フェンリル族の里㊻
「フローリア、春菜のフラグに間違いは無かったな・・・」
「えぇ・・・、春菜さんの予知とピッタリですね。『大きな武器を持ったスキュラ族』でしたね。見たまんまです。春菜さんの恋愛センサーは一体どうなっているのでしょうね。春菜さん自身がフラグを立てている気がしてなりませんよ。」
マドカには悪いけど、春菜の予知は100%だから間違いなくアヤが勝つだろう。インフィニティはただ大きくなったり長くなったりするだけではない。まだ隠された力があるからな。
しかし、マドカって子もかなりの猛者だな。この子はシズカに次ぐ力を持っている気がする。今のアヤにもかなり善戦しそうだよ。そうすれば、アヤも引っ張られて更に強くなりそうだ。
我が家のメイドの1人目はマドカに決まりだ。
シズカはなぁ・・・、あんな状態にしてしまったし・・・、う~ん・・・
さて、気を取り直して2人の勝負を見届けよう。
「アヤ!私も遠慮無しにいくから、あなたも遠慮しないでね。」
マドカが叫ぶと、アヤが真剣な眼差しで頷いた。
「私の奥の手!ブーストォオオオ!」
マドカの全身が薄らと光っている。アヤの周囲におびただしい魔法陣が出現し一斉に魔法がマドカに放たれた。
「フレイム・アロー!逃げ場は無いわ!」
数百本の炎の矢がマドカに迫る。あれだけの絨毯爆撃のような攻撃だ。普通ならシールド以外では防げない。しかし、マドカはそのまま棒立ちでいるが、ニヤッと笑った。
「アヤ!私を舐めないで!」
炎の矢がマドカに直撃すると思った瞬間にマドカの姿が消えた。一瞬にして上空に飛び上がっている。
「マドカ姉さん!それは読んでいるわ!」
アヤが神器を振りかぶると、さっきの様に巨大な尋常ではない長さになり、マドカ目がけて斧が振り下ろされた。マドカの体が真っ二つになる。しかし、アヤの表情が変だ。
「おかしい・・・、手応えが無い・・・」
アヤが呟いた瞬間、アヤの後ろの上空にマドカが出現した。
「ふっ!あれは残像よ!もらったわ!ギガ・サンダー・レイン!アヤの方こそ逃げ場は無いわよ!」
大量の雷がアヤに降り注ぐ。
「くっ!イージスの盾!」
アヤの頭上に大きな光の盾が出現し上空からの雷を防いでいる。
「もらったぁあああ!ホーミング・レイ!ついにクイーンに勝てる時が来たわ!」
マドカが叫ぶと右手の掌から放たれた何本もの白い光が、がら空きになったアヤの背中目がけて弧を描いて飛んでいく。
しかし、アヤの周囲に光の盾がいくつも展開し、マドカから放たれた魔法を全て防いでしまった。
マドカが信じられない目でアヤを見ている。
「う、嘘でしょ?何でイージスの盾があんなに大量に出現しているの?どんな高位の者でも2枚を展開するのがやっとなのに・・・、あの子の魔力は規格外よ。だから、神器にも認められたのね・・・」
アヤが何事も無いような感じで佇んでいたが、空中に浮いているマドカを見つめ神器を向けた。
「メギド・フレイム!」
そう叫ぶと周囲に巨大な青白い炎の玉がいくつも出現し、一斉にマドカに向けて高速で打ち出された。
「くっ!速い!」
マドカがジグザクに飛行し辛うじて躱す。
「ホーリー・ジャッジメント!」
上空から強大な光の十字架がマドカに迫る。しかし、その魔法もマドカがギリギリで躱す。
「はぁ、はぁ・・・、とんでもないわね。」
「むっ!周囲が焦げ臭い・・・、マズイ!ブースト!緊急回避!」
マドカが一瞬白く輝いた後、姿が消えた。
「ビッグ・バン!」
直後にマドカのいた場所に大きな爆発が起きた。
「きゃぁあああああ!」
マドカが避けきれずに爆風に飲み込まれてしまった。
煙が晴れてマドカの浮かんでいる姿は見えたが、かなりのダメージを受けている感じがする。
「何なの、この最上級魔法のオンパレードは・・・、たった1人で連続して打ち出せるなんてあり得ない・・・、これがクイーンに目覚めた者の力なの?単純に魔法勝負じゃ私に勝ち目は無いわ。」
「でも、アヤはまだ目覚めたばかり、魔法の展開速度も精度もまだ未熟、最上級魔法なら尚更ね。だから、私はまだ直撃は喰らっていない。膨大な魔力に体が追いつけていないみたいだわ。そこに私の勝機があるかもしれない。」
「このままアヤに経験を積ませればすぐに手に負えなくなる。ブーストの効果が残っている今ならば!」
「ライト・ソード!」
空中に浮かんでいるマドカの右手に光輝く剣が現われた。
「アヤ!魔法勝負では私は勝てないわ。だから、私の1番得意な戦法で勝負をするわよ。あなたも分かっているでしょう。私の得意な戦い方を・・・」
「剣技ではミヤコ姉さんには一歩及ばないけど、このブーストと里1番の飛翔魔法使いの技術を駆使してあなたに勝つ!あなたはまだ目覚めたばかりだから、能力に技術が追いついていない。悪いけど、そこを突かせてもらうわ!」
アヤがニヤッと笑った。
「マドカ姉さん、姉さんの分析は正確よ。確かに今の私だとクイーンの力は扱い切れていないわ。でも、姉さんのおかげで私は段々と強くなっていると実感している。」
「姉さん!ありがとう・・・、感謝の気持ちを込めて私は姉さんを追い越すわ!」
真剣な眼差しでマドカを見つめている。
「私も遠慮しないから・・・」
2人がニコッと微笑んだ。
アヤが左手を前に差し出す。
「展開速度と精度重視なら!ファイヤー・ボール!乱れ打ちぃいいい!」
おびただしい数の炎の玉がマドカに向かって高速で飛んでいく。しかし、さっきの様にマドカの体をすり抜けてしまった。
「くっ!さっきと同じ・・・、あれが残像なら本体は何処に?」
アヤが咄嗟に横に飛んだ。その瞬間、今までアヤがいた場所に剣閃が走った。
いつの間にかマドカが立っていた。
「さすがクイーンね。察知能力も段違いだわ。今までのアヤなら確実に仕留めていたのに・・・」
そして剣を再び構える。
「どう?私の高速機動の戦い方は?いくらクイーンでも目で追えないくらいの高速で移動すれば、私にでも勝ち目はありそうだわ。高速での空中戦が私の1番の得意な戦い方だからね。」
「ただ、そんなに長く戦えないから、次で決めさせてもらうわ。」
そう宣言するとフワッと中に浮いた。
「行くわ・・・、私の最大の技・・・」
「ミラージュ!ソードォオオオオオオ!」
マドカが急降下でアヤ目がけて突っ込んで来る。マドカの体がブレ始めた。
「何だと!あれは分身の術か?」
感動で思わず叫んでしまった。まさか、こんな技が見れるなんて・・・
5体のマドカが出現し、アヤに襲いかかった。
「ぐあぁっ!」
アヤが神器を盾にして防いでいたが吹き飛ばされてしまい、地面に転がって止まった。
マドカが肩で息をしながらアヤを見ている。
「はぁ、はぁ、神器で急所を全て防ぐなんて・・・この私のスピードに対応するなんてね。」
「でも、あなたのライフポイントもあと僅かに間違いないわ。もう1度この技でトドメを刺してあげる。そして、私が蒼太様の妻になるわ!」
アヤがヨロヨロしながら立ち上がった。
「確かに・・・、あと一撃でももらえば私の負けだわ。でも、私も負けるつもりはない!インフィニティ!今こそ本当の力を放つ時よ!私は絶対に負けない!」
「神器解放!インフィニティ!その力を解き放てぇええええええええ!」
インフィニティが光り輝いた。アヤの背中に黄金に光る大きな4枚の翼が現れる。
観客のスキュラ族の1人が呟いた。
「何て神々しいの・・・、クイーンが女神様になるなんて・・・」
地面に膝をつき胸の前に手を組んで祈りのポーズをとってしまった。周りも次々と同じポーズで祈りを捧げ始めてしまっている。広場の観客全てがアヤに祈りを捧げている。
アヤが大量の冷や汗をかいている。
「いやいや、私は女神ではないから・・・、私に祈っても何にもご利益はないわよ。」
マドカがクスクス笑っている。
「アヤ、どう見てもその姿は女神族にしか見えないわ。それも上位の女神様にね。私もこの勝負に勝つようにお祈りしようかしら?今のアヤの姿は本当に神々しいからね。しかし、黄金の巨大なバトル・アックスを持った女神様なんてねぇ・・・、あり得ない姿の女神様だけど、新しい戦女神の誕生ね。」
アヤが真っ赤になっている。
「マドカ姉さん、止めて!私は平凡な主婦になるのが夢なんだから・・・」
クスクス笑っていたマドカが真剣な表情になる。
「アヤ、その夢は私がもらうわ。」
「冗談はお終い。最後の勝負よ!私の全てを出しきってでも勝つ!」
照れていたアヤも真面目な表情に戻った。
「マドカ姉さん・・・、本気でいくからね・・・」
そう呟いた瞬間、アヤの姿が消えた。
「消えた・・・、何が起きているの?」「はっ!」
呆然としていたマドカが慌てて後ろを振り向き剣を掲げた。
キィイイイッン!
アヤの斧をマドカが剣で防いでいた。
「アヤ・・・、いつの間に空に浮いている私の後ろに・・・」
アヤがニコッと微笑む。
「そう、これがこの神器のマスターとなった私の真の姿・・・、斧使いは武器の巨大さ故に動きが鈍いから高速機動の戦いに向いていないと言われているけど、このインフィニティの解放は常識を打ち破ってくれるの。」
「この光の翼は見た目だけでないわ。飛翔魔法以上の空中での高速機動戦が可能なのよ。圧倒的な攻撃力に圧倒的なスピード、今のマドカ姉さんのスピードでは私に勝てないわ。」
ギリギリとマドカが歯を鳴らしながらアヤを見つめている。
「アヤ、あなたは私の先に行ってしまったのね。でも、私にも意地があるわ!私も全てを出し切る!」
2人が離れ距離を取った。マドカから膨大な魔力が放出されている。
「飛翔魔法!レベルMAX!ブースト最大!」
そう叫ぶと、マドカの背中にも2枚の光の翼が出現した。手に持っている光の剣も大きくなって大剣レベルになっている。
「アヤ!行くわよ!」
マドカがジグザクに飛行しながらアヤに迫る。
アヤの光の翼が更に輝き、マドカ目がけて真っすぐ飛んで行った。
2人が空中で切り合いを始めた。お互いの武器が火花を放ちながら切り結び、離れては再び接近してお互いの武器をぶつけ合っている。俺の目でも追うのがやっとの高速機動戦だ。
それにしても・・・、この戦いはいつからガ〇〇ムになった?俺の目にはどうしてもそんな風にしか見えないよ・・・
キィイイイイイン!
鍔迫り合いの状態から、お互いに離れ距離を取っている。
「はぁ、はぁ、あと一撃でも当てれば私の勝ちなのに、どうしても当てられない・・・、アヤとの実力差がここまであるなんて・・・」
肩でやっと息をしているマドカだったが、アヤの方は全く息が乱れていない。
「だけど、勝つのは私!この技に全てを賭ける!」
マドカが剣を両手で握り締めると、背中の翼も輝き出した。
「私の本気の本気の本気ぃいいいいいいい!全身全霊の技を喰らいなさぁああああああい!」
ロケットのようにアヤ目がけて飛び出した。
「ミラージュ!ソードォオオオオオオ!マックス!パワァアアアアアア!」
さっきよりもマドカの分身が増えている。10体を越えているぞ!
アヤ、どう立ち向かうのだ?
「マドカ姉さん、私のこのクイーンの証である黄金の瞳は伊達ではないわ。私のこの瞳の前では同じ技は2度と通用しない。そして、私は憧れだった姉さん達を今!追い越す!」
「インフィニティ!ダブル・トマホーク!」
神器が2つになった。アヤが両手で持ち、グッと構えた。
「これで攻撃力は2倍!どんなものでも打ち破る!」
「姉さん!私も最大の技で応えます。行くわよ!インフィニティ!」
アヤの4枚の翼が大きく羽ばたき一際激しく輝いた後、マドカに向かって光の粒子の軌跡を残しながら高速で飛び出した。
「ゴーストォオオオオオオ!ハウリングゥウウウウウ!」
「な、何だとぉおおお!あれがアヤの真の力なのか!」
思わず俺も叫んでしまった。凄いというレベルではない!アヤが数十体に分裂してマドカに向かっていった。
十数体のマドカがアヤの大量の分身に飲み込まれてしまった。
「「「きゃぁあああああ!」」」
何人ものマドカの悲鳴が響き渡った。
大量のアヤが過ぎ去った後に、マドカが1人で浮いていた。
アヤの分身体がスッと消え、振り向いてマドカを見つめ構えを解いた。
「デッド・エンド」
アヤがそう呟くと、マドカの光の大剣が粉々に砕け散り、姿が徐々に薄くなって消えた。
「勝者!アヤァアアア!」
長老が宣言をした瞬間に、スキュラ族の観客が総立ちで歓喜の声を上げていた。
アヤが大きく翼を広げ、ゆっくりと広場に降りてくる。本当に女神が降臨したと言われても違和感の無い姿だ。しかし、あの両手に持っている巨大な斧が無ければ更に神々しいんだけどなぁ・・・
地面に降り立つと翼と神器が消えた。緊張の糸が切れたのか、そのままへたり込んでしまう。
「わ、私、勝ったのね?」
アヤが信じられない顔で周りを見ているが、みんなの喜びの表情を見てやっと実感したのか、ポロポロと涙を流し出した。
シスターズのメンバーが広場に集まりアヤを囲んでいる。
マドカがアヤの前に立った。
「アヤ、おめでとう。とうとう私を追い越してしまったわね。あなたはクイーンに目覚めたけど、私達にはそんなの関係ないわ。あなたは私達シスターズの可愛い妹・・・、幸せになりなさいね。もちろん、私達もすぐに追いつくから。」
マドカがアヤの手を取り起こしてあげた。そして仲良く抱き合っている。
「旦那様、勝者のアヤさんに例のモノを・・・」
フローリアが指輪を差し出してくれた。
んっ!何で2つだ?
思わずフローリアを見てしまった。
「だって、私達のせいで1人ポンコツにしちゃいましたからねぇ・・・、やっぱり、あの姿を見ていると可哀想で・・・、旦那様、お願いします。彼女なら私も賛成ですからね。」
そうだった・・・、アヤの激しい戦いに集中していてシズカの事をすっかり忘れていた。
シズカの方を見てみると・・・
「げっ!」
シズカが膝を抱えながら座ってシクシクと泣いている。しかも、あまりの悲しさなのか、体が地面に沈み込んでいるよ。そんなギャグマンガみたいな事があるのか?しかも、今も少しづつ沈んでいるし・・・
そんなに負けたのがショックだったのか・・・、まぁ、あの負け方だとなぁ・・・、悔しくて仕方ないだろうな。
全身が沈むまで時間があるみたいだから、今はアヤの祝福の方を先にしよう。
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