フェンリル族の里㉙
あけましておめでとうございます。
今年の初投稿になります。
クイーンから出ているどす黒いオーラの量が尋常ではない。
完全に闇に堕ちたのか?
「フローリア、クイーンはやはり滅ぼさなくてならないのか?何とか出来ないのか?折角、みんなと上手くいき始めたところなのに・・・」
フローリアも厳しい表情をしている。
「旦那様、今のクイーンは闇に堕ちた訳ではありません。過去の亡霊に取り憑かれているような状態ですね。だから、闇に堕ちたとは違います。助ける方法はあるにはあるのですが・・・」
「どうした?」
「かつての凍牙さんの邪を払う能力が復活すれば問題ないのですが、今の凍牙さんの状態では、まず無理でしょう。あの状態で目を覚ますのかも・・・」
確かに・・・、雪の胸がかなり衝撃的だったのかまだ気を失っているし、目を覚ます気配が全く無い。しかし、昨日もそうだったけど、何であんなに幸せそうな顔で気絶している!そんなに雪の胸の感触が良かったのか?見ていると段々と腹が立ってきた。う~ん・・・、無理矢理でも叩き起こすか?しかし、起こしたからといって、例の浄化能力が使えるかも分からん・・・
「ご主人様・・・、そんなに凍牙様が羨ましいのですか?私達の胸はどうです?凍牙様みたいに天にも昇る気分になれるかもしれませんよ。」
うわっ!ミドリ!いつの間に復活して俺の背後にいる?それにクローディアもミドリの隣に!お前達!2人揃ってなぜ舌なめずりしながら俺を見ているんだ!
まだ痴女モードから戻っていないか?それに、なぜ俺の心が読める?
お前ら!いい加減に今の空気を読んでくれぇええええええええええ!
フローリアがとても晴れやかな笑顔でガシッと2人の肩を掴む。
「ふふふ・・・、あなた達・・・、いい加減に目を覚ましなさい・・・」
2人がとてつもなく真っ青な顔になった。とうとうフローリアを怒らせたな・・・
「旦那様、ちょっとこの2人とOHANASHIしてきますね。そんなに時間は取らせませんよ。ちょっとだけ私のお話を聞いてもらうだけですからね。」
2人がダラダラを通り越してザーと滝のような汗を流している。もう諦めてくれ。元々はお前達が悪いんだからな。
フローリアが無言の笑顔で2人をズルズル引きずって大きな木の陰に消えた。
「「ウギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」」
直後に2人の絶叫が響き渡った。
合掌・・・
絶対に怒らせてはいけない存在を怒らせた報いだよ・・・
「パパも大変だね。あの2人はまた何気ない感じで復活しそうだね。それと、さっき春菜ママがお父さんに抱きついていた時は、春菜ママ以外のお母さん達の視線が何か怖かったよ・・・、夜は危ないかもね。今夜は私と春菜ママが一緒に寝てあげる。私達がいればあの2人やお母さん達からパパを守れるからね。ふふふ・・・」
アイリス・・・、お前は天使だよ。これで心配していた夜は安心できそうだ。今夜はぐっすりと眠れる・・・
ただ、アイリスの最後の『ふふふ・・・』が気になるが・・・
頼む!安らかな夜になるのを俺は猛烈に望んでいる!
かなり脱線してしまったけど、意識をちゃんと元に戻そう。
クイーンの言葉で1番気になったのが・・・
今のクイーンは『4人で暮らす』と言っていた。3人までの生まれ変わりは確認しているが、最後の1人は一体誰だ?とても気になる・・・
クイーンが周りを見渡す。
「ふふふ・・・、とうとう私の家族が揃うなんて・・・、この時代に全員が転生したのは運命ね。やはり、私達4人が一緒に暮らす事を運命も祝福しているのかしら?」
クイーンが気絶している凍牙を見る。
「私の1番大好きな凍牙お兄ちゃん。もう離さないわ・・・」
次にミヤコを見た。
「ミヤビお母さん、今度は悲しむことはないわ。だって、ずっとみんな一緒だからね。」
ミヤコが激しく動揺している。
「わ、私がミヤビ母さん?あの伝説の?信じられない・・・」
クイーンが優しくミヤコに微笑んでいる。
「そうよ、ミヤコ姉さん。あなたはかつて私の母だったミヤビ母さんの生まれ変わり。里で1人ぼっちだった私をいつも励ましてくれたわ。お父さんとお兄ちゃんから離されてずっと泣いていたけど、今度は私がお母さんを幸せにしてあげる。もう前世は関係ないよ。堂々とお兄ちゃんと結婚も出来るのだからね。私達でお兄ちゃんのお嫁さんになろうね。ふふふ・・・」
ミヤコの顔が真っ赤だ。
「そうか・・・、それで凍牙さんの事が好きでたまらなかったのか・・・、でもね、ミツキ!私は前世に引っ張られたくない!私は私の意思で凍牙さんを好きになった!例え、私はかつてのミヤビ様の生まれ変わりだったとしても、この感情は今の私の感情よ。過去は過去!今は今よ!」
そしてクイーンに微笑んだ。
「そして、ミツキ・・・、あなたを大事にしたい気持ちもね。」
クイーンが苦しんでいる。
「や、止めて!そんな目で私を見ないで!折角、今の私を黙らせたのに、また目を覚ましてしまう。私はみんなと一緒に過ごしたいのよ。当時の私が叶う事が出来なかった夢を!例え闇に堕ちても・・・、今が最後のチャンスなのよ!4人が揃うのは最初で最後かもしれない。」
クイーンが1人をジッと見ている。
「まさか、あなたがお父さんの生まれ変わりだったなんて・・・、女になっていたから最初は気が付かなかったわ。」
何と!クイーンが冷華をジッと見つめていた。
冷華が大量の冷や汗をかきながら立ちすくんでいる。多分、あまりのショックで脳内の情報処理が追いついていないのだろう。
「わ、私が伝説の始祖様の生まれ変わり・・・、いきなりそんな事言われても・・・、もう考えるのを止めたい・・・」
クイーンがニヤニヤ笑っている。
「でもね、事実は事実なのよ。あなたからは間違いなくお父さんの魂の匂いがするの。男は男、女は女と必ず転生する事はないのよ。稀だけど逆の性別で転生する事もあるからね。」
凍牙やミツキは転生前も転生後も同じ名前か・・・、ミヤ『コ』にミヤ『ビ』、冷華は『”』を付ければ冷牙・・・、何て分かりやすい設定なんだ!
そういえば、俺の名前も蒼太にブルー・・・、青繋がりだ!
作者よ!名前の付け方が簡単すぎないか?変な名前は困るけど、もう少し捻りがないとな・・・
「それに、あなたはお兄ちゃんの事が大好きなんでしょう?あなたの目を見れば分かるわ。完全に恋する乙女の目だからね。お父さんがお兄ちゃんに恋するなんて・・・、でも、あなたは今は女、何も恥ずかしくないし、私達3人でお兄ちゃんのお嫁さんになろうよ。お兄ちゃんと一緒に4人で誰にも邪魔されずにずっと暮らしましょう。あなたもそれを望んでいるでしょう?元々は私達4人の家族だったからね。昔に戻るだけよ。」
冷華がニコッと微笑んだ。
「そうね、私は凍牙は大好きよ。この世の中で誰よりも凍牙が大好き。あなた達とならずっと仲良く凍牙と4人で暮らせると思うわ。凍牙の取り合いもないだろうし、確かに私達4人は幸せでしょうね。」
その瞬間、冷華の表情が真剣になる。
「だが!断る!!!」
クイーンが驚きの表情になった。
「これ以上のいい提案はないのよ!それを何故断るの?分からない・・・」
「あんた!この提案の前に何て言った?この森の命を全て刈り取ると言っていたわね?徹底的に破壊するとも・・・、私がそんな事を許すと思っているの!里には私の大事な人が多くいるわ!そんな人達の犠牲で私だけが幸せになれる訳がないじゃない。」
「それに、私には可愛い妹が出来たのよ。ちょっと生意気だけど、そんな可愛い妹を捨ててまであんたと一緒になるつもりはない!親友も2人いる!1人は私と同じ凍牙と婚約しているわ。もう1人も絶対に離れるつもりは無い!自分だけが幸せになる為に周りを犠牲にする。そんな事を私が許す訳ないでしょう!私は誇り高いフェンリル族の女よ!あんたみたいな邪神もどきに貸す耳は無いわ。さっさとミツキから離れなさい!」
ニタリとクイーンが笑った。
「こんな頑固なところはお父さんそっくりよ。仕方ないわね。私も譲るつもりはないわ。無理やりでも連れて行って、私が復讐を終わらせるまで閉じ込めておくわ。みんな死んでしまえば考えも変わるでしょう。」
「そして、私に逆らう事がどれだけ無駄かというのもね・・・」
冷華の前にサクラとガーベラが立った。
「冷華お姉ちゃん、後は私とガーベラが引き継ぐわ。過去の亡霊なんか吹き飛ばしてあげるからね。」
クイーンが激昂した。
「舐めるなぁあああああああ!このガキどもがぁあああああああああああああ!」
「今までのミツキは私の支配を拒絶しながら戦っていたのよ!普段の力を全て発揮できなかった!今は私がこの体の全てを遠慮無しに使えるわ。この体は歴代最強のクイーンに間違いない!それがどんな事か分かるわよね。ふふふ・・・、私も遠慮しないわ。本当のクイーンの力を見せてあげる!吹き飛ばされるのはあんた達よぉおおおおおおおおおおお!」
・・・
「つ、強い・・・、強過ぎる・・・、強さの次元が全く違う・・・」
クイーンがボロ雑巾のように地面に転がっている。もう戦う力も無いのか、大きな犬の下半身も普通の2本足の状態に戻っていた。
「な、何でこの時代にあんた達みたいな化け物が存在するの?そんなに私の存在が邪魔なの?」
サクラが倒れているクイーンに近寄り、しゃがみ込んでクイーンの手を取った。
「クイーン、いえミツキ・・・、それは違うわ。残留思念になってまで恨みを晴らそうとしていたあなたも救われる為だと思うわ。決して邪魔だから滅ぼされる事はない・・・」
ガーベラもクイーンの手を握る。
「そうよ、私達はあなたも救いたいと思っている。だって悲しいでしょう。このまま恨みを抱いたままずっといるのはね。私達天使族や女神族は、そんな悲しい存在を助ける為に存在しているの。悲しい想いを抱いたままの魂が転生しないようにね。来世は幸せになる事を願って・・・」
「あなた達・・・」
クイーンの目から涙が流れる。
「サクラァアアア!」
春菜がサクラに大声で呼びかける。
「お母さん・・・」
春菜がニッコリとサクラに微笑んだ。
「サクラ、もうあなたは見習いではないわよ。女神としての初仕事、頑張りなさいね。」
サクラもニコッと微笑んだ。
「ありがとう、お母さん。頑張る!」
冷華の前にサクラが立った。
「冷華お姉ちゃん、最後の仕上げをするから手伝って欲しいの。お願い・・・」
「凍牙お兄ちゃんはあんな状態だし、使いモノにならないからね。」
冷華もニコッと微笑む。
「分かったわ。それで、私は何をすればいいの?」
エターナル・シールドをそっと冷華に差し出した。
「この神器は潜在能力を引き出す事が出来るの。エターナルが伝えてくれた。冷華お姉ちゃんにはとても凄い力が眠っているってね。エターナルも冷華お姉ちゃんの事を気に入ったみたいよ。だから力を貸してあげるって。」
「この盾に手を置いて。それでエターナルが冷華お姉ちゃんの潜在能力を解放してあげる事が出来ると伝えてくれたわ。」
「こんな凄い神器が私を気に入ってくれるなんて信じられない・・・、でも、期待に応えなくちゃね。」
冷華がシールドの上に手を添えた。
冷華の全身が金色に輝いた。しばらくすると輝きが収まったが、髪は金色になったままだ。よく見ると瞳も金色になっている。これが覚醒したフェンリル族なのか・・・
元々、父親の族長に似ずキレイな顔立ちだったけど、今は少し大人びた感じになって、更に美しくなったと思う。
族長が呟いていた。
「娘が不良になった・・・、ワシのどこが不満だったのだ?悲しい・・・」
おい!どこのネタだ!
冷華が微笑んでいる。今までのギャグ担当とは思えないほどに美しい。どうやらギャグ担当はミドリとクローディアに移ったみたいだ。あの2人だと俺に飛び火するかも?嫌だ!飛び火しない事を祈る!
「サクラちゃん、ありがとうね。私にも神器から意志が伝わってきたわ。私の眠っていた力の使い方もね。」
冷華がクイーンに向き直った。
「クイーン、いいえ、ミツキ、今はあなたを1人の女として接する事にするわ。」
「ミツキ、残念だけど、私はあなたのお父さんじゃない。前世はあなたのお父さんだったかもしれないけど、今は違う。私は冷華。あなたと同じ男を愛する1人の女よ。だから、あなたにも幸せになってもらいたいの。」
少し間を置いて再び話し始める。
「私の目覚めた力を使えば、すぐにでも残留思念のあなたを消滅させることは出来るわ。でもね、それだとあなたは救われない。私もあなたを救ってあげたい・・・」
「だから、私達があなたに最高の幸せを送ってあげるわ。憎しみではなく温かい気持ちで逝けるようにね・・・」
冷華が気絶した凍牙を抱いている雪の前に立った。
冷華・・・、何をするのだ?
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