フェンリル族の里㉚
冷華が雪と凍牙をジッと見ている。
「雪、もう十分に凍牙を堪能したでしょう?次は私達の番だからね。」
雪が驚きの表情で冷華を見ていた。
「冷華、その姿・・・、女の私から見てもすごくキレイ・・・」
冷華が微笑んだ。
「ふふふ・・・、色々とね・・・、これで私はギャグキャラから卒業よ!もう作者の思い通りにはならないわ!この美貌で凍牙をメロメロにしてあげるんだから!」
冷華・・・、この台詞でまた残念キャラに戻りそうだよ・・・
冷華が気絶している凍牙の服の胸ぐらを掴んで持ち上げた。
さすがフェンリル族だ。子供とはいえ片手で軽々と持ち上げる腕力はすごいな。
そして、凍牙の顔をマジマジと見ている。
「しっかし・・・、なんてだらしない幸せそうな顔で気絶しているのよ・・・、そんなに雪の胸が良かったのかな?この顔を見ていると段々と腹が立ってきたわ。」
冷華の全身から金色のオーラが溢れる。殺気も混じっているぞ!
「このバカたれぇええええええええええええええ!いい加減に目を覚まさんかい!」
スパパパパパパパパァアアアアン!
冷華が叫びながら凍牙に高速の往復ビンタを打ち込んでいる。
うわっ!アレは痛いどころではないぞ!みるみる凍牙の両頬が腫れているよ・・・
「あばばばばばばぁあああああ!」
さすがに凍牙も目を覚まして悲鳴を上げているが、冷華のビンタの嵐が止まらない。
「何よ!そんなに雪の胸が気持ち良かったの!気絶するくらいに!このスケベぇえええ!私だってスタイルには自信があるのよ!少しくらい胸が小さくても悪くないわよ!絶対にあんたを満足させてあげる!今夜は私と一緒にお風呂に入って、私の胸を存分に堪能させてあげるからね!あんたには拒否権はないわ!これは確定事項よ!」
ははは・・・、冷華の胸のコンプレックスで八つ当たりされてたか・・・
周りを見ると・・・
確かにみんな冷華より胸が大きい・・・
雪はもちろん、ミヤコもかなりだ。クイーン、いやミツキはクローディアクラスだぞ!
レイラも大きいし、俺の嫁軍団も美冬は例外としても、間違いなく全員が大きいな・・・
凍牙、安らかに眠れ・・・
雪が慌てて冷華を止めた。
「冷華、落ち着いて!はい、大きく息を吸ってね。どう?落ち着いた?」
冷華がボソッと呟いた。
「いいわね、持っている人は・・・」
2人の間に微妙な空気が流れた。
サクラが2人の間に入った。
「まぁまぁ、冷華お姉ちゃん、落ち着いてよ。凍牙お兄ちゃんは女の人には全く免疫が無いから、雪お姉ちゃんだけでなくても簡単にああなっちゃうからね。冷華お姉ちゃんと一緒にお風呂に入ったら、浴場が鼻血だらけで大惨事になっちゃうよ。それだけ冷華お姉ちゃんはキレイだからね。」
冷華が嬉しそうだ。ナイス!サクラ!
「凍牙お兄ちゃんは純情過ぎるから、私達で少しずつ凍牙お兄ちゃんに慣れてもらおうね。焦ったらダメだよ。」
そう言って、頬がパンパンに腫れて呆然としている凍牙にヒールをかける。
頬が元に戻った凍牙だが、さすがにいきなりビンタされたから黙ってはいない。
「冷華!一体何をしてくれたんだ!いきなり往復ビンタされるし、俺が何か悪い事したか!」
「・・・」
「あれ!お前、いつの間に金髪になっているんだ?何かいつもよりも大人っぽい感じだし・・・」
冷華がそっと凍牙に抱きつく。
「ゴメンね、凍牙・・・、私が勘違いしてた。もっと凍牙に好きになってもらうように頑張るわ。痛かったでしょう?お詫びに・・・」
そう言って、冷華が凍牙の頬に優しくキスをした。凍牙の顔が真っ赤になったが、いつもと違って冷静だ。
「冷華・・・、見た目もそうだけど、何か変わったな・・・、すごくキレイだよ。」
凍牙の言葉に冷華が嬉しそうに微笑んだ。
な、何だ!この2人は!いつもの夫婦漫才じゃないぞ!何か調子が狂う。
ミツキがクスクス笑っている。
「ふふふ・・・、ああやって怒るのはお父さんそっくりね。いつもは優しいけど、いたずらをしたお兄ちゃんを叱る時は本気で怒ってたからね。往復ビンタも同じだった。あの頃の楽しい思い出が甦ったわ。」
冷華がミツキに話しかけた。
「ミツキ、あなたも可愛い笑顔になるんだね。それじゃ、私達からあなたにプレゼントよ。あなたが心から待ち望んでいた事だと思うわ。」
そして、サクラに合図をした。
「サクラちゃん、お願いね。」
サクラが頷いた。
「分かったわ。神器解放!エターナル!タイムリープ起動!」
サクラの鎧が黄金に輝く。
「タイム・アクセル!」
凍牙の体が白く輝いて大きくなっていく。
冷華の目の前には大人になった凍牙が立っていた。先ほどの金髪ではなく、いつもの白髪だ。そのまま大きくなったみたいだ。
本当にあの神器は凄い。時間に関しての事なら何でもありだよ・・・
冷華が凍牙に微笑んだ。
「やっぱり、凍牙は最高だね。普通に大きくなったらこんなにイイ男になるんだ・・・、こんな男のお嫁さんになれるなんて、こんない嬉しい事はないわ。でも不思議ね・・・、体は大きくなるのは分かるけど、何で服も一緒に大きくなるの?普通は大きくならないよね?」
冷華!その話はするな!作者が頭を抱えてしまうぞ。絶対にこの事までは考えていなかったはずだ!この世界はご都合主義だし、深く考えたら負けだぞ!確かに今まででも突っ込みどころはアレコレあったけど、俺達はあえて気付かない振りをしていたんだからな!
「冷華、この服は春菜特製の魔法の服なんだ。蒼太には子供が多いだろう。子供なんてすぐに大きくなるから、いくつ服があっても足りないし、あれだけの子供の数だ。春菜が頑張って成長に合わせて大きくなるように服に魔法をかけているんだ。さすが、女神だよ。俺達の理解を超えているな。」
凍牙!ナイス・フォロー!これで作者もホッとして胸を撫で下ろしているはずだ。
まぁ、こんな設定だから、俺達も自由に好き勝手出来るんだけどな。
冷華が不思議そうに凍牙の服を見ている。
「まぁ、そういう事にしておきましょう。今はそんな話をする為に成長させた訳でないからね。」
「凍牙!後はよろしく!」
凍牙が頷き、ミツキの前に立った。
「ミツキ・・・」
ミツキが立ち上がろうとしたが、戦いのダメージで上手く立てない。
「ヒール!」
ガーベラがミツキにヒールをかけて回復させた。ミツキがガーベラに微笑む。
「ありがとう、お嬢ちゃん。あなたのヒールは優しいわね。私の傷だけでなく心まで癒されるみたいだわ・・・」
ミツキが立ち上がり、凍牙の目の前に立った。涙を流しながら凍牙を見つめている。
「お兄ちゃん・・・、会いたかった・・・」
そして、凍牙に抱きつき胸に顔を埋める。
「温かい・・・、これがお兄ちゃんの温もり・・・」
「ずっと、ず~~~っと夢見ていたわ。いつか大人になったら、再び出会ってこうやって抱き合うと・・・、本当に長かった・・・、そして、ずっと言えなかった言葉も言えるんだね・・・」
ミツキが顔を上げ凍牙の顔を見つめる。
「お兄ちゃん・・・、いえ、凍牙さん、大好きです。愛しています。」
「結婚して下さい・・・」
凍牙が微笑んだ。
「もちろんだよ。俺も愛している。」
ミツキも微笑んで目を閉じる。
2人の顔が近付き、唇を合わせた。
しばらくして、お互いの顔が離れた。ミツキの顔は真っ赤になっているが、とても幸せな表情だ。
「ありがとう。私の夢を叶えてくれて・・・」
「でも、私は過去の亡霊みたいなもの・・・、いつまでも現世にいる訳にはいかない。こんなに晴々した気持ちは初めてよ。もう未練は無いわ。」
「そろそろお願い。あんまり長くいると未練が残ってしまうからね。今のミツキもよろしくね。」
ミヤコもミツキに抱きつく。
「ミツキ、苦しかったでしょう・・・、もう苦しまなくてもいいからね。私達が今のミツキを必ず幸せにしてあげるから、心配しなくてもいいから・・・」
冷華も抱きついた。
「ミツキ、羨ましいわ。私はまだ凍牙とキスしていないんだから。ちょっと悔しいわね。」
ミツキに凍牙、冷華、ミヤコが抱きついている。冷華が合図をした。
「それじゃミツキ、始めるよ。」
ミツキが頷いた。
その瞬間、冷華の体が白く輝きだした。そして、ミツキも徐々に輝き始める。
「温かい・・・、こんなに気持ちがいいなんて・・・」
「お兄ちゃん、お母さん、お父さん・・・、みんなが揃っているんだね。もう思い残すことは無いわ・・・」
冷華がボソッと呟いた。
「お父さんと言われるのはねぇ・・・、ちょっと納得いかないけど・・・、まぁ、ミツキの為だもんね。」
ミツキの体から白い小さな光がいくつも立ち上り消えていく。
しばらくすると冷華の体の光が消えた。
ミツキが驚いた表情で冷華を見ていた。
「あれっ!どうして・・・、私が消えていない・・・」
驚いていたミツキの顔が微笑んだ。
「それはね、私がクイーンの力で現世に留めたのよ。今、浄化されたのは私を蝕んでいた闇の力と、負の残留思念よ。昔の私・・・、あなたにはもっと幸せになってもらいたいからね。私だけが幸せになる訳にはいかないわ。今の私と幸せを共有しましょう。ずっと一緒にね・・・」
ミツキから涙が流れる。
「ありがとう・・・、でも、こうやってると一人百面相みたいでややこしいから、私はあなたの中で幸せをじっくりと噛みしめているわ。こうやって表に出ることは今後は滅多にないでしょう。その方が凍牙さんやみなさんにとっても分かりやすいからね。」
凍牙がミツキに微笑む。
「大丈夫だ。俺は今のミツキも昔のミツキも愛してあげるさ。だけどな、結婚はOKしたけど、正式な結婚はもうちょっと待って欲しい・・・」
サクラとガーベラの2人に視線を移した。
「あの2人が成人になるまで待っていて欲しいんだ。俺も本当の姿は子供だし、あの2人を差し置いて結婚生活をする訳にはいかないからな。だから頼む。」
ミツキが微笑んだ。
「それくらいなら全然大丈夫よ。結婚の約束をするまでどれくらいかかったと思って・・・、サクラちゃんやガーベラちゃんが成人になるまでは10年くらいでしょ?私達の寿命から比べればあっという間よ。」
「ちゃんと待っているからね。」
「凍牙さん・・・」
ミツキの微笑みに凍牙が赤くなる。
確かにあの笑顔の破壊力はハンパないよ。俺でもドキッとする。
「それと、もう1つお願いがあるんだけど・・・」
ミヤコの方を見ながらミツキがお願いをしている。
「分かっているさ。」
凍牙が頷き、ミヤコの前に立った。
「ミヤコ、お前の気持ちは分かっている。サクラも了解しているよ。」
サクラがミヤコに向かってサムズアップしている。ミヤコが真っ赤になった。
「えっ!本当に・・・」
「あぁ・・・、今の俺は子供の体だけど、みんなが大人になったら全員で結婚しよう。もちろん、その中にはミヤコも入っているからな。もう少し待ってもらいたい。」
ミヤコから涙が流れる。そして、凍牙の胸に飛び込んだ。
「ありがとう・・・、ミツキと一緒に待っています。必ず迎えに来て下さいね。」
凍牙がそっとミヤコを抱きしめた。
「もちろんだ、約束する。」
ガーベラが羨ましそうに凍牙とミヤコを見ている。
「ミヤコお姉さん、羨ましいなぁ・・・、サクラや私達みんなは凍牙お兄ちゃんにプロポーズして婚約したけど、ミヤコお姉さんだけ凍牙お兄ちゃんからプロポーズされたよ・・・」
「私もプロポーズされたかったなぁ・・・」
サクラも冷華も雪もミツキも頷いていた。
「「「「確かに・・・、羨ましい・・・」」」」
ミツキが微笑ましそうに凍牙とミヤコを見ている。
「もう少し待っていれば、とうとう私達家族4人再び一緒になれるんだね。もう離される事なく・・・」
「クリアお姉ちゃんは、生まれ変わってから新しい恋を見つけて頑張っているみたいだけどね。でも、あんなキャラじゃなかったのにねぇ・・・、どこをどうしてああなったのか不思議・・・」
そして、俺をひと目見てから、フローリアの後ろでクローディアと一緒に正座をさせられているミドリを見ていた。
まさか!ミドリが!
ミツキと目が合った。2人でミドリに視線を移した。ミツキが頷いてくれた。
マジか・・・
『旦那様・・・』
フローリアから念話だ。なぜ、わざわざ念話で俺に話を?
『みなさん喜んでいるようですが、これから私は女神としての仕事をしなければなりません。ですから、旦那様、絶対に私のする事に口出しをしないで下さいね。絶対にですよ!』
かなり強い口調だ。ああやって俺に念押しするという事は・・・
『フローリア・・・、やはり、今回の争いについての事か?』
『そうです。これだけの騒動を起こしたのです。女神として今回の事はきちんとケジメを付けさせないといけませんからね。パパから今回の事は任されています。』
『分かった。俺は何も言わないし、お前に任せた。どんな結果になってもな・・・』
『旦那様、申し訳ありません。』
フローリアから悲しみの感情が伝わってきた。
嬉しそうに笑っているミツキの前にフローリアが立った。真剣な眼差しでミツキを見ている。
「フローリア様・・・」
ミツキが片膝を付き頭を下げた。
「ミツキさん、いえ、今はクイーンと呼ばせていただくわ。」
フローリアに話しかけられ頭を上げ、フローリアの顔をじっと見ている。
評価、ブックマークありがとうございます。
励みになります。m(__)m