フェンリル族の里㊶
色々とドタバタしたけど、ようやく長老の屋敷に戻り落ち着くことが出来た。
はずだったが!
なぜ?俺の親衛隊のメンバーまで一緒にいる?それに近いぞ!俺を中心に団子状態になって集まっているし・・・、確か、おもてなしは断ったのに・・・、全員が黙っているから更に恥ずかしさ倍増だ。
凍牙と冷華は2人でイチャイチャして俺の事は眼中無しだし、フローリアとクローディアは長老と一緒に屋敷の奥に行ってゲートの設置をしている。
そろそろ戻って来るとは思うが、もの凄く照れくさいよ・・・
ある意味、拷問みたいな時間だったけど、しばらくしてからフローリア達が戻ってきた。別室に待機していたミナコも一緒にいる。全員が立ち上がった。
「みなさん、準備は終わりました。これから私の神殿へ移動する事になりますが、みなさん、絶対にこの事は秘密ですからね。」
スキュラ族達全員が頷いた。
「それではこちらへ。」
全員がゾロゾロと屋敷の奥へ進んだ。俺の隣にフローリアが来て一緒に歩いている。
「春菜さんとマリーさん、それにミツキさんが協力してくれたおかげで、思った以上に早くゲートの設置が出来ましたよ。さすが神界でもトップクラスの魔力持ちの方々ですね。それに、あの竜の涙も凄いです。私が知っている中でも最大級の大きさですから、全てのゲートを稼働させてもまだ余裕がありますよ。ミドリさんにも感謝ですね。」
「そうだな。」
そうしているうちに、ゲートがある部屋に着いた。
しかし、これは本当に違和感があるなぁ・・・
今までのゲートはど〇で〇〇アみたいな感じだったし、そんなイメージしかなかったのだが、目の前にあるのは押し入れの襖だぞ・・・
開けたら青い猫型ロボットが出てくるかも?そんなイメージだよ。ここのゲートはど〇〇も襖なんだな。そうなると、フェンリル族の里の方も同じだろう・・・
フローリアが襖を開けると、襖の奥にフローリアの神殿の執務室が見える。魔力を流さなくても本当にちゃんと繋がっているよ。
みんながゲートを通ってフローリアの神殿に到着した。
俺達は見慣れた光景だから何も感じないが、冷華とスキュラ族のみんなは目を輝かせてキョロキョロと周りを見ている。昔、テレビで見た田舎から初めて都会に出てきた人の反応に似ている。
冷華が呟いている。
「こんな立派なところに住む事になるの・・・、私、本当に住んでいいのかな?」
大人凍牙が冷華を優しく抱き寄せた。
「冷華、ここで驚いていたら、蒼太の家だと心臓が止まるぞ。こことは比べものにならないからな。お前にとって未知の世界だろうし・・・」
冷華が嬉しそうに凍牙の腕を組む。
「凍牙、頼りにしてるわよ。こうやって寄り添っていると、本当に結婚したんだと実感するわ・・・、幸せよ・・・」
お前らぁ・・・、まだイチャイチャしているか・・・、他のスキュラ族が目のやり場に困っているぞ。こいつらは放置しておこう。
執務室を出て広い廊下をしばらく歩いていると、大きなドアの前でフローリアが止まった。手をかざすと音も立てずにドアが開いた。中は大きなホールになっていて、多くのテーブルが並んでいる。
中にいたのは、俺の嫁軍団全員と凍牙の嫁軍団だ。そして、テーブルの上には様々な料理が並んでいる。
ララとミドリが頭を下げた。
「旦那様、私達が腕によりをかけて作りましたよ。みなさん、今夜は楽しんで下さいね。」
ララが微笑みながらみんなに語りかけた。ララは俺と結婚した頃は可愛い感じだったけど、今は本当にキレイになったな。時々、俺と一緒に義父さんの神殿に行く事もあるが、かなりモテているみたいで、隠れファンもいると聞いた事があるよ。
全員が料理を見てゴクリと喉を鳴らしている。昨夜はフェンリル族の里で夕食を取ったけど、素材を焼くか簡単な味付けで煮るかだけの料理だったからな。スキュラ族も似たような食事だろう。手の込んだ料理は初めて見るかもしれない。でも、俺は素朴な料理も嫌いではないし、ゲートが出来たから、時々でも食べに行こうかな。
雪が慌てて冷華のところに行った。
「冷華!本当に私達がこんなところにいて良いのかな?里と比べて違いすぎるし・・・」
凍牙がニコッと雪に微笑んだ。
「雪、心配するな。俺が付いているからな。それにしても、冷華と同じ台詞を言うなんて・・・」
「凍牙ぁぁぁ~」
冷華が凍牙を睨みつけていた。
「ミツキィイイイイイ!」
ミナコが大声で叫んで、ミツキのところに走っていった。
「母さん!」
ミツキも駆け出し2人が抱き合った。
「ミツキ・・・、本当にごめんなさい・・・、私があなたの事を何も分かってあげなくて・・・」
ミナコが涙を流しながらミツキに謝っている。ミツキも泣いていた。
「いいのよ、母さん・・・、母さんは慣わし通りにしていたんだし、私が弱かっただけだったから・・・」
「それにね、私は今は幸せなんだからね。もう心配しなくてもいいからね。」
ミヤコもキョウカもミナコのところに来た。
あれ!キョウカはどこにいたんだ?
不思議に思って周りを見渡していると、いたぁあああああ!
部屋の隅の方で義父さん(〇オウVer)とガーネットを抱いている義母さんに霞が、族長夫婦と氷河夫婦とで出来上がっている!義父さんと族長が楽しそうに酒を飲んでいた。
ミヤコが嬉しそうにミナコに話しかける。
「母さん、私達姉妹はもう大丈夫よ。みんな好きな人に嫁いだから。それに、キョウカはおめでたなんだし、お婆ちゃんと言われる日も近いわよ。楽しみにしていてね。」
ミナコがキョウカを抱きしめた。
「キョウカ、おめでとう。まさかフェンリル族と結ばれるって思いもしなかったけど、幸せなら何も言わないわ。」
2人が離れお互いに微笑んでいる。
「それじゃ、キョウカの旦那様に挨拶に行かないとね。」
ミナコが族長達の方に視線を向けると驚愕の表情で見つめていた。
「嘘・・・、まさか、あの子達まで?」
キョウカが頷いた。
「それに、何、この気持ち・・・、なぜ?リンカの横にいる人を見た瞬間に私の中の何かがはじけた気が・・・」
フラフラした足取りでミナコが族長のところに行った。そしてリンカの前に立って真剣な表情でリンカに話し始めた。
「リンカ・・・、あなたもしかして?」
リンカが嬉しそうに頷く。
「ミナコ姉さん、そう、私はフェンリル族の族長様のお嫁になったの。もう私はこの人以外の事は考えられないわ。これが恋なのね。それに、ミナコ姉さん、あなたも恋に落ちたみたいね。私の旦那様を見る目が違うわよ。キョウカは旦那様の娘になったし、あなたも一緒になって家族仲良く過ごさない?ミナコ姉さんなら大歓迎よ。」
ミナコが真っ赤になって族長を見つめている。族長は冷や汗をダラダラ流しているが、義父さんと義母さんはとても嬉しそうにしている。
「ふはははぁあああああ!これは良い話だな!雹真よ!お前も覚悟を決めろ!こんな美人がお前に惚れたんだ。男を見せないとな。ふはははぁあああああ!」
義父さんがとても喜んでいるよ。それにしても、族長の名前を初めて知ったぞ。いつも族長と呼んでいたし・・・
「こんなおばちゃんなのに?それに子供を3人も産んでいるのよ。今更、お嫁さんになるなんて・・・」
リンカが悪戯っぽく微笑んだ。
「あら、姉さん、やっぱり止めておく?でもねぇ・・・、1度恋を知ったら大変よ。里にいてもずっと好きな人を想って、心が締め付けられる思いをしなければならないわよ。」
「でも・・・」
「雹真!お前はどうなんだ?嫌なのか?」
族長が真剣な眼差しでミナコを見ている。
「レオ!ワシも男だ。慕ってくれる者を拒むことは出来ん!ミナコさんだったかな?あなたさえ良ければワシは受け入れても良いと思っている。どうかな?」
ミナコがコクンと頷いた。キョウカが抱きついてきた。
「母さん、おめでとう!これでずっと一緒にいられるね。ミヤコ姉さんもミツキ姉さんも凍牙さんと結婚したから、あのゲートを使えばいつでも会えるからね。」
リンもハツネも嬉しそうにしている。
義母さんも嬉しそうだ。
「ふふふ・・・、今日は良い事ばかりね。この子も喜んでいるわ。さすがフローリアの子ね。ちゃんとこの場の雰囲気が分かるなんてね。」
長老が嬉しそうに義父さんの前に来て頭を下げた。
「レオ様、ありがとうございます。ミナコの後押しをしてくれて助かりました。ここまで夫婦になる者が出てくるとは思いませんでした。でも、おかげでスキュラ族とフェンリル族は昔のように仲良く出来ると思いますね。」
シズカ達を見ると何かブツブツ言って冷や汗をかいている。
「長老様が頭を下げている・・・、それに、あの赤ちゃんを抱いている女の子は、フローリア様の事を呼び捨てにしていた・・・」
「ま、まさか!あのお2人は!我らの里では創造神様のお使いと仰っていた方々は・・・」
義母さんがシズカ達の慌てている様子に気付いたようで、ガーネットを抱きながらシズカ達の前に来た。
シズカ達が慌てて臣下の礼をする。
「さ、先ほどは大変失礼しました。まさか、創造神様が直接我らの里に来られるとは思ってもいなく・・・、我々の知っているお姿とはあまりにも・・・」
義母さんが微笑んだ。
「今は家族が集まっているだけなのよ。フローリアから聞いているわ。本当に真面目な人達ね。あなた達もいつかは私達の家族になるんだからね。立場は忘れて頂戴。それに、私達のこの姿は内緒よ。特に創造神があんな姿だとイメージが悪いし、どう見ても悪役にしか見えないからねぇ・・・」
ガーネットが「う~、う~」と言いながらバタバタし始めた。視線が1点を見つめている。
「あら、ガーネット、どうしたの?」
義母さんがガーネットの視線に気付き、その視線の先を見ると1人のスキュラ族の女の子がいた。メンバーの中では1番若い感じだ。美冬をもう少し成長させた感じかな?
「この子に何かあるのね?」
そう言ってその女の子の前まで移動すると、ガーネットが喜んで抱きつこうとしている。
「あらら、この子が気に入ったの?それじゃ・・・」
義母さんがガーネットを女の子に渡した。女の子はとても嬉しそうにガーネットを抱いている。
「可愛い・・・、私もいつかは蒼太様と・・・」
「あら、若いのにちゃんと赤ちゃんを抱けるのね。名前は何て言うの?」
「はい、アヤと申します。我々スキュラ族は子供は里の者全員で育てます。近所の赤ちゃんの世話は何回もしていました。」
「そうなの。ガーネットがとてもあなたの事を気に入ったみたいだから、明日の勝負は勝って蒼太さんのお嫁さんになってほしいけどね。」
しかし、アヤと名乗った女の子は暗い表情になった。
「でも、私は成人になったばかりですし、この中では1番弱いです。正直、明日は勝てる自信が・・・、でも、蒼太様を想う気持は誰にも負けないです!だから、明日は力の限り頑張るつもりです!」
ガーネットが突然、金色に輝きだした。そして、アヤも光に包まれる。すぐに光は収まったが、アヤがキョロキョロしている。
「えっ!一体今のは?」
義母さんがニコッと微笑んでいる。
「ふふふ、ガーネット、そうなの・・・」
「大丈夫よ、明日の勝負には影響は無いから安心して。ガーネットはきっかけを与えただけよ。私から1つアドバイスをするわ。あなた、いえアヤさん、明日の勝負は想いの強さが勝負を決める鍵になるわね。あなたがどれだけ蒼太さんの事を想っているか・・・、そうすれば新しい扉を開けるかもしれないわね。」
「はっ、はい!」
アヤが元気よく返事をして、義母さんは満足そうにガーネットを抱いて義父さんのところに戻って行った。
義母さんや・・・、ガーネットが可愛くてたまらないのは分かるが、いつまで抱いている?そろそろフローリアのところに戻さないと、フローリアが寂しがって暴れるかもしれないよ・・・
それから食事が始まった。今回は立食形式のバイキングだ。いやぁ・・・、春菜達は本当によく食べる・・・、まるでブラックホールだな。みるみるうちに山盛りの料理が無くなっていく。スキュラ族のみんなが引いているよ。みんなのあの細い体の何処に収まっているのか、本当に謎だよ。冷華や雪は美冬と違って普通に食べている。フェンリル族の中でも美冬だけが規格外の食欲みたいだ。それでも感動しているのか、涙を流しながら食べている。確かに、今回は希少な食材をふんだんに使っているので、普段の俺達の食事よりも豪華だからな。いつもこんな食事だとは思わないで欲しい。
スキュラ族の面々は最初は大人しく食べていたが、次第にララやミドリの方に行って色々と話をしているよ。食べ物を前にして話しているから作り方を聞いているかもしれない。ホント真面目過ぎなメンバーだよ・・・
しばらくするとミドリが俺の隣にやってきた。
「ご主人様、今日は1日本当にお疲れ様でした。疲れているようでしたら、お話は後日でもよろしいですよ。」
「いや、大丈夫だよ。ミドリのお願いだし、断るつもりはないからな。」
ミドリが嬉しそうだ。
「ありがとうございます、ご主人様。それではよろしくお願いしますね。」
食事が終わり、みんなが帰る事になったが・・・
「ママ・・・、何でガーネットを連れて行くの?今日から私が家に帰るから一緒に戻るはずだったよね?」
フローリアが義母さんを睨んでいる。義母さんは相変わらずニコニコしているが・・・
「だって、フローリア・・・、こんなに可愛いのよ。離れたくない気持は分かるよね?」
「そうだわ!私達も蒼太さんの家に住めば良いのよ!そうすれば子供達みんなと一緒にいられるしね!」
マジかい・・・、嫌な予感が当たったよ・・・
「あなた、今夜からフローリア達と一緒ね。もちろん、拒否権はないからね。」
義母さんが義父さんをギロッと睨んだけど、義父さんも嬉しそうだ。
「母さん、よく言ってくれた。ワシも子供達と一緒にいたいからな。母さんが言い出すのをずっと待っていたのだぞ。ワシからは言いにくてな・・・」
「フローリア、そういう訳だ。部屋はまだ余っているだろう?別に普通の部屋でも構わないからな。今夜は子供達と一緒に寝られるぞ!ふはははぁあああああ!」
勘弁してくれよ・・・
確かにまだまだ部屋には余裕があるけど・・・
フローリアが俺に『旦那様、すみません・・・』と念話で謝ってきたが、仕方ないだろうな。
今夜から賑やかになりそうだ。
長老と親衛隊はゲートで自分達の里に帰った。親衛隊は明日の勝負の為に気合いが入っていたけど・・・
ミナコも浮き浮きしながら1度自分の家に戻って準備をして、明日、正式に族長と一緒に暮らす事になった。
族長達もゲートで自分達の家に帰っていった。
俺達も我が家に戻った。
そして、俺の部屋にミドリと2人だけでいる。
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