近は甘えん坊キャラになってきた気がする。みんなグイグイ来るキャラばかりだから、シズカのタイプは新鮮だったりして。
今はみんな人間の姿に変身しているけど、元のスキュラ族の姿になっていたら尻尾をブンブン振っているんだろね。そんな姿も可愛いよ。
「あなた、子供もいるんだからイチャイチャするのも限度があるからね。」
アイリスがちょっと怒った感じになっていた。
(ヤバイ、そうだった・・・、ジークもいるし子供の教育に悪いな。)
【アイリス、すまん・・・】
【そうよ、あとでタップリと私も撫でてね。】
【分かった、分かった。】
しまったなぁ~、アイリスは嫁さんの中で1番のヤキモチ焼きだったよ・・・、今夜は絶対に押しかけてくるな。クローディアも便乗してこない事を祈る。
ゴンザが感心した表情で俺に近づいてくる。
「旦那、紅葉ちゃんも含めて奥さん達、更に強くなってません?Sランクのモンスターも雑魚扱いなんて信じられませんよ。まぁ、旦那の家族なら不思議ではないですね。ははは・・・」
「ゴンザ、これからが本番だ。気を引き締めろよ。このダンジョンは完全に狂ってしまっているぞ。」
俺の真剣な表情でゴンザも状況が分かったのだろう。真剣な表情でダンジョンの奥を見つめていた。
奥から地響きが聞こえてくる、段々と音が近づき姿を現した。
ゴンザが信じられない表情でその姿を見ていた。
「何でこんなダンジョンにドラゴンが・・・、しかも、真っ黒な鱗なんて・・・、これは伝説に出てくるカオスドラゴン・・・」
とてつもなく巨大なドラゴンがジッと俺達を見つめていた。
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