フェンリル族の里㊷
う~ん・・・、非常に気まずい・・・
つい先日までミドリとほとんど会話すら無かったのに、いきなり告白されて結婚してしまったからなぁ・・・、いくら夫婦になったとはいえ、2人だけで部屋にいると空気が重い・・・
えぇえええい!俺から話し出すしかない!
「ミドリ、2人だけでの話なんだけど、どんな話だ?」
ミドリが少しガックリした感じになった。えっ!何か悪い事をしたか?
「ご主人様、忘れたのですか?私がなぜご主人様の事を好きだったのかを・・・、今度、その話をしましょうって言ってたじゃないですか。ずっとご主人様が分かってないようでしたので・・・」
あっ!思い出した!昨日、フェンリル族の里に行く途中でその話をしていたのに、すっかり忘れてそのまま寝てしまってた・・・
「ミドリ!すまん!完全に忘れてた!」
しかし、ミドリはクスッと笑った。
「ふふふ、気にしてませんよ。私も昨日はご主人様と添い寝が出来た事で舞い上がっていましたし、私もその話をするのを忘れてましたからね。」
「ご主人様の予想通り、私はあの時に助けてもらったグリーン・ドラゴンです。助けてもらえなかったら、私はあの時、確実に命を落としていたでしょう。ご主人様は私の命の恩人なのですよ。」
それでか・・・、ミドリが俺に惚れたのは・・・、そうだよな、殺される寸前で助けてもらったし、そりゃ惚れてしまう可能性は高いよな。
でも不思議だ。なぜ味方同士で殺し合いをしていたのだ?
「ミドリ、どうしてそんな事になったのだ?ドラゴン族は仲間意識が強いと聞いたが・・・」
「それはですね、私はちゃんと両親がいて卵から生まれたドラゴンだからです。」
「どういう事だ?」
「かつての龍神が配下にしていたドラゴンには2種類ありました。私みたいな卵から生まれたドラゴンがいれば、当時ドラゴン族を治めていた龍神が生み出すドラゴンもいました。龍神は特殊なスキルを持っていまして、自分の分身みたいなものを生み出す事が出来たのです。龍神の配下はそのように生み出されたドラゴンがほとんどで、生まれた時から大量破壊兵器として完全体ですし、強さは圧倒的でした。そんなドラゴンですから、私のような弱いドラゴンを見下し虐めていたのです。それでも、ご主人様達の強さには全く敵いませんでしたけど・・・」
まぁ、春菜達を基準にしたらほとんどが弱い部類になってしまうよ。伊達にロイヤルガードと呼ばれてないからな。今では更に強くなっているし・・・、正直、もう俺よりも強いと思う・・・
「そして、私は争いが好きではありませんでした。無理矢理あの場所に転移させられてしまい、怖くて隠れていたのですが見つかってしまい、『軟弱なドラゴンは死ね!』と言われて殺されそうになったのです。」
そして、ミドリがうっとりした表情で俺を見つめている。
「その時にご主人様が颯爽と現われて私を助けてくれたのですよ。このシチェーションで恋に落ちない訳がないです。私は一瞬で恋に落ちました。あれから生き残った者と一緒にご主人様の世界で暮らす事になりましたが、私はドラゴン・・・、ペットや乗り物ぐらいしか私がご主人様に仕えることが出来ないと思っていましたが、その時、アカに教えてもらったのです。私達みたいなドラゴン族は進化すると人化出来ると。遙か昔に数人いたと伝説に残っていた事を思い出しました。だから私は懸命に頑張りました。今はジュエルドラゴンのエメラルド・ドラゴンに進化し、このように人に変化出来るようになったのです。同様に、アカもルビー・ドラゴン、ドラもダイヤ・ドラゴンに進化し、2人も念願の人の身を手に入れました。」
「でも、この姿になれたのですが、やっぱり直接ご主人様に話しかけるのは恥ずかしくて・・・、今でもこうやって2人でいると恥ずかしくてドキドキしているんですよ。ふふふ・・・」
ミドリが可愛いよ。こんな感じだからみんなから応援されているだろうな。
ミドリがなぜ俺にここまで惚れたのかは分かったけど、こうして2人だけで話の機会を設けて欲しいとういのはなぁ・・・、まだ何かありそうだ。
「それと、お願いがあるのです。こうして2人だけの時は『あなた』と呼ばせて欲しい・・・」
上目遣いで俺を見てくる。うっ!この仕草が可愛い過ぎる!何でも言うことを聞きたくなってしまうよ。
「分かったよ。ミドリの好きなように呼んでも良いからな。」
ミドリが凄く嬉しそうだ。
「ありがとうございます。あなた・・・」
顔が真っ赤になっている。
「ふふふ、恥ずかしいです・・・、気絶する事は無くなりましたが、慣れるまで時間がかかりそうですね。」
突然、ミドリの表情が真剣になった。
「あなた、こうして2人だけでお話したかった本当の理由を話します。」
ミドリの足下が輝き始めた。眩しい!光が収まるとそこにあったのは・・・
「マ、マジか・・・、全部本物なのか?」
ミドリが頷いた。
足下に大量の竜の涙が山盛りに積まれている。ゲートに使用したものに比べてかなり小粒だが、バケツ1杯分はあるだろう。神界でも秘宝中の秘宝がこんな大量にあるなんて・・・
「私の収納魔法に収めていましたが、やはり、黙っているのも・・・、私の嫁入り道具として受け取って欲しいのです。ダメですか?」
いやいや、これは良いとかダメっていうレベルの量じゃないぞ。こんなモノがここに大量にあるって分かったら、泥棒や強盗が殺到するぞ!こんなモノ、俺1人で判断は出来ん!
「ミドリ・・・、どうしてこんな大量に・・・」
ミドリがニコッと笑った。
「エメラルド・ドラゴンに進化出来た時に『これでご主人様のところに行ける!』って喜んでいたらいつの間にか足下に大量にありました。多分、竜の涙はドラゴンが嬉し泣きすると出来るのではないかと思います。それに、夜、眠っていると夢の中であなたが優しく抱きしめてくれて、それから、ふふふ・・・、これ以上は恥ずかしくて言えません・・・、それで目が覚めると枕元に落ちているのですよ。夢の中までも私を喜ばせてくれるなんて・・・、夢の中の結婚生活はもう子供が3人もいますよ。現実にしたいですね。」
「何度も同じ様な夢を見て、そうやって集めていたらこんな量に・・・」
ミドリ・・・、夢の中の俺って・・・
そうだった、今は大人しいけど、ミドリはかなりのヤンデレだった。あれだけの量だとどんだけ俺が夢に出ているんだ?ほぼ毎日だったりして?う~ん、ミドリならあり得る・・・
「ミドリ、さすがにこの量は俺1人だと判断出来ないぞ。取り敢えずフローリアにも相談したいが、良いか?」
ミドリが頷いてくれた。
『フローリア、ちょっと見てもらいたいモノがあるんだけど、良いかな?俺の部屋だ。』
フローリアに念話で伝えてみる。
『どうしました?分かりました。今すぐ行きますね。』
フローリアが転移で俺の部屋に来た。山盛りの竜の涙にすぐ気付いたが、口をパクパクしながら軽くパニックになっている。
「な、何でこんな大量の竜の涙がぁぁぁぁぁ・・・、あわわ・・・、どうしましょう?ママ!すぐに来て!」
すぐに義父さんと義母さんが転移で現われた。
「フローリア、どうしたの?そんなに慌てて、えぇえええええ!」
義母さんもパニクってしまった・・・
義父さんが呆れた表情で俺を見ている。
「息子よ、とんでもないモノを見させてもらったぞ。こんなに量があると分かったら、確実に戦争が起こるぞ。この神界でも好事家なんて山ほどいるし、独占する為に他の好事家に渡さないよう手段を選ばなくなるな。それにこれだけの量だ、強力なマジック・アイテムの素材として遠慮無しに使える。お前がいた地球の水爆以上の兵器がゴロゴロ作れる訳だ。それも簡単にな・・・、これは神殿の宝物庫に厳重に保管した方が良いだろう。」
「やっぱりですよね。」
義父さんが頷いた。
「ミドリ、悪いな・・・、折角出してくれたのに・・・」
しかし、ミドリはスッキリした顔をしている。
「大丈夫ですよ、あなた。私もどうしようか困っていましたから・・・、だから相談したのですよ。それに、これからも増えるかもしれません。あなたと私が愛し続ける限りはね。この竜の涙は私の幸せの証なんですから。」
「ふはははぁあああああ!息子よ!彼女にここまで言わせるとはな!この果報者めぇえええ!力だけでなく財までも規格外か!」
「ミドリ、安心しろ!この竜の涙はワシが責任をもって保管しておく。かつてゾーダに盗みに入られてからは、完璧なセキュリティを施したからな。誰も入る事すら出来んわ。ワシの収納魔法の中に宝物庫を移したからな。このワシに挑戦するヤツが出て来るのを楽しみにしてるぞ!ふはははぁあああああ!」
確かに完璧だよ。最強すぎるガーディアンだからなぁ・・・、挑戦する物好きは絶対にいないと思う。
フローリアと義母さんが2人で何かコソコソ話をしている。話が終わったのかフローリアが慌ててミドリのところにやってきた。
「ミドリさん、少しお願いがあるんですけど・・・」
「どうしました?フローリア様。」
「この竜の涙を少し分けて欲しいんです・・・、魔力供給の素材としては最高なので、私達の指輪や凍牙さん達のピアスに取り付けたいと思ったのですよ。万が一魔力切れになっても、この竜の涙が魔力タンクになりますから、緊急時の魔力補充になると思って・・・」
「もちろん、そのままだと竜の涙っていうのは分かってしまいますから、偽装して単なる宝石に見えるようにしますけどね。」
ミドリが微笑みながら頷いた。
「分かりました。それでは、どうぞ。」
そう言って、両手いっぱいの竜の涙をフローリアに差し出した。さすがにフローリアも慌てている。
「いやいや、ミドリさん・・・、いくら何でもこんなにたくさんは・・・」
しかし、ミドリは微笑んだままだ。
「フローリア様、いくら無限の魔力を供給するといっても、一気に魔力を吸い出すと枯渇して塵となって無くなってしまいます。これは予備を含めてですからね。どれだけ供給できるかも分かりませんし、テストもしなければなりませんからね。」
「分かりました。取りあえず半分はいただきますね。残りは旦那様、預かっていただけませんか?また、何かに使うかもしれませんからね。」
「分かったよ。でも、コレはデウスには見せられないな。アイツなら狂喜して禁断の研究をしそうだよ。」
フローリアがクスクス笑っている。
「確かにあの方でしたらねぇ・・・」
「それじゃ、ママ、今から2人で指輪とピアスの手直しですよ!徹夜になりそうですけど頑張りましょうね!」
義母さんが慌てている。
「フローリア!何で私まで巻き込まれるの?今夜もガーネットと一緒に寝るんだからね!」
しかし、フローリアが意地悪そうに微笑んでいる。
「大丈夫よママ、ガーネットの隣で作業すれば大丈夫!ママはアイテム作りは得意だし、ママがいるといないとでは作業効率が全然違うからね。2人でガーネットの可愛い寝顔を見ながら頑張りましょう!」
「そうね!可愛いガーネットが隣にいるなら、私もやる気倍増よ!フローリア、頑張りましょうね!」
義母さん・・・、ガーネットが絡むとチョロ過ぎるよ・・・、フローリアとは血が繋がっていないと聞いているけど、こんなチョロいところを見ると間違いなく親子だよな。
義父さんがニコニコ笑っている。しかしなぁ・・・、〇オウVerでニコニコされても怖いだけだよ。未だに慣れないよ。
「それじゃ、残りはワシの収納に収めておくぞ。」
ミドリの足元にあった大量の竜の涙が消えた。ん!数粒が残っているけど、何で?
義父さんがヒョイッと拾い掌に置いて握ると光が溢れた。
掌を広げるとその上には黄金の立派な髪飾りが2つ出来ていた。髪飾りには龍の涙がいくつもはめ込まれている。その1つを義母さんの髪に着けた。もう1つは霞の分だな。
「母さんや、すごく似合っているな。ふはははぁあああ!」
義母さんがポッと頬を赤くしているが、目がなぜかマジモードだ。
「あなた、そうやってゴマを擦って自分だけ寝ようと思っても無駄ですよ。私とフローリアが頑張っている間は寝させませんからね。夜食や飲み物の用意もしてもらいますし、1番の理由は私達が頑張っている隣でグーグー寝ているのはねぇ・・・、付き合ってもらいますよ。」
義父さんが冷や汗をダラダラ流している。
「母さんや、何でワシまで巻き込まれる・・・、ぬおぉおおおおお!」
義父さんが義母さんに引きずられながら、フローリアと一緒に転移していった。
「いやぁ~・・・、本当に賑やかな親子だよなぁ~」
ミドリも苦笑していた。
「ふふふ、でも仲が良くて本当に羨ましいですよ。ねぇ、あなた・・・、私達もあんな夫婦になりましょうね。」
「お、おぅ・・・」
「それと、最後のお願いですけど・・・」
ミドリが顔を赤くして俺の顔を覗き込んでいる。
「大丈夫ですよ。変なお願いじゃないですからね。あなたを膝枕したいのです。これなら問題ないでしょう?」
ちょっとドキドキしていたよ。『抱いて下さい』って言われるかと思ったけど、多分、アイリスに気を遣っているのだろうな。でも、ミドリの膝枕って・・・、俺にとっては最高のご褒美だよ。
ソファーだと小さいのでベッドにミドリが座っている。さすがに緊張するが、意を決してミドリの太ももに頭を乗せた。
ミドリが幸せそうな表情で俺の髪を優しく撫でてくれている。最高に気持ち良いよ・・・
今日の疲れもあってか、あっという間に俺は眠りに落ちてしまった。
ふと目が覚めた。そんなに時間は経っていないみたいだ。
ミドリは・・・
俺を膝枕したままうとうと眠っている。済まないな、お前も疲れているはずなのに・・・
ん!背中に圧迫感があるんだけど・・・
後ろを振り返ってみると・・・
いたぁああああああ!クローディアが俺の背中に抱きつきいて眠っている!背中の圧迫感はクローディアの凶悪な胸か!それにしてもすごく柔らかい、このままずっと抱きつかれていたい・・・、ダメだ!俺よ冷静になれ!
俺が慌ててしまったおかげで2人も目を覚ましてしまった。
「あなた、すみません、起こしてしまいました?」
ミドリが申し訳なさそうな表情だけど、クローディアは・・・
「旦那様ぁぁぁ~、もう少し抱かせてください~」
そう言って俺の耳元に息を吹きかけてくる。俺は無言で腕を後ろに回し、クローディアに目つぶしをしてやった。
「うぎゃぁあああああ!」と叫んで、目を押えながら悶えている。
「ミドリは分かるけど、クローディア、何でお前までいる?」
はぁはぁ言いながら目を押えていたが、すぐに元の表情に戻りニッコリ微笑んできた。さすが神器、頑丈さと回復力は尋常なレベルじゃないな。
「フローリアから連絡があったのよ。今すぐ旦那様のところに行きなさいってね。そして、行ってみたらミドリが幸せそうに旦那様を膝枕していたし・・・、それからミドリにちゃんと許可をもらってから抱きついたのよ。」
そして、ちょっと不機嫌な表情になった。
「それなのに旦那様・・・、いきなり目つぶしなんて鬼です・・・」
「クローディア、すまん・・・、これで事情は分かった。」
しかし、何でフローリアがクローディアに連絡したのだ?
そうか・・・、あいつはいつもみんなの事を考えていたな。
俺は2人の前に正座し土下座した。
「あ、あなた!一体何を!」
「旦那様!そんな真似を!」
「すまない!俺はアイリスの事ばかり考えてお前達の事を考えていなかった。」
顔を上げ2人を見つめる。
「確かにアイリスは子供だし、成人前に変な事をする訳にはいかない。でも、お前達はアイリスとは関係無いんだよな。アイリスを理由にしてお前達の気持ちから逃げていた・・・、フローリアがクローディアに連絡したのはそういう事だろうな。アイリスはアイリス、お前達はお前達、ちゃんと気持ちに応えてあげるようにと言っているんだろう・・・」
「だから・・・」
俺は2人を優しく抱きしめた。
「あなた・・」
「旦那様・・・」
「愛してるよ。ミドリ・・・、クーローディア・・・」
「「はい・・・」」
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