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夏色のキミと、冬色のボク  作者: トウミ
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最終話 二人の星、二人の世界

「ありがとう、久野さん。全部思い出したよ。僕は、君を助けた後、そこで死んだんだね」


莉那から真実を聞き、浩太は自分の最期を思い出していた。

浩太の確認に、莉那は静かに頷いた。


「でも、久野さんもこうしてここにいるってことは、僕の行動は無意味だったのかな?」


「ううん、そんなことない! 浩太のおかげで、わたしはわたしがいた証明を、残すことができたんだから。だからそんなこと言わないで!」


浩太の言葉を一生懸命否定する莉那。そんな莉那に、浩太は少し驚いた。


「どういうこと?」


「あの後、浩太に助けられた後、煙を吸いすぎたんだろうね、少し脳に障害が出て。だけどね、臓器はいくつか無事だったんだ」


「もしかして……」


「うん、前から臓器提供の意思表示はしていて。脳死判定を受けたら安楽死にしてほしいってちゃんと伝えてあったから」


そう言うと、莉那はにこっと微笑んだ。


「すごいね、久野さんは」


「そんなことないよ。臓器提供できたのも、浩太がわたしを助けてくれたからだよ。あのままあの火事の中にいたら、それもできなかった。わたしは何も残せなかった。だから、浩太にはすごく感謝してるんだ」


莉那の話を聞き、浩太はもう何も言えなかった。彼女はお嬢様みたいに見えたけど、とても強い人間だった。


「そういえば、どうやって助けたのが僕だって知ったの?」


「それは、うちの両親がわたしに話しかけていたから。命を助けてくれたのが隣りに住んでる浅井くんだって。それを覚えてたみたい」


「そうだったんだ」


「うん、だからね、その……」


突然、言葉を濁す莉那。頬を赤く染めながら俯いた。


「どうしたの?」


「ううん、大丈夫。わたしはね、火事の中を命の危険を顧みずに助けに来てくれた、そんなかっこいい人に会ってみたいって。そして、わたしはその人のことが大好きになったよ。浩太、あなたのことが。だから、もし嫌じゃなかったら、下の名前で呼んでほしいなって」


莉那は、照れながらもはっきりと自分の想いを浩太に伝えた。

浩太は莉那の言葉に驚きながらも、意を決した。


「ありがとう、そう言って貰えて嬉しいよ。というか、僕も直接会ったのは、この世界になってからだから、だから、一目惚れに近いのかもしれないけど、僕なんかでよければ、下の名前で呼ぶね。僕も、好きだよ莉那」


「“なんか”じゃないよ。浩太“だから”だよ。でもそうか、浩太もわたしのこと好きなんだ。嬉しいな」


二人はどちらからともなく笑い合った。温かな時間が二人に流れる。

ふと、二人のいる世界の端が白く光り始めた。


「あれは、なんだろう? 光?」


「あれは、たぶんこの世界の終わりなんだと思う」


「そうか、僕がこの世界にいる理由を思い出したのと……」


「わたしがこの世界でやりたかったことが叶ったから」


浩太は少し考え、莉那に伝えた。


「莉那、少し目を瞑って」


「え? うん」


莉那は少しドキドキしながら目を瞑る。

二人の間に数秒、沈黙が流れた。


「よし。莉那、ゆっくり目を開けて。そして、空を見てみて」


「空? うん」


莉那はゆっくりと目を開け、言われた通り空を見た。そこには……、


「わぁー! すごいすごい! 星がいっぱい!」


そこには、見たことがない量の星が輝いていた。


「莉那の作る夏の世界と、僕の作る冬の世界。それを二つとも出せるんじゃないかって考えて。良かった、できたみたいだね。ほら、あそことあそこ!」


浩太は空に向けて指を向ける。莉那はそれを辿った。


「あっ! アンタレスとベテルギウス!」


そこには赤く大きく光る、二つの星が輝いていた。


「季節が違うと見える星が違ったり、星の位置が違ったりする。だけど星はずっとそこにある。いつしか最後を迎えて大爆発を起こすんだけど、その爆発で新しい星が生まれたりもする。人間も同じなんじゃないかなって。時間が違えばいる場所も違うけど、確かにそこにいる。出会って、手を取り合って関係を作る。僕たちはもう生きてはいないけど、それでもまたどこかで会えるような、そんな気がするんだ」


「浩太らしい意見だね。でも、わたしもそうだと思う。生まれ変わっても、わたしは浩太と会える。ううん、絶対会うからね」


「うん、僕も同じだよ。生まれ変わっても莉那に会う」


気がつくと、先ほどまで世界の端で光っていた白はすぐそこまで迫っていた。

二人は寄り添う。そして、光に包まれる中、浩太と莉那はお互いの唇を重ね合った。


光が無くなると、空には、新しい白くて強く光る星が二つ、寄り添うように輝いていた。









――ある冬の日、夜。


大学一年生の少女が一人、ある公園の広場へと向かうと、そこには一人の少年がいた。

少女はなぜか、その少年が気になり声をかけた。


「こんばんは。えっと、そこで何をしてるの?」


少年は突然話しかけられたことに驚きながらも、使っていた道具を見せながら少女に答えた。


「この天体望遠鏡で星を見てたんだ。いつでも、どんな季節でも、並んで輝いて見える二つの星を――」






『夏色のキミと、冬色のボク』完

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