フェンリル族の里63
いやぁ~、昼食は普通に食べられたなぁ~
朝食はあれだけの量だったから、さすがに軽く済まそうと思っていたけど、何だかんだで午前中は騒がしかったからちゃんとお腹が空いたみたいだ。
昼食の量も朝みたいにメガトン級だとどうしようかと不安だったけど、そこはララが目を光らせていたみたいで普通の量だった。
ただし、マドカが俺だけの食事を作ってくれたみたいで、隣に座ってずっと食べさせてくれるとは思いもしなかったけど・・・
(さすがにみんなの視線が怖かった・・・、フローリアや春菜達がいなかったから出来た芸当だな。アイツらがいれば間違いなく流血確定の修羅場になる。美冬は午後から里に戻るって事で、吹雪の相手ばかりしていたから良かった。)
凍牙ファミリーが甘々だと思っていたけど、俺の方が間違い無くもっと甘い空気を出しているよ。
人の事は言えない・・・
そして、俺達はフェンリル族の里にいる。
目の前には少し大きめの細長い石が2つ寄り添うように地面の上に立っていた。
「これが凍牙と美冬の両親の墓か・・・」
ここにいるのは、俺と美冬と吹雪、凍牙と凍牙の嫁軍団だ。
美冬がそっと俺に寄り添ってきた。
「ソータ、フェンリル族は基本的にお墓を建てないの。大地から生れ大地に帰る・・・、里で亡くなると村の外れの共同墓地に埋められて終わりよ。墓標も無いのが普通なんだけどね。」
「だけど、お父さんとお母さんは里からすごく信頼されていたの。そして、この場所はお母さんが大好きだった場所・・・」
確かにな。ここは里の外れの小高い丘の上だ。ここに立つと森が一望出来る。魔の森とは思えないほど雄大な美しい景色だ。
俺もこの景色は素晴らしいと思った。
「だから、みんながここにお墓を作ってくれたの。」
「みんなに感謝だな。」
「うん!」
美冬が元気に返事をしてくれる。可愛い笑顔だよ。
んっ!美冬が何か不思議そうな顔をしている。どうした?
「ソータ、そう言えば、私達の両親の話をしたっけ?」
「いや、聞いた事は無いな。」
わざわざ俺の方から聞くこともしなかったな。それに故人だから変に聞くことも躊躇していたのもある。
美冬が胸に手を当てて思い出すように話し始めた。
「お父さんはね、人族だったんだ。ある日、お母さんが森の中で薬草採りをしていた時に、いきなり目の前に雷が落ちて、そこに人が倒れていたんだよ。とても酷い大怪我をしていて、お母さんが慌てて里に連れていったの。」
まさかと思ったけど、ご先祖様の弟が凍牙の父親だという事は知っていたが、こんな出会いだったとは・・・
次元の狭間に飲み込まれて行方不明になったとの事だったが、タイムドリフトして現代の神界に辿り着いた訳だったのか。
「お父さんは死んでも不思議でないくらいの大怪我だった。それをお母さんが必死に看病していたみたいだったの。お母さんから聞いたけど、お父さんが目を覚ました時にお母さんと目が合って、お互いに一目惚れだったみたいよ。そして、お父さんとお母さんは愛し合って結婚を誓ったの。」
「でもね、族長様からは人族とフェンリル族が一緒になるなんて認められないと言われたみたい。数万年も生きるフェンリル族に100年も生きるか分からない人族が一緒になっても悲劇しか生れないとね・・・」
確かに種族の違いは難しい問題だ。寿命の差がそれだけ違いすぎると、残された者は可哀想だよ。
「族長様だけでなくみんなからも大反対されたけど、それでもお父さんとお母さんは結婚したの。お母さんからすればお父さんの寿命はとても短いけど、そんなの関係無いって強引に結婚したよ。まぁ、お父さんは人族だけど、里で1番強かったし誰も敵う人がいなかったのもあったけどね。強さが優先のフェンリル族だからだね。ふふふ・・・」
「本当にお父さんとお母さんはラブラブだったよ。私から見てもいつもイチャイチャしていたし・・・、ソータ、私達もそんな夫婦になろうね。大好き!」
しかし、凍牙が難しい顔をしている。
「確かに親父もお袋もいっつもイチャイチャしていたけど、俺に対しては容赦無かったぞ。親父は「男は強くないと家庭を守れんからな。」とか言って散々しごかれていたからなぁ・・・、親父の強さは別次元だった。今の俺でも勝てないと思う。多分、レオよりも強いんじゃないか・・・」
マジかい・・・、あの義父さんよりも強いだと?そんな強さでも敵わなかった邪神王は正真正銘のバケモノか・・・
んっ!ちょっと待ったぁあああ!
その邪神王を瞬殺したフローリアって・・・
バケモノ以上のバケモノって事か・・・
【旦那様・・・、私の事をどう思っているのですか?どうやら私を誤解していますね。】
(フローリア!心を読むな!何でこんなタイミングで!)
【ふふふ、心から私の事を理解してもらわなくてはならないようですね。今度、1週間でなく1ヵ月くらい2人っきりでいます?】
【そ、それだけは勘弁してくれぇええええええええええええええええええ!】
フローリアがいないにも関わらず、思わず土下座をしてしまった。
・・・
顔を上げてみんなの顔を見てみると・・・
みんなの視線がとっても痛い・・・
サクラは・・・
「お父さん・・・、いきなり何してるの?恥ずかしいから止めてよ・・・」
ガーベラは無言だったけど・・・
視線で人を殺せるくらい冷たい目で見ていた・・・
娘2人からのクリティカル・ヒットだ、もう立ち直れないかもしれない・・・
四つん這いになって蹲っている俺に美冬が肩をポンポンと叩いた。
「ソータ、元気出しなさいよ。今、ソータが慌てていたのは多分、フローリアからの念話だと思うけど、時々ソータをからかって喜んでいるからね。意外とSっ気が強いから、あの駄女神は・・・」
「そう言われればそうかも・・・、よし!元気が出たぞ!」
「そうそう、ソータはいつも元気でないとね。」
美冬がギュッとハグしてくれる。
う~ん、美冬のおかげで娘からのダメージが癒される。
「ソータのおかげで話の腰が折れてしまったけど続けるね。」
「お、わ、悪い・・・」
「結婚は本当に大変だったみたいよ。賛成0に反対が里全員だったからね。2人で里を出てどこかで暮らそうとも考えていたみたいだった。さすがにここまで意志が固かったから、結局は族長様が折れたみたいだったけどね。」
「そして、お兄ちゃんと私が生まれたの。お兄ちゃんだけでなく続いて生れた私も2人揃って髪が白かったから『始祖様の再来だぁあああ!』って大騒ぎになって、それからお父さんとお母さんは里に認められたみたいだったのよ。そんな面倒くさい里を嫌って、お兄ちゃんは成人になった途端に出て行ったけどね・・・」
凍牙が照れくさそうにポリポリと頭を掻いている。
「あの頃は俺も跳ねっ返りだったからな。成人になる前から毎日のように婚姻の話が舞い込んでくるし、正直、うんざりしていたよ。『始祖様の血を残さねばならん!』って凄かったよな。自由を求めて俺は里を出たんだ。」
そして冷華と雪を見つめた。
「まさか、美冬の友達だったお前達と結婚するなんて、当時は考えもしなかったよ。しかも、その時からずっと俺を想っていたなんてな。」
2人が真っ赤になっている。
「だって、あの時は私も雪も子供だったからね。でも、本気であんたと結婚する気だったのよ。そして夢が叶ったの・・・」
「しっかし、親父も『凍牙!お前が嫁を連れて来るまで絶対に死なんからな!』と言っていたのになぁ・・・、里を襲った流行り病で2人仲良く逝ってしまうなんて・・・」
凍牙の目にキラッと光るものが見えた。
「生きているうちに見せたかったよ。俺の大事な妻達をな・・・」
「まぁ、俺も一時期は死んでいたから結婚が遅れてしまったけど・・・、でもな、そのおかげで彼女達と会えた。しかし、これだけ大所帯になるとは思わなかったけどな。」
「親父、お袋、俺は約束するよ。親父達みたいにお互いを思いやれる夫婦になるとな。」
次の瞬間、墓が淡く輝いた。
(何が起きたのだ?)
墓の上に2人の人影が浮かんでいた。
凍牙に似たイケメンな男性と美冬に似たとても美しいフェンリル族の女性だった。
凍牙がこれでもか!といった感じで目を見開いて驚いている。
「親父ぃいいい!お袋ぉおおお!成仏してなかったのかぁああああああああああ!どんだけ俺と美冬の事を心配していたんだ!」
「親父、お袋、安心しな。今日は俺と美冬の家族を連れて来たからな。」
サクラ達が順番に2人に挨拶をしていった。
2人共、とても嬉しそうに微笑んでいる。
「ソータ、次は私達の番だね。お父さん達に報告しなくちゃ!」
「そうだな。」
美冬が2人の前に立つ。
「お父さん、お母さん、私の旦那のソータよ、そしてこの小っちゃい生意気そうな子供が私達の子供よ。吹雪っていうの。」
しかし、美冬がポロポロと涙を流し始めた。
「2人が生きている時に見せたかった・・・、でも、私が結婚した時は2人共いなかった・・・、でも、こうやってお母さん達は待っていてくれていたんだね。ありがとう・・・」
美冬の母親が美冬をそっと抱いた。
【美冬、おめでとう・・・、ずっと幸せにね・・・】
そんな言葉が聞こえた気がした。
『蒼太!すまない・・・、少しの間でも良いから体を貸してくれないか?お願いだ・・・』
そ、その声はご先祖様!どうして?
そうか・・・
『分かりました。気の済むまで貸してあげますよ。』
『ありがとう・・・、感謝する・・・』
次の瞬間、俺の意識が外に飛び出てしまった。足元を見ると俺が立っている。
「ヒビキ・・・、こうしてお前に再び会えるとはな・・・、まぁ、お互いに滅んでしまった身で、こうやって会うのも不思議だな。」
「お前達はこれからどうするのだ?」
美冬の両親がお互いに顔を合わせて見つめ合っていた。そして俺の方に顔を向けてゆっくり首を振った。
「そうか・・・、お前達は輪廻の輪に戻るか・・・、いつかは再び会えると良いな。」
意識が俺の中に戻った。
『蒼太、ありがとう。ヒビキと最後に話が出来た。これで本当に心残りが無くなったな。さらばだ・・・』
凍牙がザッと両親の前に立った。
「親父!最後に良いものを見せてやるよ!俺が親父の跡をちゃんと継いだってな。」
そして冷華の方に視線を移した。
「冷華!頼む!」
「うん!分かったよ。」
冷華が頷くと全身が光り姿が消えた。
凍牙に視線を戻すと手に剣が握られていた。刀身が燃える様に真っ赤な刃紋が浮き出ている。
(冷華らしいよ・・・)
剣を両手で握り締め気合いを入れている。
離れているのにも関わらずビリビリと空気が震えているのが伝わった。
(これが本気の凍牙の剣か・・・、義父さんが苦戦する訳だ。)
刀身が金色に輝いた瞬間に凍牙が振りかぶった。
「親父!よく見てな!」
「はぁああああああああ!真・破邪の剣!」
裂帛の気合いと共に凍牙が剣を上空に向かって振り下ろした。
剣から黄金のオーラみたいなものが飛び出し空を切り裂いた。いや、切り裂いたように見えるくらいの斬撃だ。
(すごい・・・、神器を装備した俺達の最大級クラスの攻撃以上だ・・・、俺もうかうかしてられないな・・・)
「どうだ!親父!これで安心したか?」
凍牙が父親の方を見てニカッと笑っていた。父親の方も同じようにニカッと笑ってサムズアップをしていた。
(さすが親子だな。仕草が一緒だよ。)
俺達全員が2人の前に立つとニッコリ微笑んで、徐々に薄くなり消えていってしまった。
凍牙が泣いていた。
「本当にさよならだ・・・」
美冬も泣きながらずっと空を見上げていた。
1年後・・・
「よっ!氷河、調子はどうだ?」
凍牙が片手を上げて氷河に挨拶をしている。
ここはフェンリル族の里の族長の屋敷だ。
「ボチボチだな。しかし、スキュラ族との交流が復活してから忙しいよ。まぁ、フェンリル族の方からスキュラ族の里に行くのは禁止されているけど、毎日のように里の男どもから「何とかスキュラ族の嫁さんを紹介してくれぇ~~~~~!」と懇願されているよ。」
そして隣にいるハツネとスズを見ている。
「キョウカもそうだけど、お前達もとんでもない美人だから、里の男どもが憧れるのは分かるが・・・」
2人がポッと頬を赤くしている。
「び、美人なんて・・・」
「まずは自分自身を鍛えないと見向きもされないんだけどな。」
凍牙がうんうん頷いている。
「確かにな。アイツらの目は女に飢えた狼だよ。モテないのは当たり前だぞ。スキュラ族だけでなくてもこの里の誰とも結婚出来ないな。」
「そうだな。」
氷河が苦笑いをしていた。
「あの残念4人衆みたいに劇的に変わればモテたのに・・・、それにしてもどうやってあそこまで強くさせたのだ?半年で里最強の4人衆になるとは思わなかったぞ。」
今度は凍牙が苦笑いをしている。
「まぁ、蒼太の嫁軍団のシゴキは地獄の中の地獄だからな、嫌でも強くなるさ。しっかし、そのおかげで極度の女嫌いになるとは思わなかったよ。念願のモテ期に入ったのに、あれじゃ結婚は無理かもしれん・・・」
「そう言うな、アイツらには心のケアとして里の女が懸命に世話をしているぞ。いつかはその子達と結ばれて欲しいけどな。」
「それにしても、こうやってゲートが出来ると本当に楽だよ。リンカ母さんもミナコ母さんもちょくちょくとお前のところに行けるし、蒼太殿の文化も少しづつ入って来ているから、この1年でこの里もかなり生活水準が上がったよ。本当に感謝している。」
「親父とも話していたが、この里も変わらないといけないのだろう。さすがに急に変わると里の中に軋轢を生み出すから徐々にだな。」
凍牙が静かに頷いていた。
「そうだな。」
奥の襖が開きキョウカが姿を現した。
「あなた、ミルクを飲ませたわよ。本当にこの子達はよく飲むわね。元気に育って欲しいわ。」
キョウカの胸には真っ白の髪の毛のフェンリル族の赤ちゃんと、真っ黒の髪の毛のスキュラ族の赤ちゃんが抱かれていた。
「氷河、お前は伝説の冷牙と同じになったな。覚醒したフェンリル族の男の子と既にクイーンに覚醒しているスキュラ族の女の子の父親なんだしな。」
しかし、氷河がジロッと凍牙を睨んでいた。
「凍牙・・・、お前も人の事が言えるか。お前の子供も同じだろう。それに、伝説の鬼神族の子供までいるし・・・」
「まぁ、俺は里にいないから関係無いよ。お前は里の次期族長なんだからフェンリル族とスキュラ族の橋渡しは頼んだぞ。かつての悲劇みたいにはさせるなよ。」
「分かっているさ。」
凍牙と氷河がガシッと握手をしている。
再び襖が開いた。
「凍牙さん、私達もミルクを飲ませ終わったわよ。」
ミヤコが金髪のフェンリル族の赤ちゃんと真っ黒の髪の毛のスキュラ族の赤ちゃんを抱いて出てきた。
「あなた、刹那も元気にミルクを飲んでいたわ。」
レイラも赤ちゃんを抱いて出てくる。その赤ちゃんの額にはレイラと同じように小さいけど角が生えていた。
凍牙が微笑みながら2人を見ている。
「俺も父親になったんだよな・・・」
「おぅ!凍牙、元気そうだな。」
族長がニコニコしながら部屋に入ってきた。
「ジジイかい、ジジイのところも大所帯になったな。」
カカカ!と族長が笑っている。
「まさかリンカが5つ子を産むとは思わなんだよ。でもな、子供は可愛いな。毎日が楽しいぞ。それに孫もいるし、ワシもまだまだ頑張らんとな。わはははははは!」
「ジジイ、頑張るっていうのはレオとの手合わせか?聞いているぞ、ゲートが出来たからちょくちょくとレオと模擬戦をしてるってな。あんまりにしないとミナコさんから雷が落ちても知らんぞ。」
族長から冷や汗が出ている。
「うっ!そ、それを言うな・・・、ワシなりにリンカとミナコの手伝いはしているんだぞ。多分・・・」
「あなた・・・」
族長の背後からスッとミナコが現われる。
「今日は私と一緒に蒼太さんの世界でデートの約束でしたよね?何で創造神様から今日の午後から模擬戦をすると私に連絡があったのですか?」
族長が大量の冷や汗をかいている。
「あなた、もしかして私の約束を忘れてました?分かりました、今日の模擬戦は創造神様と私のタッグであなたと戦わせてもらいます。約束を忘れるようなあなたの根性を徹底的に叩き直してあげましょう。覚悟して下さいね。」
族長がガックリと項垂れていた。
氷河が呆れている。
「親父、自業自得だよ。リンカ母さんにキョウカと立て続けに子供が生れたからって浮れ過ぎだ。まぁ、少しはシャキッとなるようにしてもらった方がいいかもな。」
そして凍牙をジッと見つめた。
「凍牙・・・、お前達のおかげだよ。1年前の争いが嘘みたいにみんなが仲良くなっている。今度は俺達がこの森の平和を守っていかないとな。」
「氷河、困った時は必ず俺に言えよ。俺達は親友だからな。」
「あぁ、頼む。」
再び2人がガシッと固く握手をした。
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