フェンリル族の里⑭
まさか、アイリスのドレイン能力がここまで凄いとは・・・
危うく生命力の全てをアイリスに吸い取られてしまうところだった。
「パパ!ゴメンね!少し戻すから!」
アイリスが再び俺にキスをしてきた。温かいモノが俺の体に流れてくる感じがする。段々と元気が出てきたぞ!
しばらくしてから唇が離れた、アイリスが俺の顔を見て嬉しそうに微笑んでいる。
「えへへ、パパと2回もキスしちゃった。もうこれで大丈夫!ゴメンね。」
体を動かしてみたが、吸い取られる前とそんなに変わっていない。支障は無いようだ。
「アイリス・・・、次はもう無いからな。もう少しで老衰で死ぬところだったぞ。」
「本当にゴメンナサイ!あまりにも嬉しくて抑えるの忘れちゃったから・・・」
サクラがニコニコしながらアイリスの隣に立った。
「アイリス、念願の大人バージョンになれて良かったね。お父さんの顔を見てよ、もうアイリスにゾッコンになっているよ。このまま結婚式を挙げたら?」
アイリスの顔が赤くなった。その表情もすごく可愛い。
「サクラ、そんな急に言われても・・・、それこそサクラの方もどうなの?凍牙お兄ちゃんとサクラが一緒にいたら空気が甘くて周りは大変よ。それに3回もキスしているしね。3回目は凍牙お兄ちゃんの方からキスしてきたじゃない。ラブラブなのは分かるけど、みんなの前だからね、もう少し自重してね。」
今度はサクラの顔が赤くなった。
アイリスとサクラの前にフェンリル族の男達が並んで右手を差し出してきた。
そして一斉に
「「「「「「結婚して下さぁあああああああい!」」」」」
プロポーズをしてきた。
コイツらアホか・・・
このツーショットを前にした時の気持ちは分からんでもないが、それでも急に言うなんておかしいぞ。
「「ごめんなさぁあああい!」」
2人が頭を下げて断っている。そりゃ、そうだろう。
男達が涙を流しながら地面の上で蹲っている。そんなにショックだったのか?
ちょっと待て!何で族長も男連中の中にいる?アイリスは俺と、サクラは凍牙と婚約していると知っているだろう。それだけ2人の魅力に負けたのかもな・・・
アホには変わらないが・・・
凍牙はどうしている?
サクラがいない隙を突いてミヤコが隣で幸せそうに腕を組んでいる。
ミヤコ・・・、良かったな。やっと巡り会う事が出来て・・・
ガーベラは・・・
拗ねてるよ・・・、雪と冷華が慰めているし、一緒にスキュラ族も心配そうに見ている。
お前ら、いつの間にこんなに仲良くなったのだ?
それに、スキュラ族の手には凍牙の応援グッズがいつの間にか握られている。冷華の仕業か?
ヤツらの動きはどうなった?
マップの魔法で確認してみると、もう目の前に来ている。確かに肉眼でも魔獣の姿がちらほらと確認出来るし、空には大量のワイバーンとグリフォンが飛んでいた。
ちょっとバカをし過ぎたな・・・、反省・・・
「凍牙!準備はいいか?」
凍牙がニヤリと笑う。
「すまん、蒼太!ちょっと脱線し過ぎた。すぐに終わらせるさ。」
アイリスが俺の前に出る。
「パパ、私がモタモタしてたから、モンスターがここまで近づいてしまった・・・、だから、私がその穴埋めをするね。」
人差し指を前に向けた。
「ギガ!サンダー・ブレイク!」
上空から何百もの雷が魔獣達に落ちる。飛行モンスターも同じように雷の雨に飲み込まれていった。
「トドメよ!滅ぼせ!ドラゴニア・プロミンス!全てを燃やし尽くせ!」
アイリスの両手から2体の巨大な炎の竜が飛び出し、森の奥に飛び去った。しばらくしてから巨大な爆発が起き、森が静かになる。
サクラがアイリスの隣に立った。
「さすがアイリス、今ので1/3のモンスターが消えたね。私も負けられないわ。」
神器を頭上に掲げると空を埋め尽くすほどの魔方陣が上空に浮かび上がった。
「星々の輝きをその身に受けなさい!スターライトアロー!×10000」
魔方陣全てから魔法が放たれる。尋常ではない量の輝く矢が森に降り注いだ。すぐに視線を森の奥に向け、今度は自分の前に大量の魔方陣を展開した。
「クイーンはあそこね!さっきのメテオのお返しよ!喰らいなさい!アトミック・レイ!×100」
100本もの極太レーザーが森の奥に向かって飛んだ。射線上のモンスターや木々は全て消滅し、1本の真っ直ぐな大きな道が出来上がった。
しかし、サクラが驚いた顔をしている。
「う、嘘・・・、あれだけの数のアトミック・レイを防いだなんて・・・、取り巻きは全て消滅したのに、クイーンだけは無傷・・・」
凍牙がサクラの肩に手を置いた。
「サクラ、気にするな。さすがクイーンだよな。一筋縄ではいかないって分かっていたが、これだけ手強いとは・・・、おかげでやる気が更に出てきたよ。お前のおかげで道が出来たから、行くのは楽になったしな。」
「と、凍牙さん・・・」
サクラが嬉しそうに凍牙を見つめていた。
「サクラ、お前とアイリスのおかげで一気に数が減った。感謝するよ。クイーンの事は凍牙に任せておけ。俺達は、凍牙が無事にクイーンのところにたどり着けるようサポートすればいいさ。分かったな。」
サクラが頷いた。
アイリスの方を向くと目が合う。
「パパ、私は右側の群れの殲滅をするね。」
「アイリス、よく俺が考えていることが分かったな。さすがだよ。ミドリ、クローディア、アイリスのサポートを頼む。まだ、ゴブリン・キングやオーク・キングが残っているから注意してくれ。アイツらの戦闘力は舐めてかかれないからな。」
ミドリとクローディアが頷く。
「サクラ、ガーベラのサテライトをサポートに回すから、左側の殲滅を頼む。大物は俺がカタをつける。」
冷華と雪が俺の前に来る。
「蒼太様、私も参加させて下さい。族長の娘としてではなく、凍牙の妻としてみんなと一緒に戦いたい・・・、お願いします。」
「私は弱いですが、力になりたいです。注意を引くだけでもいいから役に立ちたいです。」
「雪さん、ちょっと・・・」
フローリアが雪を呼び止めた。
「あなたは気付いていませんが、実はすごい才能が隠されているのですよ。私が開花させてあげましょう。」
フローリアが雪の前に立ち手を頭の上に乗せると、雪の全身が薄らと光り輝いた。
「雪さんは直接戦闘よりも遠距離からの戦い方が合っています。そして、あなたにはフェンリル族にしては珍しく魔力が存在していますね。それも大量の魔力をね。夏子さんと同じで、魔法は放てませんが武器に魔力を込めて強化する事が可能です。」
「ですから、雪さんにはコレを授けましょう。」
フローリアの手には立派な装飾が施された金色の弓が握られていた。
「これは神器アルテミスの弓です。私は上手く使えませんが、あなたなら使いこなせると思いますよ。そして、この弓には矢は必要ありません。使用者の魔力が矢になります。そして、想いが力となりますからね。」
雪がフローリアから弓を受け取った。すると弓が輝き雪の左手首に巻き付く。輝きが収まると、手首には見事な装飾の金色のブレスレットが装着されていた。
「あら!いきなり気に入られるなんて凄いですね。長い間アルテミスはマスター不在でしたが、雪さん、これであなたはアルテミスのマスターになりましたよ。」
雪が感動した顔でブレスレットを見つめている。
「フローリア様、分かります。この弓の意志が私に使い方を教えてくれます。弱い私でもみんなの役に立てるなんて・・・」
「雪さん、それは違います。あなたは決して弱くありませんでした。単に力の使い方を間違えていたのと、パートナーと呼べる程の武器がなかっただけですからね。自信を持って堂々として下さい。あなたがもっと強くなればアルテミスも応えてくれますからね。」
「はい!頑張ります!みんなの為にも・・・」
さっきまでオドオドしていた雪の姿はもう無かった。自信に溢れた目でブレスレットを見つめていた。
フローリアの視線が森の方に向いて、ニコッと微笑む。
「雪さん、良いタイミングで敵が現れましたよ。私達にアルテミスの力を見せて下さい。」
森の中から2体のオーク・ジェネラルに率いられた30数匹のオークの群れと、ケルベロスに率いられた10数匹のオストロスの群れが同時に現れた。
雪が頷くと左手と前に掲げる。
「顕現せよ、アルテミス!その力を我と共に!」
その瞬間、ブレスレットが輝き先程の金色の弓が雪の左手に握られていた。光の弦が張られ光り輝く矢が現れる。
弦を引き絞り矢をケルベロスに向けて放った。矢は一瞬のうちにケルベロスの真ん中の頭の額に刺さり、そのまま貫通し絶命させる。目にも止まらぬ速さで次々と矢を放ち、オストロスの群れがあっという間に全滅した。
「すごい・・・、これが神器の力・・・」
「違いますよ。これは雪さんの本当の力です。この神器はあなたの想いを力に変えているだけ。あなたの想いが強いほど強力になります。あなたの大事な人を守りたいと思えば思うほど力を増しますからね。」
「はい!私は凍牙さんを想う気持ちは誰にも負けたくない!この気持ちが私に勇気をくれる。だからアルテミス!私のこの想いに応えて!」
「アロー・レイン!」
雪から放たれた1本の矢が散弾銃の弾のように何十本にも増え、オークの群れに飛んでいく。オーク達は先程のオストロス達がやられたのを見ていたので、咄嗟に木の盾を構えて防御をしていた。
「無駄よ!この矢は光の矢!そんな盾では防げないわよ!」
雪の言った通りに矢は盾を易々と貫通し、全てがオーク達に刺さり、ハリネズミのような姿になって倒れていく。オーク・ジェネラル2体も全身に矢が刺さっていたが、かろうじて生きていた。しかし、トドメの矢が眉間に刺さり、オークの群れもあっという間に全滅してしまった。
す、凄い・・・、雪がここまでの強さだったとは・・・
単なるギャグ担当のイジられ役だと思っていたが、思いっきり化けたな。さすがフローリア、人を見る目は確かだ。これで、サクラ達の凍牙争奪戦も更に熾烈になるのは間違いなしか・・・
凍牙・・・、俺の妻達よりも過激な連中ばかりだ。冥福を祈る・・・
雪の隣に凍牙が嬉しそうに立っていた。雪も嬉しそうだ。
「雪、凄いじゃないか!いきなり神器を使いこなすなんてな。お前の想いの力がこの神器の力になるか・・・、これでお前は立派なフェンリル族の戦士になれたな。俺も嬉しいよ。俺のパートナーとして頑張ってくれよな。」
雪が真っ赤になって俯いてしまった。
冷華がニコニコしながら雪の前に来る。
「雪、珍しいわね。いつもなら『凍牙さぁあああああんんん!』って言って、凍牙に飛び付いているのに。」
雪も冷華に笑顔で応える。
「へへへ、本当はそうしたい。でもね、今は違う思いで胸が一杯なの。凍牙さんと一緒に戦える。隣に立つ資格が出来た事が嬉しいの。私でも戦える力があったんだとね。このアルテミスに感謝しないと・・・」
ちょっと意地悪な表情で冷華が雪に迫った。
「雪、この神器の力が想いだとしたら、私も使えるんじゃない?だって、凍牙に対する想いは私も負けないのよ。いえ、私の方が強いわ!だから、ちょっと貸してちょうだい。私が華麗な必殺技で蹴散らしてあげる。」
「え!でも・・・」
「大丈夫、大丈夫、私がどれだけ凍牙が好きか知っているでしょう。私も認められるに決まっているわよ。だからね、ちょっとだけ、お願い・・・」
雪が不満そうにアルテミスを冷華に渡してみた。
「やったぁあああ!これで私も神器使いよ!」
「えっ!」
ズン!
アルテミスを手にした冷華が崩れ落ち、持っている手が地面にめり込んでしまった。
「な!な!何よ!これぇえええええ!重い!重過ぎるぅううううう!助けてぇえええええ!」
「れ!冷華!」
雪が慌ててアルテミスを持ち上げ、冷華の手を自由にした。
冷華が手をさすりながら雪に詰め寄った。
「雪、何なのこの重さは・・・、よくこんなのを持てるわね?固い地面だったら、今頃、私の手が潰れていたわよ・・・」
雪が不思議そうに自分の手にあるアルテミスを見ている。
「そう?私は全く重さを感じないけど・・・、あまりにも軽いから持っているのも忘れそうになるくらいよ。」
「じゃあ、もう1回持ってみて。」
「ちょ、ちょっと!」
冷華が慌ててアルテミスを両手で受け取った。
ズン!
「ぐえっ!」
蛙が潰れたような声を出して、冷華がアルテミスに押し潰され全身が地面にめり込んでいた・・・
ギャグ担当は雪の分も含めて、冷華が担当する事になったようだ・・・
頑張れ・・・
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