旅立ち
「冗談って訳じゃない。。よな?」
体に力が入る。
「まあ聞け。何も闇雲に奪おうと言っているのではない。使った魔法に見合った分の寿命をいただくというだけの話だ。使わなければ何もせん。私の魔法を貸し与えるのだ。正当な報酬と思うが?
加えて魔法を使うほど老いるということもない。"後ろ"から取っていく。」
聞いて感じたことは、俺はこいつにとって"おもちゃ"なのだなということだった。
こんな契約を要求する理由が、「面白くなりそうだから」以外に思い付かない。
「魔法に見合うだけの魂とは?」
「消費魔力に見合うだけの魂だ。消費魔力はそちらに伝えよう。
魔力と魂のレートは"私がお前の魂にどれだけ価値を感じるか"に依って変わる。こちらも常に追跡できるようにする。なに、魔法使用直前に突然レートを下げたりなぞせんよ。」
「お前にとって魂の価値の基準は?」
「それは自分の魂を買い叩かれないようにするために、お前が考えるべきところだ。」
ふむ。
「転生先の世界は魔法を使わないと生きていけないのか?」
「お前が転生する世界は。。。魔法のようなものを使うのは生命の4割程度だな。6割は魔法無しで生きているということだ。」
だいたい聞くべきことは聞いたか?ああ、これも聞かなくてはな。
「契約を断ったらどうなる」
「また別のあてを求めてさ迷うことになるだろうな。」
地獄の危険については、情報が少な過ぎて判断することができない。それについて聞こうとしたとき、
「さて、そろそろ決めてもらおうか」
そうサルエルは告げた。
そう易々と全てを教えてくれるはずもないか。心の中でも舌打ちをしながら、思考にふける。
「ケケッ!俺は転生がいいと思うゾ!」
「私もそう思う。ジンお前話がわかる奴だな」
なんか盛り上がってる。うるさい。
しかし、契約は問題ないと感じていた。見落としはあるかもしれないが、すぐに寿命を奪われて終わるということは無いと思う。
それはサルエルの"面白さを求めて契約する"という意思を感じたからだ。ただ奪ってお仕舞いではつまらないだろう。
また、魔法というものを使ってみたいという気持ちがあることを認めざるを得ないという状況もあった。
「わかった。契約しよう」
「カカッ!やったナ!」
「おお!よく判断した!さあ早速契約しよう!」
そうしてサルエルが手をかざすと、俺を中心に魔方陣が広がった。
足元の輝く魔方陣に目を奪われているとサルエルに話しかけられる。
「さて、契約に際してお前の名を定めよ。これが無いと話にならん」
名前?どうするか。。。
「そうだな。。。レイブンってのはどうだ?なんだか前世の俺はこの名前に憧れてた気がする」
サルエルは笑うと
「ずいぶん気取った名前を選んだものだ!いいだろう。
ではレイブンよ!サルエルの名のもとに汝と契約を紡ぐ!」
そう叫ぶと魔方陣が輝きを増し、突然左胸に焼けるような痛みが走った。そして目の前が光に包まれて何も見えなくなり、俺は意識を失った。