【第5話:自慢話は疲れます】
村を出てからひたすら山道を歩き3日が経った。
母さんの狩りの手伝いで山の中を何日も彷徨う事もあったので、歩くのは全く苦ではなかったのだが、こう何日も一人きりと言うのは前世以来なので少し寂しかった。
そして日が一番高くなった頃、ようやく街道が見えてきた。
「お。やっと街道か。あとはこれを日の昇る方角に道なりに歩けば、3日ぐらいで『地方都市ドアラ』だったかな」
オレは思わず走り出したい気持ちを抑え、ペースを崩さず街道に向かって歩いていく。
鍛えたと言っても所詮子供の体力なので、今から走っていたらいざと言う時に動けなくなってしまう。
しかし、村がある『静かなる森』から出るのはこれが初めてで、ちょっとテンションがあがってしまう。
前世の記憶があってもベースはこの世界で生まれたコウガの方のようで、どうしても子供っぽくなってしまう。
まぁ実際今は子供なので、子供っぽくても全然問題ないのだけれど。
~
街道に入ってから1時間ぐらい歩いた頃だろうか?
後ろから1台の馬車が街道を走ってきた。
村にはボロイ荷馬車が1台あるだけで、幌がかかっているような綺麗な荷馬車は初めて見る。
その荷馬車を珍しそうに見ていると、人の良さそうなおじさんが馬車を止めて話しかけてきた。
「きみ! もしかして『静かなる森』の名も無き村から出てきたのか?」
「え? はい。そうですけど?」
オレは何事かと少し身構えるのだが、
「おぉ! そうなのか! 実は私も名も無き村の出身なのだよ!」
そう言って馬車を止めて降りてくると、肩をバンバンと叩いてくる。
良い人そうなのだが、痛い……。
「そうなんですね~……あ!? そう言えばコルン婆さんから、昔、息子が行商人目指して出て行ったって聞いた事があるような?」
「おぉ!? 婆さんまだくたばってねぇのか! それは嬉しい知らせだな!」
このおじさんともう少し話してみると、隣の国『聖エリス神国』で商売を成功させて、つい先日この『トリアデン王国』に戻ってきた所のようだった。
ただ、今はまだこの国での商売は始めておらず、先日ドアラの街にようやく店舗用の家を購入したばかりで、まだ顔も出せていないんだそうだ。
「そう言えば、きみはドアラに向かっているのか?」
「はい。13歳になったので、冒険者になるためにドアラの街に向かっています」
「そうか……冒険者か。それはまた過酷な道を選んだものだな……」
この世界で冒険者と言えば危険な職業第一位だ。
心配してくれたのだろう。
~
オレは御者をしているおじさんと一緒に御者台に座っていた。
目的地が同じなんだから乗って行けというので、お言葉に甘えたのだ。
乗せてもらってしばらくの間は、今の村の様子とか、おじさんが外の世界に出てからいかに苦労して成功を掴んだのかなど、とりとめもない話をしていた。
半分以上が自慢話だったので、少し疲れたのは内緒だ。
「そうなのか。コウガ君の親は他所から村に来たのか。どうりで美人だというお母さんの名前を知らないわけだ」
母さんは父さんが亡くなった後、そのまま冒険者を引退し、今の村に流れ着いたと言っていた。
「しかし、よくあんな村の存在知っていたな」
それはオレも本当にそう思う。
今まであんまり突っ込んだことを聞いたことがなかったので、もし次に村に帰ったら聞いてみよう。
その日は街道沿いの開けた場所で野営をする事になった。
母親に貰った地図で現在位置を確認してみると、予定より結構早く進んでいる。
馬車は歩くよりはかなり早いようで、明後日の朝にはドアラの街に着きそうだった。
~
野営の準備を終えて晩御飯をご馳走になっていると、テリオスさんが急に立ち上がって
「そうだ! コウガ君、うちで奉公しないか?」
と言って、それが良いと言いながら、一人で納得して背中をバンバン叩いてくる。
しかし、今のところ商人になる気はない。
「気をまわしてくれて、ありがとうございます。でも、オレは母さんに槍術も習いましたし大丈夫です。ちゃんと立派な冒険者になってみせますから」
せっかく誘ってもらったのだが、オレにはドラゴンを調教すると言う目標がある。
気を持たせても悪いので、商人になるつもりはないと、礼を言って断る。
「そうか。考えなしにって訳じゃないようだな。しかし、勿体ないなぁ。その歳にしては凄いしっかりしてるし、絶対良い商人になれると思ったんだがなぁ」
そして残念だと言いながらも、もし困ったら訪ねてきなさいと、ドアラで購入した店の住所を書いた紙を渡してくれたのだった。
~
翌朝の夜明け前。
オレたちは、警報音のような音で目を覚ますことになった。
野営の時に欠かせない簡易結界石に、魔物がひっかかったのだ。
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