痛み
森の中は、原生林という言葉が頭に浮かぶ様子で、地面には木漏れ日を頼りにした草と藻が鬱蒼としていた。
勿論整地はされておらず、木の根が張り巡らされていた少し歩きにくい。
俺はこの空気と、踏みしめる大地の感覚が何だか懐かしく、テンションが上がっていた。
「なあ、目的地までどれくらいかかるんだ?」
肩の上でのんびり欠伸をしているアカに尋ねる
「ふん、なんだもう飽きたのか?あと1時間はあるかないと着かないぞ」
「いや、聞いてみただけ。ちょっと楽しくなってきたわ」
途中いい感じの棒を見つけたので、それを振り回しながら鼻歌を歌って歩を進める
「街に着いたらまず何をしよっかなぁ。。。宿決めて。。。武器もみたいな。。。そーいえば俺はこの世界の人と会話はできるのか?」
ふいに気になったので聞いてみる。
「俺は案内役を言いつけられただけだ。細かいところは知らん」
アカは眠たそうな顔で告げる
「んじゃサルエルに聞くわ。いるんだろ?」
そう聞いてもアカの色が変化することはなかった。
「サルエル様は今客人の対応をしておられる。貴様をこの世界に送った件でな」
「ふーん。やっぱり例外なのか?」
「転生を悪魔が行うなぞ聞いたことがない。そもそも人間を創るのは神なのだから、当然だがな」
そんなもんかーと思いながら着々と歩く。
すると30分程度歩いたあたりでアカが「にゃぁ」と鳴いたので見ると、色が黒く変化していた。
「サルエルか?長かったな」
「いやー質問責めにあって大変だったよ。少々面倒なことになってしまったしね」
「面倒?何があった」
「大したことじゃないさ。それより私を呼んだ理由はなんだい?もしかして寂しかったのかな?」
話を反らされたことに多少不満はあったが、まあいいかと思い言語に関する質問をした。
「ああ!それならば問題はないよ!女神が君に言語をインストールしていたみたいだからね!なんとどの種族とも会話できる優れものさ!」
そうか。それを聞いて安心した。しかもどの種族ともって、もしかして竜とかとも会話できるのか?ドラゴンライダーになれるかもしてないのか?
「それだけかい?では私はまた席を外すよ。私が居ない間にあまり面白いことはしないでおいてくれよ?」
忙しくなったのだろうか?ざまあみろ。そしてついでに
「お前が喜ぶことをやる気はないぞ」
と釘をさす。
黒猫は笑みを浮かべると、その体色が赤く変化していった。
すっかり色が戻ると、アカは少し伸びをし、また肩の上で丸くなって寝始めた。
更に冒険の可能性が広がったことに満足し、少し歩調を早めて進む。
さらに歩くこと20分程で、50m程先に動く影を見つけた。そこから木陰に身を隠しながら慎重に近づくと、その影が緑色の体表をもつ、醜態な表情を浮かべた小人であることがわかった。
「うわぁーあれ絶対ゴブリンだろ」
「そうだな。比較的弱い奴等だ。魔法の練習にはうってつけじゃないか?」
いつの間にか目を覚ましていたアカは怠そうにしながらゴブリンを見ている。
いやでも戦いたくないな。なんか向こうは木のこん棒みたいなのもってるし。それに3体いるから数的不利だ。
「アカ。お前手伝ってくれたりするの?」
「サルエル様から力を授かっておきながら、私に助力を求めるとはおこがましいのではないか?」
どうやら助ける気は全くないらしい。
「おっけー。なら戦うのはなしだ。バレないようにやり過ごす」
そう告げてゴブリンがいる場所を迂回する。ゴブリンから目を離さずに。音をたてないように。
「ぐっっ!」
ふいに右肩に鋭い痛みが走った。そこには矢が一本刺さっている
「。。。は?」
直後に後ろからギャッギャッギャ!と笑う声が聞こえた。振り向くと10mほど後ろに弓を持ったゴブリンと目が合う
そこで初めて理解した
俺は弓で射ぬかれたのだと。
襲いかかる恐怖と、激しい肩の痛みで立ってられなくなり、木にもたれながら膝をついてしまう。
顔をあげるとにやけ顔を晒したゴブリンがそこにいた。