【第3話:大変そうだ】
オレは家には向かわず、近くにある畑に向かっていた。
今日、母さんは狩りにはいかず、家の小さな畑を耕やしているはずだからだ。
「母さん! 聞いて! ギフトだよ! ギフトを授かったよ!」
オレは遠くに母さんの姿を確認すると、大声でそう叫んでいた。
母さんはオレのその言葉の意味を理解すると、目を見開いて驚き、そして綺麗な顔を歪めて一緒に喜んでくれる。
「うわぁ! 今夜はお祝いしないとだね!」
そう言って駆け寄ったオレの脇に手を入れると、軽々と高く持ち上げてクルクル周り始める。
ちょっと恥ずかしかったけど、嬉しかったのは内緒だ。
「ギフトとか凄いじゃない! さすが母さんの子だよ!」
「へへへ。それでね。凄いギフトなんだよ!」
オレが自慢気にそう言うと、母さんはギフトはあまり口外するものじゃないからと、とりあえず家に入ろうと言って、家の中に移動することになった。
「それで一体どういうギフトを授かったんだい?」
ようやく話せると思ってオレは喜んでそのギフトの名を告げる。
「えっと……ドラゴンテイ……じゃなくて……【ギフト:竜を従えし者】だよ!」
「え!? 竜!? 竜の調教スキルのギフトが存在するなんて!?」
「本当だよ? 『この者、あらゆる竜を従え使役する事が出来る』だって!」
オレは先程ギフトを授かった時にスキル名や使い方と共に理解したその説明文を伝えるのだが、徐々に母親から笑顔が消えていく。
「え? 嘘じゃないよ?」
突拍子もなさすぎて信じて貰えなかったのかと思いそう言うと、母さんは首を左右に振って話し始める。
「いい? よく聞くんだよ。ギフトの事を疑ってるんじゃないの。そうじゃなくてコウガのこれからの事を考えていたのよ」
オレはどういう事かわからなかったので、黙って大人しく話を聞くことにする。
「えっとね。【〇〇を従えし者】ってギフトはレアギフトらしいけど、過去にも何人か授かった人がいるの。その人達が授かったのは『鳥』や『鼠』だったり、強いものでも『熊』や『狼』だったから問題なかったと思うわ。でも……コウガはドラゴンでしょ? コウガはどうやってドラゴンに会いに行くつもり?」
ここでオレは、ドラゴンをテイムする事がそう簡単じゃない事にようやく気付く。
長い人生だ。生きていればもしかするとドラゴンと出会うこともあるかもしれない。
しかし、ドラゴンというものは数年に一度、どこどこの国で現れたとかの噂を聞く程度の遭遇率だ。
長く冒険者生活をしていた両親でも一度しかあったことがないそうだ。
そう。自ら危険地帯に何度も赴いているA級冒険者の両親でもだ。
そもそもドラゴンと戦って勝負になるのは、バランスの良いA級冒険者パーティーかららしいので、そんな簡単に会えたら困るのだが。
「凄いギフトだから母さん本当に嬉しいんだけど、そのギフトを有効に使おうと思ったら最低でも母さんと同じA級冒険者ぐらいにならないといけないわ」
ちなみに父親はドラゴンでは無い他の上級魔物との戦いで受けた傷が原因で、オレが生まれる前に亡くなっている。
この世界では当たり前の話だが、冒険者は凄く危険な職業だ。
冒険者ランクはEから始まり、D、C、B、A、Sと上がっていくほど報酬も破格となり、S級になれば貴族特権まで与えられるそうだが、大半の冒険者はC級までで冒険者人生を終える。
それに、成り立ての冒険者の死亡率はとんでもなく高く、一年後に無事に続けているものは半数もいないそうだ。
「そ、そうか……ドラゴンテイマーだと喜んでいたけど、その道のりは凄く大変そうだね……」
そもそもこのギフトでテイミングする為には、対象の半径10m以内に近づかなければいけないみたいだ。
ある程度弱らせた上で発動させないと、テイミングを完了するまでの間に殺されてしまうだろう。
「そ、それなら少し弱めのワイバーンやラプトルとかから始めればいいんじゃないかな?」
オレは名案が浮かんだと喜んで伝えるのだが、
「残念だけどそれはたぶん無理ね。ワイバーンなどは亜竜と言って種族的には全く別の種族だと言われているから……」
と否定されてしまう。
まぁでも、チャンスがあれば試すぐらいはしてみたいな。
しかし、これでオレはようやく覚悟を決める。
「わかったよ……。それならオレ、冒険者になる! 冒険者になって絶対に母さんみたいにA級になって、そしてドラゴンを従えてみせるよ!」
それを聞いた母さんは一瞬驚き、そして嬉しそうに笑みを浮かべると、
「じゃぁ私が鍛えてあげる! お爺ちゃん直伝の槍術を叩き込んであげるから覚悟するのよ?」
そう言って今度はちょっと怖い笑みを浮かべて微笑むのだった。
なんか腕まくりして「良し! 明日から特訓よ!」とか気合をいれている。
あれ? オレ、何か触れてはいけないものに触れてしまった気がするのは、気のせいだろうか……?




