フェンリル族の里⑰
最近、とても忙しいです。
当面は週1~2回の投稿になります。m(_ _)m
「フローリア様、旦那様の子供達も順調に強くなっていますね。」
赤い髪の渚がフローリアに話しかける。
フローリアが少し悲しい顔をしながら渚に向き直った。
「そうですね。彼女達は強くなってもらわないと・・・、ママ達が遙か昔に命をかけて封印した最強、最悪の邪神が、そう遠くない未来に甦りそうになっていますからね。今のままの私達だけでは勝てないでしょう。今回の戦いで更に強くなるのを期待しています。」
「そうですね。我々の力を見せる為に、今回はわざわざ全員が応援に来ましたからね。子供達の刺激になっているみたいですよ。特にアイリスとサクラの成長が著しいですし、我々の後を継ぐに相応しくなっていますね。」
フローリアの目から涙が流れた。
「私達も酷い親ですね。ママや私達の使命に付き合わせてしまって・・・、もっと子供らしく好きな事をさせてあげたいのに・・・」
「子供達が戦う未来を私達が作ってしまった・・・」
春菜が優しくフローリアの手を握る。
「フローリア様、そう悲観しなくても大丈夫です。私達の旦那様である蒼太さんと子供達が、我々とは違う方法で明るい未来を作ってくれますよ。私には見えます。戦うだけが全てではないと・・・」
「詳しくは分かりませんが、常識外れの方法で邪神を鎮めてくれると思いますよ。まぁ、蒼太さんにはまた受難が降りかかかるかもしれませんが・・・」
「春菜さん・・・、あなたがそう言うなら間違いは無いでしょうね。ですが、旦那様の受難が気になりますが・・・・」
フローリアと春菜がお互いに難しい顔で見つめ合っている。
「凍牙さんの時と同じ様に女の人の影が見えるんですよ。1人だけですけど・・・、もしかして、また新しい奥さんが出来るかもしれませんね。」
渚達全員が頷いた。
「「「「「あり得る・・・」」」」」
マリーがガーベラと一緒にフローリアの前に出てきた。
「まぁ、フローリア様、まだ先の分からない未来を考えるよりも、今のクイーンの方を収める事に集中しましょう。ガーベラ、お前も手伝いに行ってらっしゃい。フローリア様、お願いします。」
「そうですね。それではガーベラ、送りますね。」「はい!お願いします。」
ガーベラの足元に魔法陣が浮かび、ガーベラの姿が消えた。
渚が淋しそうに呟いた。
「私の出番はこれで終わりかな・・・、1章でも出番が少なかったけど・・・、やっと出ても、これだけで終わりなんてちょっと悲しい・・・、もう少し出れるように頑張ろう・・・」
走っている俺達の前の空間が突然歪み、ガーベラが突然現れた。
「ガーベラ!危ない!」
咄嗟に落ちてくるガーベラを抱きかかえたが、ガーベラがやたらと嬉しそうだ。
「お父さん、ナイスキャッチ!凍牙お兄ちゃんも良いけど、やっぱりお父さんに抱っこされるのが1番好きかな?」
ガーベラめ・・・、嬉しい事を言ってくれるよ。その言葉でお父さんはメロメロだぞ。
「ガーベラ、どうしたんだ?お母さん達と一緒だったのに・・・」
「お母さんが手伝ってこいってね。だから、私も頑張るね。」
「分かったよ。でも、無理はするなよな。」
「はい!お父さん。」
う~ん、可愛いぞ!
マップに反応だ。まだ雑魚が残っているな。ガーベラを地面に降ろす。
「凍牙・・・」
凍牙も頷く。
「久しぶりに2人でやってみるか?熊さんとおサルさんの団体だけど大丈夫だよな。」
「蒼太、誰に言っているんだ。悪いけど肩を借りるぞ。」
「大丈夫だ。『俺を踏み台にした!』とは言わないさ。」
俺が走り出すと凍牙が少し遅れて走り出した。少し走るとワイルド・ベアの集団が見える。ワイルド・ベアの頭上の木々にはワイルド・モンキーの集団が俺達の方に近づいて来た。こいつらはこの森の中でも上位の連中だからな、油断は出来ん。
「行くぞ!」
「おう!」
俺達は縦に並んでワイルド・ベアの方に走っていく。ワイルド・モンキーの方が先に上から襲いかかってきた。
「凍牙!」
「分かっている!」
凍牙が俺の肩を踏み台にして頭上のワイルド・モンキーの方に飛び上がった。
ヤツらの意識が一瞬凍牙の方に向く。その瞬間を狙ってワイルド・ベアに目がけて霞と吹雪を振り切って飛ぶ斬撃を放った。
「二刀裂空斬!」
いくつもの斬撃がワイルド・ベア達の首や四肢を切り飛ばす。
空中にいる凍牙に目がけてワイルド・モンキーが飛びかかって来るが、全て手刀で真っ二つに切り刻んでいった。
凍牙は体重を感じさせないような動きで、落ちる前のワイルド・モンキーの死体を足場にして次々とジャンプを繰り返し、ワイルド・モンキーを葬っていく。
「ホント、何であんな動きが出来るんだ?空中で切ったワイルド・モンキーを足場にしてジャンプするなんてな。完全に物理法則を無視しているよ・・・」
「俺も負けられないな!」
二刀で次々とワイルド・ベア達の首を切り落としていった。
1分も経たずにワイルド・ベア達が全滅した。凍牙は俺の横に音を立てずに着地した。
「凍牙・・・、アレはどんな理屈だ。俺の持って来たマンガに載っていた技だぞ。軽気功の達人が体重を消して相手の剣や拳の上に乗る技だよな。」
凍牙がニコニコしている。
「やってみたら出来た、って感じかな?理屈はよく分からん・・・、マンガには面白い技が多くて、つい真似したくなってしまうよ。子供の体だと制約が多いけど、今の体なら何でも出来そうだな。」
凍牙は本当に天才だな。マンガの技なんてまず現実に出来るモノでもないし、それを見ただけで再現出来るなんて・・・
昔よりも更に強くなったのじゃないか?
雪と冷華が俺達を驚きの顔で見ている。
「な、何なのあの強さは・・・、強さに自信があるフェンリル族でもあれだけの動きは不可能よ。あれが最強と言われた凍牙さんの実力・・・」
俺は無視かい・・・
「凍牙、最後の大物が来たぞ!」
20mは超えるだろう。とてつもなく巨大な犬のような魔獣が迫ってくる。
「ベヒモスか!」
「任せろ!一撃で決める!」
凍牙が手刀を頭上に構える。
「次元斬!」
ベヒモスとはかなり距離が離れているのに凍牙が手刀を振り下す。凍牙の前の空間が一瞬揺らいだように見えた。その瞬間、ベヒモスが頭から尻尾まで魚の開きのように2つに割れて左右に転がってしまった。
「相変わらずの切れ味だな。手刀で空間まで切るなんて在り得んぞ。射程も昔より伸びているし、俺もうかうかしていられないな。」
俺の言葉に凍牙が嬉しそうにしているが、雪が恐る恐る凍牙に近付き話しかけた。
「凍牙さん、空間を切るって・・・、そんな事が可能なんですか?」
「普通は無理だな。俺と美冬はお前と同じで魔力持ちのフェンリル族なんだ。美冬は魔力を身体強化だけでなく拳に集める事も出来るから、あのバカみたいな攻撃力を生み出しているのさ。そのおかげで魔法も殴り返す事も可能なんだよ。」
「俺も似たような感じだけど、手刀に何でも切り裂く想いを魔力に乗せているんだよ。その想いが魔力を通じて現実になり、空間すら切り裂く事も可能になったのさ。空間そのものを切る事が出来るから、この技の前にはどんな防御も無意味なんだよ。」
「ただなぁ、魔力をすごく食うから連発が出来ないのが難点だけど・・・」
雪がすごく嬉しそうだ。
「凍牙さん、やっぱり凄いです。想いを現実にするなんて・・・、私も魔力持ちですし、ここまで出来るように頑張ります。それと、私を幸せにしてくれる想いも現実にして下さいね。」
冷華が雪の頭を叩く。
「こら!どさくさ紛れにお願いするんじゃないの。凍牙、もちろん私も幸せにしてくれるのでしょうね?」
「お前らなぁ・・・、もうクイーンは目の前なんだぞ。サクラの攻撃をも防ぐヤツなのに、お前達が普段通りなのには驚きだよ。まぁ、変にガチガチになっているよりはマシか・・・」
「ほれ!歓迎の挨拶が飛んできたぞ。」
森の奥から強大な火の玉が飛んできた。
「きゃぁあああ!」「うそぉおおお!」
雪と冷華が慌てている。
「ほい!」
凍牙が手刀を縦に振り下すと、目の前の空間が割れ、その中に火の玉が吸い込まれ空間が閉じた。
2人はへなへなと座り込んでしまった。
「これも次元斬の応用さ。空間を切り裂いて次元の隙間を作り、相手の攻撃魔法などを異次元に放り込んでしまうのさ。」
凍牙がニカッと笑っているが、雪の表情は驚いたままだ。
「凍牙さん、一つ聞きたいんですけど、異次元に送った魔法とかはどうなるんですか?」
「う~ん・・・、考えた事は無かった・・・、多分、次元の狭間に落ちて消滅するか、他の次元に現われるかもしれんな。そこで現われて被害が出ても分からん・・・、考えないようにしよう・・・」
「そうですね・・・」
その頃、蒼太邸の庭では
「よし!アカ様から言われた庭の手入れは終わったわ!さて、休憩してから子供達の相手でもしますかね。」
ミレニアが頑張って仕事をしていた。
「ん!空が急に明るくなって・・・」
ミレニアが上を見上げると、頭上に巨大な火の玉が現われて落ちて来た。
「う、うっそぉおおおおおおお!何であんなデカいファイヤー・ボールが突然現われるのぉおおお!」
そのままミレニアに直撃してしまった。
チュドーーーーーン!!!
「うきゃぁああああああああああああああ!」
「な、何!」「庭で爆音と面白い悲鳴が!」
アクア達が慌ててリビングのテラス窓から庭のウッドデッキまで出てきた。
そこで見た光景は・・・
黒焦げに焼けてしまったミレニアがうつ伏せになって横たわっていた。
アクア:「うわぁ~、何で庭に焼死体が・・・」
マリン:「さっきミレニアお姉ちゃんが『庭に行って仕事してくるね』って言っていたね?」
紅葉:「じゃぁ、アレはミレニアお姉ちゃん?冥福を祈ります。」
「「「合掌・・・」」」
3人が手を合わせて拝んでいた。
焼死体?となったミレニアがピクッと動いた。
「こ、こらぁ・・・、私を勝手に殺すなぁ・・・」
「「「うわっ!生きてる!」」」
3人が恐る恐るウッドデッキから降りて、ミレニアの傍まで移動した。
木の棒を持った紅葉が黒焦げになったミレニアの頭をツンツンしている。
ミレニアが声を絞り出して3人に話し始めた。
「ツンツンしないの・・・、もう少しで復活するから待っててね・・・」
3人がしばらくミレニアを見ていると・・・
黒焦げになった皮膚がパリパリと音を立てて割れ始め、中からいつものミレニアの白い透き通るような肌が見えてきた。ミレニアが動き出すと黒焦げの皮膚がポロポロと剥がれ始め、皮膚の下から元の姿のミレニアの姿が見えてくる。
しばらくすると皮膚には焼けた跡など1つも無く、元の可愛い顔のスタイル抜群なミレニアが仁王立ちで立っていた。
「ふっかぁあああつぅううう!」
しかし・・・
アクア:「いくら私達しかいないといっても、庭の真ん中で堂々と裸で立っているよ。」
マリン:「顔とスタイルと胸が大きいのを自慢したいのかな?やっぱり、吹雪の言っていた事は・・・」
紅葉:「間違いないね。吹雪の言う通り露出狂の痴女だよ。このまま表に出て行ったら大変だよ。」
3人がひそひそと話をしている。
そして・・・
「「「あんな大人にはなりたくないねぇ・・・」」」
「こらぁあああああ!聞こえているわよ!私は露出狂でも痴女でもなぁあああああああい!」
真っ赤になったミレニアが子供達に叫んでいた。
「服も全部燃えてしまったのだから、裸になるのは仕方ないでしょう。アイリスの時みたいに無理矢理に裸にされたんだからね。そこのところを間違えないように!何で私が裸にならなきゃならないの?裸になって読者サービス?、それとも、作者の単なる趣味?今度、裸にされたら・・・、作者めぇ・・・、絶対にセクハラとパワハラで訴えてやる!」
「それにしても、一体、何が何だか分からないわね。いきなり特大のファイヤー・ボールが落ちてくるなんて・・・、不死身の私だからこの程度で済んだけど、あなた達みたいな天使族だと本当に焼死体になるところだったわね。」
いつの間にかララがミレニアの隣に立っていた。
「うわっ!ララ様!いつの間に・・・」
ララがニコッと微笑みながら新しいメイド服をミレニアに差し出した。
「ミレニアさん、大変でしたね。早く着替えないと、本当にみんなから露出狂の痴女って言われますよ。」
ミレニアが慌てて服を受け取り、ドップラー効果を残す程のスピードで家の中へ走っていった。
「その名前だけは勘弁~~~~~!」
話は元の魔の森に戻る。
「よし!クイーンの姿が見えてきた!」
俺達の前にクイーン・スキュラが現われた。1人森の奥で佇んでいる。
20歳前後の感じで、真っ黒な腰まである髪で金色の瞳で俺達を睨んだが、凍牙を見た瞬間、動揺した表情になった。そして凍牙から目を離さずにずっと見つめている。
しばらくしてクイーンの瞳から涙が零れた。
「お父さん・・・、何でここにいるの?まさか会えるなんて・・・」
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