フェンリル族の里㉝
話は少し遡る。
蒼太に挨拶が終わった氷河が凍牙と話をしている。
「氷河、お前、いつの間に2人も嫁さんを増やしたんだ?やっぱりモテる男は違うな。」
ニヤニヤしている凍牙だったが、氷河の方は呆れた表情だ。
「凍牙・・・、お前、よくそんなセリフがいえるなぁ・・・、お前、一体、何人の婚約者がいるんだ?妹の冷華もその1人になったし、俺以上にモテているお前に言われたくないぞ。このリア充野郎が!」
凍牙が苦笑いしている。
「いやぁ・・・、どうもこの子供の体だと実感が湧かなくてな、気が付いたら6人の婚約者か・・・、俺も蒼太の事が言えなくなったな。」
「冷華の事は頼んだぞ!必ず幸せにしてくれよな。」
「任せな!」
2人がガシッと握手をしていた。
その光景をミツキとミヤコが微笑ましそうに見ている。
「姉さん、あれが男の友情なんだね。何だか羨ましいな。」
「そうね・・・、でもミツキ、私達もあの友情に負けないくらいの愛を凍牙さんに注がないとね。」
ミヤコがミツキに微笑むと、ミツキもニコッと微笑んだ。
「そうね、姉さん、頑張ろうね。」
「ふふふ・・・、こうやって姉さんと普通に喋れるなんてね。とても嬉しい・・・、歴代のクイーンも私と一緒だったのかな?神格化された事で孤独になっていたのかもね?だからかな、クイーンの魂を鎮める霊廟なんてものを作ったのかもしれないわ。」
「今となっては私もそう思うわ。ミツキ、あなたはクイーンの呪縛から解かれたのよ。これからは思いっきり自分の幸せを考えなさいね。分かった。」
「姉さん、分かっているわよ。今までの分も取り戻さないとね。フローリア様に助けてもらったこの命、私は一生フローリア様の為に頑張るし、凍牙さん達と一緒に幸せになる事があの方への恩返しだと思っているからね。もちろん、姉さんも幸せにならないとね。」
ミツキがフローリアを見つめながら微笑んでいた。
「ふふふ・・・、楽しそうね、ミツキお姉さん。」
サクラが嬉しそうに微笑み、ガーベラ、雪がミツキの前に立った。
「あっ、サクラちゃん!」
ミツキがサクラ達に微笑んだが、すぐに暗い表情になった。
「サクラちゃん・・・、本当に私がみんなと一緒にいていいのかな?私はあれだけの事をしたんだよ。みんなを殺そうとしたし・・・、普通なら私の事を許せる事は出来ないのに・・・」
サクラもガーベラも雪も優しくミツキに微笑んだ。
「ミツキお姉さん、もうその事は忘れていいよ。だって、私とガーベラは負の感情を癒すのが仕事なんだからね。こうやってミツキお姉さんが元の優しいお姉さんに戻ったのなら問題ないよ。それに、修羅場なんてお母さん達がお父さんを取り合って今でも私達の家でもよくある事だし、昨日も族長の家であったよ。雪お姉ちゃん、昨日も大変だったよね。冷華お姉ちゃんが暴れて凄かったから・・・」
雪も昨日の事を思い出してか顔が青くなった。
「そう・・・、あの時の冷華も凄かったよ。もう少しで凍牙さんが真っ二つにされるところだったしね。私は冷華のあの迫力で腰が抜けちゃったし・・・」
サクラもうんうんと頷いている。
「それだけ、みんな凍牙お兄ちゃんの事が大好きなんだから、取り合いになったのは仕方ないよ。でも、もうみんな凍牙お兄ちゃんの婚約者になったから、これからは仲良くみんなで暮らそうよ。お父さんのお母さん達にも私達の仲の良さを見せつけないとね。」
ミツキがサクラをギュッと抱きしめた。
「ありがとう、サクラちゃん・・・、私の心を救ってくれて・・・、あなたは最高の女神よ。ずっと仲良く凍牙さんを支えていきましょうね。」
そして次にガーベラを抱きしめた。
「ガーベラちゃんもありがとう・・・、私は心が弱かったから闇に飲み込まれたわ。あなたの強い意志を私も見習わないとね。フィールドを破った時のガーベラちゃんは最高にかっこよかったからね。」
最後に雪を抱きしめた。
「雪さん、ごめんなさい・・・、あの時、凍牙さんを取られたと思い込んで本気で殺そうとして・・・、あなたも凍牙さんの事が大好きだもんね。気絶してしまった凍牙さんを放ってはおけないもんね。雪さんは本当に優しい人だね。こうやっているとあなたの優しさが伝わってくる・・・、安心するわ。」
「あらっ!いつの間にみんな仲良しになったの?まるで私とレイラみたいに、本気で戦ってお互いに心が通じたのかしら?」
冷華がレイラと一緒にみんなのところにやって来た。
ミツキがレイラをジッと見ている。
「まさか・・・、この気配は私が従えたオーガー・エンペラーの1体?どうして鬼神族になっているの?それに、この服装・・・、あまりにも似合いすぎだし、本当にキレイな人だわ。」
レイラもミツキをジッと見ていたが、フッと表情が緩んだ。
「そう、私はあなたに敗れ従い冷華達と戦ったわ。そして、また敗れたの。その時に私は1度死んだわ。」
ミツキがハッとした表情になった。
「でも気にしないで。おかげで私は冷華と心を通わす事が出来たわ。そして、冷華は私を甦らせてくれただけでなく、私に『レイラ』の名前を与えてくれて鬼神族に進化までさせてくれたの。冷華は私が忠誠を尽くすに相応しい人物だわ。でも、冷華はそんな関係は嫌だと言って親友として接してくれているのよ。」
「だから、私はあなたに感謝しているの。あなたのおかげで私は冷華と会うことが出来たし、新しい生き方を見つけることも出来た。戦いから始まった出会いだったけど、今はこうしてみんなと仲良くしているのだし、これからの事を考えましょうね。」
ミツキが大きく頷いている。
「そうだね。私の犯した罪は消えないけど、私はこの罪を抱えても前向きに生きるわ。私も幸せよ。こんなに優しくて温かい人達に囲まれるなんて・・・」
そう言ってポロポロと涙を流し始めた。
「不思議だね・・・、嬉しくても泣くんだ・・・、みんな、本当にありがとう・・・」
「おい!どうした、ミツキ!何で泣いているんだ!」
凍牙が慌ててミツキに駆け寄った。
「誰だ、ミツキを泣かしたヤツは?ミツキ、何があっても俺はお前の味方だからな!だから泣くなよ。」
ミツキを除く全員が冷たい視線で凍牙を見ている。凍牙が冷華と目が合った。
「冷華!お前か、ミツキを泣かしたのは!」
冷華が一瞬で凍牙の目の前に立った。
「このぉおおおおおお!バカたれがぁああああああああ!」
見事なアッパーが凍牙の顎に炸裂した。
「うぼぁあああああああああああ!」
変な悲鳴を上げながら真上に打ち上げられて、凍牙が星になった。
みんなが手を合わせている。
「「「「「合掌・・・」」」」」
しばらくしたら凍牙が地面に落ちてきた。ピクピクしているから生きているみたいだ。サクラがヒールの魔法をかけ回復してあげた。
「凍牙お兄ちゃん、そそっかしいにも程があるよ。私達がミツキお姉ちゃんを責める訳ないでしょう・・・、それにしても、冷華お姉ちゃんの攻撃力も覚醒したら凄いものになったね。うっかり怒らせてしまって死なないようにね。」
「あぁ・・・、気を付けるよ。俺も死にたくない・・・」
冷華が腕を組みながら仁王立ちで凍牙の前に立った。
「凍牙、何で私が1番最初に犯人扱いにされなきゃならないの?それも、全く迷った感じも無かったし・・・」
「だってさ、冷華って昔は事ある度に俺に絡んできたんだぞ。いっつも何だかんだ理由をつけて俺の隣にいたし・・・、変なちょっかいも色々してたからな。何かあったら冷華の仕業だと思うじゃないか?やっぱり日頃の行いの差かな?」
冷華の顔が真っ赤になる。みんなが冷華を生温かい視線で見ていた。
「ちょっ、ちょっと、凍牙!何て事言うの!そんな昔の話を持ち出して!」
「凍牙、私を犯人扱いした罰よ!アンタは今からぬいぐるみの刑にするわ。」
逃げだそうとした凍牙を冷華が素早く襟首を掴んで持ち上げる。冷華がニヤニヤ笑っている。
「ダメよ!逃げられないからね。」
そして、ミツキの方に向かって話しかけた。
「ミツキ、あそこに丁度いい高さの石があるわね。あそこに腰掛けてくれない?」
冷華の考えをミツキが理解したのだろう。嬉しそうに石に座り両手を広げた。
「凍牙、アンタはしばらくミツキのぬいぐるみね。」
「ミツキ、思いっきり凍牙を抱きしめてあげなさい!今までの想いをぶつけてね。」
ミツキが凍牙を冷華から受け取り、うっとりした表情でお子様抱っこで凍牙を抱いていた。
「幸せ・・・」
「ふん!これで凍牙も少しは静かになるでしょう。やっと巡り会えた2人だからね。しばらくはそっとしておいてあげましょう。」
冷華がドヤ顔で凍牙とミツキを見ている。しかし、すぐに視線を蒼太達の方に向けた。
「それにしても・・・、あっちの方は大変な状況になっているんじゃない?さっきまで正座させられていた2人が土下座して蒼太さんに謝っているわ。泣きながら心から謝っている・・・」
うっとりしているミツキと、抱かれて『とほほ・・・』の顔になっている凍牙以外の全員が視線をミドリ達の方に移した。
「本当だ・・・、あの2人があそこまで泣いているなんて余程だわ。ガーベラ、どう思う?」
「さくらお姉ちゃん、どうも念話で会話しているから分からないけど、かなりお父さんを怒らせたみたいだね。お父さんは怒ったら本当に怖いから・・・」
みんな2人の事をじっと見ていた。
「あっ!2人が嬉しそうに立ち上がろうとしているよ。どうやら許してもらったみたいね。」
「サクラちゃん、あれはマズイわ・・・、私や雪みたいに正座慣れしていないと危ないわ。神界では正座している習慣がほとんど無いから・・・」
冷華の予想通り立ち上がろうとしたが足がもつれて、2人揃って勢いよく顔面から転んでしまった。足を押さえながら悶えている。
「やっぱりね、足が痺れて立つどころではないし、あの辛さは本当に地獄だからねぇ・・・」
雪も頷いている。
「あれは本当に辛いわ。慣れていないから尚更でしょうね。そして、誰かが面白そうに痺れた足をつついてくるのよ。アレをされたら本当に恨むわね。」
ミヤコも頷いている。
「私達スキュラ族も正座の習慣があるから私達は長時間でも平気だけど、慣れていない人にとってアレは本当に辛いわね。あの2人には同情するわ。」
サクラが慌てて雪を見た。
「雪お姉さん、アイリスが何か変よ。悶えている2人を見ている目が違う。口元に薄ら笑いが・・・、もしかして、足をつつこうとしているんじゃない?アレって本当に地獄なんでしょう?」
「そうよ、サクラちゃん。あの辛さは経験者にしか分からないからね。蒼太さんが気付けば、間違いなくアイリスちゃんも怒られてしまうわ。」
雪の予想通りにアイリスも怒られ泣き出してしまった。
「雪お姉さんの言った通りだったね。アイリスも怒られちゃったよ。でも、今回のお父さんはかなり厳しいね。あれだけ怒るのも珍しい・・・」
「でも、3人に怒った後のフォローもちゃんとしている。やっぱり優しいね、お父さんは。」
ガーベラが蒼太達の会話をジッと聞いている。
「サクラお姉ちゃん、お父さんが3人に何か言っているよ。」
「えっ!嘘・・・」
ガーベラが驚きのあまり固まってしまった。サクラが慌ててガーベラの肩を掴み揺さぶった。
「ガーベラ!どうしたの?お父さんが何を言ったの?」
「ア、ア、アイリスお姉ちゃんが結婚した・・・、ミドリさんもクローディアさんも一緒に・・・」
サクラも固まってしまった。
「な、何で?アイリスは成人前だし結婚はまだの筈なのに・・・」
ガーベラが落ち着いたようだ。凍牙とミツキ以外のみんながガーベラの前に集まる。
「みんな聞いて。私達も凍牙お兄ちゃんとすぐに結婚出来るかもしれない・・・」
全員がゴクリと喉を鳴らす。
「お父さんの前世の地球では、成人前でも結婚出来たんだって。しかも、2、3歳の子供同士でも・・・、そして、この神界でもお父さんが住んでいる世界でも、成人前に結婚してはダメだとの決まりは無いって・・・、だから、成人前のアイリスお姉ちゃんでも正式にお父さんと結婚出来るから結婚したって!」
冷華がニヤリと笑った。
「そっかぁ・・・、男と女の契りを交わすのだけが結婚ではないんだ。フェンリル族だと結婚は夜を共にして契りを交わしてから夫婦になるけど、フェンリル族の習慣は関係ないからそんな手もあったのね。凍牙はまだまだ子供の姿だから結婚はまだ先だと思っていたけど、これならすぐにでも結婚は出来るね。もちろん、サクラちゃんもガーベラちゃんも婚約から正式に凍牙の奥さんになる事も出来るんだ。婚約と結婚は気持的にも全然違うからね。」
「ふふふ・・・、そうと分かれば・・・」
冷華だけでなく雪もミヤコもニヤリと笑った。3人の視線がサクラとガーベラに注がれる。
「サクラちゃん!ガーベラちゃん!重大なミッションよ!蒼太さんに私達の結婚を認めてもらいなさい。あんた達なら蒼太さんも嫌とは言わない筈よ。アイリスちゃんだけ結婚して、あんた達がダメだとは言えないからね。頼んだわよ!」
2人がビシッと敬礼をする。
「「ラジャー!」」
そして、蒼太の方に小走りで行った。
サクラとガーベラが俺の前に来た。サクラがニヤニヤしながら俺を見ている。
「お父さん、本当にモテモテだよね。お母さん達の視線が怖いから、後でちゃんとフォローしないと危ないよ。特に私のお母さんにはね。」
チラッと春菜達を見ると・・・
ヤバイ!アレは嫉妬の視線だ!視線がとても痛いよ。今夜の安眠は諦めるしかないだろうな・・・、間違いなく全員に襲われる・・・
4人が恥ずかしそうに俺から離れた。みんな顔が真っ赤だ。なぜかフローリアも顔が赤いぞ!傍若無人のフローリアでも、やはり子供達の前ではさすがに恥ずかしかったかな?
サクラがアイリスに抱きついた。
「アイリス、おめでとう!とうとう結婚したね。昔からずっとお父さんと結婚したいって言ってたし、夢が叶って良かったね。」
アイリスも嬉しそうだ。
「ありがとう、サクラ!次はサクラ達の番だね。」
ガーベラがニコニコした顔で俺の前にやって来た。
「ねえねえ、お父さん。さっきのお父さんの話を聞いていたけど、成人前でも結婚は出来るんだね。だから、お父さんはアイリスお姉さんと正式に結婚したんだよね。だったら・・・」
サクラとガーベラの視線が1点に注がれた。
その視線の先には・・・
うっとりした表情のミツキにお子様抱っこされている凍牙がいた。
「お前達・・・、しっかり聞かれていたかぁ・・・」
「「えへへ・・・」」
2人が嬉しそうにしている。サクラもガーベラも凍牙との正式な結婚を認めるしかないか・・・
「アイリスが良くて、お前達がダメだとは言えないしなぁ・・・、まぁ、凍牙だったら間違いは起こさないだろう。」
2人がキラキラした目で俺を見ている。もうOKとハッキリと言わなければ収まらないだろう・・・
「分かったよ。お前達も凍牙との正式な結婚を認めよう。他の婚約者も一緒にな。」
「「ありがとう!お父さん!」」
2人が喜びながら俺に抱きついた。嬉しそうな顔だが目に少し涙が出ている。本当に凍牙が大好きなんだな。
「お前達、お父さんからのアドバイスだ。」
「凍牙はお前達が知っているように純情過ぎるからな。正式に結婚したからといってあんまり迫るなよ。アイツの事だ、恥ずかしくて逃げ回るかもしれん。だから、慌てずアイツの女耐性を少しずつ上げていきな。絶対にミドリやクローディアの真似をするなよ。」
「「うん、分かった!」」
2人が元気よく返事をする。分かってはいるだろうが、一応念押しをしておかないとな。
「それじゃ、お父さん!みんなに伝えてくるね。」
そう言って元気よくみんなのところに戻っていった。
『春菜、マリー、すまんな。俺の一存であいつらの結婚を認めてしまったよ。やっぱり早過ぎたかな?』
『あなた、そんな事はないですよ。あの2人はもう一人前ですからね。ミヤコさんや冷華さんのようなしっかりしたお姉さん達が付いていますから大丈夫でしょう。』
『ガーベラなら心配していないわ。何たって、あんたと私の子だからね。大丈夫よ。』
『『それよりも・・・』』
『何だ?』
『『今夜は寝させませんからね!ふふふ・・・』』
うっ!春菜とマリーの念話が見事にハモっている。
『『『ふふふ・・・』』』
おわっ!夏子も千秋も美冬も!同時に念話が!
全員からロックオンされてしまった!今夜の安眠は完全に諦めるしかない・・・
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