【第71話:驚くのにも慣れてきた】
リリーにルルー、リルラたち仲間の視線がオレに集まっている。
そして……ゼシカ様と王様の視線が痛い……。
「あ~サインよ。確認するが、その者の左手の甲には『竜の紋章』と呼ばれる紋章がついているのだな?」
オレを見つめる王様の目が若干ジト目になりつつも、デリアベル公爵にそう尋ねる。
「あぁ! そうなんだ! 左手の甲に竜をモチーフにしたような紋章があるそうなんだ!」
デリアベル公爵は少し興奮しつつも懐から何かの紙を取り出すと、その紙を広げて王様に向けて掲げる。
「このような紋章らしい! 神託を受けた巫女がその時見たものを模写して魔法郵便に添えてくれたのだ! だからこのような茶番の式典をしている場合じゃない! 早急にこの紋章を持つ者を探し出さなければいけないのだ!」
すると、王様はデリアベル公爵の叫びに溜息を付きつつもその問いかけにこたえる。
「そうか……凄い偶然なのじゃがな……サイン……儂はその紋章を持った者に心当たりがあるのだが?」
その王様の言葉に静まり返っていた会場がどよめく。
「な、なんと!? 本当か!? 兄上!!」
「あぁ本当じゃ。と言うか……そこにおる」
そう言ってオレを指さすアレン王……。
「な、何をこんな時にふざけた冗談を……」
ギギギと音が聞こえそうなぎこちなさでこちらを振り返るデリアベル公爵。
そしてオレに集まる会場中の視線……。
「はぁ~……冗談ではない。コウガよ。左手の甲を見せてみよ」
見せなければダメだろうか……? ダメなんだろうな……。
「えっと……はい……」
そう言ってオレは、ジルとの契約時に現れた紋章が皆に見えるように左手をあげる。
その手の甲には、デリアベル公爵が手に持っている紙に描かれた紋章と瓜二つの紋章が浮かび上がっていた。
「うわぁ♪コウガ様は女神様の使徒だったのですね!」
リルラが物凄くキラキラした目でオレを見つめている。
転生時の女神様の言葉で「後に勇者が現れたら少しは手助けしてあげなさい」とか言ってたのは覚えているので、勇者が現れたら軽く手伝うくらいのつもりではいた。
手伝うつもりではいたのだが……使徒とかまったくの初耳なんだが!
「えっと……使徒かどうかはわかりませんが、同じ紋章のようですね……ははは……」
オレは乾いた笑いを浮かべてそうこたえるのがやっとだった。
~
それから式典は驚く程スムーズに進行した。
それはそうだろう。先頭きって反対していたデリアベル公爵が賛成も賛成、大賛成にまわったのだから。
「コウガ殿! 私はコウガ殿を全面的にバックアップするからな! どんな些細な事でも遠慮せずに相談してくれたまえ!」
さっきまでどこの馬の骨だと罵っていた記憶はないらしい。
「はぁ……ありがとうございます」
オレ達は式典での『月下の騎士』の授与や報奨金の受け取りが終わり、今はパーティーの場で質問攻めにあっていた。
そこへ遅れてとある人物が会場に入ってくる。
「おぉ~おったおった。仕事が片付かなくてのぅ。無事に授与式は終わったようじゃな」
そう言って入ってきたのはこの国の冒険者ギルドトップ、グランドギルドマスターのネギさんだった。
「無事かどうかはわかりませんが、式は終わりましたね……」
「なんじゃ? 何かあったのか?」
オレが苦笑いを浮かべながらそう答えたので、ギルドマスターがどうしたのかと聞いてくる。
しかし、オレがその質問に答える前にデリアベル公爵が横から嬉しそうにこたえていく。
~
「何とまぁ。それじゃぁこれから忙しくなりそうじゃのぅ」
「えっと……使徒って何か使命とかやらないといけない事とかあるのですか?」
勇者は「魔王を倒す」と言う使命を課せられるが、使徒には勇者のような使命があるとかは聞いた事がない。
「とりあえずは何かが起こった時の為に備えて鍛えるぐらいだな。使徒は直接女神様から神託を授かるはずだから、神託が下った時の為に力を蓄え、あとは自身の信じるままに行動すればよいはずだ」
オレの疑問にはデリアベル公爵がこたえてくれた。
最初の剣呑な雰囲気はどこへ行ったのかというほどの満面の笑みをたたえており、ご機嫌でオレの側を離れようとしない。
男にくっつかれて喜ぶ趣味はないので程々にして欲しいのだが、公爵様にそのような事を言える訳もなく式典が終わるまでは我慢する事にしていた。
「それなら何か神託がくだるか勇者が現れるまでは自由に出来そうですね。そう言えばギルドマスター。S級の試験用の依頼は決まりました?」
オレがそう尋ねると、ギルドマスターは表情を少し真剣なものへと変える。
「あぁ。それならもう決まっておるぞ。少し早いがここで伝えておくか」
「お。もう決まっているんですね。リルラ! ちょっと来てくれ!」
パーティーの他のメンバーは王様たちの所でビアンカと歓談していたので、声をあげてリルラにこちらに来てもらう。
「コウガ様! どうされたのですか?」
リルラがオレに呼ばれて嬉しそうに走ってきてそう尋ねる。
「S級冒険者の試験に使う依頼が決まったそうなので一緒に話を聞こう」
「もう決まったのですね……にゃ」
「ジルは私たちに任せて……にゃ」
リルラと一緒に他のメンバーやジル、王様とゼシカ様もぞろぞろとついてきていた。
ちなみに今日もジルはそばに控えているんだが、絶対に隠蔽を解かないように徹底してもらっているので誰もその存在を気にしていない。
「ほう。もうS級への試験を受けるのか」
「あなた達といると驚くのにも慣れてきたわ。もうS級の試験を受けるのね」
王様とビアンカも興味津々といった様子だ。
「これはアレン様。ご無沙汰しております」
「良い。それよりコウガのS級の試験とはどのようなものになるのだ?」
王様はギルドマスターに堅苦しいのは無用だと言い、続きを促す。
「まずリルラリルスには、深き森の『静寂の丘』に最近住み着いた『トロール』達の討伐に向かって貰う。そしてコウガには、深き森にある迷宮『欺瞞の迷宮』に現れたイレギュラー『ドラゴンゾンビ』の討伐をもってS級冒険者への試験とする」




