フェンリル族の里⑬
気が付けば100話になっていました。
皆様のおかげです。感謝します。
「凍牙・・・」
俺の目の前には、かつて最強と呼ばれていた頃の20代前半の姿になった凍牙が佇んでいる。
髪はいつもの白髪ではなく金髪だ。
それにしてもイケメンぶりがハンパない。麻痺されて動けないはずのスキュラ族も目をハートにして、キャーキャーと黄色い声を凍牙に送っている。
こいつら敵だったよな・・・、超絶イケメンの前には敵味方関係なしなんだね。イケメンは羨ましいよ・・・
凍牙がすごく嬉しそうだ。
「まさか、こんなに早くこの姿に戻れるとは思わなかったよ。まっ、時間制限はあるけど、サクラに感謝しないとな。」
サクラも嬉しそうに凍牙を見ている。
「サクラ、今度は誰も見ていない時に頼むよ。そして、お前も凄くキレイだ。惚れ直したよ。」
「お兄ちゃん・・・」
凍牙がサクラに微笑むと、サクラが目を潤ませ凍牙を見つめている。
な、何なんだ!この甘い空気は!完全に2人だけの世界が出来上がっている!
おい!顔がどんどん近くなっている!みんなが見ているんだぞ!お互い好きなのは分かっているけど、周りを見るんだ!
フェンリル族の男連中が血の涙を流して悔しがっている。
スキュラ族の何人かがショックで失神していた。
周りの目を無視して2人がキスをする寸前のところで
「凍牙さぁあああああああああんんんんん!」
雪が涙と鼻血を流しながら凍牙に抱きついてきた。
「凍牙さん!あの時の姿に戻ったのですね。昨日の姿も良かったですけど、今のこの姿!最高に素晴らしいです!もう我慢出来ません!今すぐ私の家に行って夫婦の契りを交わしましょう!さぁ!早く!」
ナイス!雪!上手く阻止したぞ。親としても娘が目の前でキスをしている光景は何度も見たくない。
雪がとてつもなく興奮していたが、突然硬直しヘナヘナと崩れ落ちてしまった。その後ろに目が血走り鼻血を流してスタンガンを持っている冷華がいた。
しかも、いつもの振袖姿でなく白無垢の姿だ。いつの間に着替えた?
「雪!落ち着きなさい!私が先に結婚式を挙げて契りを交わすのよ。さぁ!早く私の家に!」
冷華・・・、お前が一番落ち着いた方が良いと思う。かなりの美人のお前が色んな意味で残念な状態になっている。
それに、お前の装備は一体どうなっているんだ?袖の中は青いネコ型ロボットのポケットみたいだし、スタンガンなんてこの世界にあるのがおかしい?しまいにはバズーカーやマシンガンも出てきそうだ・・・
「冷華お姉さん、ちょっと落ち着いて。サンダー!」
「うぎゃぁあああああああ!」
サクラが雷の魔法を冷華に放ち黒焦げになった。ピクピクしているから生きているみたいだな。あの娘の事だ、しばらくすれば何事も無いように復活しているだろう。
スキュラ族の集団の中から1人が立ち上がり、フラフラとした足取りで真っすぐ凍牙の方に向かっていく。ミヤコだ。
しかし、何か様子がおかしい・・・、まるで夢遊病のように目の焦点が合っていないが、何故か涙を流している。
「凍牙・・・、私の愛しい子・・・、そして、その姿・・・、絶対に忘れない最愛のあなた・・・」
そのまま凍牙の胸に飛び込み、静かに泣いている。
「やっと・・・、やっと会えた・・・、もう2度と離れない・・・」
凍牙はミヤコを優しく抱きしめていた。サクラは嬉しそうに隣で2人を見ている。
「春菜、まさかと思うが、あのミヤコってミヤビの生まれ変わりなのか?」
嬉しそうな顔で春菜が2人を見ている。
「そうです。私は女神になって前世を見る事が出来るようになりました。サクラも同じ能力を持っていますのよ。だから意外と嫉妬深いサクラもあのように微笑んで2人を祝福しているのでしょうね。彼女は生まれ変わって記憶は失いましたが、想いは失っていなかったのですね。それだけ愛が深かったのでしょう。そして、凍牙さんも過去の凍牙さんの生まれ変わりです。名前も同じなんてビックリですけどね。」
「そうか・・・、そして、凍牙があの姿になる事によって、ミヤビの想いが呼び戻された訳か。」
「その通りです。」
「でもなぁ、今のミヤコはかつての冷牙と凍牙の想いがごっちゃ混ぜになってしまっているな。」
「いいじゃないですか、そんな細かい事を気にしてたらダメですよ。気の遠くなるような時を経て再び巡り合った2人なんですから、ここは素直に祝福しないといけません。今は夫婦でも親子でもないんですから、これから新しい2人の愛を育めばいいのですからね。」
「そうだな、春菜の言う通りだ。しかし、お前の恋愛予知能力はスゴイ。出発前の事も当たっていたしな。そうなると、クイーンも凍牙と関係があるのかな?」
春菜が悪戯っぽく笑った。
「ふふふ、『それは秘密です』と言いたかったのですが、さすがあなたです。もう分かっているみたいですね。クイーンがどんな風にハッピーエンドになるか楽しみに見ていましょう。」
キョウカが俺と春菜に向かって頭を下げた。
「蒼太様、春菜様、申し訳ありません。お2人のお話を聞いてしまいました。まさか、姉さんがご先祖様のミヤビ様の生まれ変わりとは・・・、私も姉さんの事は応援します。しかし、私は何も力がありません・・・、こうしてお願いする事しか出来ませんが、この無意味な争いは一刻も早く終わらせて下さい。お願いします!そして、クイーンも幸せにして下さい。」
俺は春菜と一緒に微笑む。
「もちろんだよ。その為に俺達は来たからな。必ず、みんなが笑っているような終わりにするよ。約束する。」
族長も氷河も頭を下げる。
「蒼太、いや、蒼太殿!ワシからも頼む。氷河達の子供が幸せになる未来を頼む。」
「任せな!凍牙のところを見てみろ。ご先祖様はハッピーエンドになれなかったが、今は幸せそうにしているんだ。その幸せを守るのが俺達の戦いだよ。クイーンも含めてみんな幸せにしてやるさ。」
ミヤコが泣き止み、しばらく凍牙の胸の中で幸せそうにしていたが、突然、我に返り真っ赤になって離れた。
「わ、私、一体どうしたの?何であなたの胸の中に・・・、それに、あなたとずっと一緒にいたい・・・、離れたくない・・・」
「こんな気持ち、今まで無かった。キョウカ・・・、もしかして・・・」
キョウカがニコッと微笑んだ。
「そうよ姉さん、これが私の氷河に対する気持ちです。姉さんも同じ気持ちになりましたね。詳しい事はこの戦いが終わってからお話しましょう。きっと驚くと思いますよ。」
サクラがそっと凍牙の隣に寄り添う。
「お兄ちゃん、いえ、今は凍牙さんと呼ばせてね。昨日の話を聞かなかったらミヤコさんやクイーンの前世が分かっても、彼女達の悲しいい過去が分からなかったと思う。ミヤコさんは凍牙さんに会う為に運命に導かれここに来たんだと思う。ミヤビさんの想いを叶えに・・・、神族には運命は分からないと言われているけど、今、こうして出会えた事は運命としか思えないよ。そして、クイーンもね。」
「だから、あの2人はお嫁にしても良いと思う。だって、あれだけ長い間悲しみに捕えられていたから幸せにならないと。2人にとっての幸せは凍牙さんと一緒に暮らす事だからね。」
「分かったよ。クイーンの事は俺が何とかする。この体でいられるもの時間制限があるからな。多分、この体でないと解決しないと思うよ。」
「ボチボチとやつらの気配がかなり近くなってきたしな。それじゃ仕上げに行くか!お前からもらったこの力で暴れてくるよ。」
「そうよ。今の凍牙さんはスーパーフェンリル族2の状態だからね、完全に無双状態だよ。」
「それと・・・、もう一回ね。」
サクラが凍牙にキスをした。唇を離しお互いに見つめ合う。今度は凍牙の方からキスをした。
「サクラ、愛してる。」
「凍牙さん、私も大好き。」
ダメだぁ~、こいつら2人の世界に入るのが当たり前になっている。元に戻ってもこんな状態になるのか?
「さて、破壊神と並んで『白い悪魔』と呼ばれたこの力を見せてやるぜ!今は『金色の悪魔』かな?」
ガーベラが、雪が、冷華が血の涙を流して2人を見ていた。
「お兄ちゃん、サクラ・・・、今のあの2人の前では私はお邪魔虫・・・、大人になりたい・・・」
「さすがにあの空気の前では突貫は出来ない・・・、必ず凍牙さんの唇を奪うわ・・・」
「私の方がずっと昔から好きだったのに・・・、何よ、この敗北感は・・・、必ず私の方にも振り向かせるわよ・・・」
冷華が予想通りいつの間にか復活しているよ。
それにしても、この3人はいつの間にこれだけ仲良くなったのだ?雪と冷華はこれから我が家で同居する事になるから仲が良いのは助かる。
そうだ!この3人なら凍牙とサクラの過剰なイチャイチャを阻止できるかもしれん。頼むぞ!
でもなぁ・・・、毎日が凍牙争奪戦になると弱るな。俺の嫁軍団よりもアグレッシブな連中が多いし、毎日が戦争になるかもしれん。スキュラ族の2人の事もあるし、この戦いが終わってから一度ちゃんとしたルールを作っておかないとな。
「凍牙!残り20万だ!行くか!」
凍牙が頷く。
「パパ!ちょっと待って!」
アイリスが俺を呼び止め抱きついてきた。
「アイリス、どうした?」
何故かアイリスの顔が真っ赤になっている。一体何があったのだ?
「パパ・・・、私にキスして欲しいの・・・」
「・・・」
はぁああああああああああああああああああああ!
「アイリス・・・、こんな時に何を言っているんだ?お父さん、本気で怒るぞ・・・」
アイリスが真っ赤な顔から真っ青な顔になったが、表情は真面目だ。一体、何をしたいのだ?
「パパ!違うの!ちゃんと聞いて!」
「私、女神に目覚めた時に加護を与えるだけでなくて、相手の生命力を吸い取る事が出来るのに気が付いたの。吸い取った生命力を自分の力に変えられるの・・・、パパの生命力はとんでもない量だから、多少多めに吸い取っても大丈夫だと思うの。」
「今の春菜ママ達の力を、凍牙お兄ちゃんの本当の力を見て思った・・・、私はまだまだ弱いって・・・、私はもっと強くなりたい!パパと一緒に戦いたいの!」
「だから、お願い・・・、私に力を貸して・・・」
アイリスが涙を流しながら懇願している。こんな真摯なアイリスは滅多に見ないな。
負けたよ・・・
「分かったよ。今回だけだからな。帰ったら春菜達と一緒に訓練だぞ。」
アイリスがとても嬉しそうに微笑んでから、目を閉じ唇を近づけてきた。
スキンシップのキスはいつもしているが、こうやってちゃんとしたキスは初めてだな。それにみんなが見ている前でのキスなんて・・・、8歳の娘にキスだぞ!事情を知らない人が見ると犯罪者として通報されるよ。
アイリスと唇を重ねる。アイリスの目から涙が流れ、俺を抱く力が強くなった。
その瞬間・・・、何だ!この感覚は!『ズキューン!』とした感じで急速に力が吸い取られるのが分かる。これがドレイン能力!
アイリスが白く輝き、真っ白な女神の鎧を装着してみるみる体が成長していく。
俺の目の前で大人になったアイリスが微笑んでいる。
真っ黒なセミロングの少しウエーブのかかった髪と黒い瞳は変わらないが、可愛い顔はフローリアに匹敵する程に美しくなり、スタイルもクローディアと同じくらいの抜群のプロポーションだ。
この場にいたフェンリル族の男達全てがアイリスに見とれている。族長も氷河もだ。氷河はすぐにキョウカに殴られたけど・・・
美しい顔だけど微笑むと春菜みたいな可愛らしさも感じる。まさに、フローリア、春菜、クローディアの良い部分が集まった感じで、俺も見とれてしまうほどにアイリスは美しい女性になっていた。
だが!
「パパぁああああああ!ごめんなさい!ちょっと吸い取り過ぎたぁああああああ!」
アイリスが慌てている。
そりゃそうだ、今の俺は転生前のような爺さんの姿になってしまったからな。
アイリス・・・、やり過ぎ・・・
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