第二話 アンタレスとベテルギウス
『まだ、……さんが、……!!』
『僕が………ます!』
またこの夢か。浩太はそう思いつつ、真っ白い景色の方へと走っていく。
そこで、この夢は終わった。
あの日、初めて彼女と話して彼女の名前を知った日から、浩太と莉那は毎日のように深夜に星空を眺めていた。
「たぶん、あの辺りに赤い星があると思うんだけど……」
「うん、あるよ。あれがアンタレス?」
「そうそう。さそり座の心臓部分なんだよ。アンタレスは赤色超巨星って言って、星の一生の最後に近づいてる星なんだ。だから、もしかしたら何年かしたら見れなくなっちゃうかもしれないんだよ」
「星の最後、か。なんだか寂しいね」
浩太はそっと莉那の横顔を覗いた。なんだか少し悲しそうな表情を浮かべていた。
「ねぇねぇ、浩太。浩太の見てる冬の星空はどんな感じ?」
「えっ! あぁ、うん、ちょっと待ってて」
浩太が横顔を見てるのを知ってか知らずか、莉那は浩太に尋ねる。
浩太は慌てて、持っていたリュックの中を漁ると、アルバムを取り出して莉那に見せた。
「こんな感じなんだ」
「あ、わたしでもこの星座は知ってるよ! オリオン座だよね?」
「うん。オリオン座を作ってる左上の星、ベテルギウスもアンタレスと同じ赤色超巨星で、もうすぐなくなっちゃうかもしれないんだ。いや、今見えてるベテルギウスは640年前の光だから、実際にはもうないのかもだけど」
「そうなんだ……。アンタレスとベテルギウス、なんだか私たちみたいね……」
「え?」
「ううん、なんでもないの。こんなに明るいのに、もうないかもしれないんなんて、少し悲しいなって」
慌てて否定する莉那は、今度ははっきりと悲しそうな表情を見せた。
「うん、そうだね。でも、これだけ明るくて、多くの人に名前を憶えてもらえるくらい有名な星たちだから、きっとなくなってもずっと語り継がれるんじゃないかな? 僕もそういう人間になりたいって思うよ」
「なれるよ、浩太なら。うん、浩太ならなれる。わたしが保証するよ」
「そうかな? あはは、そうだといいんだけど」
莉那がいつになく自信満々に話し、浩太は少し戸惑いながらも、照れくさく答えた。
浩太は気持ちを落ち着かせるため、ふと腕時計に目をやる。時刻は午前1時半を指していた。
「もうこんな時間か」
「今日もあっという間だね。ねぇ、浩太、明日も来れる?」
「もちろん!」
浩太は元気に答えた。
莉那はそんな浩太の返事を聞き、笑顔で頷いたのだった。
二人はいつものように明日の再会を約束し、それぞれ帰路についた。
しかし……
次の日。
「あっ……」
浩太は目を覚ますと、部屋のカーテンを開けて、思わず声を漏らした。
外は、朝にしてはすごく薄暗い。厚い雲が空を覆っていた。
大粒の雨が降り注いでいたのだった。