フェンリル族の里㉛
2人が真剣な眼差しでお互いの顔を見ている。
長い沈黙だったが、フローリアが口を開いた。
「ミツキさん、いえ、今はスキュラ族のクイーンとして私から話があります。分かっていますよね。今回の件に関しては我々としては見過ごす事は出来ません。余りにも騒動が大きすぎました。この魔の森の存亡にも関わる事までになってしまいましたからね。」
ミツキはずっと真剣な眼差しでフローリアを見つめている。
「はい・・・、いかなる罰も甘んじて受けます。この騒動の発端は私の個人的復讐から起こりました。全ては私の罪です。スキュラ族の里の者は全く悪くありません。」
「ですから、罰は私が全てを負います!どうか!里の者には罰を与えないで下さい!」
ミツキが土下座をしてフローリアに懇願している。
フローリアが無表情のままミツキを見ている。
「クイーン、前世の家族と会えて嬉しいかもしれませんが、あなたが罪を償う為にはまた家族と分かれる事になるわ。そして、再び会えるかも分からない。」
「はい、承知しております。私はそれだけの罪を重ねました、この身はどうなっても構いません、姉と妹が幸せになれば・・・、特に姉は私の分まで前世も含めて幸せになって欲しいです。前世でのあの悲しい母の姿を再びさせたくありません。それが私の妹としての願いです。」
ミツキが土下座をしながらフローリアに懇願していると、ミツキの隣にミヤコも土下座をして懇願してきた。
「フローリア様!全ては私が悪いのです。妹がクイーンとして目覚めてから、私は彼女を妹として扱ってきませんでした。我らスキュラ族の里の掟に従い、姉妹ではなく臣下として接してきました。それがミツキにとって苦痛だったとは・・・、姉である私がしっかりしとしてなかったからミツキの暴走を止められませんでした!私が1番悪いのです!ですから!私が罪を償います!どうか、ミツキを幸せにして下さい!」
しかしフローリアは無表情で黙って2人を見ている。
一体、何を考えているのだ?口出しするなとは言われているが、かなり厳しい罰があるのか?
しかし、今までのフローリアの行動からすると・・・
黙って2人見ていたフローリアが口を開いた。
「ダメです。私は創造神様の代理で来ています。私の決定は創造神様の決定と同じですから、私は創造神様の考えで罰を与えます。どんなにお願いされても私の考えは覆る事はありません。」
「どんなに恨まれようが、それが最上神となった私達の務めです。」
フローリアがミツキを厳しい表情でジッと見つめている。
「クイーン!あなたは私達の監視下に置く事になります。私が大丈夫と判断するまではスキュラ族の里に戻る事は許しません。その間は春菜さん達の手伝いをしてもらいます。一度滅んだ世界がどんなものなのか、それをどうやって復興させているか、それを直接あなたの目で見て、命の大切さというものを再び学んできなさい。」
「あなたの覚悟は分かりました。そして、監視の期間中は・・・」
何だ、急に黙ったぞ・・・、なぜ溜めを作る?
「私達の家で一緒に生活をしてもらいます。」
「「えっ!」」
ミツキとミヤコが同時に頭を上げフローリアを見つめている。
フローリアがニヤッと笑った。
「私『達』の監視下と言ったでしょう。私達の子供達にもあなたの監視を手伝ってもらいます。私達の子供は強いわよ。どの子も上位神並の実力ですからね。逃げだそうとしても無駄よ。」
「家の中での監視係として、凍牙さん、サクラ、ガーベラの3人を付けるわ。ふふふ・・・」
ミツキの目から涙が止めどなく溢れている。
「フ、フローリア様・・・」
フローリアが微笑んだ。
「はい・・・、彼女達の強さは本物です。私ごときの力では逃げ出す事も出来ません。完璧な監視です。」
「ありがとうございます・・・」
そう言って、ミツキは再び土下座をしていた。
そして、今度はミヤコの方を向いた。
「ミヤコさん、あなたは凍牙さん達の補佐をしてもらいます。大人のあなたならしっかりと監視を全う出来るでしょうね。冷華さんと雪さんとレイラさんも一緒にね。」
「ふふふ・・・、我が家は遊んでいるような事はさせませんからね。しっかりとみんな働いてもらいますから。分かりました?」
フローリアがニコッと微笑んだ。
ミヤコからも涙が溢れていた。
「フローリア様・・・・、ありがとうございます。」
冷華達も頭を下げ嬉しそうに返事をした。
「「「喜んで!」」」
フローリアが俺を見てニコッと微笑んだ。そして、俺の隣まで歩いてきた。
「旦那様、どうでした?彼女達の罰は?」
「あぁ・・・、最高に厳しい罰だ。これ以上ないくらいにな。」
「でも、どうして俺に黙っていろと言っていたのだ?念話でもかなり深刻そうに伝わってきたが・・・」
「ふふふ・・・、旦那様はすぐに顔にで出ますからね。彼女達の覚悟がどれだけかも知りたかったですし、あれだけの覚悟があればもう問題無いでしょう。ただ、ミツキさんもミヤコさんもちょっと真面目過ぎなところもあるので、深刻に考えてしまって、もう2度と会わないと言う可能性もありましたからね。私がちょっとだけ後押しをしてあげたのですよ。」
フローリアが凄いドヤ顔になっている。
「それに、体面的にも許すという報告は出来ませんからね。私達の家で住む事は報告に出しませんよ。私の神殿で監視する事にして報告しておきますけど、実際にドアをくぐれば私達の家のドアに繋がってますからね。報告の抜け道はいくらでもありますよ。」
「フローリア、それだけでは無いだろう?お前の性格だ、俺にドッキリも考えていただろう?」
フローリアが急に固まって、冷や汗をダラダラ流している。本当に分かりやすいなぁ・・・
「だ、旦那様・・・、そ、それは・・・」
「フローリア、お前は本当に嘘が下手だよ。あの念話の時点で予想はしていたからな。まぁ、お前のこんな性格は可愛らしいし、そんなのだから、みんながお前を慕って付いてくるのだろうな。俺もお前の性格は好きだよ。ちょっと悪戯好きだけど・・・」
フローリアが嬉しそうに腕に抱きついてきた。
ついでだし、ちょっと疑問に思った事も聞いておこう。
「フローリア、ちょっと教えて欲しいんだけど、あの3人のスキュラ族は一体・・・、氷河の嫁さんになったキョウカは分かるが、他の3人は何で一緒にいるんだ?」
上目遣いでニコッと微笑んでフローリアが俺を見ている。ダメだ!このフローリアの表情は!破壊力がハンパない!思わず見とれてしまった。
「ふふふ・・・、まだまだ私の魅力は落ちていませんね。旦那様、鼻の下が伸びてますよ。」
くっ!不覚・・・
「紹介しますね。族長様、氷河さん、こちらの方に来て下さい。旦那様にご紹介しますから。」
族長に氷河?何故、あの2人がスキュラ族と関係する?特に族長の名前が出てくるのは何故だ!
ま、まさか!信じたくないが・・・
族長が妙齢のスキュラ族に腕を組まれて、一緒にこちらの方に歩いてくる。冷華もいつの間にか子供の姿に戻った凍牙も目が点になっているぞ!お前達の気持ちも分かる。あの堅物の族長がだぞ!信じられん・・・
族長が俺の前に来た。
「蒼太殿・・・」
「いやぁ~、まさか再婚する事になるとはなぁ・・・、それもスキュラ族の美人さんとだよ。世の中、何が起こるか分からんな。」
やっぱりぃいいいいいいい!
浮かれているのかウキウキした状態だ。今までの威厳のある族長の姿はどこに行った!
冷華と凍牙を見ると・・・
あまりのショックで開いた口が塞がらないどころか、顎が地面に突き刺さっていた。
「父上!」
「ジジイ!」
ハッと冷華と凍牙が我に返って同時に叫んだ。その気持ちも分かる。
「初めまして。妻になりましたリンカと申します。」
恭しく自己紹介の挨拶をしてから冷華の方へ歩いて行く。
「冷華さん、初めまして。新しくお母さんになったリンカよ。仲良くしましょうね。」
冷華がどう接して良いか分からなくてオドオドしている。凍牙が冷華の背中をポンポンと叩いてニコッと笑っていた。
「冷華、お前が小さい頃にお母さんを亡くしてから周りの子供達の母親を見て、新しいお母さんを欲しがっていただろう。念願の母親が出来たんだ。仲良くやれよ。」
冷華が真っ赤になって凍牙の頭を叩いていた。
「凍牙!それって、いつの話よ!アンタと違って私はもう子供じゃないからね!」
2人のやり取りをリンカが楽しそうに見ていた。真っ赤な顔のままの冷華がリンカの顔を見ている。
「母様って呼んでいいのかな?」
リンカが優しく微笑んだ。
冷華が静かにリンカに抱きついて目を閉じた。
「小さい頃に母様が死んじゃったからほとんど覚えていないけど、微かに覚えている。優しい目・・・、この温かさ・・・、安心する良い匂い・・・、私を産んでくれた母様の記憶と同じ・・・」
閉じた目から涙が流れた。
「母様・・・、母様、会いたかった・・・」
冷華のリンカを抱く腕に力が入ると、リンカも嬉しそうに冷華を抱きしめた。
「どうやら、仲良くやれそうだな。」
凍牙が嬉しそうに抱き合う2人を見ていた。
「アイツは気が強いけど、人一倍淋しがり屋だからな。やっと念願の母親が出来たんだ。思いっきり甘えらるよな。」
「・・・」
「あっ!そういえば、アイツは俺達と一緒に蒼太の家で暮らすんだな。転移の魔法どころか世界が違うからそう簡単に里に戻れないか・・・」
「確かにな。俺やフローリアみたいに別世界をも飛び越えられる転移の魔法は使えないだろう。普通の転移の魔法でさえかなりの難易度だしな。俺の家からフローリアや義父さんの神殿に行く『〇こでもド〇』みたいなドアは、俺やフローリアみたいな世界を越える転移魔法を使える神が魔力を流して起動させて使っているし、転移の魔法が使えない者、魔力の弱い者や無い者は使えないから、冷華や雪の単独での里帰りは厳しいと思うぞ。」
凍牙が腕を組んで難しそうな顔をしている。
「う~ん・・・、やっぱり難しいか・・・」
「冷華や雪にはあまり淋しい思いをさせたくないから、時々は里帰りでもさせてあげたいと思っていたけどな。蒼太やフローリア達には迷惑をかけられんよ。頼めばお前達は喜んで手伝ってくれると思うけど、実質、居候の身に近い俺達にはそこまでは甘えられないしな。」
「それと、ミツキ、ミヤコ、キョウカの3姉妹にも母親がいるだろうし、ミヤコとミツキはスキュラ族の里には戻れないとしても、こっそりと蒼太の家やフェンリル族の里でも定期的に会えないかとも考えているんだけどな。何とか方法がないものか・・・」
確かに難しい話だ。
「「う~ん・・・」」
「ふふふ・・・、凍牙さんは優しいですね。」
フローリアがニコニコしながら抱き合っている冷華とリンカを見ている。
「方法は無い事はないですが、その為にはまずは旦那様の許可が必要ですね。要は私達の魔力の代わりになるものがあれば良いだけですから。」
「何か良い方法があるのか?」
「昨日、手に入れた『竜の涙』があれば全て解決します。あの宝石はキレイなだけではなくて、無限の魔力を供給してくれるのです。しかし、あの宝石を生み出すのはジュエル系のドラゴン族だけですし、とてつもなく希少な宝石ですからねぇ・・・、竜の涙を巡って過去に何度も戦争が起きたくらい価値がありますし、そう簡単に使って良いものか悩むところです。それだけ貴重ですから、まずは現在の所有者である旦那様の許可がないと、さすがに私でも勝手に判断して使うことは出来ませんよ。それからどうするか考えましょう。」
異次元収納から宝石を取り出し、フローリアの手に握らせた。
「これでフローリアのものだな。好きに使ってくれ。」
フローリアが驚きの顔で俺の顔と宝石を交互に見ている。久しぶりにフローリアの驚く顔が見られたな。
「だ、旦那様・・・、そんな簡単に決めても良いのですか?神界でも秘宝中の秘宝ですよ?」
「構わないさ。俺にとっては見るだけの宝石は何にも価値は無いし、俺達の家族が幸せになるのが1番だ。考えなくてもどっちが大切か答えは出ているからな。この宝石を生み出したミドリも同じ考えだろうな。」
そう言って正座をさせられているミドリを見ると・・・
俺の方を見てニッコリと微笑んでくれた。
えっ!
念話もしていないのに何故分かる?例の念話のハッキングでいつの間にか俺の考えを読まれているのか?
冷や汗が出てきた。恐る恐るミドリをもう1度見ると・・・
今度はニヤッと笑っている。
うわぁああああああああ!
やっぱりハッキングされている!怖い!怖いよ!
『ミドリ、しばらくは大人しくしてくれよ。これ以上フローリアを怒らせると、どうなっても知らないからな。』
途端にミドリの表情が真っ青になり、ダラダラと冷や汗が流れている。さっきの木の陰で何をされたのだ?あそこまでミドリが怯えるなんて・・・
『ご、ご主人様・・・、その話はもう勘弁して下さい・・・』
『分かったよ。どうやら反省しているみたいだし、今夜はお前の料理を楽しみにしているよ。』
ミドリの表情がとても嬉しそうだ。あまりにも表情がコロコロ変わるので見ていると面白い。
『分かりました!真心を込めて作らせていただきます!』
『それと・・・、今夜、少しお時間をいただきたいのですが、2人っきりで少しお話がしたいのです。よろしいですか?決して変な事はしませんので・・・』
『分かったよ。』
ミドリが嬉しそうにしているが、隣のフローリアは不機嫌そうだよ・・・
「旦那様、ミドリさんは今は反省中ですからね。あんまり甘やかしてはダメですよ。分かりました?」
「分かったよ。それと、ゲートの事はフローリアに任せるよ。俺の家、義父さんとフローリアの神殿、フェンリル族の里、スキュラ族の里で自由に転移出来るようにすれば良いだろう。万が一、悪用されたら大変な事になるから、使えるのは登録した者だけにしよう。ただ、フェンリル族とスキュラ族の里の住民にはあまり知られたくないから、族長の家の中の何処かにゲートを作った方が良いかもな。そうすればミツキもある程度は自由に行動出来るしな。」
「分かりました。では、そのようにゲートを作る事にしますね。」
フローリアが俺を見てニコニコしている。
「さすが旦那様ですね。みんなの事を第一に考えてくれるなんて本当に嬉しいです。好きになって良かった・・・」
そう言って抱きついてきた。
「フローリア、みんなの前だから恥ずかしいぞ・・・」
「それに、あと2人のスキュラ族の事も聞いていないし、色々と脱線が多いから話が進まん。俺達が自由過ぎると作者が頭を抱えてしまうぞ。」
「ふふふ・・・、そうですね。それでは紹介しますね。氷河さん、旦那様に新しい奥さん達を紹介して下さい。」
フローリアが氷河に声をかけると、4人で俺の前まで来てくれた。
やっぱり、新しい嫁さんだったか。
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