フェンリル族の里㊺
昨日と今日はゆっくり休めました。
書き貯めが出来たので2話投稿します。
メンバーの表情は本当に気合が入っている。
『やる気』というよりも『殺る気』満々の感じがする。本気で殺し合いでもする気か?
勘弁してくれ・・・、そんな事の為に殺し合いなんてするのは・・・
それに、広場を囲んでいるスキュラ族の面々はすごく楽しそうだ。殺し合いのようなものを見て楽しむのか?
長老とシズカがメンバーの前に立った。
「それではみなさん、準備はよろしいですね?」
みんなが一斉に返事をする。
「「「はい!」」」
しかし、長老の様子が変だぞ・・・、じっとシズカを見ている。
「シズカ・・・、シズカ!」
「あっ!は、はい!」
シズカが慌てて返事をした。
「シズカ、急にどうしたの?顔が赤いしボ~として・・・」
「い、いえ!何でもありません!」
慌てて首を振っているが、俺から見ても完全に舞い上がっているとしか見えない。
『フローリア・・・、やってしまったな・・・、すまん、念話でこのようにお前と話をしていれば良かったよ。」
『そうですね・・・、私も迂闊でした。スキュラ族は耳が良いので、シズカさんにしっかり私達の会話を聞かれてしまいましたねぇ・・・、あの様子だとマズイです。速攻で負けてしまいそうですよ。』
『俺も思う。完全に舞い上がっているな。しっかりしているけど、予想以上にあんな話に免疫が無かったみたいだ・・・、多分、俺達に褒められた事で舞い上がって、今は頭の中が真っ白になっているかもしれん。』
『旦那様、もう仕方ないですから、ちゃんと責任を取って下さいね。私ではどうにも出来ません・・・』
『分かった・・・』
責任かぁ・・・、やっぱりアレしかないよな。まぁ、彼女が負けた時に考えよう・・・
シズカ達がゾロゾロと広場の中央に集まった。さっきまで真っ赤な顔だったシズカもキリッとした表情だ。もう大丈夫じゃないかな?
「我々バルキリー・シスターズ12名、準備が整いました!長老様、お願いします!」
へっ!何だ?そのネーミングは?
長老がニコッと俺に微笑んでくれた。
「蒼太様、あれから彼女達も考えていたのですよ。ずっと『蒼太様親衛隊』って呼ぶと、蒼太様が恥ずかしがって迷惑が掛かるんじゃないかってね。あの名前にするまで結構議論していたみたいだったけど、あの名前なら問題無いでしょう?」
まぁ、確かに言われればなぁ・・・、『蒼太様親衛隊』って言われると恥ずかしさでガリガリと精神値が削られていたしな。
それにネーミングがカッコイイ。
俺にすごく気を遣ってくれるし、本当に良い子達ばかりだな。
「それではいきますよ!ヴァーチャル・フィールド!」
長老が叫んだ瞬間、広場全体を覆う魔方陣が浮かび上がりすぐに消えた。しかし、魔方陣があった周辺は薄らと光っていて、光の輪が広場を囲っているように見える。
「何が起きた・・・」
「蒼太様、これは私が前創造神様の妻だった時に、旦那様と一緒に開発した魔法ですよ。」
長老が説明してくれる。
「このフィールド内でしたら、みんなが仮想現実の世界に入ってしまいます。現実から切り離されますので、本気で殺し合いをしても現実にはなりません。しかも、切っても攻撃がすり抜けるだけでスプラッタみたいな事もありませんからね。子供でも安心して見ることが出来るのですよ。彼女達1人1人にライフポイントが設定され、ポイントが0になると、強制的にフィールドの外にはじき出されます。中の攻撃や魔法は全てフィールドの外に出ることもないので、外の者に被害が出ることもありませんよ。」
「元々は兵士の訓練用に開発した魔法ですけどね。常に実戦を想定しての訓練に最適でしたよ。今はこの里の娯楽に使ってます。この里ってあまり娯楽がないもので、年に数回、このようにして楽しんでいるのですよ。」
すごい、遙か昔にこんなのが存在していたなんて・・・
確かにこのフィールド内ならどんなに本気で攻撃しても死ぬことはないし安全だ。それなら遠慮無しで戦う事も出来るよ。それで、彼女達もあれだけ殺る気になっていたのか。遠慮せずに自分の全てをぶつけられるしな。我が家の訓練にも採用したい魔法だ。今度、この魔法で我が家のNo.1決定戦でもしたいな。まぁ、フローリアが圧倒的かもしれないけど・・・
シズカが号令をかけた。
「それでは、みんな!恨みっこ無しのバトルロイヤルよ!」
その瞬間、彼女達が一斉に散開し魔法をシズカに放った。
「甘い!クリスタル・ガード!」
シズカの全方位にガラス状の盾が展開し、全ての魔法を防ぐ。確かに1番強そうな者を集中して倒すのがセオリーだよな。それか、1番弱い者から順番に狩られていくか・・・
「お返しよ!プロミネンス・サークル!」
何人か集まっていた地面から巨大な火柱が上がった。数人が炎に包まれてしまう。直後に3人がフィールドの外に出現した。ポイントが0になるとこうなるのか・・・
「ははは・・・、あっという間にやられちゃったわ・・・」
「さすがシズカ姉さん、私達では足止めにもならないなんて・・・」
あれだけの炎に巻き込まれてもピンピンしているな。血生臭さは全く感じない。これなら娯楽としても通用する訳だ。
「ホーミング・レイ!」
シズカが圧倒的だ。また2人をフィールドの外にはじき出してしまう。
しかし、なぜか表情が悔しそうだ。
「アヤ、中々やるわね。今の一撃であなたも含めて吹き飛ばすはずだったのに・・・、よく避けたわね。」
アヤ・・・、思い出した!昨日、ガーネットが喜んで抱きついていた子だ!シズカとの実力差は圧倒的に差があるように見える。しかし、諦めの目ではない。
「シズカ姉さん、確かに私は弱い・・・、でも、負けたくない!弱い私から抜け出したい!」
そう言ってチラッと俺を見た。
「だって!私もお嫁さんになりたい!昨日のミヤコ姉さん達の嬉しそうな顔、私もあんな風になりたい!だから、私も力一杯頑張るって決めたの!それに、あの時見た光景が・・・」
アヤの視線に釣られてシズカも俺を見て、シズカと視線が合ってしまった。
その瞬間、シズカの顔がボン!という感じで急に真っ赤になりモジモジしている。これはマズイ!
「隙あり!」
アヤが叫んだ。
「ホーリーィイイイ!ランスゥウウウ!」
アヤの右手の掌から白く輝く巨大な槍がシズカに放たれた。
一瞬遅れてシズカが反応する。
「くっ!スターライト!アローォオオオ!」
シズカの周囲に大量の魔法陣が浮かび、その魔方陣からいくつもの光の矢が飛び出し、アヤ目がけて飛んでいく。
2人の間に爆発が起き、煙で姿が見えなくなる。すぐに煙が晴れて2人が対峙している姿が見えた。
アヤの左肩に光の矢が深々と刺さっている。
シズカは・・・
胸の中央に大きな穴が開いていた。
「見事よ、アヤ・・・」
「シズカ姉さん・・・」
シズカがニコッと微笑んだ。
「私に勝ったのだから、必ず優勝しなさいね。分かった?」
アヤが頷くとシズカの輪郭がぼやけ姿が消えた。フィールドの外に現れたが、そのまましゃがみ込んでしまった。
「うっ、うっ・・・、負けちゃったぁぁぁ・・・、蒼太様ぁぁぁ・・・」
顔を両手で覆い泣いている。
弱った・・・、どう接して良いか分からないよ。チラッとフローリアを見てみた。フローリアも困った表情だよ。
『旦那様、しばらくそっとしてあげましょう。少し落ち着いてから話をした方が良いですね。』
『そうだな。残りはあと6人、決まってからシズカに声をかけてあげよう。決まるのはそう時間がかからないと思うしな。』
はぁ、はぁ・・・、あのシズカ姉さんに勝てたの?実感が湧かないけど、私の目の前から消えたから勝ったんだ。ミヤコ姉さん、リンカ姉さんに次ぐNo.3のシズカ姉さんに・・・
残りはあと5人、どう戦う?
「アヤ、凄いじゃないの。あのシズカ姉さんに勝つなんてね。」
「でも、勝負は勝負よ!かなり消耗しているようだけど手は抜かないからね!」
5人からファイヤー・ボールの魔法が一斉に私に向って放たれてきた!防がないと!
「ディフェンス・シールド!」
ダメ!こんなシールドじゃ防ぎきれない!
「きゃぁああああああああああ!」
1発、直撃した!もうライフポイントが・・・
「アヤ、あなたは頑張ったわ。でも、1番は私がもらう。恨まないでね。」
「マ、マドカ姉さん・・・」
負けたくない!負けたくない!負けたくない・・・
昨日のみんなの幸せそうな顔を見てしまったら、私も憧れてしまう・・・
そして、あの不思議な光に包まれた瞬間、一瞬だけど見えた光景が・・・
立派な神殿の中で2人の男女が立っていた。人族の夫婦みたいだった。
そして、女の人は赤ちゃんを抱いていた。幸せそうな顔で赤ちゃんを見ている。
何と!その女の人の顔は私だった。その赤ちゃんは間違いない、昨日の赤ちゃんだとなぜか理解出来たわ。
そして、微笑ましそうに私達を見ていた男の人は間違いなく蒼太様だった。
私は理解したわ。その光景は遥か昔の私達だと。私はスキュラ族に転生したけど、こうやって今の時代に蒼太様と再び出会えたのだと・・・
どうして理解出来たのか分からない・・・、フローリア様の赤ちゃんの力かもしれない・・・
でも、確実に言える事があるわ。
私は蒼太様と一緒になりたい!この気持ちだけは絶対に誰にも負けないと!
えっ!何!私の中から声が聞こえる!
【ふふふ、未来の私、驚かせてゴメンね。生まれ変わった旦那様は気付いていないけど、旦那様の力で私達はこうやって再び巡り合えたのよ。そして、生まれ変わった可愛い私の子が、あなたの意識の奥底に眠っていた私を起こしてくれたわ。】
【あの時はとても悲しい分かれをしてしまった。旦那様の死でね・・・、もう少し先にもっと大きな試練があるけど、絶対に諦めないでね。だから、私も少し力を貸してあげる。あなたの本当の力を目覚めさせてあげるわ。今度は離れる事のないように・・・、絶対に幸せになりなさいね。】
何!何!何!私の中から信じられないくらいの力が溢れてくる!この力は・・・
「フローリア!どうなっている?あのアヤっていう子からとんでもない魔力が放出されているぞ!一体、何が起こっているのだ・・・」
フローリアも冷や汗が出ている。
「これは・・・、目覚めたのです。クイーンに・・・、まさか、同じ時代に2人も存在するなんて・・・、一体、これから何が起こるの?」
アヤからの凄まじい魔力の放出が止まった。栗色の髪の毛が徐々に黒くなっていく。閉じていた目がゆっくりと開いた。瞳もミツキと同じようにクイーンの証である金色に変わっていた。
アヤの前にいる5人がガタガタ震えている。
「ま、まさか・・・、アヤがクイーンに目覚めるなんて・・・、信じられない・・・」
スッとアヤが右腕を頭上に掲げると、頭上に巨大な火の鳥が出現した。
「マズイ!あれはフェニックス・プロミネンス!いきなり最上級の魔法を使えるなんて!このままじゃ全員が巻き込まれる!散開よ!」
一瞬にして立ち直るなんて、この5人は相当に鍛えられているな。しかし、今のアヤの力の前では・・・
5人が慌ててアヤから距離を取ろうとして、後方にジャンプしたと同時に火の鳥も彼女達に襲い掛かった。
「「きゃぁあああああああ!」」
2人が炎に包みこまれ、即座にフィールドの外にはじき出されてしまった。
クローディアが慌てて俺の隣に来た。
「旦那様!インフィニティが『見つけたぁあああ!』と叫んでます!」
「何だと!」
俺が叫んだと同時にアヤの前に巨大な黄金の両刃の斧が出現した。
まさか、インフィニティのマスターがアヤだったなんて・・・
長老も驚愕した表情でアヤを見ている。
「まさか、クイーンに目覚めるなんて・・・、それに神器にも選ばれるとは、あの子はどれだけ規格外なの?」
アヤがゆっくりとインフィニティの柄を両手で掴んだ。感触を確かめるようにブンブンと振り回している。片手に持ち直しインフィニティを肩に担いだ。
「そう、あなたの名前はインフィニティって言うの。私はアヤ、よろしく頼むわね。でも、本当に私がマスターで良かったの?」
しばらくアヤが目を閉じて佇んでいる。
「ありがとう。私の可能性を信じてくれているんだ。私もあなたの名前『無限』に負けないくらいに頑張るわ。蒼太様と一緒にどこまでも高みを目指してね。」
残っていた3人がアヤの前に膝をついた。
「クイーン!無礼を承知で進言します。」
「この戦い、いかに相手がクイーンであろうとも、我々は引けません!ですので、このまま戦いを続行させてもらいます。例え、我々がクイーンに勝てないまでも、力の限り戦わせてもらいます。」
アヤがニコッと微笑んだ。
「マドカ姉さん、そんなに畏まらなくても良いです。私は確かにクイーンの力に目覚めたかもしれませんが、私は私、蒼太様を愛する只のスキュラ族の1人です。ですから、私をクイーンと思わないで下さい。」
「もし、私をクイーンとして仕えるつもりなら、これは命令です。私を只のアヤとして、クイーンとして扱わない事!分かりました?」
スッと3人が立ちあがった。アヤと同じようにニコッと微笑んだ。
「さすがアヤね。シズカ姉さんが1番あなたを気に入っていた訳だわ。クイーンになってもあなたは変わらない。1人の女として生き続ける事を曲げないなんてね。だったら、私達も負けていられないわ。蒼太様を愛する気持ちは私達も負けていない。妻の座は私がもらうわよ。」
4人が頷いた。全員が一斉に後ろに飛び上がり距離を取る。
「それじゃ、アヤ!行くわよ!」
「グランド・クロス!」
「アトミック・レイ!」
「ダーク・スフィア!」
3人が一斉にアヤに向けて魔法を放つ。どれも上級の魔法だ、1発でも当たればクイーンとなったアヤでも只では済まない威力だ。
しかし、アヤは全く慌てていない。
「インフィニティ、こちらもいくね。グランド・シールド!」
肩に担いでいた神器を上に掲げた。みるみる大きくなり、そのまま地面に突き立てる。アヤの全身が全て隠れてしまった。そのまま魔法が神器に当たるが、神器は全く傷一つ付いてない。
「まずは1人!」
巨大な姿の神器を地面から引き抜き、一瞬にして1人の前に移動し、横薙ぎに神器を振りかぶった。
切られた者は一瞬で消えてしまい、フィールドの外に現れる。
アヤが残りの2人に向き直った。
「肉弾戦をする魔法使いも面白いでしょう?これで接近戦でも隙がないわ。」
「くっ!」
1人が飛翔魔法で上空に飛び上がった。神器が届かない上から魔法で絨毯爆撃をするつもりか?
「甘い!」
アヤが叫び、神器を振りかぶる。神器が一瞬でとてつもなく長く更に巨大な姿に変化した。
「一撃必殺!唐竹割りぃいいいいいいいいいいい!」
思いっきり振り下ろすと、神器の刃が更に大きく柄が長くなり、上空に飛んでいたのにあっさりと神器が届いてしまった。そのまま真っ二つにされ消滅してしまった。
「な、何なの?あのデタラメな射程は・・・、あんなの無茶苦茶よ!」
アヤからマドカと呼ばれていたスキュラ族が大量の冷や汗をかいて、アヤをジッと見ていた。広場の周りのスキュラ族もアヤの力に圧倒されて、誰一人身動きすらしていない。
そりゃそうだ、俺から見てもアヤの姿は驚異を感じる。10メートルを軽く超える長さの巨大な斧を平然と肩に担いでいるし・・・
「マドカ姉さん、これが神器、インフィニティよ。私の想いに応えてどこまで大きく長くなるの。名前の通り無限にね。私はまだ未熟だけど、本気のインフィニティの力はこんなものではないわ。星を割り、この神界でさえ真っ二つに出来るでしょうね。それだけの力を秘めているの。」
「でも、今の私の未熟な実力でも、このフィールド内なら射程圏内よ。マドカ姉さん、どうします?」
マドカが不敵に笑った。
「ふふふ、さすがクイーンね。私の予想よりも遙かに上回る力・・・」
「だったら尚更よ!私も全力を出して挑めるわ!クイーン!いえ、アヤ!最後の勝負よ!私も出し惜しみしない!クイーンに挑める不敬のチャンスなんて金輪際無いからね。ありがとう、私を対等に見てくれて・・・」
神器が最初に現われたサイズに戻り、アヤが握り締めている。マドカも冷や汗をかいてはいるが、目には闘志が漲っている。
みんなが感じている。この次が最後の勝負になると・・・
評価、ブックマークありがとうございます。
励みになりますm(__)m