フェンリル族の里㉕
冷華とオーガ・エンペラーが対峙している。
お互いピクリとも動かなかったが、突然、エンペラーが片膝を付き冷華に頭を下げた。
「「「「「「「えっ!」」」」」」」
全員が驚きの声を出してしまった。
エンペラーは頭を下げたまま動かない。まるで冷華に対して臣下のポーズをとっているみたいだ。
エンペラーが話し始める。
「ウガ、ウガガ、ウガ、ウ~ガ・・・」
う~ん・・・、何を言っているのか全く分からん・・・
冷華もどうして良いか分からない状態だ。目が点になって固まっているし・・・
ミドリが俺に耳打ちしてくれた。
「ご主人様、あのエンペラーは冷華さんを主として一生付いていきますと言っていますよ。」
マジかい・・・
それにしても・・・
「ミドリ、エンペラーの言っている事が分かるのか?」
ミドリが嬉しそうに俺に微笑んでくれた。
「分かりますよ。私はメイドですからね。これくらいの事は朝飯前ですよ。」
いや・・・、それはメイドとは全く関係ないと思うのだが・・・
しかし、今はミドリに頼るしかない!
「ミドリ、通訳を頼む!」
ミドリが恭しく返事をする。
「分かりました、ご主人様。お任せ下さい。」
そして、俺は冷華のところに、ミドリはエンペラーのところに行った。
ミドリはエンペラーと2人でゴニョゴニョと話をしている。本当に会話が出来ているみたいだ。
俺は冷華にさっきのエンペラーの事を話すと、冷華は更に目が点になっていた。
「マ、マジっすか?あのエンペラーが私を主と認めるなんて・・・、クイーンみたいに無理やり下僕にするのと違って、私が認められるなんて信じられないわ・・・」
「でも、あの大きな体でこれからどうやって一緒に連れて歩くの?一緒に里に戻ったら、それこそパニックになるくらいに大騒ぎになるわよ。」
確かに冷華の言う通りだな。さて、どうしよう?
ミドリとエンペラーとの話が終わったのだろう。ミドリが俺のところに戻ってきた。
「ミドリ、どうだった?」
「ええ・・・、彼女の意志は固いですねぇ・・・、雑用でも何でもしますので、どうか連れて行って下さいとの事です。」
「・・・」
ちょっと待った!今、何か変な言葉が聞こえた気がする・・・
「ミ・ド・リさ~ん・・・、今、何か『彼女』って言葉が聞こえた気がするんですが・・・」
ミドリがニコッと俺に微笑んでくれた。
いや、そこは微笑む場面ではない気がする。
「そうですよ。彼女はとても珍しい雌のオーガ・エンペラーなんです。確認されたのは多分初めてでしょうね。そして意外と乙女ですよ。エンペラーって呼ばれるのはあまり好きでないので、名前が欲しいとも言ってました。女らしい名前が良いなっと・・・」
ピクピクと俺のこめかみが動いている。頭痛がしてきた・・・
あの見た目だぞ!腰に布を巻いているだけだし、上半身もガチムチの裸だ!どこをどう見ても雄にしか見えん!他の3体のエンペラーとの区別も全くつかなかったぞ・・・
しかも、意外と乙女な心だって!信じられん・・・
もう冷華に全て任せよう・・・、女同士で話しをしてくれ・・・
「冷華・・・、アイツは雌だってさ・・・、しかも冷華、お前に名前を付けて欲しいみたいだ。連れて行く連れて行かないは、取りあえず後回しに考えて、まずは名前を付ける事から考えよう・・・、注文があって、女らしい名前だって・・・」
冷華も俺の予想通りの反応で、口をあんぐり開けて呆然としている。
「う、嘘・・・、アレで雌ですって?しかも女らしい名前とは・・・、もう何がなんだか・・・」
しばらく考え込んでいたが、覚悟を決めたみたいだ。
「でも、そこまで私を慕ってくれる気持ちには応えてあげないとね。里の方も私が頑張ってみんなに受け入れてもらえるようにするわ。」
そしてエンペラーの前に立った。
「あなたの名前は『レイラ』、どうかな?私を主としたい気持ちは分かるけど、私はそんな関係は好きでないの。あなたと私は友達っていう関係でいたい。だから、私の名前の『レイ』を取って『レイラ』って名前にしたのよ。お互いに対等でありたい私の気持ちよ。」
エンペラーが涙を流しながら呟いている。
「レ、レイ・・・、レイラ・・・、ウガ、ウガァ~~~・・・」
どうやら嬉し泣きみたいだ。
ミドリも俺の横で微笑んでいた。
「良いですね。戦いで芽生えた友情は・・・」
冷華が握っていた神器が突然輝きだし、すぐに光が収まった。
一体、何があったのだ?
すると、次はエンペラーの全身が金色に輝き始めた。光が全身を包んでエンペラーの姿がよく見えない。
光が徐々に小さくなり俺の大きさぐらいまで小さくなった。
光が収まり、そこに現われたのは・・・
う、嘘だろぉおおおおおお!
褐色の肌をしたもの凄い美人の女性が片膝を立てて座っていた。真っ赤な燃え上がるように赤く腰まで届く長い髪の女性だ。
冷華もさすがに固まっている。すぐに我に返ったが、どう接して良いか分からない状態だ。
「あ、あなた!本当にレイラなの?一体・・・」
レイラがニコッと微笑む。
「冷華様、あなた様のおかげで私はこうして新たに生まれ変わることが出来ました。そして、この姿なら一緒にいても問題はないですよね。全ては冷華様のおかげ・・・、やはり、私が忠誠を尽くすに値するお方です。」
普通に喋っている・・・
ミドリも驚きの表情でレイラを見ていた。
「ま、まさか鬼神族だなんて・・・、神界のどこかに少人数で暮らしていると聞いた事がありましたが、この目で見るなんて思いもしませんでした。」
「鬼神族だと?」
「はい、間違いないです。オーガ種は鬼神族の亜種モンスターですが、進化の頂点が鬼神族になるとは・・・、初めて知りました。」
『ふふふ・・、やはり冷華に神器を預けて正解だったようだな。私を楽しませてくれるよ。』
またもやデウスからの念話が届いた。
『デウス!お前、何か知っているのか?』
『いや、私もこのような結果は予想していなかった。まさか、唯我独尊に進化を促す機能があるなんて、作った私も分からなかったよ。まぁ、あの神器は想いを現実にするのだ。多分、冷華が彼女と一緒にいたいと思った気持ちが神器に伝わったのだろうな。そして、彼女は神器の力により進化し、冷華達と同じ様な姿になり、一緒に暮らせるようになった訳だろう。』
『想いを現実にする?それって、とんでもないチートだぞ!あの神器はそんな力があるのか?だからか、使い手を慎重に選んでいる訳は・・・』
『そうだ、あの神器は想いと力があれば、この神界でさえも支配は可能だろう。実現できるには相応の力を示さないと神器は応えないが、力さえあれば邪の力でも使用は可能だからな。我ながら恐ろしいものを作ったものだ。ははは・・・』
『笑い事か!まぁ、今のマスターが冷華なのは俺も賛成だ。彼女なら正しく使うだろうな。』
『私もそう思う。冷華なら間違いはないだろう。それでは・・・』
念話が切れたか・・・、それにしても本当にとんでもない神器だぞ・・・
「ご主人様?大丈夫ですか?」
ミドリが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「大丈夫だ。デウスが割り込んできてな・・・」
「あの方ですか・・・、確かにあの方は何を考えているか分かりませんからね。今回の事も自分が予想しない結果になって、逆に喜んでいたのかもしれませんね。」
「確かにな・・・、あの変態ならあり得る。」
「そういえば、鬼神族って?」
ミドリがドヤ顔で説明を始めた。
「鬼神族は神界最強種の1柱ですね。実力はフェンリル族以上とも言われています。しかし、誰も姿を見たことが無かったので、幻の種族とも言われていますよ。あの額に生えている角が鬼神族の証でもありますし、オーガ・エンペラーから進化したとなると間違いないですね。」
レイラがスクッと立ち上がった。
かなり身長が高いな。180㎝少しはありそうだ。
足はスッゲェ長いし細い!モデル真っ青の長さだぞ!身長が高いから更に足の長さが強調される。美人、スタイル抜群のうちの嫁軍団にも引けを取らないよ。
腰は・・・、細い!腰に布を巻いているだけだから、お腹もバッチリ見える。女ボディビルダーみたいに腹筋がバッチリと出ている。見事なシックスパックだよ。アスリートみたいに全身が筋肉の塊りだけど、無駄な肉が無くスマートに見える。エンペラーの時も筋肉でガチガチの体だったからな。
そして、視線を徐々に上げていくと・・・
うぉおおおおおおおおお!トップレスじゃないか!エンペラーの姿と同じで服装は腰布だけだ!裸族だぁああああああ!
胸を隠す概念が無いのか?堂々と胸を曝け出している。コレはコレである意味、男にとっては非常にマズイ・・・
形の良い大きな胸が丸見えで、思わず目が・・・
「パパのスケベぇえええええ!サミング!」
アイリスの絶叫が聞こえた瞬間、両目にとんでもない衝撃が走った。
「うおぉおおおおおおお!目が!目がぁあああああああああああああ!」
両目を押さえ悶絶してしまった。
アイリス・・・、いきなり目潰しは酷いよ・・・
「ダメよ!パパは見てはいけないんだからね。ミドリ!すぐに服を着せてあげて!」
「分かったわ。かなり背が高いわね。メイド服だとどれも短いわ。でも、ミニスカメイドも悪くなさそうね。うふふ・・・」
「うわぁ~、すごく似合っているわね。元が良いから服もすごく映えるわ。」
あっという間に着替えたのか?
目が痛くて開けられないけど、ミドリの言葉にちょっと期待しよう。
しばらくして、目の痛みが取れ見えるようになってきた。目の前にアイリスが怒った顔で俺を睨んでいる。
「パパ~、デレデレした顔でレイラを見ていたらダメだよ!レイラは私から見てもすごいキレイな体だし・・・、はぁ・・・、あの筋肉ムキムキで一切無駄な肉がないパーフェクトなボディが羨ましい・・・」
「そして、胸を見過ぎ!本当にパパったら・・・」
アイリスの顔が急に赤くなる。そして、そっと耳打ちしてくる。
「今は女神の鎧を着ているから見せられないけど、後でじっくり見せてあげるから、他の女の人は見ないでね。」
おいおい・・・、何を考えているんだ・・・
スパーァアアアン!
アイリスが頭を押さえて悶えている。
「いったぁああああああ~、ミドリ!何するのよ!」
ミドリがアイリスの頭をはたいていた。なぜだ?右手にスリッパを持っている?それで叩いたのか?
「アイリス、聞こえていたわよ。お嫁前の女の子がそんな事したらダメでしょ!ねぇ、ご主人様。」
「そ、そうだよな・・・」
ミドリが艶っぽい表情で俺を見ている。
「だから、見るのは私だけにして下さいね。ふふふ・・・、凍牙様は気絶してますし、今は男の人はご主人様だけですからね。今からでもお見せ出来ますよ。吹雪様はまだまだお子様ですからね。今も一緒にお風呂にも入っていますし、見られても平気です。」
ミドリが上着のボタンを外し始めた。
おい!ミドリも十分に変だぞ!誰か!このカオスな状況を何とかしてくれぇえええ!
吹雪はサクラとクイーンの激戦を食い入るように見ている。
雪は気絶した凍牙を嬉しそうに抱いて、うっとりした顔で座っている。どうやら妄想の世界にトリップしているみたいだ。
冷華はレイラのメイド姿を見て喜んでいる。
レイラは冷華に褒められて恥ずかしそうにモジモジしている。
クローディアは?
えぇえええ!ミドリに対抗して上着を脱ぎ始めている!ここにも痴女がいるぞぉおおおおお!
だ、ダメだぁ~、ミドリを止められる人がいない・・・
アイリスが叫んだ!
「ガーベラ!例のブツを!」
ガーベラの黄金バットの形状が変化した。
「はいよ!アイリスお姉ちゃん!」
そして、アイリスにパスする。
「サンキュー!ガーベラ!」
「ミドリィイイイイイ!痴女ってないで目を覚ましなさぁあああい!」
スッパァアアアアアアアアアア~~~ン!
黄金のハリセンがミドリの頭に炸裂した。
「うごっ!」
ミドリが変な声を出して頭が地面にめり込んだ。ピクピクと痙攣しているぞ。
アイリスはすぐにクローディアのところに飛んでいき、ミドリと同じ様にハリセンで頭を叩き地面にめり込ませた。
「アイリス~、ちょっとやり過ぎじゃないか?ハリセンギャグの範疇を超えて殺人の域になっているぞ。」
アイリスがニカッと笑って俺の前に戻って来た。
「大丈夫だよ、パパ。あの2人はとんでもないくらい頑丈だから、あれくらいしないと目を覚まさないからね。本当に油断も隙もない2人よ。パパの事になったらすぐに痴女モードになるなんて・・・、いくらパパが好きでもやり過ぎはダメよ!」
おい!お前が言うか・・・、お前もあの2人と大して変わらんと思う。
「あの2人はほっといても大丈夫だから、パパ、レイラさんのところに行きましょう。ガーベラも一緒にね。」
「分かった。」「うん!」
俺達3人は冷華のところに行った。冷華とレイラは楽しそうに話をしている。
「よっ!冷華、楽しそうだな。仲が良くて良かったな。」
「あ、蒼太様。はい、レイラとの話はとても楽しいです。最初は私が主人としての立場で堅苦しく接していたのですが、それは嫌だったので呼び捨て、敬語無しで普通に話してもらうようにしました。私は友達として接して欲しいですから・・・」
レイラが恭しく俺に頭を下げる。
「蒼太様、初めまして。レイラと申します。冷華からお話は伺っております。この森の争いを収める為に尽力していただいたと・・・、この森の代表としてお礼を申し上げます。そして、一生の友として冷華と巡り合せてくれた事には感謝しかありません。」
う、うわぁ~、固い、固すぎる。あのエンペラーと同一人物なんで想像出来ないよ。
「レイラ、俺も冷華と同じで固いのは好きでないんだよ。冷華と一緒にいるなら、お前も俺の家族になるようなものだからな。家族がそんな話し方はしないだろう?俺達にも普通に話して欲しいよ。」
「分かりました。」
ニコッとレイラが微笑んで返事をしてくれた。あまりの美しさにドキッとしてしまう。
う~ん、まだ言葉は固いけど、少しずつみんなに慣れていくだろう。
それにしても・・・、こうやって改めてレイラを見てみると本当にキレイな女性だ。額の両側に角が生えているのは鬼神族の証だとミドリが言っていたけど、それ以外は俺達と全く変わらない。
ミドリがアレンジしてくれたメイド服もすごく似合っている。スタイルは抜群だし、ミニスカートから覗く脚線美が特に見事だ。
「パパァ~・・・、何、見惚れているの?パパもハリセンチョップされたい?」
うっ、アイリスの俺を見る視線が怖い・・・
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