フェンリル族の里㉒
「私も準備するね。」
ガーベラが黄金バットを右手に持ち上に掲げる。
「神器解放!キング・クラッシャァアアア!破壊の王よ!真の姿を現せ!」
バットが光り輝き形状を変えながら大きくなっていく。
光が収まり、そこに現れたのは・・・
ガーベラの右腕に巨大な黄金のパイルバンカーが装着されていた。
そのパイルバンカーには先端にドリルが装着されている杭がセットされている。
バットといい、このパイルバンカーといい、ホントこの神器は近接戦闘特化型の武器だよな。
でも、あのドリルは憧れる・・・、男の夢だよ。
こんな武器は『漢』が扱って初めて映えるものではないか?ガーベラが使ってギャップ萌えを狙っているのか?この神器はまさか!ロリコンか!あり得る・・・
冷華がガーベラの神器を見て唖然としていた。
「な、何なのよ・・・、この神器は・・・、変わり過ぎよ!これじゃ私達が目立たないじゃないの!こうなったら・・・」
スルスルと袖の中から何かを取り出す。
おい!お前も十分におかしいぞ・・・、何でこんなモノまで持っている・・・
「この荷電粒子砲ならどうよ!見た目も威力も完璧よ!神器なんかに負けるものですか!デウス様には感謝しないとね。」
冷華が腰だめに巨大なビーム砲を抱えていた。
デウスだと!アイツが冷華に絡んでいたのか。だから冷華が地球の現代や空想の兵器を持っていた訳か・・・、アイツとはあんまり関わりたくなかったのに、こんなところでアイツの影が見えてしまうとは嫌な予感しかしない・・・
「みんな準備はいい?狙う場所はさっきの隕石が当たったところね。僅かだけどフィールドが歪んでいるから、念話で場所はマークしているからそこを狙ってよ。」
クイーンが微笑んでいる。
「相談は終わったかしら?待っててあげたんだから、私を満足させて頂戴ね。無駄な努力になって失望させないでよ。」
「分かってるわよ。絶対にあなたを満足させてあげる。本当に天に上るかもね。ふふふ・・・」
ガーベラがニヤッと笑った。
「それじゃ、行くわよ!3・2・1!GO!」
5人が一斉にクイーンに向かって飛び出した。
凍牙が叫んだ。
「まずは俺からだぁあああ!次元斬!」
手刀から見えない刃がフィールドへ飛び切り裂かれる。しかし、第2層のシールドまでは壊せなかった。
「くそ!あのフィールドは本当に反則だな。切り裂くだけでやっとだし、すぐに元に戻るとはな・・・」
「でもな、簡単に戻さないからな!行けぇえええ!サクラァアアア!」
サクラが神器を目の前に掲げ精神を集中させている。
「範囲を徹底的に絞るのよ・・・、細く細く、そして最大限の効果を・・・」
「私の最大の呪文よ!喰らいなさい!ビッグ・バァアアアアアアーーーン!」
巨大な爆発がクイーンを包む。
「ぬぅううう!」
クイーンがうめき声あげた。
「はぁ、はぁ・・・、あなたに届いたかしら?」
サクラが満足そうな顔でクイーンの方を見ている。
爆煙が消えてクイーンの姿が見える。しかし、何事も無いように立っていた。
「やるわね・・・、一瞬だけどシールドまで貫通して、私に傷を付けるとは・・・、やはり私が気になった相手ね。」
クイーンの額から血がツーと流れた。それを手で拭い取りペロリと舐める。
「はははぁあああ!コレよコレ!この緊張感が最高よ!私がお兄ちゃんの事以外で楽しいと感じていたのは!まだまだ終わりじゃないでしょう!?」
「そうよ!私達も忘れないでよ!雪!タイミングを合わせなさいね!」
「分かったわ!冷華!」
「「いっけぇええええええええええ!」」
冷華が極太のビームを、雪が巨大な光の矢を放った。
光の矢がビームを飲み込み、更に太く大きくなって姿が変わった。
「行きなさい!白虎!あんなフィールドなんか噛み砕いちゃえぇええええええええ!」
巨大な白い虎がクイーンに襲い掛かりフィールドに衝突する。
分解されずバリバリと火花を出しながらフィールドと白虎が拮抗している。
「ぐあぁあああ!な、軟弱なフェンリル族にもこんなヤツがいるなんて!でも、私はスキュラ族の頂点よ!この強力なフィールドと圧倒的な攻撃力、その力で私はこの森の覇者になったのよ!そう簡単に私を倒せるとは思わないで!こんな攻撃なんて耐えてみせるわ!」
「私を舐めるなぁあああああ!フィールド全開!」
今まで目に見えなかったフィールドが青白く発光した。
フィールドを打ち破ろうとしていた巨大な白い虎の姿が少しずつ薄くなり消滅してしまった。
「はぁ、はぁ・・・、どう?耐えきったわよ。これであなた達の打つ手は無くなったのかな?でも楽しかったわ。こんなに熱くなれたのは初めてよ。」
しかし、サクラがニヤッと笑った。
「クイーン・・・、1人足りないと思わない?あなたが人数を数え間違えるなんてね・・・、思った以上に追い込まれているみたいね。」
「はっ!そういえば・・・、おチビちゃんがいない・・・」
クイーンが驚愕の顔で周りを見渡す。
「どこにもいない・・・、一体、どこに隠れたの・・・」
冷華もニヤリと笑った。
「私達は単なる削り役よ。あなたのフィールドは確かに無敵に近かった・・・、でも、私達の最大の攻撃をこれだけ短時間に受け続ければ、いくらあなたの自慢のフィールドも無事ではないでしょうね。」
雪は真面目な顔で話す。
「おかげで、あなたの自慢の湾曲フィールドはほとんど削れましたよ。後は残っている硬質シールドだけですからね。そして、これだけ削ってしまえば、フィールドの再生にも時間がかかります。」
凍牙が叫んだ!
「ガーベラ!最後の仕上げだぁあああああ!クイーンをギャフンと言わせてやれ!」
ガーベラが大きな翼を広げ、上空から流星のような速度でクイーン目がけて急降下してきた。
「凍牙お兄ちゃん・・・、今時、ギャフンって言葉は言わないよ・・・」
「さぁ!突貫よぉおおおおお!」
ドリルアンカーを前に突きだしている。
「くっ!味な真似を!天使族はあの翼で空を飛べるから上から攻撃できるのね。しかし、落ちてくるだけならいい的よ。喰らいなさい!」
クイーンが叫ぶと周囲に大量の炎の玉が出現した。そして、全ての炎の玉が上空のガーベラに目がけて飛んでいく。
「ガーベラ!」
凍牙が叫んだが、ガーベラはニコッと笑い炎の玉に視線を向けた。
「凍牙お兄ちゃん、大丈夫!」
「邪魔するモノは全て噛み砕く!はぁああああああああ!」
ドリルが回転して炎の玉を次々と打ち砕いていく。ガーベラがクイーンの目の前まで迫ってきた。
ガキィイイイイイイイーーーン!
ドリルの先端がシールドの表面で止められてしまっていた。サクラが悲痛な表情でその光景を見ている。
「くっ!シールドもさっきの全開モードで強化されていたの?このままじゃ・・・」
しかし、ガーベラは慌てていない。それどころか喜んでいるようにも見える。
「サクラ、大丈夫!これも想定済みよ!」
「クイーン!あなたにこのキング・クラッシャーの真の力を見せてあげられるなんてね!破壊王と言われている力を!ドリル・アンカァアアア!ブースト!」
ドリルの回転が更に上がり、シールドとの接点が激しくスパークしている。
パイルバンカーから煙と炎が上がった瞬間、ガーベラが叫んだ!
「アンカー射出!貫き突き通せぇえええええ!」
バリィイイイイイイーーーン!
ズドォオオオーーーーーン!
ガラスが割れるような音がした直後に大きな破壊音も聞こえた。一面に土煙が立ち上って2人の姿が見えなくなってしまった。
「きゃあぁあああああ!そ、そんなぁあああああ!」
クイーンの叫び声が聞こえる。
森に静寂が広がった。静かなまま土煙が薄くなり2人の姿が見えてきた。
今までクイーンがいた場所には大きなクレーターが出来ていた。クレーターの中心に杭が半分ほど埋った状態で墓標の様に立っており、その上にガーベラが翼を広げパイルバンカーを構えて立っていた。
「ふっ・・・、私に貫けないモノは無いのよ。」
『漢』だぁあああ!ガーベラの背にカッコイイ『漢』達の姿が見える!熱い『漢』、クールな『漢』と何人もの姿が見える。お前・・・、俺の持ってきたマンガの『漢』達の影響を受けて、戦闘中は『漢』になり切っているのか・・・
だからか・・・、神器がお前を選んだのは・・・
お前の神器は『漢』の憧れの武器だからな。お前の中の『漢』に神器は共鳴したのだろう。
ただの可愛い美少女だと思っていたが、内に秘めた熱さはハンパないな。
凍牙・・・、お前も串刺しにされないようにな。ガーベラを怒らせると間違いなく突貫されるぞ・・・
クイーンはクレーターの外まで飛ばされていた。
4本の足で何とか立っている状態だ。少しフラフラしている。
何と!7つある首の4つまでもが吹き飛ばされて無くなっている。クイーンがガーベラを睨みつけていた。
「やるわね、おチビちゃん・・・、まさか、ここまで私が追い込まれるとは・・・」
「名前は何て言うのかしら?サクラの次にライバル認定ね。」
ガーベラが瞬時に神器をバットの状態に戻し、右手に構えクイーンを見つめている。
「私の名前はガーベラ。凍牙お兄ちゃんの2番目の婚約者よ。」
「さすがクイーンね。胴体を貫くはずだったのに、あの距離で咄嗟に躱すなんて凄いわ。でも、これだけの大怪我をしているのに大丈夫なの?」
クイーンが微笑んだ。
「敵である私に気を遣ってくれるなんて可愛い子ね。それとも余裕なのかしら?でも心配しないで。」
その瞬間、吹き飛ばされた部分の肉が盛り上がり、徐々に犬の頭の姿になり元に戻った。
「この通り、7つの頭は不死身。どんなに潰されようが切り落とされようが、すぐに再生してしまうわよ。そして、この頭は単なる飾りじゃないからね。」
その瞬間、7つの犬の口から炎、氷、雷のブレスがガーベラ目がけて飛んで行った。
「シールド・ビット!」
ガーベラの正面に半透明の桃色の三角形のシールドがいくつも現れ、全てのブレスを防いだ。
そのまま、ガーベラの周りを回っている。
「ガーベラ、油断したらダメよ。あの頭の不死身の事は知っていたでしょう。」
サクラが慌ててガーベラに近づいた。
「サクラ、ゴメン・・・、分かっていたけど体が思ったよりも動かなかった。ちょっと力を使い過ぎたみたいだね。もうひと踏ん張りだし頑張るよ。」
凍牙もガーベラに近づく。
「ガーベラ、少し休んでいろ。後は俺達が何とかする。」
そして、クイーンに向き直って構えた。
「ミツキ、これで自慢のフィールドもしばらく使えないな。あまり出番がなかった俺だったけど、やっと出番が回ってきた!行くぞ!」
凍牙の全身から白い煙がブスブス上がっている。
「うっ!しまった!ここまできて・・・」
ボン!
「げっ!サクラの加護が切れた・・・」
いつもの白髪の子供状態の凍牙に戻ってしまった。
クイーンの様子が変だ。顔を真っ赤にして全身がプルプル震えている。
「か、可愛いぃいいいいいいいいいい!これがお兄ちゃんの本当の姿なの?この白髪の姿、やっぱりお兄ちゃんに間違いないわ!もう我慢出来ない・・・、今すぐお兄ちゃんを里に連れて帰るわ!」
クイーンの凍牙を見る目が完全にイっているよ・・・、鼻血と涎をダラダラ流している姿は・・・、冷華以上の美人が台無しだよ。
フェンリル族もスキュラ族も興奮したら一緒だよな。鼻血をダラダラ流すのがデフォルトなのか?
サクラが慌てて凍牙をヒシッと抱きかかえている。
「クイーン!ダメよ!凍牙さんは私のモノなんだから、絶対に渡さない!」
ガーベラ達が「おいおい、『私達』のだよ・・・」と言っているが、多分、あの2人には聞こえていないだろうな。
クイーンがビシッと人差し指をサクラに向ける。
「サクラ!1対1の勝負よ!勝った方がお兄ちゃんを自由に出来るのよ!もちろん受けるわよね?」
サクラがキッとクイーンを睨んだ。
「もちろんよ!クイーン!あなたの好きにさせない!それに勝つのは私よ!」
2人の視線が物理的に火花を上げているのが見える。
ガーベラ達は・・・
「私達は眼中に無しね。もう、あの2人の好きにさせましょう。」
完全に傍観者モードになっていた。
凍牙は・・・
「おい!何で俺がお前達の景品になっているんだ!俺はまだ戦えるぞ!出番が欲しいんだぁあああああ!」
文句を言いながらサクラに抱かれてジタバタしている。
サクラが雪を呼んだ。
「雪お姉さん、ちょっとこっちに来て。」
雪がサクラの前に来た。
ムニュ!
「きゃ!いきなり何を!」
サクラが凍牙の顔面を雪の大きな胸の谷間に押し付けた。凍牙の顔面が雪の胸に埋もれている。
みるみる凍牙の全身が真っ赤になり、ピクピクし始めた瞬間に雪の胸から凍牙の顔面を引き剥がし、明後日の方向に向けた。
その瞬間、凍牙の鼻から盛大に鼻血が噴き出す。ビクンビクンと痙攣を起こして気絶してしまった。
サクラがホッとした表情になる。
「ふう・・・、これで静かになったわ。大人しく景品になっていてね。必ず私が貰うからね。」
雪が恥ずかしそうにサクラに話しかけた。
「サクラちゃん、いきなり何をするの?ビックリしたぁ・・・、まぁ、凍牙さんならいくらでも私の胸に顔を埋めてもOKだけどね。いつでもウエルカムよ!」
サクラも恥ずかしそうに雪に話す。
「本当は私がしたかったけどね・・・、この体はお母さんくらいに胸が大きいし・・・、絶対に凍牙さんは喜ぶわね。」
「でも、今は女神の鎧を着ているから、凍牙さんの顔を押し付けると、固いから色々と大変な事になっちゃうからね。」
雪が嬉しそうに気絶した凍牙を見ている。
「それにしても・・・、凍牙さんって本当に純情なのね。昨日もそうだったけど、私の胸で気絶するなんて可愛いくてたまらないわ。私を立派な女として見ているんでしょうね。嬉しいわ。これから私達で凍牙さんに色々と『大人のムフフ・・・』を教えてあげなくちゃね、サクラちゃん・・・」
雪がサクラにウインクすると、サクラが真っ赤になってしまった。
クイーンがうっとりした表情でサクラ達を見ている。
「お兄ちゃん・・・、あんなに純情だなんて・・・、自慢じゃないけど、私も胸は相当大きいのよ。あのフェンリル族の女よりもね。」
「あぁ・・・、あの可愛い姿のお兄ちゃんを思いっきり抱きしめて、私の胸の中に埋もれさせてあげたい。そして、あの鼻血を全身に浴びたいわ・・・」
うわぁ~、クイーンもかなりヤバいぞ・・・
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