【第6話:倒すぐらいなら……】
飛び起きたオレは、手元に置いてあった槍を掴むと狩りの時のように辺りの気配を探る。
「たぶんゴブリンです! この辺りの街道沿いはほとんど魔物は出ないと聞いていたのですが……」
事実滅多にない事なのだろう。
テリオスさんもかなり慌てており、荷台から慌ててショートソードを取ってきて、慣れぬ手つきで装備していた。
ちなみにゴブリンとは身長130cmほどの緑色の皮膚を持った人型の魔物で、粗末ながらも武器を持ち、集団となると低ランクの冒険者では返り討ちにあう事もある。厄介な魔物だ。
「私もこの街道なら、冒険者の護衛を付けなくても安全だと聞いていたんですが……ついてないですね」
「南から来ます! ゴブリン数匹なら僕一人でも大丈夫だから、そこで待っていてください!」
そう言ってオレは、浅い森になっている方に走っていく。
後ろで「ちょっと!? コウガ君、待ってください!」とか叫んでいるが、問題ないからさっさと片づけてしまおう。
「出てきたな。1、2、3……全部で7匹か」
ゴブリン7匹か、やはり問題ないだろう。
「ギャギャギャ!!」
しかし、オレが油断しているとゴブリンの中にゴブリンアーチャーが混じっていたようで、弓を射かけてきた。
「あぶねっ!?」
オレは槍で巻き取るように矢をはじくと、そのまま先頭のゴブリンに一気に近づき、
「黒闇穿天流槍術、【閃光】!」
滅多突きにする。
「あ、完全にオーバーキルだな……」
黒闇穿天流槍術の【閃光】は、一息で放射状に無数の突きを繰り出す技だ。
オレはまだステータスが低いので5段突き止まりなんだが……ゴブリンにいきなり奥義の一つを使っちゃダメだね。
隣とその後ろにいたゴブリンまで霧となって消えていた。
「ギャギャ!?」
一瞬で3匹のゴブリンが霧散したのを見せつけられ、驚き思わず固まっているが、それは悪手すぎる。
その隙を逃すはずもなく、普通の突きと薙ぎ払いを放って更に3匹のゴブリンを仕留めると、
「黒闇穿天流槍術、【雷鳴】!」
届かないはずの距離を超えて、後ろで控えていたゴブリンアーチャーの頭に穴を穿つ。
この【雷鳴】は槍の到達距離を何倍にも伸ばす奥義だ。
「良し! これで終了♪」
オレは念のためにもう一度周りの気配を探ってから、戦闘終了を告げるのだった。
~
「いやぁ~参った! ホントに驚いたよ! 母親に習ったって言うから基礎ぐらいかと思っていたら、完全に達人クラスじゃないか! 恐れ入ったよ!」
あれからテリオスさんは、良い物が見れたと御者台の上で馬車を操作しながらも上機嫌だ。
「まぁあれぐらい出来ないと……特訓中に死んでしまいますから……」
実際に何度も死にかけたし……あ、何か涙が出てきたぞ……。
「は……? いったいどんな特訓受けていたんだ……」
若干テリオスさんがひいているが、実際ひくような特訓だった。
「しかしコウガ君のお母さんがあのA級冒険者パーティー『曇天の鷹』の槍使いだったとはねぇ」
母さんのいたパーティーは主に『聖エリス神国』で活動していたと聞いていたが、そんなに有名なパーティーだったとはオレも知らなかった。
「そうだったんですね。オレはA級冒険者だったとしか聞いてなかったので、そんな有名だったとは知りませんでした」
「そりゃぁ有名さ! キマイラやドラゴンを倒した事もある、当時のエリス神国では5本の指に入るパーティーだったんだぞ」
凄いな……ドラゴン倒しちゃってるよ……。そのドラゴンくれませんか……?
そしてオレ、よくあの地獄の特訓を生き延びたな。
その時のオレは知らなかったが、母さんは過保護が過ぎて冒険者になっても絶対に死なないようにと必死だったようだ。
冒険者になる前に死ななくて良かったよ……。
「ちなみにその母さんに、技だけならB級冒険者にも負けないとお墨付きは貰っているんですが、実際、B級冒険者ってどれぐらいの強さなんですか?」
オレは各ランクの冒険者が、どれぐらいの強さなのかを知らなかったので聞いてみる。
「え……? B級って言ったら誰もが憧れる一流の冒険者だぞ。コウガ君も大概とんでもないな……」
何か呆れられた……。
まぁでもそれぐらいでないと、ドラゴンテイムなんて夢のまた夢だ。
オレはテリオスさんと他愛のない会話を続けながらも、ドラゴンテイムに向けて決意をあらたにするのだった。
~
次の日の朝、オレ達は『地方都市ドアラ』まであとわずかの所まで来ていた。
その後の旅路は順調で、襲撃などもなく、無事に街が見える所にまで平穏に辿り着く事が出来た。
「コウガ君。あれがドアラの街だよ。地方都市としては少し小さめだが、そばに魔物が数多く住む『深き森』があるから、冒険者が多い事でも有名な都市だよ」
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お母さん有名人だったんですね~(*'▽')
今日は少なくても8話まで公開予定ですので
引続き『異世界のドラゴンテイマー』を
よろしくお願いします!
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