序章 出会い
「お先に失礼します!」
「お疲れ様! 夜遅いから気をつけてね!」
どこにでもいるような黒髪の大学一年生の少年は、バイト先のレンタルビデオ店の先輩に挨拶をすると、先輩から挨拶を返され、軽くお辞儀をして店を後にした。
時刻は23時。夜空には多くの星が輝いている。
12月ということもありマフラーと手袋を身に着け、少年は自転車に乗ると、そのまま近所の学生寮まで一度走らせた。
204号室、“浅井”と書かれた表札の部屋に入ると、少年、浅井浩太は、天体望遠鏡とカメラを持ち再び自転車に乗った。
目的地は、いつもと同じ。学生寮から自転車で20分ほどの所にある、少し高台にある公園の芝生だけの広場だった。
浩太は毎日、夜中にここで星を見るのが日課だった。
「よしっと」
慣れた手つきで持ってきた天体望遠鏡をセットし、いつものように南の空へと向ける。
この季節は、シリウス、ベテルギウス、プロキオンの冬の大三角を見つけ、そこからいろいろな星座を見るのが好きだった。
(今日の星空も写真に収めよう)
浩太がそう思った、その時だった。
後ろの方から“何か”の気配を感じた。
こんな時間に? 浩太でなくても誰もが思うだろう。いつもこの時間に公園にいるのは、浩太か、いても公園に住み着いた野良猫くらいだからだ。
浩太は、恐る恐る、振り向いた。
すると、そこには一人の少女がいた。
少女は最初、後姿を見せていたが、浩太の視線に気づいたのか、こちらに振り向く。
浩太は、そんな少女に目を奪われた。
透き通る白い肌に、すらっと伸びた長い手足。腰までありそうな長い黒髪も美しい。
星明りに照らされた少女が綺麗だったからというのもあるが、それ以上に、少女の服装が浩太の思考を停止させた。
真っ白なワンピースに麦わら帽子という、今の季節とは真逆の格好をしていたからだ。
普段、星空ばかり撮影している浩太は、おそらく初めて、カメラを人へと、彼女の方へと向けた。
そんな浩太の行動に気がついたのか、彼女はニコッと微笑んでみせる。
浩太が少し緊張しながら、カメラを覗くと……
「あ、あれ?」
しかし、カメラを覗くと、すぐそこにいたはずの彼女はいなくなっていた。
慌てて、浩太が辺りをきょろきょろすると、いつのまに移動したのか、彼女は公園の出入り口の方へと歩いていた。
「あんな所に。でも歩いているってことは、幽霊じゃないみたいだな。でも、あの服装で寒くないのか? まぁいいか」
浩太は、公園を出ていく少女をしばらく眺めると、また星空へと視線を移したのだった。
12月。季節は冬。
これが浩太と、彼女の初めての出会いだった。
みなさんこんにちは、作者のトウミです。
約1か月ぶりですね。
前作はバトルものを書いていましたが、今回は恋愛ものです。
新しいジャンルにチャレンジです。
今作も完結まで頑張ります!